46 / 50
第三章
第46話 クレオ
しおりを挟む
アタイとしたことが人間に捕まっちまうなんて、ドジを踏んでしまったよ。それにしても、あのでかい体の人間のオス。体の割に俊敏で何かに包まれたと思ったら、身動きができなくなってしまったよ。あのオスはここら辺じゃ見かけない顔だったね。余所者だろうか。
余所から来てアタイたちを捕まえて、殺して回っている奴がいると聞いた事がある。アタイの息子たちの中には、そんな連中につかまってしまった子もいると噂で聞いた。
もしかしたら、ここがその連中の住処なのかもしれないね。アタイ以外にも猫や犬がここに集められている。幸いアタイがいる場所は他の奴らから離れていて、うるさくもないし安全な場所のようだね。
昨日まで痛くて動かなかった足も、なぜか今日は動く。まだ痛みはあるけど、これなら走って逃げだすこともできそうだ。でも今は完全に回復するまで、しばらくはじっとしていよう。ここの人間はアタイのためにご飯をくれるし、綺麗な水も与えてくれる。すぐにアタイを殺す気はないようだね。
その日、アタイの前に人間のメスがやって来た。鉄の檻の向こうからこちらを見て何かしゃべっている。こいつがアタイを殺しに来た奴かと思って威嚇したけど、何か見覚えのある顔だった。
アタイを捕まえたオスの横にいた奴……いや違うね。その前からアタイの縄張りでちょくちょく見かける顔だ。アタイを見掛けると、顔を見てじっとしていたね。近づいてくるわけでも、危害を加えてくるわけでも無いから、アタイも縄張りに居る事を許してやっていたけど……。
そのメスは何度もここに来て、アタイの目の前に座る。相変わらず危害を加える気は無いようだけど、アタイに向かって何かしゃべっているようだった。あいにくアタイは人間の言葉が分からない。
「何しに来たんだい」と言ってみたが、向こうもこっちの言葉は分からないようだ。そりゃそうだろう。全く違う動物なんだ、それが当たり前だろうね。
その後も、アタイはここから逃げ出せないかチャンスを覗っているけどダメだね。この檻は頑丈で、暴れてみても壊すことができないし、ご飯や水を出し入れする扉は小さくて、開けた時に抜け出すことはできなかった。
――そして何日も経ったある日。
あの人間のメスの他に沢山の人間がアタイの前にやって来て、小さな箱に入れようとする。アタイは必死になって抵抗したけど、ここの人間は慣れているのか、大勢でアタイを捕まえて箱の中に入れられてしまった。こうなってしまっては、怪我をしないようにじっとしている他ない。
……これは車という人間の乗り物だね。その車に乗って行った先は今までとは違って大きな部屋の中、そして大きな檻。この檻も頑丈だね、逃げ出すのは無理みたいだ。
ここも見慣れない場所だけど、周りには危険な物はないようだ。仕方ない、しばらくはここで大人しくしていようかね。
その一週間後、今度は人間のメスと幼い男の子がやって来た。
「こんにちは、クレオおばさん」
「クレオおばさん? アタイの事かい」
「はい、ボクはマラカって言います。あなたのあるじ様がおばさんの事をクレオって呼んでいましたよ」
確かに、『クレオ』という言葉はよく耳にするね。アタイに名前を付けて呼んでいたと言う事なのかね。
「クレオおばさんは、ここに来たくて来たんじゃないんですか」
「アタイは人間に捕まえられて、勝手に連れて来られたんだよ」
「だから、この部屋でも檻に入っているんですね。ボクが前にいた家みたいですね」
何だって。この子もこんな檻の中に……前の家って、アタイが今まで居た殺して回っている奴らの住処の事かい! このマラカって子に詳しく聞いてみたけど、檻がいっぱいあって他の猫や犬たちが居る場所から、今日来た人間のメスの家に行ったと言っている。
「あんたはなんで、その主様の所に行こうと思ったんだい」
「ボクは外が怖いですし、今のあるじ様はすごく親切でボクを守ってくれます」
「アタイはこんな家よりも、外で暮らしたいんだよ。別に主様に守ってもらわなくてもいいんだけどね」
「ボクは外で暮らしたいと言っていたお爺さんを知っています。あるじ様に懐かなければ、外に出られると言っていました」
へぇ~、そんな方法でまた外に出してもらえるんだね。
「でもあるじ様や他の人間に危害を加えると、この世界から排除されるとも言っていました」
「アタイはそんな事しないよ。ここの主様もご飯や水をくれるんだ。一応その恩には報いるさ」
なるほど、ここで暮らすことも外に出る事も自分で選べるようだね。このマラカに聞くと人間との暮らしは楽しいみたいだ。少しの我慢をすれば、人間と共に暮らすことができると言っている。
それに冬を十回以上越えたと言うお仲間や他の猫たちにも時々会わせてくれるそうで寂しくはないらしい。冬を十回以上とは驚きだね。アタイの知っている年寄りは冬を五回越えたと自慢していたけど、その老人も六回目の冬の後、見かけなくなってしまった。
マラカの言うように、ここは確かに安全な場所のようだね。檻の外にいるマラカはここに来た人間とキャッキャッと遊んでいる。でもその甲高い声のする主様はあんたを撫で回しすぎてやしないかい。あれが少し我慢をすると言う事なのかね。
