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第2章 最果ての森
第28話 眷属との生活
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ネイトスが眷属になってくれて三日。その間に分かった事も多い。
ネイトスは元々魔法が得意ではなく、生活魔法程度しか使えなかったようだけど、眷属になってからは魔法が全て使えなくなってしまった。体内の魔力自体はあるようだけど、魔法として発現しないレベルらしい。
「俺は元々火魔法が使えず、別の方法で火起こしをしていた。生活魔法が使えなくなったからと言って不便じゃないんだが、筋力が落ちてまともに剣も振るえなくてな」
確かに獣人の頃より体がひと回り小さくなって、腕や足が細くなっている。筋肉は発達しているので普通の人よりも力はあるようだけど、今まで使っていた剣は少し重いようだ。
足の形も、獣人の時はつま先だけを接地していたけど、今はかかとが地面につく人間と同じ形だ。
「どうも、これだと歩きにくいし、速く走る事もできなくなっちまった」
「ボクとしては、君の手足にあったプニプニの肉球が無くなった事の方がショックだよ」
モフモフの毛とプニプニの肉球、眷属になったら触り放題だと思っていたのにね。他にも男物の下着の替えが無いとか、ベッドが一つしかない事が問題となった。
「ボクは、一つのベッドで一緒に寝てもいいんだけどね」
「いや、いや。俺は床に毛布を敷いて寝ますので、ベッドはリビティナ様が使ってくださいよ」
アタフタとするネイトスも可愛いもんだ。まあ、早めにベッドを用意しないといけないね。これは町に行って色々と用品を買い込まないとダメかな。
ネイトスが住んでいた試練の村にも、それなりの商品が売られているけど、寝具などを用意するなら南のテイムの町まで行った方がいいらしい。
「魔獣の魔石や毛皮などを試練の村で換金して、テイムの町で買物をいたしやしょう」
ネイトスの冒険者カードを見せれば、取引してくれるだろうと言っている。ネイトス一人なら飛んで連れて行くこともできるけど、まだ顔を隠す仮面もない。歩くことすらままならないネイトスは連れていけないね。
「じゃあ、ボクが手元にある魔石を持って村に行ってくるよ」
ネイトスに必要な物と、どこで買えばいいかを紙に書いてもらう。寝具と仮面以外は試練の村で用意できそうだね。
三十年程前、森の近くに村が新しくできたのは知っているけど、中に入るのは初めてだ。昔テイムの町でしたように、巡礼者のふりをして中に入ればいいだろう。
洞窟を飛び立ち、村の近くで地上に降り試練の村に入る。そこそこ大きな村のようだけど、ここは冒険者だけが集まる村だからかな、入り口には門番も立っていなかった。
まずは魔石を換金しようと冒険者ギルドに寄って、換金用のテーブルに魔石を置いて聞いてみる。
「これを換金してほしんだけど」
冒険者カードを提示すると、受付の職員が少し待ってくれと言って、後ろの事務所の方に引っ込んでいった。やっぱり本人じゃないとダメなのかな? そう思っていると奥の扉から細身で背の高い鹿族の人が出てきて、こちらの部屋に来てくれと言う。
「このカードは預かった物で、ボクは本人じゃないけど、ここでカードを見せれば換金できると聞いているんだけどね」
「はい、承知しています。少しだけお話を伺うだけですので、奥の応接室に来ていただけますか」
静かにお辞儀をして、リビティナを奥の部屋へと案内する。身なりも良くて何だか礼儀正しい人みたいだね。
案内されるままに部屋へと入っていきソファーに座ると、女性の従業員がお茶とお菓子を持ってきてくれてテーブルに置いた。なんだか厚遇されているようだけど。
「私はこの冒険者ギルドの支部長をしております、ミニエルと申す者です」
「その支部長さんが、ボクに何の用なんだい」
「三日前、山に向かったガリア殿一行が帰還されまして、護衛として同行したネイトスが、山に住む賢者様の眷属になったと報告を受けております」
なるほど、ボクの事をヴァンパイアではなく賢者というふうに言ってくれたんだね。ナイス判断だよ、ガリア。
「護衛の報酬も預かったままですし、こちらとしましては、正確な安否が分からないのはまずくてですね……」
「ネイトスは確かに眷属としてボクの洞窟に居るよ。今日はネイトスに頼まれてここに買い物に来たんだ」
買い物リストを書いた紙を見せる。
「なるほど……すみませんが、もう一度冒険者カードを見せていただいて、よろしいでしょうか」
