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第5章 眷属の里
第1話 眷属の里1
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「さあ、みんな。ここが眷属の里だよ」
長かった馬車の旅も終わり、やっと到着した眷属の里。フィフィロ達と一緒に歩き里を案内してるけど、珍しさからかエルフィまでもキョロキョロと辺りを見回しているね。
「オレが思っていたのより、ずっと広い所なんですね」
「お兄ちゃん、あそこに白子の人が歩いているわ。ほら、あっちにも」
「ねえ、ねえ。あの丸太で組まれた背の高い建物は一体何なのよ」
ここはアルメイヤ王国の北東部に位置する場所。人里からは離れていて、誰にも知られていない隠れ里になっている。
他国との国境に近く、東にはノルキア帝国、それと北の山を越えた先には妖精族のミシュロム共和国がある。
「ねえ、リビティナ。あの変わった形の塔に行ってみましょうよ」
「エルフィ、いい所に目を付けたね。あれはこの里の給水塔なんだよ」
「給水塔? 何それ」
ボクが苦労して作った設備さ。
「この里には、水道を張り巡らせていてね。その水をあの上のタンクに入れているんだ」
「溜め水? なんであんな高い所にあるのよ」
「いや、だからね。水道を引くためにはその水圧が必要で、高い位置に水を置かないとダメだろう」
「よく、分からないわね」
え~、分からないの! 川から引いた水を浄水して、電動ポンプでこの上まで水を汲み上げてるんだよ。このポンプ作るのにすごく苦労したんだからね。その苦労を分かってもらえないかな~。
「でも見たこともない面白い形の塔だわ。この形は好きよ」
曲線を描いた四本の木の柱、その上にある円筒形のタンク。白いペンキを塗っていて高さは十五メートルほど、見た目の美しさも考えて作った給水塔なんだ。
中央に水を送る鉄の配水管が二本立ち上がっていて、上部タンクのすぐ下には点検のための足場と、金属の梯子を取り付けている。
物知りで有名な妖精族のエルフィでも知らない、この世界のどこを探しても無い設備のはずだよ。
「そうだルルーチアちゃん。この塔の上に登ってみないかい。里の様子が見て取れるよ」
「えー、でもなんだか怖いです」
「フィフィロ君と一緒なら怖くないだろう」
「そうですね。オレは登ってみたいな」
梯子を登らなくても、子供二人なら展望台のようになっている点検用足場まで抱えて飛んで行ける。エルフィには自分で飛んで上に行ってもらおう。
「ほら、あそこが浄水場で、その周りに農地が広がっている。こっちは鉄なんかを作っている工房があるんだ」
どうだい、いい景色だろう。ここからなら里全体が見渡せる。八年かけて造ってきた自慢の里。川の上流には小さなダムを作って、水力発電もしている。この世界には無い施設が満載の眷属だけの里さ。
「リビティナ。里の周りは低い土の壁で石の城壁じゃないみたいだけど、魔獣とか大丈夫なの?」
「壁の上には木の柵もあるし、外側は掘りになっているからね。普通の魔獣は入って来れないさ」
「こんな森の真ん中だったら大型の魔獣もいるでしょう」
「周辺の魔獣達にはここはボクの里だから、入って来ないでねって言ってるよ」
「言ってるって……そんなので魔獣が襲ってこないはずないでしょう」
そんなことは無いさ、この周辺の魔獣はここが強き者のテリトリーだって分かってもらっているからね。この森の主にも話は通してあるし。
「ほら、あの辺りに家が並んでいるのが見えるかい。フィフィロ君達の家もあそこにちゃんと用意しているからね」
住宅が建ち並ぶ場所を指差す。ここに連れてくる白子の子供と親のために用意した家で、三人住むことができる広さがある。
「二人には、今、空家になっている所に入ってもらうよ。少し掃除すれば、すぐにでも住めるからね」
「今日からそこで、お兄ちゃんと一緒に暮らしてもいいんですよね」
「勿論さ。じゃあ先に君達の新しい家に行こうか」
自分達の家があると聞いてフィフィロとルルーチアは目を輝かせる。そんな二人を抱きかかえて塔から飛び立ち、その後ろをエルフィが飛んで付いてくる。
「お~い、リビティナ様。こっちに来てくれませんか~」
おや、地上を見るとネイトスが荷車を引きながらこちらに手を振っている。
「今、フィフィロ達の家に行くところなんですよ。食器などの生活用品に食い物ももらってます」
「ネイトスさん、ありがとうございます。オレが荷車を引いていきます」
「私も。お兄ちゃん、早く新しい家に行こうよ」
二人は喜び勇んで荷車を引いていく。自分達の居場所があると言うのはいいものだからね。早くこの里に馴染んでもらいたいものだ。
「それじゃ、二人の事は頼んだよ、ネイトス」
「へい、分かりやした」
