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第3章 安住の地

第31話 森への侵攻1

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「セイドリアン様、出陣の用意ができました」

 領主様の命とは言え、こんな辺境まで我が軍を進めねばならんとは……。敵は百人ほどの冒険者を集めただけの小さな村。我が軍であれば制圧するなど、赤子の手を捻るようなものだ。領主様はこの村だけではなく、もしかしたらこのまま戦争を仕掛けて領地を丸ごと奪うつもりかも知れんな。

「ガイタメル卿の軍は森に入られたのか」
「はい、先ほど出立され、間もなく森に到着するかと」

 今回は、山の中腹に住むという賢者を捕らえるのが主目的。全軍の半分になる五百の兵を率いるガイタメル卿の方が重要な任務と言う事になるのだろう。その補給基地としての村を制圧するのが我の務め。

「よし。では全軍に進撃命令を出せ」
「はっ!」

 敵は少数とは言え、陣を築いて既に戦う準備ができている。だが我らはセオリー通り重歩兵を前面に出し前進するのみ。長槍を持ち、全属性の魔法耐性のある鎧を着た重歩兵に機動力は無いが、確実に敵前面まで進んで行けるだろう。

「セイドリアン様。斥候によりますと敵陣のすぐ横の川側に投石器が隠されております。その射程に入らぬようご注意ください」
「戦場の半分も届かぬ投石器など、何の役にも立たんわ。後方の魔術師部隊の方が射程は長い。予定通り全軍で前進すればよい」

 右手に森、左手は川に挟まれた広い丘陵地。その有利な高台に我らは位置する。平地の草原は広く進攻を邪魔する物はなく、森に伏兵も隠れていない。こんな好条件の場所で戦闘できるのだからな、何を心配する必要があるのだ。

 しかしその後、軍の前進速度が遅くなった。高台の自陣から戦況を見つめるセイドリアン卿の元に報告が入る。

「一体どうしたと言うのだ」
「はっ、敵の弓の攻撃により足止めされております」
「弓だと、まだ敵陣からあれほど距離があるではないか」
「敵の弓はこちらの二倍の射程があり、後方の魔術師と弓隊が攻撃されております」

 二倍の射程だと……新兵器か? 確かに後方が混乱しているようだな。攻撃の主力は魔術師の部隊。その魔術師を守りながら壁となり敵陣近くまで運ぶのが重歩兵の役目。矢や魔法で重歩兵が倒れる事は無いが、後方が動けねば前進もままならぬか。

「騎馬隊を前面に出し、やぐらへの攻撃を仕掛けよ」

 敵陣に籠もる兵に対して騎馬隊を出すのは、セオリーに反するが致し方あるまい。馬上からの弓攻撃や手槍で牽制できれば、少しは前進もできるだろう。
 騎馬隊の騎士とその馬にも魔法耐性の鎧を身に着けさせている。これならば敵陣近くまで行き、あのやぐらを攻撃できるだろう。横一列の隊形で敵陣へと馬を走らせる。

「ん、どうした? 攻撃も受けていないのに騎馬が倒れているではないか」

 草原を進んでいた騎馬の一部が前進できずにいる。横一列に並んだ体系が乱れ全体が波打つような形になってしまっているではないか。
 そうしているうちに敵からも騎馬隊が出てきて、分断された騎馬に集中攻撃を仕掛けている。敵は軽鎧で速度を重視した騎馬部隊。十数騎程の少数だが草原を走り回りこちらの兵に損害が出ている。
 どうもおかしい。

「騎馬隊を引かせろ」

 早期に引かせたものの、七十騎出した騎馬のうち十八騎が死傷し動けなくなった。魔法耐性のある高価な鎧に身を包んだ兵士がなぜ倒される。

「敵陣近くには何ヵ所か泉が存在し、湿地帯により馬の脚が取られたようです」
「速度が遅くなった騎馬に対して、敵のやぐらより鉄の矢が放たれ鎧を貫通した模様」

 矢じりだけではなく、全体が鉄でできた矢を使ったようだな。それをあの射程の長い強力な弓から放つ。これでは被害が出るのもやむを得んか。迂闊に敵陣近くへ突入する事もできなくなった。

 とは言え、数ではこちらが圧倒している。しゃくさわるが、森に行ったガイタメル卿の手を借りて、明日、再攻撃をするか。

「全軍、一旦兵を引かせろ」

 二時間ほどの戦闘で早々に全軍を引かせ、再攻撃のための策を練る。本陣のテントの中、側近達と戦術の練り直しをしている最中、慌てた様子で兵が報告に来た。

「も、森から火の手が上がっております。ガイタメル卿の軍が戦闘をしている模様でございます」

 外に出て森を見ると、何ヵ所も煙が上がっている。今日は簡単な調査だけで、魔獣の居る森の奥へは行かぬと言っていたはずではなかったのか。
 一体、誰と戦っているのだ!!

「報告! ガイタメル卿の部隊が壊滅状態。現在、全軍撤退中。救援要請が入りました!」
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