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第5章 眷属の里
第12話 エキソスの町1
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「それじゃ国境まで飛ぼうか」
「あたしは、行かなくてもいいのよね。敵の軍隊のど真ん中に入るなんて、まっぴらだからね」
「君には君のできる事をしてくれたらいいさ。里の近くで降ろすよ」
ホッとしているエルフィを抱えて飛ぶ背中は、もう日暮れ時で真っ赤に染まる太陽がリビティナを追うように照らす。少し急ぐか。
「ネイトスはどうする? 里まで行って降ろそうか」
「いや、俺はリビティナ様に付いて行きますぜ。向こうで冒険者ギルドに行くなら、俺がいた方がいいでしょうし」
そうだね。ギルドや戦いの事についてはネイトスの方が詳しいからね。
里近くの上空でエルフィと別れて、国境へと急ぎ飛んで行く。もう陽も暮れ真っ暗闇の中、エキソスの町の上空に到着した。
この世界に月はない。夜になると真っ暗闇になるけど、リビティナにはこの満天の星明かりがあれば充分周辺が見て取れる。
町の周りにテントがいくつも張ってあって、そちらには篝火が見える。しかし町の中は明かりが一つもないね。この時間なら人が歩いていても不思議じゃないんだけど。
「ネイトス、ゆっくり降りるからね。声は出さないようにしてくれよ」
口を押さえ、うんうんと頷くネイトスを吊るしたまま、街中の人目に付かない場所へと降り立つ。
「レイン、居るかい。リビティナだよ」
「リビティナ! 来てくれたんだ。ありがとう」
扉をノックしてすぐにレインが顔を出してくれた。直接会うのは六年ぶりかな、結婚式に招待されて以来になるね。
「さあ、入って入って」というレインに引かれて部屋にお邪魔する。食堂には同じクマ族の旦那さんが座っていた。
「リビティナさん。前に出した手紙を見て来てくれたのか。心配をかけてしまったかな」
「まあ、それもあるけど、他の用事もあってね」
そう言いつつ、ネイトスと共に椅子に座らせてもらい、レインがお茶を用意してくれた。二人とも元気そうで安心したよ。
「町がやけに静かだが、周りの軍隊のせいか」
「ネイトス、ごめんね。こんな時に来てもらって。半月前から軍隊が駐留していて、アタイ達から食料やら日用品を接収しているんだよ」
元々小さな町だけど、無理やり軍隊に協力させられて活気がなくなり、みんな静かに過ごしているそうだ。
「レイン、駐留している部隊の中に鬼人族の兵士はいなかったかな?」
「アタイは見たことないよ。アンタは?」
「町中に入って来る兵士はこの国の兵士だが、行商で外に出た時色の違うテントを見たな。それが鬼人族かは分からないが」
旦那さんは商売人で、町の外へ出る事もある。もし鬼人族がいたとしても数が少ないだろうし、気付かないかもしれないね。
その色違いのテントを、リビティナ自身でしっかりと確認したほうがいいね。
「ネイトスはもう少し町や軍の様子を聞いておいてよ。ボクは町の外の様子をもう一度見てくるよ」
「分かりやした。お気を付けて」
今の時間ならテントに出入りする兵士がいるはず。空からそっと様子を覗おう。
地を蹴り一気に上空高くに飛び上がる。確かに大半が白のテント、その中に緑色のテントが数張り見える。あれが旦那さんの言ってたテントだね。でも指揮官のテントかも知れないし、誰か出て来てくれないかな。
そうだ、風魔法でテントを揺すったら外に出て来てくれるかな。上空から緑色のテントだけを狙って風を送る。
うわっ、しまった。ちょっと強すぎてテントが二つも倒壊しちゃったよ。周りのテントからも何事かと兵士が集まって来た。
ごめんよ~、そんなつもりは無かったんだよ~。
槍を持てだの魔術師部隊を呼んで来いだのと、凄い騒ぎになっちゃったよ。
――こ、これぐらいの風で倒れちゃうような設営をした君達が悪いんだからね。ボクは知らないよ~。
騒ぎを後ろに聞きながら、町へ飛んで帰っていく。
でもこれで鬼人族の兵士がいる事が分かったよ。二十人ぐらいが入れる大型のテントが百張り以上、整然と並んで町を取り囲んでいる。
この町の人口と同じぐらいの兵が駐留しているようだね。その中に緑のテントが七張りか。どうも本気で攻め込む部隊のようだね。
「リビティナ様。どうでしたか」
