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第3章 安住の地

第30話 戦闘準備

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 森の王、ベェルーワ。初代のバァルーから数えて四代目となる熊の魔獣。子熊の頃からよく知っていて、魔力波による会話もでき、リビティナとは日頃からコミュニケーションが取れている。

『ベェルーワ王。こんな時間に来てすまないね』
『いえ、いえ。そろそろ夜行性の魔獣が起きる時間です。私もまだ寝れませんからな』

 そう言って、リビティナを巣の中に迎え入れてくれた。王の住居とはいえ、他の魔獣と同じような横穴式の洞穴だ。多少中は広く家族と共にここで暮らしている。王の就任祝いに送った彫刻の木の杭が両脇に立てられているのが、他とは違うぐらいだろうか。

『近々、獣人の軍がこの森に攻めてくるようなんだ。目的はボクを捕らえる事らしい』
『リビティナ様を捕らえようとは、身の程を知らん奴らですな』
『すまないが、魔獣達の力を貸してくれないかな』
『それはもちろん。この森を守るためでもありますし、リビティナ様のためと言えば皆喜んで戦ってくれるでしょう』

 森の王と言うのは人の王とは違い、命令で配下の者を動かすものではない。それぞれの魔獣は自然の掟の元、生存競争を行なっている。その中で最低限の決まり事を決めたり、縄張り争いなどの調停をしている。

 この森に棲む魔獣には、効率的な狩りの方法を教えている。そのため狩りに充てる時間が短く、余暇が長くなっている。
 狩られる側も、子供の安全を確保できる場所を提供して、持ちつ持たれつの関係を構築している。

 その余った時間を家族と過ごしたり、仲間とのコミュニケーションに使っているから、知的でゆとりのある魔獣が多い。
 このような環境を作ってくれている森の王には感謝し尊敬しているから、その頼み事を聞いてくれる。

 ――あんまりあの子達に、獣人と戦ってほしくはないんだけどね。

 魔獣を含む動物というのは、生きるため他の動物を殺めるけど、必要以上の殺生は行なわない。獣人などが行なっている、戦争というものは全く理解できないだろう。
 とは言え、大兵力で森に侵入しようとする者に対しては、みんなの力を借りて排除しないといけない。

『できるだけ犠牲を出さないようにしたいんだ。ボクの指示で動いてくれるかな』
『分かりました。今回は指揮系統を作って、皆に指示伝達できるようにしましょう』
『すまないね。よろしく頼むよ』


 魔獣達にも戦ってもらうからには、リビティナとしても出来ることをやっておかないといけない。
 敵が来るまでには時間がある。村の戦力を上げるため、ネイトス用に作った機械弓をできるだけ多く作って冒険者に渡すつもりだ。

「ネイトス。君は村に行って、職人に機械弓を作ってもらってくれ。この弓の作り方は分かっているだろう」
「ああ、日頃からメンテナンスをしているからな。構造や組み立て方は分かっているさ」

 村の鍛冶屋で部品を作ってもらった時の図面を持たせれば、複製品はすぐにでも作れる。獣人の力に合わせて、大型に改良してもいいだろう。

「その後は機械弓の指導教官として、冒険者を訓練してそのまま弓部隊の一員として戦ってもらう。但し、仮面を被りネイトスであることを隠してもらいたいんだ」

 全身を覆うローブに仮面。手には魔獣の毛皮で作った手袋、足はズボンで隠し、白い肌を見せないようにする。

「俺は別にこの白い体を晒してもいいと思うんだが」
「獣人、その他の部族もだけど、自分と姿形が違う者に対して、嫌悪感や差別的な感情が生まれる。中身ではなく外見だけで忌み嫌ってしまうものなんだよ」

 冒険者の中には以前のネイトスを知る者もいるだろう。姿が変わってしまったネイトスを見てどう思うか。
 今のところリビティナがヴァンパイアのモンスターである事は知られていない。今回は寄せ集めの部隊による短期決戦になるだろう。そんな中、冒険者の間で疑心暗鬼が生まれるのは避けたい。

 だけど機械弓による部隊は、今回の戦いのキーになる。その部隊をまとめられるのはネイトス以外にいないだろう。

「声が変わるマスクも渡すから、ボクが派遣した眷属の一人として冒険者ギルドに行ってほしい」

 リビティナが作ったマスクは、紙コップのような筒の底に薄い金属の板を張り付けた物で、口に当てると「ワレワレハ宇宙人ダ」的な声に変わる簡易な物。
 これを仮面の飛び出た口の部分に隠せば、外からは分からないだろう。

「リビティナ様がそう言うなら、それに従いますぜ。俺もこの森を守る手助けをしたいからな」

 ネイトスを抱きかかえて空を飛び、村近くに降りる。冒険者ギルドの支部長に眷属の一人だと紹介して、すぐに弓造りに取り掛かってもらう。
 前のネイトスに比べ、小さく細くなった眷属を支部長は疑うことなく受け入れてくれた。

 その後、リビティナは昼間に森の魔獣達と戦闘訓練をし、夜は洞窟で戦略、戦術を練る。こういう時、夜眠らなくてもいいこの体は役に立つよ。

 敵は千人にも及ぶ兵団。魔獣や村の冒険者を傷つけず戦うための、あらゆる戦闘場面を想定し戦術パターンを考える。
 この異世界に月は無い。毎晩、月明かりの無い闇夜となる。夜行性の魔獣とリビティナにとって有利な夜間攻撃も考えておこう。
 

 敵が来る三日前。
 村で最後の打ち合わせをするため、リビティナとギルド支部長、それに戦闘に参加する主だった者を集めて、戦場になるであろう場所へと行く。
 村からさほど遠くない場所で森に近い開けた丘陵地帯。大勢の兵が集結するなら、ここの他はないだろう。

 村に一番近い側には既に陣が組まれ、柵とやぐらが作られている。柵は岩と木で造られた防壁で、馬や歩兵の侵攻をある程度は抑えられるものだ。その後ろに矢を放つやぐらが五基横一列に建てられている。

「このやぐらから弓を放つんだね」
「既に完成している機械弓で射程を測定しています。敵の魔術師や弓隊の射程外から攻撃できます」
「あの弓はすごかったですぜ。さすが賢者様の弓だ。これなら十分戦力になります」
「とは言え、弓の数が少ないからね。足止めしている間に、前衛を何とかしないとね」

 ガリアの情報では、ケファエス子爵軍の前衛は重歩兵と騎馬隊だそうだ。その鎧は魔法耐性が施してあって簡単には倒せないと言っている。さすがお金持ちの軍隊だ、装備も一級品を使っているようだね。

「賢者様。この地は我らが良く知っている土地です。ようはいくらでもありますぜ」
「賢者様がこちら側についてくれると言う事で、冒険者一同の士気も高くなっています。これなら勝つことも可能です」
「支部長さんもそう言ってくれるなら、ここはギルドの諸君に任せるよ。ボクは森の中から支援するようにしよう」

 地の利はこちらにあって戦闘態勢も整っている。敵の数は多いけど何とかなりそうだ。
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