「エルフィも長旅から帰ってきたばっかりだし、今日のところはボクの家に泊まってゆっくりしてくれるかい」
陽が沈むにはまだ早いけど、家に帰ってゆっくりしよう。今回はいろんな場所を回って長旅になってしまって疲れちゃったよ。
やっとこの里に帰りついてホッとする。ここは他の町との交流もないし引き籠るには……いやスローライフを送るには、この眷属の里が一番だね。
ずっと馬車の旅でお風呂にも入れなかったし、早く家に帰ってお風呂に入りたいよ。
「えっ、家にお風呂があるの! あれって王国の貴族の屋敷にしかないって聞いたわよ」
「ボクの家……いいや、この里のどの家にもお風呂はあるよ」
「妖精族は水浴びしかしないけど、あたしお風呂って少し興味があるのよね。早くあなたの家に行きましょうよ」
ナームの村を出て二週間、落ち込んでいたエルフィも元気になってくれた。この里の事にも興味を持ってくれたみたいだし、もしかしたら眷属になってくれるかもしれないね。
「えっ、あたし? あたしは眷属にならないわよ。だって眷属になったらこの綺麗な羽が無くなっちゃうんでしょう。空も飛べなくなるし、そんなの嫌だわ」
そうあっさりと返答するエルフィ。なんだ、がっかりだよ。
「さあ、ここがボクの家だよ」
「お屋敷みたいに広い家なのね。ねえ、お風呂ってどんな所なの」
「ああっ、こらこら。靴を履いたまま中に入っちゃダメだよ」
靴のまま入ろうとするエルフィに注意する。とは言え、この王国でも玄関で靴を脱ぐ人はいない。他国でも一般的じゃないらしい。前の世界でも家の中で靴を脱ぐ習慣のあった国は少なかったしね。
聞くところによると鬼人族の上流階級だけは玄関で靴を脱ぐ習慣があるそうだ。
でもここはボクが作った眷属の里だからね。靴を脱ぐ習慣づけをみんなにもしてもらっている。
「何だか面倒ね。ここで裸足になるの?」
「裸足でもいいけど、このスリッパを使ってくれるかい」
最初は慣れないかもしれないけど、清潔だしこっちの方が家の中でリラックスできるからね。今では里の人も家では靴を履かない方がいいって言ってくれているしね。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】を更新しています。
小説の参考になさってください。
タイトル
【設定集】転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
設定・地図(第5章 1話以降)
長かった馬車の旅も終わり、やっと到着した眷属の里。フィフィロ達と一緒に歩き里を案内してるけど、珍しさからかエルフィまでもキョロキョロと辺りを見回しているね。
「オレが思っていたのより、ずっと広い所なんですね」
「お兄ちゃん、あそこに白子の人が歩いているわ。ほら、あっちにも」
「ねえ、ねえ。あの丸太で組まれた背の高い建物は一体何なのよ」
ここはアルメイヤ王国の北東部に位置する場所。人里からは離れていて、誰にも知られていない隠れ里になっている。
他国との国境に近く、東にはノルキア帝国、それと北の山を越えた先には妖精族のミシュロム共和国がある。
「ねえ、リビティナ。あの変わった形の塔に行ってみましょうよ」
「エルフィ、いい所に目を付けたね。あれはこの里の給水塔なんだよ」
「給水塔? 何それ」
ボクが苦労して作った設備さ。
「この里には、水道を張り巡らせていてね。その水をあの上のタンクに入れているんだ」
「溜め水? なんであんな高い所にあるのよ」
「いや、だからね。水道を引くためにはその水圧が必要で、高い位置に水を置かないとダメだろう」
「よく、分からないわね」
え~、分からないの! 川から引いた水を浄水して、電動ポンプでこの上まで水を汲み上げてるんだよ。このポンプ作るのにすごく苦労したんだからね。その苦労を分かってもらえないかな~。
「でも見たこともない面白い形の塔だわ。この形は好きよ」
曲線を描いた四本の木の柱、その上にある円筒形のタンク。白いペンキを塗っていて高さは十五メートルほど、見た目の美しさも考えて作った給水塔なんだ。
中央に水を送る鉄の配水管が二本立ち上がっていて、上部タンクのすぐ下には点検のための足場と、金属の梯子を取り付けている。
物知りで有名な妖精族のエルフィでも知らない、この世界のどこを探しても無い設備のはずだよ。
「そうだルルーチアちゃん。この塔の上に登ってみないかい。里の様子が見て取れるよ」
「えー、でもなんだか怖いです」
「フィフィロ君と一緒なら怖くないだろう」
「そうですね。オレは登ってみたいな」
梯子を登らなくても、子供二人なら展望台のようになっている点検用足場まで抱えて飛んで行ける。エルフィには自分で飛んで上に行ってもらおう。
「ほら、あそこが浄水場で、その周りに農地が広がっている。こっちは鉄なんかを作っている工房があるんだ」