「鬼人族の兵士が百人以上いたよ」
「すると、この部隊が国境を越えると……」
「多分そうだろうね。まあ今日のところは夜も遅いし、ここに泊まらせてもらって明日また調査しようよ」
翌朝、朝食ができたと呼ばれて食堂に行くと、クマ族の子供がちょこんと椅子に座っていた。レインの子供はまだ四歳の男の子。昨日は夜中に来たから眠っていて顔を見れなかった。
「おはよう、レグン。ボクの事は知っているかな」
仮面をつけた見慣れない人に戸惑ったのか、隣にいるお母さんのレインにしがみついて顔を見上げている。
「ほら、前にお話ししたでしょう。隣の国にいる正義の味方よ」
「正義の味方? ああっ、仮面のお姉ちゃん」
「仮面のお姉ちゃんか、それはいいね。どうだい仮面に触ってみるかい」
そう言うと、嬉しそうにペタペタと触ってくる。赤茶色の髪はレインと同じ天然パーマでクルクルとカールしている。グリーンの目はお父さん似かな。頭の上の丸い耳がすごく可愛いや。その子を抱き上げて高い高いしてあげると、キャッキャッと喜んでくれる。
一緒に朝食をごちそうになったけど、新鮮なお肉や野菜は手に入りにくいらしい。強奪するように兵士が接収していくため、商店が店を閉ざしているそうだ。
「うちも余所の町から仕入れた商品を、城門の所で戦時中の税金だと言って接収されてね。まともな商売ができないんだよ」
いつのも三倍以上の税率になってしまい、今は行商にも行っていないと言う。
ネイトスと外を歩いてみたけど、町の所々で兵士の姿を見かけるね。商店から食料なのか、まだ開封されていない木の箱を持ち出し城門に向かう兵士もいる。
「冒険者ギルドに行って、現状を聞きやしょう」
そう言うネイトスがギルドの窓口でカードを見せると、すぐにギルマスが会ってくれることになった。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】を更新しています。
小説の参考になさってください。
タイトル
【設定集】転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
設定・地図(第5章 12話以降)
「あたしは、行かなくてもいいのよね。敵の軍隊のど真ん中に入るなんて、まっぴらだからね」
「君には君のできる事をしてくれたらいいさ。里の近くで降ろすよ」
ホッとしているエルフィを抱えて飛ぶ背中は、もう日暮れ時で真っ赤に染まる太陽がリビティナを追うように照らす。少し急ぐか。
「ネイトスはどうする? 里まで行って降ろそうか」
「いや、俺はリビティナ様に付いて行きますぜ。向こうで冒険者ギルドに行くなら、俺がいた方がいいでしょうし」
そうだね。ギルドや戦いの事についてはネイトスの方が詳しいからね。
里近くの上空でエルフィと別れて、国境へと急ぎ飛んで行く。もう陽も暮れ真っ暗闇の中、エキソスの町の上空に到着した。
この世界に月はない。夜になると真っ暗闇になるけど、リビティナにはこの満天の星明かりがあれば充分周辺が見て取れる。
町の周りにテントがいくつも張ってあって、そちらには篝火が見える。しかし町の中は明かりが一つもないね。この時間なら人が歩いていても不思議じゃないんだけど。
「ネイトス、ゆっくり降りるからね。声は出さないようにしてくれよ」
口を押さえ、うんうんと頷くネイトスを吊るしたまま、街中の人目に付かない場所へと降り立つ。
「レイン、居るかい。リビティナだよ」
「リビティナ! 来てくれたんだ。ありがとう」
扉をノックしてすぐにレインが顔を出してくれた。直接会うのは六年ぶりかな、結婚式に招待されて以来になるね。
「さあ、入って入って」というレインに引かれて部屋にお邪魔する。食堂には同じクマ族の旦那さんが座っていた。
「リビティナさん。前に出した手紙を見て来てくれたのか。心配をかけてしまったかな」
「まあ、それもあるけど、他の用事もあってね」
そう言いつつ、ネイトスと共に椅子に座らせてもらい、レインがお茶を用意してくれた。二人とも元気そうで安心したよ。
「町がやけに静かだが、周りの軍隊のせいか」
「ネイトス、ごめんね。こんな時に来てもらって。半月前から軍隊が駐留していて、アタイ達から食料やら日用品を接収しているんだよ」
元々小さな町だけど、無理やり軍隊に協力させられて活気がなくなり、みんな静かに過ごしているそうだ。
