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第5章 眷属の里

第16話 戦争介入1

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「んんっ。一体なんだ、この音は?」

 ここは、王国国境を越え、占領したデラの町から西に伸びる街道の先にある平原。その向こう側の小高い場所には王国軍が布陣していて、こちらを監視している。

 王国軍とは言うものの、この国境地帯を所有する領主の軍。その兵力は全体でも八千程と少ないはずだが、なかなか前進する事ができん。大将軍様からは、帝国軍を助けてやれと一級魔術師を含む百二十人の部隊を任されたが、活躍する場も与えられずここにいる。

 先ほど聞こえたのは、甲高い風切り音だったが……風魔法か? そう思った矢先、後方で爆発音が聞こえた。振り返ると黒煙が上がり、何かが燃えているのか地上に近い煙が赤色に染められている。

「どういう事だ。前方の王国軍は動いていないぞ」
「伏兵が後方に回り込んだかもしれません。どのようにいたしましょう」

 ここは見晴らしのいい場所。敵が動けばすぐに分かるはずだが……。川向こうに広がる大森林を迂回したか?

「前方に牽制の魔法攻撃を仕掛けよ。その後、後方へ移動するぞ」

 我ら鬼人族の部隊は帝国軍の指揮下になく、独自で行動して良い事になっている。一応この部隊の部隊長に声を掛け、後方にあるデラの町を越えて爆発のあった場所へと移動する。

「どういう事だ。国境検問所が跡形もなくなっているぞ」

 検問所の建物が破壊され、炎と共に黒煙が立ち昇る。ここを守り、駐屯していた部隊も壊滅している。

「どこから攻撃を受けた!」

 近くにいた兵士に状況を確認する。

「わ、分かりません。空から甲高い音が聞こえたと思ったら爆発が起きて……」

 二度、同じ攻撃をされたらしいが、周りに敵兵の姿は無くどこからの攻撃か分からないという。

「怪鳥の攻撃でしょうか」
「確かに怪鳥の鳴き声にも似ていたが、ピンポイントで検問所を攻撃するとは思えんがな」

 軍事上の重要拠点であるこの場所を狙い、怪鳥が出現するものなのか。魔獣のテイマー……まさかな、そんなおとぎ話が現実にあってたまるものか。
 また、あの甲高い風切り音が聞こえた!

「前方、王国軍と対峙している場所に土煙が上がっています!」

 爆発音と共に上がる煙。さっきまで俺達がいた場所が攻撃された! 空に怪鳥の姿は無い。どういうことだ。その後も同じ爆発音が続く。
 前方の最前線では戦闘が開始されたのか、微かではあるが魔法による爆発音や兵士の争う声がここまで聞こえてくる。

 だが、まずはここの国境近辺にいる部隊の救護を行ない、部隊を再編して立て直さねばならん。

 前方の王国軍に注意を向けながら、生き残った兵を集める。ここには千人ほどの兵がいたはずだが、その半数以上が死亡し、動ける者も負傷者の救護に奔走する。

「伏兵がいるかもしれん。お前達と我らでこの地を守るぞ」

 集められた兵は五十人程だが、我ら鬼人の百二十人の兵と共に国境を守る。左右に広がる森の間にあるこの街道が軍の通れる唯一の道。ここを越えさせるわけにはゆかぬ。

「前方、デラの町から友軍の部隊が出撃しています」

 最前線での戦闘を聞きつけ、占領していたデラの町からも待機部隊が援軍に向かうようだな。あそこには俺達鬼人族の本隊も含まれている。あの者達であれば、前線を持ちこたえてくれるだろう。

 そう思った矢先、あの甲高い風切り音が聞こえて増援部隊がいる場所に巨大な火魔法! 火柱が上がり大爆発により兵士達が倒される。どういうことだ! まだ最前線まで距離がある。出撃の直後に魔法攻撃だと!

「最前線より敵兵! いや友軍か?」
「どうした! はっきりと報告せんか」
「友軍、撤退してきます。その後方から王国軍。約五千!」

 ご、五千だと! 前線の敵兵ほぼ全てではないか。先ほどの攻撃と連携して総攻撃をしているのか!

「怪我人を収容して、後方へ下がるぞ。急げ!!」

 我らの人数で防ぎきれるものではない。デラの町に残っていた兵と一緒になりこの国境に向かって撤退してくる。そこへまた巨大な火魔法! 伏兵からの攻撃か!
 闇雲に攻撃を行うが、どこに敵兵が居るのか全く分からない。とにかく、この戦場にいては危険だ。俺の部隊を引き連れ帝国側に退く。

「敵に特一級魔術師がいるのか」
「あの爆発の威力、確かに特一級が放つS級魔術であろうかと」

 後方の町へ向かい撤退しながら敵の分析を行う。我らにも特一級魔術師が一名後方に控えている。王国は早くもその切り札を投入してきていると言うのか。対応が早すぎる。
 今回の戦争、帝国が後手後手に回っている。一体どういう事なのだ。

 陽も落ち辺りが暗くなったが、負傷者を乗せた馬車を先に走らせる。我らも徒歩で慎重に暗がりの街道を進む。この後方にあるエキソスの町で体制を立て直さねば……。

 夜間になっても戦闘の音が響く。国境付近だろうか。またあの甲高い風切り音がして、その直後に爆発音が聞こえる。
 その音がこの街道をこちら側に向かって近づいてくる。

「どうなっている。こんな夜間に戦闘が続いているぞ」
「撤退する兵の後を追うように近づいています。このままでは追いつかれてしまいます」

 悲壮な声で報告する兵を尻目に、休憩する事もできずに街道を進む。もうすぐだ、もうすぐでエキソスの町に到着できる。そこには友軍二千の兵がいるはずだ。

 命からがら辿り着いたエキソスの町。その周辺に駐留していたはずの兵はおらず、テントは焼け落ち、魔法攻撃による穴が地面のあちこちに空いている。

「どういう事だ。我らの前に敵兵などいるはずがないではないか。この街道は一本道なのだぞ」

 撤退してきた我らを追い抜いて、ここを攻撃しただと……。そんな馬鹿な事があってたまるか!

「魔、魔族の攻撃……」

 部下が口にする。士官学校で習った、魔王城の戦いと旧皇国の殲滅の平原……。いずれも敵兵の姿は無く攻撃され、多数の戦死者を出した伝説の戦い。

「魔王が復活したとでもいうのか!!」
「し、しかしここまで私は敵兵を見ていません。こんなことは魔族にしかできない事です!」

 泣き叫ぶように訴えてくる部下。確かに本でしか見たことのないこの惨状。魔族……その言葉を思い浮かべるだけで恐怖の感情がふつふつと湧き上がってくる。

 エキソスの町の城門は固く閉ざされ、中に入る事はできない。どのみちここが戦場になっているなら、撤退するしかない。ここに居ては死ぬだけだ。
 俺達は魔族の恐怖に耐えながら、暗闇の街道を進む。


 ---------------------
【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。

 この回以降、過去の魔王の話が時々出てきます。
 その時代の話を、『転生ヴァンパイア様-外伝 ~先代魔王の国~』
 として描いています。

 興味にある方は外伝も読んでいただけると、本編をより楽しめると思います。
 今後共、よろしくお願いします。

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