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第2章 最果ての森
第27話 眷属2
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洞窟に帰って来て、これからネイトスを眷属にするんだけど、まったく初めての事で何が起きるか分からない。
「実はね、眷属にするのは君が初めてなんだよ」
「おお、そうなのか。リビティナ様の初めてをもらえるとは、俺は幸運だよ」
いやね、危険が伴うって事で、そんなに喜ばれても困るんだけど……。
「で、俺はどうすればいいんだ」
「その椅子に座ってくれるだけでいいよ。少し痛いかもしれないけど、首筋に牙を立てて血を吸って、代わりにボクの血を分け与えると眷属になるらしいんだ」
これは神様から聞いた話で、ネイトスのおばあさんであるレミシャにもした事がある。その時は血の量が少なかったのか、眷属になる事もなく傷の治療だけができた。今回はどうなるのかやってみないと分からない。
「さあ、リビティナ様。遠慮せずどんと噛みついてください」
腕を広げて首筋をこちらに向けてくる。だけど、男の人に抱かれるような感じでなんだか気恥ずかしいね。それでも眷属にするためには噛みつかないといけないんだからと、思い切ってネイトスの胸に飛び込む。
「じゃあ、噛むよ」
「はい。どうぞ、リビティナ様」
首筋の毛をかき分けるようにしてネイトスの首に牙を立てる。
「ウッ!」
やっぱり少し痛むようだね。早く終わらせた方がいいだろうと、一気に二本の牙を深々と首に差し入れ血が溢れる。その血をすすると同時に牙から自分の血を流し込む。
ネイトスは苦しいのか、リビティナにギュッと抱きついて放そうとしない。いや、快感を覚えているのか口からは熱い吐息が漏れている。リビティナも今まで感じた事のない、体内の血が湧きたつような感覚を覚えた。
首筋から溢れる血は、温かく甘く感じる。大きくはない胸だけど、ネイトスの広い胸板に押しつけられて先端がジンジンしてきて体の芯が熱くなってくる。ネイトスは今も熱い吐息を耳の辺りに運んできて、自分も妙な声が漏れてしまうよ。
しばらくして、ネイトスの腕の力が抜けてリビティナがゆっくりと体を離す。
「どうだった……ネイトス」
「何だか夢を見ているような、ふわふわした感じです」
ネイトスもなんだね。この初めての感覚は眷属にしたから? それともこの人だからなんだろうか……よく分からないよ。
ネイトスは麻酔作用でもあるのだろうか、痛みを感じることもなくまどろむような目をしている。このまま椅子に座らせておくわけにもいかないか。
フラフラするネイトスに肩を貸してベッドまで連れて行き、毛布を被せて寝てもらう。
「しばらくは、ここで休んでいてくれ」
「はい、ありがとうございます。リビティナ様……」
すぐに眠ってしまったけど、しばらくした後に異変が起こった。ネイトスがベッドの上でもがき、苦しみだす。
「おい、しっかりしてくれ! ネイトス」
「ウガッ、ガッ」
声にならない声で苦しみ、のたうつように体をくねらせる。ベッドから落ちないように体を押さえるだけで精一杯だった。
そんな状態が半時間ほど続いただろうか、その後は苦しみながらも容態は落ち着いて暴れ回ることは無くなってきた。
それでも高熱のままうなされて苦しそうにしている。少しでも楽になるようにと、上着を脱がせ腰のベルトを緩め、頭に水タオルを置く。でも熱のためすぐに乾いてしまう。
これが眷属になると言う事なんだろうか? 前には無かった状態だ。いや、もしかしたら失敗したんじゃないだろうか。このままネイトスが死んでしまうんじゃないかと不安が過る。
しかしリビティナには、これ以上何もすることができなかった。
日も陰り、部屋の中も暗くなってきた。ランプを灯して尚もうなされているネイトスの傍らに座る。初めて眷属になりたいと、こんな山奥まで来てくれた人。やっと出会えた人を失いたくはない。鎮痛効果のある薬草を口移しで飲ませて、苦しむネイトスの手を握って頑張ってくれと祈る。
夜中に差し掛かった頃、また異変が起こった。ネイトスの顔が崩れているように見える。いったいどうなってしまったんだとタオルで顔を拭くと、顔の毛が全て抜け落ちた。毛だけじゃない、その下の皮膚ごと毛皮全部が崩れ落ちているじゃないか。
「ネイトス! ネイトス! 一体どうしたんだ」
肩を揺さぶると、指の間から肩の毛と皮がボロボロと剥がれ落ちる。その下には毛が全くない、白い皮膚が現れた。体に被せていた毛布をはぎ取り全身を見てみると、どこも同じように毛皮が剥がれ落ちて新しい皮膚が見える。
「うんん……、リビティナ様……俺は一体……」
意識を取り戻したネイトスが上半身を起こすと、脱皮したかのように毛皮がベッドに残り白い体だけが起き上がっている。
これは人間の体じゃないか!