「レイン、駐留している部隊の中に鬼人族の兵士はいなかったかな?」
「アタイは見たことないよ。アンタは?」
「町中に入って来る兵士はこの国の兵士だが、行商で外に出た時色の違うテントを見たな。それが鬼人族かは分からないが」
旦那さんは商売人で、町の外へ出る事もある。もし鬼人族がいたとしても数が少ないだろうし、気付かないかもしれないね。
その色違いのテントを、リビティナ自身でしっかりと確認したほうがいいね。
「ネイトスはもう少し町や軍の様子を聞いておいてよ。ボクは町の外の様子をもう一度見てくるよ」
「分かりやした。お気を付けて」
今の時間ならテントに出入りする兵士がいるはず。空からそっと様子を覗おう。
地を蹴り一気に上空高くに飛び上がる。確かに大半が白のテント、その中に緑色のテントが数張り見える。あれが旦那さんの言ってたテントだね。でも指揮官のテントかも知れないし、誰か出て来てくれないかな。
そうだ、風魔法でテントを揺すったら外に出て来てくれるかな。上空から緑色のテントだけを狙って風を送る。
うわっ、しまった。ちょっと強すぎてテントが二つも倒壊しちゃったよ。周りのテントからも何事かと兵士が集まって来た。
ごめんよ~、そんなつもりは無かったんだよ~。
槍を持てだの魔術師部隊を呼んで来いだのと、凄い騒ぎになっちゃったよ。
――こ、これぐらいの風で倒れちゃうような設営をした君達が悪いんだからね。ボクは知らないよ~。
騒ぎを後ろに聞きながら、町へ飛んで帰っていく。
でもこれで鬼人族の兵士がいる事が分かったよ。二十人ぐらいが入れる大型のテントが百張り以上、整然と並んで町を取り囲んでいる。
この町の人口と同じぐらいの兵が駐留しているようだね。その中に緑のテントが七張りか。どうも本気で攻め込む部隊のようだね。
「リビティナ様。どうでしたか」
「鬼人族の兵士が百人以上いたよ」
「すると、この部隊が国境を越えると……」
「多分そうだろうね。まあ今日のところは夜も遅いし、ここに泊まらせてもらって明日また調査しようよ」
翌朝、朝食ができたと呼ばれて食堂に行くと、クマ族の子供がちょこんと椅子に座っていた。レインの子供はまだ四歳の男の子。昨日は夜中に来たから眠っていて顔を見れなかった。
「おはよう、レグン。ボクの事は知っているかな」
仮面をつけた見慣れない人に戸惑ったのか、隣にいるお母さんのレインにしがみついて顔を見上げている。
「ほら、前にお話ししたでしょう。隣の国にいる正義の味方よ」
「正義の味方? ああっ、仮面のお姉ちゃん」
「仮面のお姉ちゃんか、それはいいね。どうだい仮面に触ってみるかい」
そう言うと、嬉しそうにペタペタと触ってくる。赤茶色の髪はレインと同じ天然パーマでクルクルとカールしている。グリーンの目はお父さん似かな。頭の上の丸い耳がすごく可愛いや。その子を抱き上げて高い高いしてあげると、キャッキャッと喜んでくれる。
一緒に朝食をごちそうになったけど、新鮮なお肉や野菜は手に入りにくいらしい。強奪するように兵士が接収していくため、商店が店を閉ざしているそうだ。
「うちも余所の町から仕入れた商品を、城門の所で戦時中の税金だと言って接収されてね。まともな商売ができないんだよ」
いつのも三倍以上の税率になってしまい、今は行商にも行っていないと言う。
ネイトスと外を歩いてみたけど、町の所々で兵士の姿を見かけるね。商店から食料なのか、まだ開封されていない木の箱を持ち出し城門に向かう兵士もいる。
「冒険者ギルドに行って、現状を聞きやしょう」
そう言うネイトスがギルドの窓口でカードを見せると、すぐにギルマスが会ってくれることになった。
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【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】を更新しています。
小説の参考になさってください。
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【設定集】転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
設定・地図(第5章 12話以降)
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