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第5章 眷属の里
第13話 エキソスの町2
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「久しいな、白子のお嬢さん。元気にしてたかい」
八年前の事だけどギルドマスターのベラントスは、リビティナ達を覚えてくれてたみたいだね。この白い腕が余程印象に残ったのかな。
「あの時に起きた国境の一件で、王国には白子を治療できる先進医療施設があると噂になったしな」
そう言えば、鬼人族のエリーシアもそんな噂を聞いて、王国を頼り子供を連れて来たんだったね。
「ギルマス。少しこの周辺の軍の動きを教えてくれんか」
「それより、あんたらは王国の者なんだろ。よく国境を越えて入って来れたな」
「まあ、リビティナ様には裏のルートがあるからな。黄泉へ渡る覚悟が無いと通れん道だがな」
決死の覚悟でここまで来たと、悲壮な表情を浮かべるネイトス。いやいや、ちょっと空を飛んで来ただけだからね。
「最近じゃ俺達冒険者でさえ、国境を越えるのは難しくなっている。間もなく国境も封鎖されるだろう」
「国境付近に兵はまだ居なかったみたいだが」
「ここに駐留している軍が国境検問所へ移動する予定だ。それに代わりもっと大規模な軍隊がライダノス市からやってくる」
ライダノス市? 疑問に思っているとギルマスが、ここらを領地にしている帝国貴族が住む大きな都市だと説明してくれた。そこを拠点とし、今回の軍事行動が行われているそうだ。
「そうなれば、王国への侵攻も近いと言う事か……」
「昨夜、軍がどこからか襲撃を受けたらしい。軍の動きも早まるかもしれん」
「夜、襲撃? ……リビティナ様~」
ネイトスがジト目でこちらを見てくる。えっ、何の事だい。そんなの知らないよと何食わぬ顔で目を逸らす。そんなに睨まないでくれよ。ちょ~っと魔法を失敗しただけなんだから。
「それに今、冒険者達に傭兵にならないかと軍の方から求人が来ている」
「おや、冒険者ギルドは国の争いに関わらないんじゃないのかい」
ギルドは国家とは別の組織だ。こんな戦いの依頼は受けないと思うんだけど。
「国からの依頼じゃなく冒険者個人に対するリクルートだな。町が軍に囲まれて、通常の依頼が少なくなっていてな、そこに軍が高給で雇うと言ってくる。それになびく者もいると言う事だ」
ギルドと言えど、冒険者個人にまで制約を課す事はできないと言うわけだね。
「この町はどうなる」
「最前線の基地になるだろうな。補給物資や兵士の中継地となる。住民もそれに従事させられる事になる」
町の人口の数倍にも上る兵が押し寄せ、従事させられたら日常生活を送ることはできなくなる。国境を超える事も、他の町に行く事もできず、このエキソスの町は占領状態になるということか。
ギルドマスターもこの町の治安が悪くなるんじゃないかと、渋い顔で先々が不安だと言ってくる。
思っていたよりも、事態は進んでいるようだし、国境に近い眷属の里にも危害が及ぶ恐れがでてきた。辺境伯にも早く知らせた方がいいね。
情報をくれたギルドマスターにお礼を言ってギルドを後にする。
「ボクは今夜にでも里に戻って防備を固めるように伝えるよ。ネイトスはこの町に残ってくれるかい」
「辺境伯への報告は」
「エルフィを向かわせれば大丈夫さ。明日中には情報が伝わるからね」
あの隠れ里が見つかるとは思えないけど、武器の準備もしておこう。戦いに巻き込まれたくはないけど、攻められた時の事を考え戦う用意は以前からしている。その準備のため、このあと一、二週間は里で指示を出さないといけなくなる。
「その間、レイン達を守ってやってほしい。頼んだよ、ネイトス」
「了解しやした」
