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第6章 魔族の国
第28話 魔族の国4
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「ところで、各国に送る、贈答品はできてるのかな」
「はい、リビティナ様。ダマスカス鋼の盾を用意しています」
賢者の里で製造しているダマスカス鋼を使った盾を作ってもらっている。片手持ちの八十センチほどの大きさで、実際に使う物じゃなくて装飾品としての盾だ。
盾全体は黒く輝くダマスカス鋼。熱に強く全魔法属性に耐性がある。
前面を磨き上げ、裏の持ち手や枠は亜鉛メッキをした鋼鉄が光り輝く。縦長で五角形の盾の周囲には浮き彫りの装飾を施している逸品だ。
「うわ~、これはすごいわね。ダマスカス鋼の波紋がくっきりと浮かんでいるわ」
エルフィが感嘆の声を上げるのも無理はないね。素晴らしい仕上がりだ。
「エリーシア、どうだろう。これなら余所の国の王に渡しても失礼にならないかな」
「ええ、もちろん大丈夫ですわ。国宝と言ってもよい品です」
キノノサト国の第二夫人だった姫様がそう言ってくれるなら、自信を持って贈答品として贈れそうだね。
「す、すみません、リビティナ様。その盾を少し持たせてもらってもいいでしょうか」
そう言ってきたのは、エリーシアの護衛をしている鬼人族のベルケス。
「これはこの里に置いておく品だからね。自由に触ってもらってもいいよ」
他国に贈る品は同じ物を三枚用意していて、ここにあるのは予備品として里に置いておく品だ。
武人であるベルケスがマダガスカルの盾を持って、感涙にむせんでいるよ。珍しい盾だとは思っていたけど、それほどの物なんだろうか。
「そりゃ、伝説の盾ですからな。俺も子供の頃から憧れていました。リビティナ様、俺も触っていいですかね」
ネイトス、君もかい。他の警備隊のリザードマンも盾を持って感激している。男の子が夢見ていたヒーローが持つ武具といった感じなのかな。
これを作ってくれた里の武器職人も、誇らしげな顔をしているよ。
「さて、これで大体の準備はできたかな」
「何言ってんのよ。あんたは建国の宣言文を読む練習をしないとダメでしょう」
そうだった。一番嫌な事から逃げていたのを忘れていたよ。式典では背中の翼を広げて、玉座に座っていればいいそうだけど、建国の宣言文を国民の前で読まないといけない。これは王様であるリビティナ自身がしないといけない事だ。
魔王として威厳のある言葉で、口調も賢者とは別人のように話さないといけないんだけど、やっていることは全くの中二病だよ。
練習はしているけど恥ずかしくて途中で止めてしまっていた。
「ほら、あたしも付き合ってあげるから、こっちに来なさい」
「えぇ~」
「え~じゃないわよ。もう時間もないんだから、とっとと練習しなさいよ」
――そして建国式典が行なわれる当日。
眷属の里に住む全員が首都ヘレケルトスのお城に集まる。子供もいるけど、ここにいる眷属達がこの国を支えていくことになるから、みんなで式典に参加してもらう。
各国から招待した要人を前に、一段高い位置にある玉座にリビティナが黒い翼を広げて座り、役職に就いた主要メンバーがその左右に居並ぶ。全員豪華な服を身に纏い、仮面などはつけずに素顔のままだ。
リビティナの服は黒を基調とし、血に似たエンジ色のマントを身に着ける。所々に金色の刺繍を施した豪華絢爛な衣装となっている。
他の眷属達は舞台袖から成り行きを見守ってもらう中、文官が魔国という国の名前と建国の意義などを語り、今日この日より魔族の国として建国したことを宣言する。
各国の要人が拍手をして、それぞれが前に出て魔王に祝辞を述べる。その間リビティナは玉座に座ったまま動くことなく、その要人たちを上段から見据える。
その様子に恐れをなして、まともな祝辞を述べる事ができない者もいる。
「ま、魔王様の復活、そ……それと建国喜ばしく……」
この大陸では魔族とは恐ろしいものだとの認識が定着していて、その王に君臨する魔王の顔をまともに見る事もできないようだ。
こんな美少女の顔を見れないなんてもったいないよ、と思っていてもそれを声や顔に出すことはできない。ただその様子を上段から眺めるだけだ、というよりこんな大勢の貴族やら偉いさんを前に身動きすらできないんだけどね。
そんな中、見知ったハウランド伯爵が祝辞を述べる。この時だけは少し頬が緩んだかな。
その者達の挨拶が終わると、城内での式典は終了となる。
その後は舞台袖に下がって少しの休憩の後、この城に集まった国民に対してリビティナ自身による建国宣言をする事になっている。