そう言ってテーブルに置いた紙と、ネイトスのカードを見比べている。筆跡鑑定でもしているんだろうか。もしかしてボクがネイトスを殺して、冒険者カードだけを奪ったなんて思っているんじゃないだろうね。
すると、支部長さんがポケットから青い石を取り出して、カードの上に置いた。
「それは?」
「カードの本人確認です。本人がカードを手にすれば魔力の痕跡がここに残りますので」
名前の横にうっすらと光っている部分がある。カード自体に本人の魔力パターンが刻まれていて反応するらしい。カードに置いたこの石だといつまで生存していたかも分かると言う。
これでネイトスが一緒にいると、分かってもらえたようだね。
「報告によりますと、あなた様は森の王の育ての親であると聞いています。そのような方との縁は大事にしたいと思っております」
この村は森の恵みで成り立っていると言う。森を荒らして魔獣達の怒りを買い、村を襲ってこないかを心配しているようだね。
今のところ奥地の魔獣に危害はない。自然の恵みを分かち合うのは結構な事だ。魔獣も強き者には倒される自然の掟を理解している。極端に森を荒らさない限り、村を襲う事はない。
そのような話をすると、支部長は安心したようにホッと息をつく。リビティナとは今後も友好を深めたいと言ってきた。
「ここに書かれています、武器や防具、それに服などはこちらで用意致しましょう。テイムの町で買われた物も送っていただければ、こちらで保管しておきます」
定期的にテイムの町とは商品のやり取りをしていて、二日もあれば寝具などはこの村に届けられるそうだ。かさばる荷物を持って空を飛ぶのもなんだし、輸送してもらった方が楽かもしれないね。
テイムの町への通行証もここで作ってくれるみたいだし、親切な人だね。
「あの人が、賢者様なんだと……」
「ネイトスの野郎が言っていたことは、本当だったんだな……」
この冒険者ギルドを出る際に、冒険者が口々に話をしている声が聞こえてきた。色々と噂になっているようだね。もしかしたら新しい眷属になろうとする人が現れるかもしれない。
玄関先では、ギルドの支部長や職員達に頭を下げられて見送られてしまったよ。まあ、こういう関係もいいかもしれないね。
その後テイムの町まで飛んで行って、すべての買い物を済ませた。これでネイトスとの新しい生活がスタートできるよ。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第2章は終了となります。
次回からは 第3章 安住の地編 です。お楽しみに。
お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
ネイトスは元々魔法が得意ではなく、生活魔法程度しか使えなかったようだけど、眷属になってからは魔法が全て使えなくなってしまった。体内の魔力自体はあるようだけど、魔法として発現しないレベルらしい。
「俺は元々火魔法が使えず、別の方法で火起こしをしていた。生活魔法が使えなくなったからと言って不便じゃないんだが、筋力が落ちてまともに剣も振るえなくてな」
確かに獣人の頃より体がひと回り小さくなって、腕や足が細くなっている。筋肉は発達しているので普通の人よりも力はあるようだけど、今まで使っていた剣は少し重いようだ。
足の形も、獣人の時はつま先だけを接地していたけど、今はかかとが地面につく人間と同じ形だ。
「どうも、これだと歩きにくいし、速く走る事もできなくなっちまった」
「ボクとしては、君の手足にあったプニプニの肉球が無くなった事の方がショックだよ」
モフモフの毛とプニプニの肉球、眷属になったら触り放題だと思っていたのにね。他にも男物の下着の替えが無いとか、ベッドが一つしかない事が問題となった。
「ボクは、一つのベッドで一緒に寝てもいいんだけどね」
「いや、いや。俺は床に毛布を敷いて寝ますので、ベッドはリビティナ様が使ってくださいよ」
アタフタとするネイトスも可愛いもんだ。まあ、早めにベッドを用意しないといけないね。これは町に行って色々と用品を買い込まないとダメかな。
ネイトスが住んでいた試練の村にも、それなりの商品が売られているけど、寝具などを用意するなら南のテイムの町まで行った方がいいらしい。
「魔獣の魔石や毛皮などを試練の村で換金して、テイムの町で買物をいたしやしょう」
ネイトスの冒険者カードを見せれば、取引してくれるだろうと言っている。ネイトス一人なら飛んで連れて行くこともできるけど、まだ顔を隠す仮面もない。歩くことすらままならないネイトスは連れていけないね。
「じゃあ、ボクが手元にある魔石を持って村に行ってくるよ」
ネイトスに必要な物と、どこで買えばいいかを紙に書いてもらう。寝具と仮面以外は試練の村で用意できそうだね。
