転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか

水瀬 とろん

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第4章 魔族

第48話 もう一人の白子

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「リビティナ様。あの仮面をつけているのが、その子供です」
「隣りを歩いているのは、オオカミ族の子だね。妹さんかな」
「そのようで。この近くに住む魔術師の女が、あの二人をこの町に連れて来たそうですぜ。白子の兄がフィフィロ、十二歳で、二つ下の妹さんがルルーチアといいます」

 今回、誘拐組織にさらわれて、見世物小屋に売られた白子の子供を救出するためにこの町までやって来た。
 ナームは無事助ける事ができたけど、見世物小屋を調査してもらっていたネイトスから、この町にもう一人白子の子供がいると報告を受けた。

「その狐族の女魔術師が見世物小屋で、魔術を使える白子をいくらで買い取れるかと尋ねてきてます。結局売るのを諦めたようですが」
「魔術を使えるねぇ……。それは本当なのかい?」

 白子となった子供は、魔術はおろか魔法の発現すらできなくなる。白子になる前、どんなに魔法が上手でもそうなってしまう。ナームも見世物小屋では魔術が使えず本物の火を口から吐かせていたからね。

「俺もあの子供が魔術を使っているところは見てないんで、何とも言えませんな」
「どのみち白子であると言うなら、ボク達で保護する事に変わりはないんだけどね」

 あの子供達が教会に行っている間に、ネイトスには保護者となっている魔術師の家に行き交渉をしてもらう事にする。

 ネイトスにはこの町での調査もあり人目につかないように、昨日からヒョウ獣人のマスクを被ってもらっている。特殊メイクで、間近で顔を見られなければバレる事のないものだ。ネイトスには、そのまま魔術師の家に向かってもらって交渉してもらおう。


「あんたが引き取ったと言う白子の子供は、誘拐や人買いから買ったんではないんだな」
「当たり前だよ。ベルク村の両親から治療を兼ねてアタシが一年以上育てたんだよ。それに見合う金を出してもらいたいね」
「しかし、その間は親御さんから報酬を得ていたんだろう、今回の値段交渉には関係ないと思うぜ。せいぜいここまで運んでもらった運賃を上乗せする程度だな」
「あの子はアタシが教えた魔術が使える。普通の白子以上の価値があるはずだよ」
「とはいえ、白子の寿命は短い。魔術が使えようと価値としてはそう変わらんと、俺は判断しているんだがね」

 リビティナと行動を共にしているネイトスは、このような交渉事に精通していて、話し合いによる白子の子供の買い取り額を決めていく。

「ここに提示した金額は相場よりも相当高いものだ。それに俺達の欲しいのは、白子の子供だけ。今回はその妹さんも一緒にと言う事なら、これで納得してもらう他ないと思うがね」

 見世物小屋では、妹は買えないと断られているのは調査済みである。今回提示したのは見世物小屋より多い金貨七枚。通常は値段もつかない白子と、労働力にもならない子供の買取としては破格の値段となる。

「ヘルベスタ。お前も研究に戻るのなら、あの二人はお荷物になるんだろう。我が家でもあの子達が働けるようになるまで養う余裕はない。これで手を打ってもいいんじゃないかね」

 隣に座るおばあさんの言葉に魔術師はじっと考え込んでいた。

「あの子達はこれから先、どうなるんだい。どこかで酷い目に遭うんじゃないだろうね」
「俺達は隣国の辺境伯ハウランド様に仕える者だ。不幸な白子の子達を保護して回っている。慈善事業だと思ってくれればいい」

 辺境伯の印が押された書類を見せて、過重労働や虐待をしない事を説明する。それを聞いて少し安心したのか、魔術師は子供達を売る事を決断した。

「じゃあ、明日の朝に馬車でここに迎えに来る。それまでに荷物をまとめておいてくれるか」

 契約書を取り交わし、前金として銀貨五十枚を渡して家を後にする。


「リビティナ様。子供の買い取り契約、締結してきやしたぜ」
「ネイトス、ご苦労様だったね。ボクの用事も済んだし、明日にはこの町を出れそうだよ」

 リビティナは辺境伯からの頼まれ事と、誘拐組織の情報をこの町の領主に報告した後、ネイトスと二人町を出る。
 昨日助け出したエルフィとナームの様子を気にしながら、足早に森の中の馬車へと向かった。

「ナーム君の容態に、変わりはないかい」
「ええ、大丈夫よ。あなた達がいない間も光魔法で治療していたから」

 エルフィがリビティナの事を信用せず、ここから逃げ出している事も考えられたけど、大人しく馬車の中にいてくれたようだね。

「ナームよ、町の祭りで売っていたお菓子を買ってきてやったぜ。エルフィのもある。一緒に食べな」

 エルフィは光魔法を使っていたせいか、少し疲れているようだったけど、ネイトスの買って来たお菓子を嬉しそうに受け取った。

「ねえ。あなたは今朝、かまどで料理をしていた人よね」
「ああ、俺はネイトスという」
「あなたヒョウ族の人だったのね。猫族の多いアルメイヤ王国の出身かしら」
「よく知っているな。妖精族の国と王国とは国交が無いはずだが」
「それくらいは知ってるわ。そんな遠い国から国境を越えて、わざわざこの町までやって来てあたし達を助けてくれたの?」
「それも俺の仕事の一つだからな」
「助けてくれた事には感謝するわ。ところで、あなたはリビティナとどういう関係なのかしら。貴族の主従関係には見えないけど」
「どういうと言われてもなぁ……」

 おや、おや、おや。ネイトスとエルフィが仲良く話をしているみたいだね。どんな話をしているのかな。

「歳はいくつなの、私は今年で五十……十八歳になるわ」
「俺は三十三歳だ。さすが妖精族だな。あんたのほうが、歳上のおばさんかよ」
「何言ってんのよ。あたし達は獣人の三倍は長生きなの。獣人で言うとまだ十八歳ぐらいなんだからね。あなたの方が全然おじさんじゃない」

 ネイトス、君はボクの眷属なんだからね! イチャイチャしてちゃダメなんだからね! わざと二人の間に入って大きな声で話す。

「エルフィ! 今後の事を話しておくよ」
「え、ええ、そうね。お願いするわ」
「明日、町に入ってもう一人の白子の子供を乗せてからこの町を離れる。その後、妖精族の国へ行くから、エルフィはそこで降りてもらうからね」
「ナームはどうするのよ。このままアルメイヤ王国へ連れて行く気なの」
「妖精族の国までは遠回りになるけど、その前にナーム君の村に向かう予定だ」
「えっ、お母さんにまた会えるの!」

 横で寝ていたナームが、目を輝かせてリビティナに尋ねた。

「そうだよ。それまでに元気な体になれるように、しっかりと食事を摂るようにしてくれるかい」
「うん、うん。少し苦くても、ご飯をちゃんと食べるよ」

 今夜もナームには薬草入りのご飯を用意している。これで元気になってくれればいいんだけど。
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