この町が直接戦争に巻き込まれる事はまだ無いと思う。でも兵士に脅されてどんな事態になるか分からないからね。ネイトスなら上手くやってくれるはずだ。
夕方、レインの家に戻ると、息子のレグン君が笑顔で出迎えてくれた。抱き上げてあやすと声を上げて喜ぶ。この子の笑顔は必ず守ってあげないといけないね。
レイン夫妻に事情を説明して、ネイトスを置いていくことを伝える。
「リビティナ、ありがとね。ネイトスが居れば心強いよ」
「もし戦争が始まって危なくなっても、逃げる事を優先してくれるかい」
「そうだね。レグンを守れるのはアタイ達だけだものね」
母親としての顔をレインは見せる。それでいいよ。
ネイトスに後は頼んだと言ってリビティナは夜空へと舞い上がり、眷属の里へと向かった。
――翌朝。
「エルフィ。エキソスの町の様子は君が見て来た事になっているんだから、しっかりと伝えてくれよ」
「分かってるわよ。リビティナから聞いたことはちゃんと頭に入っているわ」
日の出と共にエルフィには出発してもらう。今からなら、お昼と夕方の間頃には辺境伯の城に到着できるだろう。
「向こうで、宿泊させてもらってもいいのよね」
「手紙に書いておいたから大丈夫さ。お屋敷にはお風呂もあるし、美味しい料理も出してくれるはずだよ」
「それは楽しみね。じゃあ、早速行ってくるわね」
意気揚々と飛んでいくエルフィを見送り、朝食が済んだ頃に里のみんなに集まってもらう。
「近く帝国と王国の間で戦争が起こる可能性が高くなった。国境の近くで戦闘が起こった場合、この里も巻き込まれる危険がある」
「では、兵器の増産をしておいた方がいいだろうな」
「避難場所は、上流のダムでいいんですよね」
「戦闘訓練はいつからしましょうか」
戦争になった場合に備えて、里の者から意見が出る。基本的には通り過ぎるのを待つことになるけど、戦いの余波がどこまで及ぶか分からないからね。今のうちにできる事をしておかないと。
里のみんなは良く分かってくれている。みんながいればここを守り抜けられるさ。
八年前の事だけどギルドマスターのベラントスは、リビティナ達を覚えてくれてたみたいだね。この白い腕が余程印象に残ったのかな。
「あの時に起きた国境の一件で、王国には白子を治療できる先進医療施設があると噂になったしな」
そう言えば、鬼人族のエリーシアもそんな噂を聞いて、王国を頼り子供を連れて来たんだったね。
「ギルマス。少しこの周辺の軍の動きを教えてくれんか」
「それより、あんたらは王国の者なんだろ。よく国境を越えて入って来れたな」
「まあ、リビティナ様には裏のルートがあるからな。黄泉へ渡る覚悟が無いと通れん道だがな」
決死の覚悟でここまで来たと、悲壮な表情を浮かべるネイトス。いやいや、ちょっと空を飛んで来ただけだからね。
「最近じゃ俺達冒険者でさえ、国境を越えるのは難しくなっている。間もなく国境も封鎖されるだろう」
「国境付近に兵はまだ居なかったみたいだが」
「ここに駐留している軍が国境検問所へ移動する予定だ。それに代わりもっと大規模な軍隊がライダノス市からやってくる」
ライダノス市? 疑問に思っているとギルマスが、ここらを領地にしている帝国貴族が住む大きな都市だと説明してくれた。そこを拠点とし、今回の軍事行動が行われているそうだ。
「そうなれば、王国への侵攻も近いと言う事か……」
「昨夜、軍がどこからか襲撃を受けたらしい。軍の動きも早まるかもしれん」
「夜、襲撃? ……リビティナ様~」
ネイトスがジト目でこちらを見てくる。えっ、何の事だい。そんなの知らないよと何食わぬ顔で目を逸らす。そんなに睨まないでくれよ。ちょ~っと魔法を失敗しただけなんだから。
「それに今、冒険者達に傭兵にならないかと軍の方から求人が来ている」
「おや、冒険者ギルドは国の争いに関わらないんじゃないのかい」