ヒョウ族の獣人であったネイトスが、ひと回り小さな人の体となってベッドに座る。
「な、なんだこの腕は! 真っ白で毛が全然生えていないじゃないか」
自分の体を見て驚いたネイトスがベッドから立ち上がった。全身の毛が抜けて顔の形まで変わり、犬のように前に突き出ていた鼻や口もへこんでいる。とはいえ群青色の目は同じで、彫りが深く人としては整った精悍な顔立ちになっている。
「リビティナ様、これは一体……」
「まあ、落ち着いてくれ。どこか痛いところはないかい」
「いえ、それは大丈夫ですが、こんな毛のない真っ白な体になるなんて」
「まあ、そうだね。ボクも驚いたよ。ネイトス、すまないが前を隠してはくれないだろうか」
立ち上がったネイトスの下半身も毛皮が無くなっている。細くなった腰から履いていたズボンがずり落ちて、男性自身がそのまま見えているじゃないか。うん、そこと頭の毛だけはちゃんと残っているんだね。
「おっ、これは失礼しました」
自分の下半身を見て、慌てて毛布を腰に巻き付けた。
「しかし、これが眷属になると言う事だったんだね。君はボクと同じような体になったんだよ」
「リビティナ様と同じ体に……」
「ちょっと背中を見せてくれるかい」
同じとはいっても、背中に翼は無かった。耳も尖がっていなくて普通の人間の耳だし、ヴァンパイアになった訳ではないようだ。
「気分はどうだい」
「はい、不快感はありません。でも少し寒いですね」
「まあ、そうだろうね。毛皮が無くなって素っ裸の状態だからね。お風呂を沸かすから入って温まってくれ」
夜中ではあるけど、今からお湯を張って温まってもらおう。
「抜けた毛が体中にくっ付いているし、綺麗に身体を洗ってくるといいよ。お腹もすいただろう。食事を用意しておこう」
「ありがとうございます」
病み上がりみたいなものだろうし、栄養を摂って体を休めた方がいいだろう。何せ全く違う体に変化してしまったんだからね。
でも見た感じ元気なようだ。さっきまで死んでしまうんじゃないかと思っていたのが嘘のようだと、リビティナは胸を撫でおろす。
「実はね、眷属にするのは君が初めてなんだよ」
「おお、そうなのか。リビティナ様の初めてをもらえるとは、俺は幸運だよ」
いやね、危険が伴うって事で、そんなに喜ばれても困るんだけど……。
「で、俺はどうすればいいんだ」
「その椅子に座ってくれるだけでいいよ。少し痛いかもしれないけど、首筋に牙を立てて血を吸って、代わりにボクの血を分け与えると眷属になるらしいんだ」
これは神様から聞いた話で、ネイトスのおばあさんであるレミシャにもした事がある。その時は血の量が少なかったのか、眷属になる事もなく傷の治療だけができた。今回はどうなるのかやってみないと分からない。
「さあ、リビティナ様。遠慮せずどんと噛みついてください」
腕を広げて首筋をこちらに向けてくる。だけど、男の人に抱かれるような感じでなんだか気恥ずかしいね。それでも眷属にするためには噛みつかないといけないんだからと、思い切ってネイトスの胸に飛び込む。
「じゃあ、噛むよ」
「はい。どうぞ、リビティナ様」
首筋の毛をかき分けるようにしてネイトスの首に牙を立てる。
「ウッ!」
やっぱり少し痛むようだね。早く終わらせた方がいいだろうと、一気に二本の牙を深々と首に差し入れ血が溢れる。その血をすすると同時に牙から自分の血を流し込む。
ネイトスは苦しいのか、リビティナにギュッと抱きついて放そうとしない。いや、快感を覚えているのか口からは熱い吐息が漏れている。リビティナも今まで感じた事のない、体内の血が湧きたつような感覚を覚えた。
首筋から溢れる血は、温かく甘く感じる。大きくはない胸だけど、ネイトスの広い胸板に押しつけられて先端がジンジンしてきて体の芯が熱くなってくる。ネイトスは今も熱い吐息を耳の辺りに運んできて、自分も妙な声が漏れてしまうよ。
しばらくして、ネイトスの腕の力が抜けてリビティナがゆっくりと体を離す。
「どうだった……ネイトス」
「何だか夢を見ているような、ふわふわした感じです」
ネイトスもなんだね。この初めての感覚は眷属にしたから? それともこの人だからなんだろうか……よく分からないよ。
ネイトスは麻酔作用でもあるのだろうか、痛みを感じることもなくまどろむような目をしている。このまま椅子に座らせておくわけにもいかないか。