三十年程前、森の近くに村が新しくできたのは知っているけど、中に入るのは初めてだ。昔テイムの町でしたように、巡礼者のふりをして中に入ればいいだろう。
洞窟を飛び立ち、村の近くで地上に降り試練の村に入る。そこそこ大きな村のようだけど、ここは冒険者だけが集まる村だからかな、入り口には門番も立っていなかった。
まずは魔石を換金しようと冒険者ギルドに寄って、換金用のテーブルに魔石を置いて聞いてみる。
「これを換金してほしんだけど」
冒険者カードを提示すると、受付の職員が少し待ってくれと言って、後ろの事務所の方に引っ込んでいった。やっぱり本人じゃないとダメなのかな? そう思っていると奥の扉から細身で背の高い鹿族の人が出てきて、こちらの部屋に来てくれと言う。
「このカードは預かった物で、ボクは本人じゃないけど、ここでカードを見せれば換金できると聞いているんだけどね」
「はい、承知しています。少しだけお話を伺うだけですので、奥の応接室に来ていただけますか」
静かにお辞儀をして、リビティナを奥の部屋へと案内する。身なりも良くて何だか礼儀正しい人みたいだね。
案内されるままに部屋へと入っていきソファーに座ると、女性の従業員がお茶とお菓子を持ってきてくれてテーブルに置いた。なんだか厚遇されているようだけど。
「私はこの冒険者ギルドの支部長をしております、ミニエルと申す者です」
「その支部長さんが、ボクに何の用なんだい」
「三日前、山に向かったガリア殿一行が帰還されまして、護衛として同行したネイトスが、山に住む賢者様の眷属になったと報告を受けております」
なるほど、ボクの事をヴァンパイアではなく賢者というふうに言ってくれたんだね。ナイス判断だよ、ガリア。
「護衛の報酬も預かったままですし、こちらとしましては、正確な安否が分からないのはまずくてですね……」
「ネイトスは確かに眷属としてボクの洞窟に居るよ。今日はネイトスに頼まれてここに買い物に来たんだ」
買い物リストを書いた紙を見せる。
「なるほど……すみませんが、もう一度冒険者カードを見せていただいて、よろしいでしょうか」
そう言ってテーブルに置いた紙と、ネイトスのカードを見比べている。筆跡鑑定でもしているんだろうか。もしかしてボクがネイトスを殺して、冒険者カードだけを奪ったなんて思っているんじゃないだろうね。
すると、支部長さんがポケットから青い石を取り出して、カードの上に置いた。
「それは?」
「カードの本人確認です。本人がカードを手にすれば魔力の痕跡がここに残りますので」
名前の横にうっすらと光っている部分がある。カード自体に本人の魔力パターンが刻まれていて反応するらしい。カードに置いたこの石だといつまで生存していたかも分かると言う。
これでネイトスが一緒にいると、分かってもらえたようだね。
「報告によりますと、あなた様は森の王の育ての親であると聞いています。そのような方との縁は大事にしたいと思っております」
この村は森の恵みで成り立っていると言う。森を荒らして魔獣達の怒りを買い、村を襲ってこないかを心配しているようだね。
今のところ奥地の魔獣に危害はない。自然の恵みを分かち合うのは結構な事だ。魔獣も強き者には倒される自然の掟を理解している。極端に森を荒らさない限り、村を襲う事はない。
そのような話をすると、支部長は安心したようにホッと息をつく。リビティナとは今後も友好を深めたいと言ってきた。
「ここに書かれています、武器や防具、それに服などはこちらで用意致しましょう。テイムの町で買われた物も送っていただければ、こちらで保管しておきます」
定期的にテイムの町とは商品のやり取りをしていて、二日もあれば寝具などはこの村に届けられるそうだ。かさばる荷物を持って空を飛ぶのもなんだし、輸送してもらった方が楽かもしれないね。
テイムの町への通行証もここで作ってくれるみたいだし、親切な人だね。
「あの人が、賢者様なんだと……」
「ネイトスの野郎が言っていたことは、本当だったんだな……」
この冒険者ギルドを出る際に、冒険者が口々に話をしている声が聞こえてきた。色々と噂になっているようだね。もしかしたら新しい眷属になろうとする人が現れるかもしれない。
玄関先では、ギルドの支部長や職員達に頭を下げられて見送られてしまったよ。まあ、こういう関係もいいかもしれないね。
その後テイムの町まで飛んで行って、すべての買い物を済ませた。これでネイトスとの新しい生活がスタートできるよ。
---------------------
【あとがき】
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