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第1章 始まりの洞窟

第2話 転生ヴァンパイア2

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 何もかもが分からないこの世界。目の前にいるこの神と自称する男の言う通り生きていくのが賢明なのだろうか? 前の世界には実在しないヴァンパイア……しかも女性の体になってしまった今となっては、全てを受け入れる他ないみたいだ。

 少し精神がこの体に慣れたのか、思考や言葉遣いも変わってきているようだ。完全に自分が女性であるとまだ実感できず、中性的な感覚が残ったままだから自分の事もボクと称するのが自然なように思える。
 気を取り直して、神と名乗る男に尋ねる。

「ボクの名前は何と言うんだい」
「それも些末な事だね。ヴァンパイアでいいじゃないか。この世界で唯一無二の君は、それだけで分かるからね……。そうだな、どうしてもと言うなら、リビティナ・ヘレケルトス・エルメス・キュビナス・マイヤドベガ十八世というのはどうだい」

 長げ~よ。
 この神様、だんだん説明するのが面倒で、適当になってきてるんじゃないのか。

「まずは、これを見てくれるかい。これが君の住む下界の世界だ」

 神様だと自称する男の後ろに、大きな四角い画像が浮かび上がる。そこには地球を思い起こさせるような青い惑星が映っていた。
 その画像は地上に向かって大きくなっていき、大陸のひとつの都市を映し出す。

 道を闊歩しているのは人ではなく、獣人達だった。姿形は人に似ているけど、口や鼻は犬のように前に飛び出し、大きな耳が頭の上から生え全身が体毛に覆われている。
 人のように服を着て靴も履いて二足歩行はしているけど、腰から生えたシッポが歩くたびにゆらゆらと揺れていた。

「まあ、ここに映っているのは一般的な獣人達だね。この他にも全身が鱗で覆われたリザードマンや羽を持った妖精族というのもいるな」

 ――ここはファンタジー世界ということ? やはり自分は一度死んでここに転生してきたんだろうか。でも以前の記憶もないまま、前世と全く違うこんな世界で生きていかないといけないのか……。

 こんな異世界に放り出さられて、あんな獣にも似た顔の獣人達とうまく暮らしていけるはずないじゃないか。頭には不安の二文字しか浮かんでこない。それにあの腰の武器。

「あの獣人達は腰に剣を差していたようだけど、危険はないのかい。急に襲われたらどうするんだい」
「あの程度じゃ君は傷つかないし、君の力に敵う者などこの世界には居ないさ。まあ魔法を使って来るから、それは注意したほうがいいかもしれないな。一応、君も全属性の魔法は使えるが、超一流の魔術師ほどの魔力はないからね」

 ――魔法もあるのか。ますますファンタジーな世界だね。

「あ~、そうそう。ドラゴンにだけは気をつけてくれ。あのブレスにやられると、いくら君でも灰になってしまうからね」
「そんな危険な生き物まで居るのかい!」
「あれは太古の昔から存在する生物だからね。数は少ないが強大な力を持っている。まあ、君なら倒せなくもないが無理しない方がいいだろう。それにあれは眷属にはできないからね。近づかない方がいいよ」

 ――ますます不安になってくる。こんな世界で自分は何をすればいいんだろう。

「下界では君の自由にしてくれていいんだけどね、眷属になりたいと言う獣人や他の種族の者が必ずいるはずなんだ。君はその者達が来るまで、あの山の洞窟に居てほしい」

 男の後ろの画面には、高い山の中ほどにある洞窟の入り口が映し出されていた。

「そういえば眷属を作るのが仕事だとか言っていたね。それなら町に出て行って血を吸えばいいんじゃないのかい」
「単純に血を吸うだけじゃ、眷属にはできないよ。血を吸い過ぎるとその者は死んでしまうしね。それに君の姿を見れば住民達がパニックを起こすだろう」

 眷属にするには何かしらの条件がいるようだね。まあ、あんな武器を持っている獣人たちとトラブルは起こしたくはないし、この体も水と少しの栄養があれば死ぬ事はないらしい。訳の分からない世界を苦労して旅したい訳でもない。

 この性格は以前の自分自身の性格なんだろうか。もしかしたら以前は家に引き籠って生活をしていたのかもしれないね。
 とはいえ、ずっとこの何も無い部屋にいる訳にはいかないだろう。と言うより、この神様だと言ういけ好かない男と一緒にいるのもそろそろ限界だよ。

「分かった。あんたの言う通りにあの山の洞窟に行ってみるよ」
「そうか、では君を下界に送ろう。君のこれからの長い人生に幸多からんことを」

 そう言って男が立ち上がると、ヴァンパイアの少女は深い眠りに落ちてしまった。
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