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第5章 眷属の里

第20話 ライダノス攻略3

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「二日後、城門を開ける。王国軍と一緒にここへ来てくれるか」
「降伏すると言う事だね」

 ライダノス市の屋敷に戻り、ベッド横にある丸いテーブルに向かい合って腰掛けた領主が、少し疲れた様子で話す。

「ああ。そうだな……、援軍が無いのであれば降伏するより仕方あるまい」

 勝機の無いこの戦争に終止符を打つ覚悟を決めたんだね。夜が明けたらその手続きや準備をし、次の日には王国軍を迎え入れると言う。

「最後にすまぬが、その仮面を取ってはくれぬか」

 リビティナは静かに仮面を外してブクイットと向き合う。

「良い目をしておるな」
「この白い顔と黄金の目を見ても、怖がらないんだね」
「そういえば、わしら獣人の顔とは全然違っておるな。妖精族とも違うようじゃしな」

 そう言って穏やかに笑う。

「なぜこんなややこしい事をする。わしを殺せば済む事じゃろうに」
「どうしても降伏しない時は死んでもらう事になるんだろうけど、この町が混乱して無駄な血が流れる。戦いもこの先の砦まで続いてしまうからね。これ以上、死人を出したくないんだよ」

 それを聞きしばらく黙った後、また口を開く。

「この土地には、かつての魔王城がある」
「魔王城? そんな物があるんだね」
「もう崩れて土台しか残っとらんがな。あんたの城じゃなかったのかい」
「ボクのじゃないよ。たぶん昔の魔王だね」
「そうなのか。じゃがあんたになら返しても良いじゃろう」

 最後まで戦うことなく降伏して、土地を王国に渡すつもりのようだね。帝国を裏切るとはそう言う事なんだろう。

「ところで、あんたの名前は何というんじゃ」
「ボクはリビティナだよ」
「リビティナか。魔王とは思えん良い響きじゃな」
「王国じゃ賢者と呼ばれていてね、昔の魔王とは違うんだけどね」
「今までの戦いぶりは、伝説の魔王と同じと思えるがな。いや失礼、賢者様だったな。またここに来てくれるか、今度はちゃんと城門から入ってくれよ」

 その言葉を聞いて軽く頷き、鍵の壊れたベランダの扉をリビティナが静かに開ける。間もなく夜明けとなる薄明の空に、黒い翼を広げた少女が飛び立っていった。



 その日の夕方、帝国貴族の使者が王国軍の元を訪れ、降伏勧告を受け入れる旨の連絡があったそうだ。

「さすが賢者様ですな。こうも早くに解決していただけるとは」
「我ら軍部の至らなさを痛感しております」
「兵も、これで国へ帰せます。賢者様には感謝の言葉しかありませんな」

 現場の指令所のテントに入るなり、将校さん達から次々とお褒めの言葉をもらってしまったよ。これで終結する見込みが立って余程嬉しんだろうね。

 翌日、閉ざされていた城門が開きライダノス市が王国軍を迎え入れる。住民達を刺激しないようにと、代表将校と文官達十名と、護衛の兵士が五十人程の小規模なものだ。その一団がこの町の帝国兵に護衛されながら城へと向かう。帝国兵の数の方が多いぐらいだね。

 それを遠巻きに不安そうな住民達が見守る。負けてしまって今後の事が不安なんだろうけど、悲惨な事にはならないから心配しないでほしい。


「では、全面降伏と言う事でよろしいな」
「ああ、構わんよ」
「ブクイット卿。こんな無条件降伏でいいのかい。何も領地全部を差し出さなくても」
「リビティナ殿。どのみちわしは責任を取らされ死ぬ事になる。我が領民達が幸せになるには、これが一番なんじゃよ」

 終戦後、この貴族は帝国に引き渡され死罪になるという事か。後の事を考えると王国に領地全てを任せた方がいいと判断したんだね。

「しかし、それは勿体ないね。この地方のことをよく知っているのは君なんだから、今後の統治に協力してもらった方がいいよ」
「統治に役立てると。なるほど……さすが賢者様ですな。そこまでお考えだとは」
「わしはこの者を信頼しておる。今後の事はリビティナ殿にお任せする」
「ああ、いいよ。悪いようにはしないからさ」

 この後も賢者として助言して、いい方向に進めるようにするよ。

「この後の事を考えると、気になるのは鬼人族ですな」
「そうじゃな。撤退して行ったが、何かと口を挟んでくるからのう」

 帝国貴族と辺境伯の幹部が何やら難しい話をしているみたいだから、ここで部屋を出て隣りの控室へ下がっておこう。ここには美味しいお茶とお菓子があるからね。

 お昼過ぎには降伏の調印も完了し争いは終わったと思ってたけど、帝国対王国としての戦争は続いている。南部地方の戦いが激しいようで、北部地方の陥落を大々的に伝えるそうだ。

「それじゃボクは、もう帰ってもいいよね」
「賢者様、もうしばらく我らに力を貸していただけないでしょうか」
「えぇ~。後のことはそっちでやってよ」
「今のうちに鬼人族に対して、こちらの戦力を見せておいた方が良いのです」

 ここの領地全部が王国に移管されるとなると、国境を接するキノノサト国に対して、武力による威嚇の必要があるそうだ。

「撤退して行った鬼人族は魔王が復活したと言っておったそうです」

 そういや、ブクイットもそんな事を言っていたね。

「此度の賢者様の攻撃が、それに該当するようです。鬼人族の国境で今一度その攻撃をしていただきたく」
「それが脅しになると?」
「キノノサト国には、かつての魔王との戦いに関する伝承があり、魔王を酷く恐れているとの事」

 ここの領主のブクイットも魔王の伝承は知っていて、今脅しを掛ければ効果があると言っているそうだ。
 あの国境の砦に鬼人族の軍が増援を出すと、ややこしい事になるからね。その前に威嚇攻撃と言うのは理にかなっている。

「仕方ないね。それならこの城からも攻撃した方がいいね。君達には兵器の運搬を手伝ってもらうよ」

 ここからなら国境も近いし、多連装ロケット弾なら十分届く。兵士達も余っているようだし、ここまで運んでもらおう。
 里に戻ってみんなに状況を説明して、兵器の運搬準備をしてもらう。

「エルフィも一緒に来てもらうよ」
「今度でもう戦争は終わるんでしょうね」
「ああ、多分ね」

 鬼人族が帝国に援軍を送る様子を見せないのは、帝国がこの地域で負けるのを見越し次の反撃の機会を覗っているからだろう。
 今回王国にまだ攻め込む余力がある事を示せば、防衛するだけで手いっぱいになるはずだからね。

「あの、俺も一緒に連れて行ってもらえませんか」
「フィフィロ君、君まで行く必要はないんだけどね。……そうだな、実際の戦場を見ておくのもいいかも知れないね」

 フィフィロの魔術は上達して、眷属の里の主力に位置づけられるレベルになってきている。実際の戦争というものを知るいい機会になるかな。

「但し、ルルーチアちゃんはこの里に残しておいてくれよ」

 ルルーチアは一緒に行くつもりのようだったけど、さすがに十一歳の女の子を戦場に連れていく訳にはいかないよ。
 兵器の運搬と操作要員に六人の眷属と、追加でエルフィとフィフィロを連れていく事にした。
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