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第5章 眷属の里

第14話 エキソスの町3

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「これはまずい事になったな。レイン、絶対に家から出るんじゃねえぞ」
「ええ、分かったわ。ネイトスも気を付けてね」

 リビティナ様がこの町を出て二週間。町の周辺にライダノス市から来た本隊が駐留し、町の住民といざこざが絶えない。

 レインを家に置いて冒険者ギルドに向かうが、街を行くネイトスの目に映るのは、商店の入り口を塞ぐバリケードの壁。ほぼ全ての商店が店の扉を固く閉ざし、軍による接収を拒否している。

「ギルマスはいるか!」
「会議室に主要冒険者を集めて協議しています。こちらへどうぞ」

 ネイトスは受付嬢に案内されて会議室に入る。冒険者達が机を囲み、中央にいるギルマスが現状報告をしている最中だった。

「国境へ向かった二千の兵は既に国境を越えて、王国内に入っている。この町の周辺に駐留していた約五千の兵も、増援のため順次国境へ向かっている」

 既に戦争は始まり、帝国は国境の向こう側にあるデラの町を占拠したと聞いている。

「その軍へ物資を輸送するために、町の男どもが駆り出され、このギルドにも運搬の依頼が来ている」
「その物資自体が既に不足していて、軍の連中が町中の家々に接収して回っているじゃねえか。どうなってんだ」

 軍が来て以来、この町の混乱は収まらず、住民と軍が敵対している状態だ。ギルマスの説明に冒険者達がどうすべきか意見を交わすが収拾がつかない。

「問題は俺達がどちら側に付くかと言う事だろう」

 自国の軍のする事とは言え、何の説明もなしに住民は従事させられ、やっていることは王国への侵略。この北部地域では戦争など五十年以上もなく平和であり、王国との取引で商売をする者も多い。侵略する意味が分からないと住民の不満は募るばかり。

 元より豊かでない帝国の住民だ。備蓄がそれほどあるはずもなく、それを強制的に接収する自国の兵に反感を向けるのも仕方ない事だ。

 軍からギルドに対しての依頼は物資の運搬。これは軍と一緒に、住民達の私財を持ち出せと言う事だ。そんな事をすれば住民の反感を冒険者ギルドが買ってしまう事になる。

「だが軍は一時的に借りるだけで、後方からの物資が届けば返還すると言っているんだろ。それなら仕方ないんじゃないのか」
「そんな事が信用できるか。前線への物資運搬が優先されるんだ、住民への返還など後回しになっちまう」

 長雨の影響だとかで、後方からの運搬がうまくいっていないらしいな。その分、この町に負担がかかる。

「軍はデラの町を占拠したらしいが、もぬけの殻だったそうじゃねえか」
「何日も前から王国は動き出して、国境から引き上げている。王国の町を占領して物資を確保しようなんて考えが甘いんだよ」

 軍の行動に批判が集まる。開戦当初から物資が足りないなど、準備が全くできていない証拠だ。それを住民に押し付け兵士だけは次々と前線へと送り出している。
 この町にそれを支えるだけの余裕はない。このままだと暴動が起きかねん。

「間もなくここに居る部隊の全てが国境へと移動する。それまで様子を見るのはどうだ。積極的ではないが通り過ぎるのを待とう」

 既に半数近い部隊が国境へと移動した。ギルマスが言うように、嵐が過ぎ去るのを待つのも手ではあるが……。

「おい、住民が斬られて城門の所で争いになっているぞ!!」

 町にいた冒険者が、部屋に飛び込んできた。とうとうこうなっちまったか。ここに集まったギルドメンバーで西の城門へと急ぎ向かう。

 住民二人が怪我をして座り込み、木箱を乗せた荷車の周辺に四人の兵士が見える。それを取り囲むようにして多数の住民が兵士と言い争っているが、兵士は既に剣を手にし、住民達を脅すように睨みつける。

「お前ら、武器を持たん住民に何してやがる」
「我らの命令に従わんからだ。それでも帝国臣民か」
「てめ~ら、戦争だからって何してもいいと思ってんじゃねえだろ~な」

 武器を持つ兵士に対して、ネイトス達冒険者も剣を抜く。双方が睨み合っている中、城門の外から馬に乗った隊長らしき者が命令してきた。

「さっさと荷を運び出さんか。我らもすぐに移動するぞ」

 それを聞き兵士が剣を納めて荷車を引き、逃げるように城門の外へと向かった。代わりに門番が槍を持ってこちらに向かって来る。
 これ以上、争っても仕方ないか。

「おい、怪我人の応急処置をするぞ。ギルドへ運べ」

 斬られたのは冒険者ギルドの者ではないが、この町の住民だ。ギルドへ運ぼうとすると、横から二十人程の集団が近づいてきた。

「その者達は我らが引き取ろう。助けてくれて感謝する」

 数人で怪我人を運び、残りの者が城門へと向かい門番と言い争っている。

「お前達は一体……」
「俺達は、商業ギルドの者だ。上からの指示で城門の閉鎖を行なう」

 町の惨状を見て商業ギルドが動いたのか? 冒険者ギルドに帰ってくると、商業ギルドのマスターが会議室でギルマスと話し合っていた。

「今、商業ギルドから正式な依頼を受けた。俺達は閉鎖された城門を守る事になった」

 冒険者ギルドのギルマスに続き、商業ギルドのマスターも口を開く。

「現在、ライダノス市で領主と商業ギルド長が協議している。それが締結されるまでの間、この町を守ってほしい」

 ここエキソス以外の町でも無茶な接収が行なわれていて、数日前より商人達を代表する形で協議が続いているようだ。混乱が収まるまで、この町を封鎖し兵士を町中に入れないようにしてほしいと言ってきた。

「領主は概ねいい返事をしているようだが、軍との交渉がまだ残っている。協議が決着するまで、あと数日はかかるだろう」
「その間、俺達に門番の代わりをしろと言う事だな。だが軍が本気でかかってきたら防ぎようはないぞ」
「敵は王国なのだからね。自国の町を潰しに掛かる事はないと信じているよ」

 ここは商業ギルドの言う通りに、動いてみようと皆の意見がまとまった。
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