ギルドは国家とは別の組織だ。こんな戦いの依頼は受けないと思うんだけど。
「国からの依頼じゃなく冒険者個人に対するリクルートだな。町が軍に囲まれて、通常の依頼が少なくなっていてな、そこに軍が高給で雇うと言ってくる。それになびく者もいると言う事だ」
ギルドと言えど、冒険者個人にまで制約を課す事はできないと言うわけだね。
「この町はどうなる」
「最前線の基地になるだろうな。補給物資や兵士の中継地となる。住民もそれに従事させられる事になる」
町の人口の数倍にも上る兵が押し寄せ、従事させられたら日常生活を送ることはできなくなる。国境を超える事も、他の町に行く事もできず、このエキソスの町は占領状態になるということか。
ギルドマスターもこの町の治安が悪くなるんじゃないかと、渋い顔で先々が不安だと言ってくる。
思っていたよりも、事態は進んでいるようだし、国境に近い眷属の里にも危害が及ぶ恐れがでてきた。辺境伯にも早く知らせた方がいいね。
情報をくれたギルドマスターにお礼を言ってギルドを後にする。
「ボクは今夜にでも里に戻って防備を固めるように伝えるよ。ネイトスはこの町に残ってくれるかい」
「辺境伯への報告は」
「エルフィを向かわせれば大丈夫さ。明日中には情報が伝わるからね」
あの隠れ里が見つかるとは思えないけど、武器の準備もしておこう。戦いに巻き込まれたくはないけど、攻められた時の事を考え戦う用意は以前からしている。その準備のため、このあと一、二週間は里で指示を出さないといけなくなる。
「その間、レイン達を守ってやってほしい。頼んだよ、ネイトス」
「了解しやした」
この町が直接戦争に巻き込まれる事はまだ無いと思う。でも兵士に脅されてどんな事態になるか分からないからね。ネイトスなら上手くやってくれるはずだ。
夕方、レインの家に戻ると、息子のレグン君が笑顔で出迎えてくれた。抱き上げてあやすと声を上げて喜ぶ。この子の笑顔は必ず守ってあげないといけないね。
レイン夫妻に事情を説明して、ネイトスを置いていくことを伝える。
「リビティナ、ありがとね。ネイトスが居れば心強いよ」
「もし戦争が始まって危なくなっても、逃げる事を優先してくれるかい」
「そうだね。レグンを守れるのはアタイ達だけだものね」
母親としての顔をレインは見せる。それでいいよ。
ネイトスに後は頼んだと言ってリビティナは夜空へと舞い上がり、眷属の里へと向かった。
――翌朝。
「エルフィ。エキソスの町の様子は君が見て来た事になっているんだから、しっかりと伝えてくれよ」
「分かってるわよ。リビティナから聞いたことはちゃんと頭に入っているわ」
日の出と共にエルフィには出発してもらう。今からなら、お昼と夕方の間頃には辺境伯の城に到着できるだろう。
「向こうで、宿泊させてもらってもいいのよね」
「手紙に書いておいたから大丈夫さ。お屋敷にはお風呂もあるし、美味しい料理も出してくれるはずだよ」
「それは楽しみね。じゃあ、早速行ってくるわね」
意気揚々と飛んでいくエルフィを見送り、朝食が済んだ頃に里のみんなに集まってもらう。
「近く帝国と王国の間で戦争が起こる可能性が高くなった。国境の近くで戦闘が起こった場合、この里も巻き込まれる危険がある」
「では、兵器の増産をしておいた方がいいだろうな」
「避難場所は、上流のダムでいいんですよね」
「戦闘訓練はいつからしましょうか」
戦争になった場合に備えて、里の者から意見が出る。基本的には通り過ぎるのを待つことになるけど、戦いの余波がどこまで及ぶか分からないからね。今のうちにできる事をしておかないと。
里のみんなは良く分かってくれている。みんながいればここを守り抜けられるさ。
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