フラフラするネイトスに肩を貸してベッドまで連れて行き、毛布を被せて寝てもらう。
「しばらくは、ここで休んでいてくれ」
「はい、ありがとうございます。リビティナ様……」
すぐに眠ってしまったけど、しばらくした後に異変が起こった。ネイトスがベッドの上でもがき、苦しみだす。
「おい、しっかりしてくれ! ネイトス」
「ウガッ、ガッ」
声にならない声で苦しみ、のたうつように体をくねらせる。ベッドから落ちないように体を押さえるだけで精一杯だった。
そんな状態が半時間ほど続いただろうか、その後は苦しみながらも容態は落ち着いて暴れ回ることは無くなってきた。
それでも高熱のままうなされて苦しそうにしている。少しでも楽になるようにと、上着を脱がせ腰のベルトを緩め、頭に水タオルを置く。でも熱のためすぐに乾いてしまう。
これが眷属になると言う事なんだろうか? 前には無かった状態だ。いや、もしかしたら失敗したんじゃないだろうか。このままネイトスが死んでしまうんじゃないかと不安が過る。
しかしリビティナには、これ以上何もすることができなかった。
日も陰り、部屋の中も暗くなってきた。ランプを灯して尚もうなされているネイトスの傍らに座る。初めて眷属になりたいと、こんな山奥まで来てくれた人。やっと出会えた人を失いたくはない。鎮痛効果のある薬草を口移しで飲ませて、苦しむネイトスの手を握って頑張ってくれと祈る。
夜中に差し掛かった頃、また異変が起こった。ネイトスの顔が崩れているように見える。いったいどうなってしまったんだとタオルで顔を拭くと、顔の毛が全て抜け落ちた。毛だけじゃない、その下の皮膚ごと毛皮全部が崩れ落ちているじゃないか。
「ネイトス! ネイトス! 一体どうしたんだ」
肩を揺さぶると、指の間から肩の毛と皮がボロボロと剥がれ落ちる。その下には毛が全くない、白い皮膚が現れた。体に被せていた毛布をはぎ取り全身を見てみると、どこも同じように毛皮が剥がれ落ちて新しい皮膚が見える。
「うんん……、リビティナ様……俺は一体……」
意識を取り戻したネイトスが上半身を起こすと、脱皮したかのように毛皮がベッドに残り白い体だけが起き上がっている。
これは人間の体じゃないか!
ヒョウ族の獣人であったネイトスが、ひと回り小さな人の体となってベッドに座る。
「な、なんだこの腕は! 真っ白で毛が全然生えていないじゃないか」
自分の体を見て驚いたネイトスがベッドから立ち上がった。全身の毛が抜けて顔の形まで変わり、犬のように前に突き出ていた鼻や口もへこんでいる。とはいえ群青色の目は同じで、彫りが深く人としては整った精悍な顔立ちになっている。
「リビティナ様、これは一体……」
「まあ、落ち着いてくれ。どこか痛いところはないかい」
「いえ、それは大丈夫ですが、こんな毛のない真っ白な体になるなんて」
「まあ、そうだね。ボクも驚いたよ。ネイトス、すまないが前を隠してはくれないだろうか」
立ち上がったネイトスの下半身も毛皮が無くなっている。細くなった腰から履いていたズボンがずり落ちて、男性自身がそのまま見えているじゃないか。うん、そこと頭の毛だけはちゃんと残っているんだね。
「おっ、これは失礼しました」
自分の下半身を見て、慌てて毛布を腰に巻き付けた。
「しかし、これが眷属になると言う事だったんだね。君はボクと同じような体になったんだよ」
「リビティナ様と同じ体に……」
「ちょっと背中を見せてくれるかい」
同じとはいっても、背中に翼は無かった。耳も尖がっていなくて普通の人間の耳だし、ヴァンパイアになった訳ではないようだ。
「気分はどうだい」
「はい、不快感はありません。でも少し寒いですね」
「まあ、そうだろうね。毛皮が無くなって素っ裸の状態だからね。お風呂を沸かすから入って温まってくれ」
夜中ではあるけど、今からお湯を張って温まってもらおう。
「抜けた毛が体中にくっ付いているし、綺麗に身体を洗ってくるといいよ。お腹もすいただろう。食事を用意しておこう」
「ありがとうございます」
病み上がりみたいなものだろうし、栄養を摂って体を休めた方がいいだろう。何せ全く違う体に変化してしまったんだからね。
でも見た感じ元気なようだ。さっきまで死んでしまうんじゃないかと思っていたのが嘘のようだと、リビティナは胸を撫でおろす。
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