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第5章 眷属の里

第6話 眷属の里6

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 工場を離れて、今度はフィフィロ達が通う学校に行ってみよう。ここは成人前の子供達が通い勉強している。

「あ~、リビティナ様だ~。いらっしゃい」

 学校の教室に行くと、小さな子供達が集まって来た。

「みんなちゃんと勉強しているかい」
「は~い」
「みんな偉いね。セリアーヌ夫人、明日からここに通うフィフィロ君達を連れて来たよ」
「こ、この人は……」

 ここの先生をしているセリアーヌ夫人は、今朝広場でフィフィロと一悶着あった元リザードマン族長の奥さんだ。夫人を見て気後れしたのか、教室の中に入ってこようとしない。
 セリアーヌ夫人が入り口に立つフィフィロに近づき、中腰になって挨拶する。

「よろしくね。フィフィロ君」
「勉強してもらうとは言うけど、フィフィロ君は既に文字の読み書きができるそうだ。この里の事を教えてやってくれるかな」
「分かりました、リビティナ様。それなら最年長のジェーンに色々と聞くのがいいわね」
「そう言えばジェーンももうすぐ十五歳、成人だね。歳も近いし同じ白子になった子供だ、その方が話やすいだろうね」

 セリアーヌ夫人がジェーンを呼んで紹介する。

「君は白子だったの?」
「ええ、そうよ。もう八年も前の事だけどね。この里がまだ森だった頃からここに居るから、里の事なら何でも聞いてね」

 フィフィロは魔法が使えるから警備隊に入ってもらおうと思ってたけど、その前にここで里の人達と仲良くなってもらうのが先だね。

 フィフィロ達を学校に送り届け、次はどこを案内しようかと道を歩いていると、エルフィが後ろから少し緊張した声で話し掛けてきた。

「ねえ、リビティナ。ここに大陸の地図ってあるのかしら」

 地図を見ればその国の技術力が分かると言われてるからね。この里の技術の一端を目の当たりにしたエルフィは、妖精族の知識と比べようとしているのかな。

「ボクの家にも置いてあるけど、図書館の方が近いね。ほらあそこの細長い建物だよ」

 洞窟にあった書物を複製して、この里の一つの建物に集めている。誰でも見れるようにしているから図書館って呼んでいるけど、エルフィはピンと来ていないようだね。

「あれ、ここは靴を脱がなくてもいいの?」
「ああ、公共施設だからね」
「公共? 寄り合い所と言う事かしら。だから広い空間にテーブルと椅子が置いてあるのね」

 四人掛けのテーブルと椅子がふた組。トイレと洗面所も設置してある。
 で、エルフィが見たいと言う地図はこっちの棚だね。

「うわっ! 何、この本の数は! 棚いっぱいに本があるわよ。こっちの棚にも」
「そりゃ、図書館だからね。色んな種類の本が置いてあるさ」
「長老様が自慢していた秘蔵の書庫の何倍もあるわよ。いったいどこから持ってきたのよ」

 本の複製のために洞窟とここを何度も往復して苦労したんだからね。やっと全ての本の複製が終わったばかりだよ。地図はよく使うから、三冊複製してある。ここに納めている一冊を取り出してテーブルに持って行く。

「やっぱり、あたしが知っている地図とは違うわね。この地図は正確なのかしら」

 地図の最初のページ、大陸全体を見て疑問を持つのも当然かな。歪なダイヤモンドのような形の大陸。その半分位は未開の地だからね。エルフィの知っている大陸は四角いと言っていたから、西半分の部分だけなんだろうね。

「ほらこっちのページに詳細の地図があるんだ。ボクは行ったことが無いけど、ここは妖精族の港町じゃないかな」

 前に住んでいたマウネル山の北側、妖精族の国にある港町。その辺りの地図を開ける。

「確かにネイズンの港町の近くが描かれているわ。この東側が次のページに描かれているのね」

 詳細な地図をめくりながら次々に見ていく。

「あたしが生まれた村もちゃんと載っているわ」

 さすがに村近くの森や小川など、細かな場所までは描かれていないそうだけどその正確さには驚いていた。でも少し古い地図なのか新しい町や街道は違う所もあるようだ。妖精族の国は行ったことがなくて、修正してないから仕方ないね。

「ところでエルフィは、ドラゴンがどこに住んでいるのか知っているかい」
「ドラゴン? 二百年ほど前に目撃された事はあるそうだけど、棲家すみかまでは分からないわね」

 物知りの妖精族でも知らないのか。ヴァンパイアにとっても強敵となるドラゴン。その居場所が分かればと思ったんだけどダメか。

「あんたまさか、ドラゴンと戦いたいなんて思ってんじゃないでしょうね」
「倒せなくはないらしいんだけど、知らずに縄張りに入っちゃったら困るな~と」
「バカじゃないの! ドラゴンが倒せるわけないじゃない。神様にも匹敵する力を持つと言う種族なのよ」

 いや、いや、勇者じゃあるまいし無謀な戦いをしたい訳じゃないよ。ただ危険を回避したいだけなんだよね。

「リビティナ様、こんな所にいたんですね。すいません、森の主が暴れているようです。こちらに来てやってくれませんか」

 図書館の扉を開けて、慌てたようにネイトスが入って来た。森の主というとベヒーモスだね。

 ベヒーモスは牛の巨大魔獣。草食性で魔法は使ってこないけど、魔力を巨大化に使い、背丈は八メートルを超す巨大な体となっている。二本の黒くて長い角を持ち、身の引き締まった闘牛の牛やバッファローを巨大化させた感じだ。

 群れで暮らす大人しい魔獣のはずなんだけどね。ネイトスに言われ、里の東側にある物見やぐらへと飛んでいく。

「リビティナ様。ここより東方、距離は遠いのですが土煙が上がっています」

 やぐらで警戒に当たってくれているリザードマンのキアーラから報告を受ける。やぐらに設置している大型の双眼鏡をのぞくと確かにベヒーモスだね。でも単独行動をしているし、いつもと違い様子がおかしい。

「これは、ボクが現地に行ったほうがいいみたいだね」

 リビティナはやぐらから飛び立ち、東へと向かった。
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