アタイも少しだけこの家の主様に気を許してみてもいいかもしれないね。ここで暮らすかどうかは、その後決めればいいさ。アタイがアタイらしく自由に生きていけるなら、どこで暮らしてもいいさね。猫であることに誇りを持って、自分自身の行く末を決めて歩んでいけばいい。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第三章は終了となります。
次回からは 第四章 開始です。第四章が最終章となります。
引き続きお付き合いくださいますよう、お願いいたします。
お気に入りや感想など頂けるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
余所から来てアタイたちを捕まえて、殺して回っている奴がいると聞いた事がある。アタイの息子たちの中には、そんな連中につかまってしまった子もいると噂で聞いた。
もしかしたら、ここがその連中の住処なのかもしれないね。アタイ以外にも猫や犬がここに集められている。幸いアタイがいる場所は他の奴らから離れていて、うるさくもないし安全な場所のようだね。
昨日まで痛くて動かなかった足も、なぜか今日は動く。まだ痛みはあるけど、これなら走って逃げだすこともできそうだ。でも今は完全に回復するまで、しばらくはじっとしていよう。ここの人間はアタイのためにご飯をくれるし、綺麗な水も与えてくれる。すぐにアタイを殺す気はないようだね。
その日、アタイの前に人間のメスがやって来た。鉄の檻の向こうからこちらを見て何かしゃべっている。こいつがアタイを殺しに来た奴かと思って威嚇したけど、何か見覚えのある顔だった。
アタイを捕まえたオスの横にいた奴……いや違うね。その前からアタイの縄張りでちょくちょく見かける顔だ。アタイを見掛けると、顔を見てじっとしていたね。近づいてくるわけでも、危害を加えてくるわけでも無いから、アタイも縄張りに居る事を許してやっていたけど……。
そのメスは何度もここに来て、アタイの目の前に座る。相変わらず危害を加える気は無いようだけど、アタイに向かって何かしゃべっているようだった。あいにくアタイは人間の言葉が分からない。
「何しに来たんだい」と言ってみたが、向こうもこっちの言葉は分からないようだ。そりゃそうだろう。全く違う動物なんだ、それが当たり前だろうね。
その後も、アタイはここから逃げ出せないかチャンスを覗っているけどダメだね。この檻は頑丈で、暴れてみても壊すことができないし、ご飯や水を出し入れする扉は小さくて、開けた時に抜け出すことはできなかった。
――そして何日も経ったある日。
あの人間のメスの他に沢山の人間がアタイの前にやって来て、小さな箱に入れようとする。アタイは必死になって抵抗したけど、ここの人間は慣れているのか、大勢でアタイを捕まえて箱の中に入れられてしまった。こうなってしまっては、怪我をしないようにじっとしている他ない。
……これは車という人間の乗り物だね。その車に乗って行った先は今までとは違って大きな部屋の中、そして大きな檻。この檻も頑丈だね、逃げ出すのは無理みたいだ。
ここも見慣れない場所だけど、周りには危険な物はないようだ。仕方ない、しばらくはここで大人しくしていようかね。
その一週間後、今度は人間のメスと幼い男の子がやって来た。
「こんにちは、クレオおばさん」
「クレオおばさん? アタイの事かい」
「はい、ボクはマラカって言います。あなたのあるじ様がおばさんの事をクレオって呼んでいましたよ」
確かに、『クレオ』という言葉はよく耳にするね。アタイに名前を付けて呼んでいたと言う事なのかね。
「クレオおばさんは、ここに来たくて来たんじゃないんですか」
「アタイは人間に捕まえられて、勝手に連れて来られたんだよ」
「だから、この部屋でも檻に入っているんですね。ボクが前にいた家みたいですね」
何だって。この子もこんな檻の中に……前の家って、アタイが今まで居た殺して回っている奴らの住処の事かい! このマラカって子に詳しく聞いてみたけど、檻がいっぱいあって他の猫や犬たちが居る場所から、今日来た人間のメスの家に行ったと言っている。
「あんたはなんで、その主様の所に行こうと思ったんだい」
「ボクは外が怖いですし、今のあるじ様はすごく親切でボクを守ってくれます」
「アタイはこんな家よりも、外で暮らしたいんだよ。別に主様に守ってもらわなくてもいいんだけどね」
「ボクは外で暮らしたいと言っていたお爺さんを知っています。あるじ様に懐かなければ、外に出られると言っていました」
へぇ~、そんな方法でまた外に出してもらえるんだね。
「でもあるじ様や他の人間に危害を加えると、この世界から排除されるとも言っていました」
「アタイはそんな事しないよ。ここの主様もご飯や水をくれるんだ。一応その恩には報いるさ」
なるほど、ここで暮らすことも外に出る事も自分で選べるようだね。このマラカに聞くと人間との暮らしは楽しいみたいだ。少しの我慢をすれば、人間と共に暮らすことができると言っている。
