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第5章 眷属の里
第10話 ノルキア帝国の侵攻1
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「どう言う事だい、ネイトス。辺境伯のお城に至急来てほしいと言うのは」
「レインから届いた手紙によると、帝国国境の町に大規模な軍隊が来たようですぜ」
ノルキア帝国で暮らすレインには、帝国内で白子になった子供がいないか探してもらっているけど、帝国内の状況などを連絡してくることもある。レインの住む町に軍が集結しているとは、穏やかではないね。
「確か去年の暮れにも、国境付近に軍を集めて演習をしていたね」
きな臭い動きをしているから注意するようにと、辺境伯から情報が入っていた。レインの事も気にかかるし、一度ハウランド伯爵の城に行って話を聞いてみるか。
「ねえ、リビティナ。あたしも連れて行ってくれないかな。たぶん帝国の裏にはキノノサト国が絡んでいると思うのよね」
エルフィが少しでも役に立ちたいと言ってくる。ノルキア帝国のバックに、鬼人族の存在があるのは周知の事実。妖精族の国は鬼人族と国交があるから、キノノサト国の詳しい事情は知っていると言う。
「この里にも、キノノサト国に詳しい人が居てね」
「そう言えば、警備隊にいつも無口な鬼人族の人がいたわね」
元鬼人族で眷属になってくれた人の家に、ネイトスとエルフィも連れて行って話を聞いてみようかな。
その人は鬼人族の護衛二人を引き連れ、白子になった自分の子供を助けてほしいとこの里に来た母子。
「エリーシア、帝国の軍が動いているそうなんだ。故郷の国の事を少し聞きたいんだけど」
「軍の事でしたら、ベルケスに聞くのが一番ですわ。ミツキナ、ベルケスを呼んできてくれないかしら」
「はい、承知しました」
一緒に住んでいる側仕えの女性が玄関へと向かった。
「ミノエル君は元気にしているかい。一昨日風邪を引いたと言っていたけど」
「お陰様で、もう大丈夫ですわ。今日は元気に学校に行きましたのよ」
白子で病弱だったミノエル君も、この里に来て六年。元気に育ちもう九歳になる。余所の家の子供ではあるけど、その成長を見れるのは楽しいものだね。
「姫、御用がおありだとか」
「リビティナ様に軍の事について、お話をしてあげてくれますか」
エリーシアの事を姫と聞いて、エルフィが小声で聞いてくる。
「姫って、キノノサト国の姫様なの。なんでこんな所に居るのよ」
「エリーシアは今の大将軍の長男、その人の第二夫人だったんだよ。ミノエル君が白子になって、王国を頼ってここに来たんだ」
「昔、姫様が失踪したって聞いたけど、この人だったのね」
「エルフィ殿、失礼であるぞ。エリーシア姫の前で」
「いいのよ、ベルケス。ここではわたくしも眷属の一人ですもの。エルフィさんもそんなに畏まらなくてもいいのよ」
まあ、そうは言っても元姫様。第二夫人とは言え名家の出、それなりの威厳があるからね。この王国では珍しい黒い瞳に腰まである黒髪。立ち居振る舞いも上流階級の人そのものだしね。
「リビティナ殿、軍の事と言われましても、機密事項を漏らすわけにはいきません。我らは姫に仕える者。眷属ではありませんからな」
「ベルケスさんよ。とはいえ、この里が危なくなればその姫様も危険に陥る事になる。ある程度は話してもらわんと、あんたも職務が果たせなくなるぜ」
この護衛の鬼人族と話すといつもこうなるね。頭が固く、この里に来ても日本刀のような刀と古風な鎧と兜を愛用し、王国の武器に持ち替える事もない。この里でも鎧の修理程度はできるけど、日本刀はわざわざ帝国の鍛冶屋に依頼して修理している。
「ねえ、リビティナ。この人達眷属じゃないのに、なんで警備隊の仕事してんの」
「我が姫様を助けていただき、この里に住まわせていただいておる。その恩義には報いねばならんからな」
眷属でもないのにこの里に居付いているのは、エルフィも一緒だよね。
「ベルケスも肩ひじ張らなくてもいいんだよ。エリーシアは十分里のために働いてくれているんだからね」
エリーシアは元姫様で、農業をしたり工場で働くなどはできない。それを気にしてベルケス達二人は警備隊に入って、里のため常日頃働いてくれている。
でも、そんなことしなくてもエリーシアは、本の複製や機械式の織り機の開発に尽力してくれて、里の役に立ってくれているんだよ。
「ベルケスはエリーシアの事だけを考えてくれたらいいよ。もしここが危険になれば、エリーシアを連れて逃げてくれていいからね」
「リビティナ殿、かたじけない」
今の帝国の動きについて説明し、キノノサト国がどう動こうとしているか意見を聞いた。
「もし本気でこの王国を攻めるならば、ノルキア帝国に援軍を送った上で攻めるでしょうな」
「単なる訓練や陽動ならキノノサト軍の者はいないと言う事かな」
「全くの陽動であれば、キノノサト軍のみで行く場合もあろうな。その分、他の部隊に兵を回せるからな」
大きな軍事作戦は、帝国とキノノサト両国で協議され決まるそうだ。帝国に影響力を持つキノノサト国は主導権を握りつつも、自国に損害を与えないように常に考えていると言う。
「国境付近の軍にどれだけ鬼人族の部隊がいるかで、その本気度が分かりますが……他国ですので難しいかと」
こんな時期に、国境を越えてノルキア帝国に入る事はできないだろうね。まあ普通の人は、だけどね。
「よく分かったよ。ありがとう」
そう言って立ち上がろうとすると、午前中で学校を終えたミノエル君が帰って来たようだ。「ただいま」と玄関から元気のいい声が聞こえてくる。
「あっ、リビティナ様。いらっしゃい」
「ミノエル君。今日の学校は楽しかったかい」
「うん、ルルーチアお姉ちゃんと一緒にお絵描きしたんだ。母様。これ母様の絵を描いたんだよ」
「まあ、よく描けているわね。ありがとうミノエル」
そこには一国の姫ではなく、母親としての笑顔があった。
リビティナはこの親子の幸せな暮らしがいつまでも続いてほしいと願う。
国や宗教、種族など関係なく平和に眷属達が暮らす里。ここを守る事がリビティナの務めなんだと改めて感じる。
「レインから届いた手紙によると、帝国国境の町に大規模な軍隊が来たようですぜ」
ノルキア帝国で暮らすレインには、帝国内で白子になった子供がいないか探してもらっているけど、帝国内の状況などを連絡してくることもある。レインの住む町に軍が集結しているとは、穏やかではないね。
「確か去年の暮れにも、国境付近に軍を集めて演習をしていたね」
きな臭い動きをしているから注意するようにと、辺境伯から情報が入っていた。レインの事も気にかかるし、一度ハウランド伯爵の城に行って話を聞いてみるか。
「ねえ、リビティナ。あたしも連れて行ってくれないかな。たぶん帝国の裏にはキノノサト国が絡んでいると思うのよね」
エルフィが少しでも役に立ちたいと言ってくる。ノルキア帝国のバックに、鬼人族の存在があるのは周知の事実。妖精族の国は鬼人族と国交があるから、キノノサト国の詳しい事情は知っていると言う。
「この里にも、キノノサト国に詳しい人が居てね」
「そう言えば、警備隊にいつも無口な鬼人族の人がいたわね」
元鬼人族で眷属になってくれた人の家に、ネイトスとエルフィも連れて行って話を聞いてみようかな。
その人は鬼人族の護衛二人を引き連れ、白子になった自分の子供を助けてほしいとこの里に来た母子。
「エリーシア、帝国の軍が動いているそうなんだ。故郷の国の事を少し聞きたいんだけど」
「軍の事でしたら、ベルケスに聞くのが一番ですわ。ミツキナ、ベルケスを呼んできてくれないかしら」
「はい、承知しました」
一緒に住んでいる側仕えの女性が玄関へと向かった。
「ミノエル君は元気にしているかい。一昨日風邪を引いたと言っていたけど」
「お陰様で、もう大丈夫ですわ。今日は元気に学校に行きましたのよ」
白子で病弱だったミノエル君も、この里に来て六年。元気に育ちもう九歳になる。余所の家の子供ではあるけど、その成長を見れるのは楽しいものだね。
