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第4章 魔族

第50話 旅路2

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 馬車の前方の敵は、フィフィロの攻撃も加わって完全に殲滅できた。さて後方はどうなっているかなと空の上から見てみると、草原に停めた馬車から弓攻撃をしているね。
 おっと、敵の一人が焼け落ちた馬車に隠れて魔法攻撃しているようだ。あいつはこの空からやっつけておこう。

「どうやら、敵は全員倒せたみたいだね」

 リビティナは空から状況を見届けた後、地上へと降りてきて、みんなのいる馬車にゆっくり近づきながら戦闘が終わったことを告げる。

「リビティナさん、すごいですね。あんな空高くから攻撃できるなんて。オレの魔術より威力がすごかったし。空を飛べて魔術が得意な妖精族の親戚だったんですね」
「まあ、そんなもんだね。フィフィロ君もなかなかやるじゃないか。あれだけ魔術が上手なら護衛役も務まるね。ルルーチアちゃんも弓で援護できていたみたいだし」
「私は全然ダメでした。全く当たらなかったし……。それよりネイトスさんの弓がすごかったんですよ」

 ネイトスも機械弓を使って、この子達をちゃんと守ってくれたようだ。

「リビティナ様。先を急ぎましょう。追っ手が掛かるかもしれませんぜ」
「そうだね。暗くなる前に野営地まで着きたいしね」

 みんな馬車に乗り込み、草原から街道に戻り次の町へと速度を上げていく。馬を走らせながら、御車をしているネイトスが馬車の室内にいるエルフィに声をかける。

「戦闘中、馬車が揺れちまったが、ナームは大丈夫だったか」
「ええ、しっかりと押さえてましたから。それにしてもこの馬車は静かに走りますね」
「リビティナ様に作っていただいた、特別製の旅馬車だからな」

 リビティナは前世の知識を基に、この世界で再現できる物を作って使っている。この馬車にはオイル式のサスペンションが取り付けられていて、揺れも少なく速く走る事ができる。

 だけど街道とは言え舗装された道路じゃない。ちゃんと馬を操作しないと轍に車輪を取られて大きく揺れてしまう。病人がいるから注意して馬車を走らせるようにとネイトスには言っておく。

 馬車は順調に進み、暗くなる前には予定の野営地へと到着できた。ここは川沿いの開けた場所、森にほど近く食料となる獣が多くいる場所だ。

「ネイトスはかまどの準備をしておいてくれるかい。ボクは森に入ってイノシシでも狩ってくるよ」
「了解しやした。あっ、リビティナ様、できれば二匹狩ってきてもらえますか。乾し肉を作っておきたいので」
「あ、あの。それならオレも狩りに出てもいいですか」
「お兄ちゃん、私も一緒に行くわ。リビティナさん、いいでしょう」
「それはいいね。じゃあフィフィロ君達とどっちが早く狩ってくるか競争しようかな」

 すたすたとリビティナが森へと歩いて行った後に続いて、慌てたようにフィフィロとルルーチアも森へと向かった。

 ――ほんとこの兄妹は仲が良いんだね。まだ十歳の妹を守りながらフィフィロ君が戦い、ルルーチアちゃんも役に立とうと矢を放つ。たぶん今までもこんなふうに獣を狩っていたんだろうね。

「ここは彼らに花を持たせて、ボクはのんびりと狩るとしようかな」

 馬車にイノシシを持って来たのはフィフィロ達の方が早くて、獲物も少し大きかったようだね。

「こりゃ、フィフィロの圧勝だな。リビティナ様、次はもっと頑張ってくださいよ」
「悔しいね~。ボクに勝つなんて、フィフィロ君も大したものだよ。背中に矢が刺さっているけどルルーチアちゃんが仕留めたのかい」
「あっ、いえ、牽制した矢が当たっただけで……止めを刺したのはお兄ちゃんなんですよ」
「ルルーチアが上手く誘導してくれたんで仕留められたんですよ。ルルーチア、ありがとな」

 こうやって狩り談議に花を咲かせるのもいいものだね。ネイトスも今晩の料理は何を作ろうかと話に入ってくる。

「今晩は、イノシシ肉のステーキにしよう。エルフィは妖精族だけど、肉料理は食べられるのか?」
「大丈夫ですよ。妖精族だからって花の蜜ばかりを吸って生きている訳じゃありませんから。でも肉はしっかりと火を通してくださいね」

 ――ボクも妖精族のことは余り知らないけど、肉なども普通に食べるんだね。やはり前世の知識は役に立たないな。

「ルルーチアちゃんは獣人だから、生肉の方がいいかね」
「あ、いえ別に……皆さんと同じでいいです。あっ、そうか、ネイトスさんは獣人だから生肉の方が良かったんですよね」
「いや、俺は生肉を食べんよ。獣人じゃないからな」
「獣人じゃない?」
「リビティナ様。もう獣人のマスクは外してもいいですかね」
「そうだね。町からも離れたし。お疲れ様だったね。もう普通の格好で構わないよ」

 そう言うと、ネイトスは腕に付けた毛皮の手袋を外して、頭からすっぽりと被っていた獣人用のマスクを脱いだ。暗がりの中、ランプに照らし出されたネイトスの白い顔を見て、みんな驚きの表情を隠せないでいる。

「あなたも白子だったんですか!!」
「いいや、俺は白子じゃなくて人間だ」
「ニンゲン??」
「そう、そしてリビティナ様の眷属なんだ」
「眷属!? やっぱりあなた達は魔族だったのね!」

 エルフィが甲高い上ずったような声を上げる。

「そうだね。君達からするとそうなるかな。そしてボクはヴァンパイア。君達は魔族の王、魔王と呼んでいるね」
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