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第三章

第46話 クレオ

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 アタイとしたことが人間に捕まっちまうなんて、ドジを踏んでしまったよ。それにしても、あのでかい体の人間のオス。体の割に俊敏で何かに包まれたと思ったら、身動きができなくなってしまったよ。あのオスはここら辺じゃ見かけない顔だったね。余所者だろうか。

 余所から来てアタイたちを捕まえて、殺して回っている奴がいると聞いた事がある。アタイの息子たちの中には、そんな連中につかまってしまった子もいると噂で聞いた。
 もしかしたら、ここがその連中の住処すみかなのかもしれないね。アタイ以外にも猫や犬がここに集められている。幸いアタイがいる場所は他の奴らから離れていて、うるさくもないし安全な場所のようだね。

 昨日まで痛くて動かなかった足も、なぜか今日は動く。まだ痛みはあるけど、これなら走って逃げだすこともできそうだ。でも今は完全に回復するまで、しばらくはじっとしていよう。ここの人間はアタイのためにご飯をくれるし、綺麗な水も与えてくれる。すぐにアタイを殺す気はないようだね。

 その日、アタイの前に人間のメスがやって来た。鉄の檻の向こうからこちらを見て何かしゃべっている。こいつがアタイを殺しに来た奴かと思って威嚇したけど、何か見覚えのある顔だった。
 アタイを捕まえたオスの横にいた奴……いや違うね。その前からアタイの縄張りでちょくちょく見かける顔だ。アタイを見掛けると、顔を見てじっとしていたね。近づいてくるわけでも、危害を加えてくるわけでも無いから、アタイも縄張りに居る事を許してやっていたけど……。

 そのメスは何度もここに来て、アタイの目の前に座る。相変わらず危害を加える気は無いようだけど、アタイに向かって何かしゃべっているようだった。あいにくアタイは人間の言葉が分からない。
「何しに来たんだい」と言ってみたが、向こうもこっちの言葉は分からないようだ。そりゃそうだろう。全く違う動物なんだ、それが当たり前だろうね。

 その後も、アタイはここから逃げ出せないかチャンスを覗っているけどダメだね。この檻は頑丈で、暴れてみても壊すことができないし、ご飯や水を出し入れする扉は小さくて、開けた時に抜け出すことはできなかった。

 ――そして何日も経ったある日。
 あの人間のメスの他に沢山の人間がアタイの前にやって来て、小さな箱に入れようとする。アタイは必死になって抵抗したけど、ここの人間は慣れているのか、大勢でアタイを捕まえて箱の中に入れられてしまった。こうなってしまっては、怪我をしないようにじっとしている他ない。

 ……これは車という人間の乗り物だね。その車に乗って行った先は今までとは違って大きな部屋の中、そして大きな檻。この檻も頑丈だね、逃げ出すのは無理みたいだ。
 ここも見慣れない場所だけど、周りには危険な物はないようだ。仕方ない、しばらくはここで大人しくしていようかね。

 その一週間後、今度は人間のメスと幼い男の子がやって来た。

「こんにちは、クレオおばさん」
「クレオおばさん? アタイの事かい」
「はい、ボクはマラカって言います。あなたのあるじ様がおばさんの事をクレオって呼んでいましたよ」

 確かに、『クレオ』という言葉はよく耳にするね。アタイに名前を付けて呼んでいたと言う事なのかね。

「クレオおばさんは、ここに来たくて来たんじゃないんですか」
「アタイは人間に捕まえられて、勝手に連れて来られたんだよ」
「だから、この部屋でも檻に入っているんですね。ボクが前にいた家みたいですね」

 何だって。この子もこんな檻の中に……前の家って、アタイが今まで居た殺して回っている奴らの住処の事かい! このマラカって子に詳しく聞いてみたけど、檻がいっぱいあって他の猫や犬たちが居る場所から、今日来た人間のメスの家に行ったと言っている。

「あんたはなんで、その主様の所に行こうと思ったんだい」
「ボクは外が怖いですし、今のあるじ様はすごく親切でボクを守ってくれます」
「アタイはこんな家よりも、外で暮らしたいんだよ。別に主様に守ってもらわなくてもいいんだけどね」
「ボクは外で暮らしたいと言っていたお爺さんを知っています。あるじ様に懐かなければ、外に出られると言っていました」

 へぇ~、そんな方法でまた外に出してもらえるんだね。

「でもあるじ様や他の人間に危害を加えると、この世界から排除されるとも言っていました」
「アタイはそんな事しないよ。ここの主様もご飯や水をくれるんだ。一応その恩には報いるさ」

 なるほど、ここで暮らすことも外に出る事も自分で選べるようだね。このマラカに聞くと人間との暮らしは楽しいみたいだ。少しの我慢をすれば、人間と共に暮らすことができると言っている。
 それに冬を十回以上越えたと言うお仲間や他の猫たちにも時々会わせてくれるそうで寂しくはないらしい。冬を十回以上とは驚きだね。アタイの知っている年寄りは冬を五回越えたと自慢していたけど、その老人も六回目の冬の後、見かけなくなってしまった。

 マラカの言うように、ここは確かに安全な場所のようだね。檻の外にいるマラカはここに来た人間とキャッキャッと遊んでいる。でもその甲高い声のする主様はあんたを撫で回しすぎてやしないかい。あれが少し我慢をすると言う事なのかね。

 アタイも少しだけこの家の主様に気を許してみてもいいかもしれないね。ここで暮らすかどうかは、その後決めればいいさ。アタイがアタイらしく自由に生きていけるなら、どこで暮らしてもいいさね。猫であることに誇りを持って、自分自身の行く末を決めて歩んでいけばいい。



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【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回で第三章は終了となります。
 次回からは 第四章 開始です。第四章が最終章となります。
 引き続きお付き合いくださいますよう、お願いいたします。

 お気に入りや感想など頂けるとありがたいです。
 今後ともよろしくお願いいたします。
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