「リビティナ、しっかりね。練習通りにすれば大丈夫だから」
「う、うん。頑張ってくるよ」
眷属達に後ろから見守られて、リビティナはバルコニーの前に立つ。
その前には、元帝国の住民であった獣人達が大勢集まっている。ここに居るのは帝国を捨て、魔国の国民となる事を選んだ人々。その人達に向かってリビティナが建国を宣言する。
「この国は魔族の王たる我と、我の眷属によって建てられた国である」
いつもよりも低いけどその澄んだ声は魔力波に乗って、その場にいる獣人全てに届けられる。口から発する声と頭に直接響く声、それがハーモニーを奏でるように、歌を歌うように届けられ、人々が「おお~」と驚愕の声を上げる。
その騒めきが収まり、次のリビティナの言葉を待つ。
「この場にいる者、この国の国土に住む者全てがこの魔王の子と同等、この魔王の下において平等である。種族や性別、生まれによる違いはない。この国に貴族は存在せず、貴族制度はない」
長年貴族による支配を良しとしてきた人々に貴族制度が無くなり平等だと言っても、この場にいる者にはピンと来ていない。
「我が子らよ。自ら考え、自ら行動しこの国の発展のために尽くせ。それが自らの幸福になると心得よ。その民が集う国として、 ここに魔国を建国したことを宣言する」
聴衆を前に片手を斜めに突き出し宣言の動作をする。これで演説が終わったことが聴衆に伝わり、小さな拍手が生まれそれが広がっていく。
まだこの国がどんな国なのか分からないだろうね。皆が平等という新たな思想の国家が誕生したと、おぼろげに理解したのだろう。その未来に光明を見いだした一部の者が大きな拍手をし、皆がつられて拍手をしていく。今はそれでいいよ。
ここに居る者達は、帝国ではなく魔国を選んだ者達だ。リビティナの眷属になる事を選び、眷属の里を創り上げた者と同じ。この魔国もより良い国にしてくれるだろう。
――これがボクの国の国民。ボクの子供達。皆が幸せになる事を願っているよ。
「リビティナ様。良い演説でした」
「うん、うん。すごかったよ。練習以上だった」
リビティナを迎えてくれた眷属達が、口々に労をねぎらい祝福してくれる。
これでやっと、建国式典が終わったと一安心する。この後は招待客を迎えての祝賀パーティーをするそうだけど、辺境伯のハウランド伯爵と元帝国貴族のブクイットに任せてある。
リビティナとその眷属達は別室で建国を祝う。緊張感から解放され、いつものように眷属達と和気あいあいとお城の廊下を歩いていく。
「はい、リビティナ様。ダマスカス鋼の盾を用意しています」
賢者の里で製造しているダマスカス鋼を使った盾を作ってもらっている。片手持ちの八十センチほどの大きさで、実際に使う物じゃなくて装飾品としての盾だ。
盾全体は黒く輝くダマスカス鋼。熱に強く全魔法属性に耐性がある。
前面を磨き上げ、裏の持ち手や枠は亜鉛メッキをした鋼鉄が光り輝く。縦長で五角形の盾の周囲には浮き彫りの装飾を施している逸品だ。
「うわ~、これはすごいわね。ダマスカス鋼の波紋がくっきりと浮かんでいるわ」
エルフィが感嘆の声を上げるのも無理はないね。素晴らしい仕上がりだ。
「エリーシア、どうだろう。これなら余所の国の王に渡しても失礼にならないかな」
「ええ、もちろん大丈夫ですわ。国宝と言ってもよい品です」
キノノサト国の第二夫人だった姫様がそう言ってくれるなら、自信を持って贈答品として贈れそうだね。
「す、すみません、リビティナ様。その盾を少し持たせてもらってもいいでしょうか」
そう言ってきたのは、エリーシアの護衛をしている鬼人族のベルケス。
「これはこの里に置いておく品だからね。自由に触ってもらってもいいよ」
他国に贈る品は同じ物を三枚用意していて、ここにあるのは予備品として里に置いておく品だ。
武人であるベルケスがマダガスカルの盾を持って、感涙にむせんでいるよ。珍しい盾だとは思っていたけど、それほどの物なんだろうか。
「そりゃ、伝説の盾ですからな。俺も子供の頃から憧れていました。リビティナ様、俺も触っていいですかね」
ネイトス、君もかい。他の警備隊のリザードマンも盾を持って感激している。男の子が夢見ていたヒーローが持つ武具といった感じなのかな。
これを作ってくれた里の武器職人も、誇らしげな顔をしているよ。
「さて、これで大体の準備はできたかな」
「何言ってんのよ。あんたは建国の宣言文を読む練習をしないとダメでしょう」
そうだった。一番嫌な事から逃げていたのを忘れていたよ。式典では背中の翼を広げて、玉座に座っていればいいそうだけど、建国の宣言文を国民の前で読まないといけない。これは王様であるリビティナ自身がしないといけない事だ。