どうだい、いい景色だろう。ここからなら里全体が見渡せる。八年かけて造ってきた自慢の里。川の上流には小さなダムを作って、水力発電もしている。この世界には無い施設が満載の眷属だけの里さ。
「リビティナ。里の周りは低い土の壁で石の城壁じゃないみたいだけど、魔獣とか大丈夫なの?」
「壁の上には木の柵もあるし、外側は掘りになっているからね。普通の魔獣は入って来れないさ」
「こんな森の真ん中だったら大型の魔獣もいるでしょう」
「周辺の魔獣達にはここはボクの里だから、入って来ないでねって言ってるよ」
「言ってるって……そんなので魔獣が襲ってこないはずないでしょう」
そんなことは無いさ、この周辺の魔獣はここが強き者のテリトリーだって分かってもらっているからね。この森の主にも話は通してあるし。
「ほら、あの辺りに家が並んでいるのが見えるかい。フィフィロ君達の家もあそこにちゃんと用意しているからね」
住宅が建ち並ぶ場所を指差す。ここに連れてくる白子の子供と親のために用意した家で、三人住むことができる広さがある。
「二人には、今、空家になっている所に入ってもらうよ。少し掃除すれば、すぐにでも住めるからね」
「今日からそこで、お兄ちゃんと一緒に暮らしてもいいんですよね」
「勿論さ。じゃあ先に君達の新しい家に行こうか」
自分達の家があると聞いてフィフィロとルルーチアは目を輝かせる。そんな二人を抱きかかえて塔から飛び立ち、その後ろをエルフィが飛んで付いてくる。
「お~い、リビティナ様。こっちに来てくれませんか~」
おや、地上を見るとネイトスが荷車を引きながらこちらに手を振っている。
「今、フィフィロ達の家に行くところなんですよ。食器などの生活用品に食い物ももらってます」
「ネイトスさん、ありがとうございます。オレが荷車を引いていきます」
「私も。お兄ちゃん、早く新しい家に行こうよ」
二人は喜び勇んで荷車を引いていく。自分達の居場所があると言うのはいいものだからね。早くこの里に馴染んでもらいたいものだ。
「それじゃ、二人の事は頼んだよ、ネイトス」
「へい、分かりやした」
「エルフィも長旅から帰ってきたばっかりだし、今日のところはボクの家に泊まってゆっくりしてくれるかい」
陽が沈むにはまだ早いけど、家に帰ってゆっくりしよう。今回はいろんな場所を回って長旅になってしまって疲れちゃったよ。
やっとこの里に帰りついてホッとする。ここは他の町との交流もないし引き籠るには……いやスローライフを送るには、この眷属の里が一番だね。
ずっと馬車の旅でお風呂にも入れなかったし、早く家に帰ってお風呂に入りたいよ。
「えっ、家にお風呂があるの! あれって王国の貴族の屋敷にしかないって聞いたわよ」
「ボクの家……いいや、この里のどの家にもお風呂はあるよ」
「妖精族は水浴びしかしないけど、あたしお風呂って少し興味があるのよね。早くあなたの家に行きましょうよ」
ナームの村を出て二週間、落ち込んでいたエルフィも元気になってくれた。この里の事にも興味を持ってくれたみたいだし、もしかしたら眷属になってくれるかもしれないね。
「えっ、あたし? あたしは眷属にならないわよ。だって眷属になったらこの綺麗な羽が無くなっちゃうんでしょう。空も飛べなくなるし、そんなの嫌だわ」
そうあっさりと返答するエルフィ。なんだ、がっかりだよ。
「さあ、ここがボクの家だよ」
「お屋敷みたいに広い家なのね。ねえ、お風呂ってどんな所なの」
「ああっ、こらこら。靴を履いたまま中に入っちゃダメだよ」
靴のまま入ろうとするエルフィに注意する。とは言え、この王国でも玄関で靴を脱ぐ人はいない。他国でも一般的じゃないらしい。前の世界でも家の中で靴を脱ぐ習慣のあった国は少なかったしね。
聞くところによると鬼人族の上流階級だけは玄関で靴を脱ぐ習慣があるそうだ。
でもここはボクが作った眷属の里だからね。靴を脱ぐ習慣づけをみんなにもしてもらっている。
「何だか面倒ね。ここで裸足になるの?」
「裸足でもいいけど、このスリッパを使ってくれるかい」
最初は慣れないかもしれないけど、清潔だしこっちの方が家の中でリラックスできるからね。今では里の人も家では靴を履かない方がいいって言ってくれているしね。
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【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】を更新しています。
小説の参考になさってください。
タイトル
【設定集】転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
設定・地図(第5章 1話以降)
応援ありがとうございます!
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