「姫、御用がおありだとか」
「リビティナ様に軍の事について、お話をしてあげてくれますか」
エリーシアの事を姫と聞いて、エルフィが小声で聞いてくる。
「姫って、キノノサト国の姫様なの。なんでこんな所に居るのよ」
「エリーシアは今の大将軍の長男、その人の第二夫人だったんだよ。ミノエル君が白子になって、王国を頼ってここに来たんだ」
「昔、姫様が失踪したって聞いたけど、この人だったのね」
「エルフィ殿、失礼であるぞ。エリーシア姫の前で」
「いいのよ、ベルケス。ここではわたくしも眷属の一人ですもの。エルフィさんもそんなに畏まらなくてもいいのよ」
まあ、そうは言っても元姫様。第二夫人とは言え名家の出、それなりの威厳があるからね。この王国では珍しい黒い瞳に腰まである黒髪。立ち居振る舞いも上流階級の人そのものだしね。
「リビティナ殿、軍の事と言われましても、機密事項を漏らすわけにはいきません。我らは姫に仕える者。眷属ではありませんからな」
「ベルケスさんよ。とはいえ、この里が危なくなればその姫様も危険に陥る事になる。ある程度は話してもらわんと、あんたも職務が果たせなくなるぜ」
この護衛の鬼人族と話すといつもこうなるね。頭が固く、この里に来ても日本刀のような刀と古風な鎧と兜を愛用し、王国の武器に持ち替える事もない。この里でも鎧の修理程度はできるけど、日本刀はわざわざ帝国の鍛冶屋に依頼して修理している。
「ねえ、リビティナ。この人達眷属じゃないのに、なんで警備隊の仕事してんの」
「我が姫様を助けていただき、この里に住まわせていただいておる。その恩義には報いねばならんからな」
眷属でもないのにこの里に居付いているのは、エルフィも一緒だよね。
「ベルケスも肩ひじ張らなくてもいいんだよ。エリーシアは十分里のために働いてくれているんだからね」
エリーシアは元姫様で、農業をしたり工場で働くなどはできない。それを気にしてベルケス達二人は警備隊に入って、里のため常日頃働いてくれている。
でも、そんなことしなくてもエリーシアは、本の複製や機械式の織り機の開発に尽力してくれて、里の役に立ってくれているんだよ。
「ベルケスはエリーシアの事だけを考えてくれたらいいよ。もしここが危険になれば、エリーシアを連れて逃げてくれていいからね」
「リビティナ殿、かたじけない」
今の帝国の動きについて説明し、キノノサト国がどう動こうとしているか意見を聞いた。
「もし本気でこの王国を攻めるならば、ノルキア帝国に援軍を送った上で攻めるでしょうな」
「単なる訓練や陽動ならキノノサト軍の者はいないと言う事かな」
「全くの陽動であれば、キノノサト軍のみで行く場合もあろうな。その分、他の部隊に兵を回せるからな」
大きな軍事作戦は、帝国とキノノサト両国で協議され決まるそうだ。帝国に影響力を持つキノノサト国は主導権を握りつつも、自国に損害を与えないように常に考えていると言う。
「国境付近の軍にどれだけ鬼人族の部隊がいるかで、その本気度が分かりますが……他国ですので難しいかと」
こんな時期に、国境を越えてノルキア帝国に入る事はできないだろうね。まあ普通の人は、だけどね。
「よく分かったよ。ありがとう」
そう言って立ち上がろうとすると、午前中で学校を終えたミノエル君が帰って来たようだ。「ただいま」と玄関から元気のいい声が聞こえてくる。
「あっ、リビティナ様。いらっしゃい」
「ミノエル君。今日の学校は楽しかったかい」
「うん、ルルーチアお姉ちゃんと一緒にお絵描きしたんだ。母様。これ母様の絵を描いたんだよ」
「まあ、よく描けているわね。ありがとうミノエル」
そこには一国の姫ではなく、母親としての笑顔があった。
リビティナはこの親子の幸せな暮らしがいつまでも続いてほしいと願う。
国や宗教、種族など関係なく平和に眷属達が暮らす里。ここを守る事がリビティナの務めなんだと改めて感じる。
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