魔王として威厳のある言葉で、口調も賢者とは別人のように話さないといけないんだけど、やっていることは全くの中二病だよ。
練習はしているけど恥ずかしくて途中で止めてしまっていた。
「ほら、あたしも付き合ってあげるから、こっちに来なさい」
「えぇ~」
「え~じゃないわよ。もう時間もないんだから、とっとと練習しなさいよ」
――そして建国式典が行なわれる当日。
眷属の里に住む全員が首都ヘレケルトスのお城に集まる。子供もいるけど、ここにいる眷属達がこの国を支えていくことになるから、みんなで式典に参加してもらう。
各国から招待した要人を前に、一段高い位置にある玉座にリビティナが黒い翼を広げて座り、役職に就いた主要メンバーがその左右に居並ぶ。全員豪華な服を身に纏い、仮面などはつけずに素顔のままだ。
リビティナの服は黒を基調とし、血に似たエンジ色のマントを身に着ける。所々に金色の刺繍を施した豪華絢爛な衣装となっている。
他の眷属達は舞台袖から成り行きを見守ってもらう中、文官が魔国という国の名前と建国の意義などを語り、今日この日より魔族の国として建国したことを宣言する。
各国の要人が拍手をして、それぞれが前に出て魔王に祝辞を述べる。その間リビティナは玉座に座ったまま動くことなく、その要人たちを上段から見据える。
その様子に恐れをなして、まともな祝辞を述べる事ができない者もいる。
「ま、魔王様の復活、そ……それと建国喜ばしく……」
この大陸では魔族とは恐ろしいものだとの認識が定着していて、その王に君臨する魔王の顔をまともに見る事もできないようだ。
こんな美少女の顔を見れないなんてもったいないよ、と思っていてもそれを声や顔に出すことはできない。ただその様子を上段から眺めるだけだ、というよりこんな大勢の貴族やら偉いさんを前に身動きすらできないんだけどね。
そんな中、見知ったハウランド伯爵が祝辞を述べる。この時だけは少し頬が緩んだかな。
その者達の挨拶が終わると、城内での式典は終了となる。
その後は舞台袖に下がって少しの休憩の後、この城に集まった国民に対してリビティナ自身による建国宣言をする事になっている。
「リビティナ、しっかりね。練習通りにすれば大丈夫だから」
「う、うん。頑張ってくるよ」
眷属達に後ろから見守られて、リビティナはバルコニーの前に立つ。
その前には、元帝国の住民であった獣人達が大勢集まっている。ここに居るのは帝国を捨て、魔国の国民となる事を選んだ人々。その人達に向かってリビティナが建国を宣言する。
「この国は魔族の王たる我と、我の眷属によって建てられた国である」
いつもよりも低いけどその澄んだ声は魔力波に乗って、その場にいる獣人全てに届けられる。口から発する声と頭に直接響く声、それがハーモニーを奏でるように、歌を歌うように届けられ、人々が「おお~」と驚愕の声を上げる。
その騒めきが収まり、次のリビティナの言葉を待つ。
「この場にいる者、この国の国土に住む者全てがこの魔王の子と同等、この魔王の下において平等である。種族や性別、生まれによる違いはない。この国に貴族は存在せず、貴族制度はない」
長年貴族による支配を良しとしてきた人々に貴族制度が無くなり平等だと言っても、この場にいる者にはピンと来ていない。
「我が子らよ。自ら考え、自ら行動しこの国の発展のために尽くせ。それが自らの幸福になると心得よ。その民が集う国として、 ここに魔国を建国したことを宣言する」
聴衆を前に片手を斜めに突き出し宣言の動作をする。これで演説が終わったことが聴衆に伝わり、小さな拍手が生まれそれが広がっていく。
まだこの国がどんな国なのか分からないだろうね。皆が平等という新たな思想の国家が誕生したと、おぼろげに理解したのだろう。その未来に光明を見いだした一部の者が大きな拍手をし、皆がつられて拍手をしていく。今はそれでいいよ。
ここに居る者達は、帝国ではなく魔国を選んだ者達だ。リビティナの眷属になる事を選び、眷属の里を創り上げた者と同じ。この魔国もより良い国にしてくれるだろう。
――これがボクの国の国民。ボクの子供達。皆が幸せになる事を願っているよ。
「リビティナ様。良い演説でした」
「うん、うん。すごかったよ。練習以上だった」
リビティナを迎えてくれた眷属達が、口々に労をねぎらい祝福してくれる。
これでやっと、建国式典が終わったと一安心する。この後は招待客を迎えての祝賀パーティーをするそうだけど、辺境伯のハウランド伯爵と元帝国貴族のブクイットに任せてある。
リビティナとその眷属達は別室で建国を祝う。緊張感から解放され、いつものように眷属達と和気あいあいとお城の廊下を歩いていく。
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