それに冬を十回以上越えたと言うお仲間や他の猫たちにも時々会わせてくれるそうで寂しくはないらしい。冬を十回以上とは驚きだね。アタイの知っている年寄りは冬を五回越えたと自慢していたけど、その老人も六回目の冬の後、見かけなくなってしまった。
マラカの言うように、ここは確かに安全な場所のようだね。檻の外にいるマラカはここに来た人間とキャッキャッと遊んでいる。でもその甲高い声のする主様はあんたを撫で回しすぎてやしないかい。あれが少し我慢をすると言う事なのかね。
アタイも少しだけこの家の主様に気を許してみてもいいかもしれないね。ここで暮らすかどうかは、その後決めればいいさ。アタイがアタイらしく自由に生きていけるなら、どこで暮らしてもいいさね。猫であることに誇りを持って、自分自身の行く末を決めて歩んでいけばいい。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第三章は終了となります。
次回からは 第四章 開始です。第四章が最終章となります。
引き続きお付き合いくださいますよう、お願いいたします。
お気に入りや感想など頂けるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜
紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】
やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。
*あらすじ*
人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。
「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」
どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。
迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。
そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。
彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒しのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
路地裏猫カフェで人生相談猫キック!?
RINFAM
キャラ文芸
「な、なんだ…これ?」
闇夜で薄っすら光る真っ白な猫に誘われるようにして、高層ビルの隙間を縫いつつ歩いて行った先には、ビルとビルの隙間に出来たであろうだだっ広い空間があった。
そしてそこに建っていたのは──
「……妖怪屋敷????」
いかにも妖怪かお化けでも住んでいそうな、今にも崩れ落ちてしまいそうなボロ屋だった。
さすがに腰が引けて、逃げ腰になっていると、白い猫は一声鳴いて、そのボロ屋へ入っていってしまう。
「お…おい……待ってくれよ…ッ」
こんなおどろおどろしい場所で一人きりにされ、俺は、慌てて白い猫を追いかけた。
猫が入っていったボロ屋に近づいてよく見てみると、入口らしい場所には立て看板が立てられていて。
「は??……猫カフェ??」
この恐ろしい見た目で猫カフェって、いったいなんの冗談なんだ??絶対に若い女子は近付かんだろ??つーか、おっさんの俺だって出来ることなら近寄りたくないぞ??
心を病んだ人だけが訪れる、不思議な『猫カフェ』の話。
青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
キャラ文芸
特別国家公務員の安住君は商店街裏のお寺の息子。久し振りに帰省したら何やら見覚えのある青い物体が。しかも実家の本堂には自分専用の青い奴。どうやら帰省中はこれを着る羽目になりそうな予感。
白い黒猫さんが書かれている『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
とクロスオーバーしているお話なので併せて読むと更に楽しんでもらえると思います。
そして主人公の安住君は『恋と愛とで抱きしめて』に登場する安住さん。なんと彼の若かりし頃の姿なのです。それから閑話のウサギさんこと白崎暁里は饕餮さんが書かれている『あかりを追う警察官』の籐志朗さんのところにお嫁に行くことになったキャラクターです。
※キーボ君のイラストは白い黒猫さんにお借りしたものです※
※饕餮さんが書かれている「希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々」、篠宮楓さんが書かれている『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』の登場人物もちらりと出てきます※
※自サイト、小説家になろうでも公開中※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる