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第三章
第35話 ナル、最大のピンチ3
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そしてまたナルの居ない一週間が過ぎ去った。仕事の帰りや休みの日にナルを探したがやはりいない。
「ナル、お前は何処に行ってしまったんだ……」
非常階段にもたれかかって、ナルと一緒に見ていた夜景を眺める。涙が出てきた。
いや、まだ諦めるな。きっとナルは何処かで生きている。
その次の日、出勤しようと非常階段の方から一階に降りたら、駐輪場の隅、サバトラ猫の後ろ姿が見えた。背中の方に丸まった短かいシッポ。
「ナル!!」
叫んでその猫がいた駐輪場の隅へ行く。既に猫の姿は無いが、あれはナルじゃないのか。ここは隣のマンションとの隙間、人が入れないように木の板を打ち付けているが、下には猫が通れるだけの隙間がある。
俺は急いで部屋に戻り、餌を入れた小鉢をその隙間から中に押し込む。
今はこれだけしかできない。会社の者にこれ以上の迷惑をかける訳にはいかないからな。あの猫がナルでありますようにと願って会社へと向かう。
会社の終業チャイムが鳴り急いで家に帰り、朝に餌を置いた隙間を見ると餌は無くなっていた。食べてくれたかと安堵したが、その猫がナルであるとは限らない。もう一度その場所に餌を置いておいたが、次の日の朝、夜の餌は食べた形跡が無くそのまま残っている。新しい餌に変えて、また置いておく。
あの場所は最初に何度も探した場所だ。「ナル」と何度も名前を呼んで探したが、中まで入ることはできなかった。暗くて人もいない、他の猫がいなければ安全な場所だ。ナルはそこに隠れ住んでいてくれたんだろうか。
残業もせずに家に帰り、駐輪場へと向かう。すると猫が隙間に置いた餌を食べているのが見えた。木の板の向こう側から少しだけ顔を出して餌を食べている。
「ナル」
優しく呼びかけたが、その猫は首を引っ込めてこちらに出てくる気配はない。あれはナルだと思うのだが、俺の事が分からないのか……それとも別の……。
隙間に置いた餌を少しだけ手前に持ってきて、陰に隠れてしばらく様子を見る。すると奥にいた猫が餌につられて隙間からこちら側に出て来てくれた。
あれは確かにナルだ! 夢中になって餌を食べている今なら捕まえる事ができるか? そっと横から回り込んで背中からナルを抱き上げる。
「ナル、ナル!」
確かにナルだ。よく生きていてくれた。背広に毛が付くこともいとわずナルを抱きしめる。そのまま急いで階段を登り部屋に入る。
良かった、良かったな、ナル。
少し痩せて軽くなったナルが俺を見て「ミャー」と鳴く。俺だと分かってくれたのか。ナルをキッチンに降ろして、まずは餌と水を用意する。
水を飲みエサを食べるナルは、元気がなく痩せて体も汚れている。そうだすぐにでも病院に連れて行かないと。何か病気や怪我をしているかもしれない。
大急ぎで着替えてナルが食べ終わるのを待ってから、キャリーバックに入れて病院へと急ぐ。
病院では、血液検査や手足に怪我が無いかなどを診てくれた。体も濡れたタオルで拭いて綺麗にしてくれる。
診断の結果、少し脱水症状があって腎臓の機能が落ちてはいるが、他には異常が無いとの事だった。腎臓の薬と目薬、それにノミ予防の薬をもらって家に帰る。
よく頑張ったな、ナル。布団に上でナルを撫でってやると安心したのかすぐに眠ってしまった。
俺もここのところの疲れが溜まっていたのか、そのまま寝てしまった。
朝。俺は目覚ましで起きたが、ナルは俺の横で寝息を立てている。良かった。ナルが見つかったのが夢じゃなくて……。
「ナルは、ここでゆっくり寝ていてくれ」
朝食を摂り、仕事に行く準備をしているとナルが起きて来て、俺の足元で「ミャー」とじゃれついてきた。
「朝の餌は用意しているからな。寂しいかもしれんが、夜まで留守番をしていてくれ」
そう言って、俺は会社に出かけた。
会社で心配をかけた班員に、ナルが見つかったことを報告する。
「良かったですね、篠崎班長」
「ナルちゃん、元気なんですね。良かった。また班長の家に行っていいですか」
「篠崎さん。もう、逃がしちゃだめよ。でも安心したわ」
「俺も、心配したんすよ。今日の昼は奢ってくださいっす」
西岡に世話になった覚えは無いが、昼飯でもなんでも奢ってやるぞ。
家に帰ると、ナルが以前と同じように「ミャー」と鳴いてお出迎えしてくれた。少し元気になったナルを撫でると気持ちよさそうに目を細める。
本当に良かった。もう離しはしないからな。
ナルが帰って来て初めての週末。今日はずっとナルに付いていてやろう。
以前と同じようにナルの名前を呼ぶと、反応してこちらに近づいてくる。ちゃんと俺の事を覚えてくれていたが外で見かけた時、名前を呼んでも反応しなかったな。多分この暗いベランダ側のマンションとの間に居たんだろうが、まったく違う環境で生き抜くのに必死だったんだろう。
そういや、昨日家に帰った時、ゴミ袋が破けてゴミが床に散らばっていた。たぶんナルがゴミを漁っていたんだろう。変な癖がついてしまったようだが、この部屋を離れて一ヶ月以上、外で野良猫生活をしていたんだ。仕方ない事かもしれんな。
和室の部屋でブラッシングをして体を綺麗にしてやる。シャンプーもしてやりたいが、ノミの薬を付けたばかりだし、もう少し体力が戻ってからの方がいいだろう。ナルはシャンプーを嫌がって暴れるだろうし、全身を毛づくろいするのにも体力を使うからな。今はのんびりとこの部屋で過ごしてくれればいいさ。
気持ちよさそうに目を細めて、俺にもたれかかってくるナルを見ていると少し涙が出てきた。死んでしまって、もう会えないのかと思った事もあった。別の猫を飼おうと思った時もあった。こうして今、俺の傍にはナルがいる。それだけで十分だ。これからも俺と一緒にいてくれ、ナル。
「ナル、お前は何処に行ってしまったんだ……」
非常階段にもたれかかって、ナルと一緒に見ていた夜景を眺める。涙が出てきた。
いや、まだ諦めるな。きっとナルは何処かで生きている。
その次の日、出勤しようと非常階段の方から一階に降りたら、駐輪場の隅、サバトラ猫の後ろ姿が見えた。背中の方に丸まった短かいシッポ。
「ナル!!」
叫んでその猫がいた駐輪場の隅へ行く。既に猫の姿は無いが、あれはナルじゃないのか。ここは隣のマンションとの隙間、人が入れないように木の板を打ち付けているが、下には猫が通れるだけの隙間がある。
俺は急いで部屋に戻り、餌を入れた小鉢をその隙間から中に押し込む。
今はこれだけしかできない。会社の者にこれ以上の迷惑をかける訳にはいかないからな。あの猫がナルでありますようにと願って会社へと向かう。
会社の終業チャイムが鳴り急いで家に帰り、朝に餌を置いた隙間を見ると餌は無くなっていた。食べてくれたかと安堵したが、その猫がナルであるとは限らない。もう一度その場所に餌を置いておいたが、次の日の朝、夜の餌は食べた形跡が無くそのまま残っている。新しい餌に変えて、また置いておく。
あの場所は最初に何度も探した場所だ。「ナル」と何度も名前を呼んで探したが、中まで入ることはできなかった。暗くて人もいない、他の猫がいなければ安全な場所だ。ナルはそこに隠れ住んでいてくれたんだろうか。
残業もせずに家に帰り、駐輪場へと向かう。すると猫が隙間に置いた餌を食べているのが見えた。木の板の向こう側から少しだけ顔を出して餌を食べている。
「ナル」
優しく呼びかけたが、その猫は首を引っ込めてこちらに出てくる気配はない。あれはナルだと思うのだが、俺の事が分からないのか……それとも別の……。
隙間に置いた餌を少しだけ手前に持ってきて、陰に隠れてしばらく様子を見る。すると奥にいた猫が餌につられて隙間からこちら側に出て来てくれた。
あれは確かにナルだ! 夢中になって餌を食べている今なら捕まえる事ができるか? そっと横から回り込んで背中からナルを抱き上げる。
「ナル、ナル!」
確かにナルだ。よく生きていてくれた。背広に毛が付くこともいとわずナルを抱きしめる。そのまま急いで階段を登り部屋に入る。
良かった、良かったな、ナル。
少し痩せて軽くなったナルが俺を見て「ミャー」と鳴く。俺だと分かってくれたのか。ナルをキッチンに降ろして、まずは餌と水を用意する。
水を飲みエサを食べるナルは、元気がなく痩せて体も汚れている。そうだすぐにでも病院に連れて行かないと。何か病気や怪我をしているかもしれない。
大急ぎで着替えてナルが食べ終わるのを待ってから、キャリーバックに入れて病院へと急ぐ。
病院では、血液検査や手足に怪我が無いかなどを診てくれた。体も濡れたタオルで拭いて綺麗にしてくれる。
診断の結果、少し脱水症状があって腎臓の機能が落ちてはいるが、他には異常が無いとの事だった。腎臓の薬と目薬、それにノミ予防の薬をもらって家に帰る。
よく頑張ったな、ナル。布団に上でナルを撫でってやると安心したのかすぐに眠ってしまった。
俺もここのところの疲れが溜まっていたのか、そのまま寝てしまった。
朝。俺は目覚ましで起きたが、ナルは俺の横で寝息を立てている。良かった。ナルが見つかったのが夢じゃなくて……。
「ナルは、ここでゆっくり寝ていてくれ」
朝食を摂り、仕事に行く準備をしているとナルが起きて来て、俺の足元で「ミャー」とじゃれついてきた。
「朝の餌は用意しているからな。寂しいかもしれんが、夜まで留守番をしていてくれ」
そう言って、俺は会社に出かけた。
会社で心配をかけた班員に、ナルが見つかったことを報告する。
「良かったですね、篠崎班長」
「ナルちゃん、元気なんですね。良かった。また班長の家に行っていいですか」
「篠崎さん。もう、逃がしちゃだめよ。でも安心したわ」
「俺も、心配したんすよ。今日の昼は奢ってくださいっす」
西岡に世話になった覚えは無いが、昼飯でもなんでも奢ってやるぞ。
家に帰ると、ナルが以前と同じように「ミャー」と鳴いてお出迎えしてくれた。少し元気になったナルを撫でると気持ちよさそうに目を細める。
本当に良かった。もう離しはしないからな。
ナルが帰って来て初めての週末。今日はずっとナルに付いていてやろう。
以前と同じようにナルの名前を呼ぶと、反応してこちらに近づいてくる。ちゃんと俺の事を覚えてくれていたが外で見かけた時、名前を呼んでも反応しなかったな。多分この暗いベランダ側のマンションとの間に居たんだろうが、まったく違う環境で生き抜くのに必死だったんだろう。
そういや、昨日家に帰った時、ゴミ袋が破けてゴミが床に散らばっていた。たぶんナルがゴミを漁っていたんだろう。変な癖がついてしまったようだが、この部屋を離れて一ヶ月以上、外で野良猫生活をしていたんだ。仕方ない事かもしれんな。
和室の部屋でブラッシングをして体を綺麗にしてやる。シャンプーもしてやりたいが、ノミの薬を付けたばかりだし、もう少し体力が戻ってからの方がいいだろう。ナルはシャンプーを嫌がって暴れるだろうし、全身を毛づくろいするのにも体力を使うからな。今はのんびりとこの部屋で過ごしてくれればいいさ。
気持ちよさそうに目を細めて、俺にもたれかかってくるナルを見ていると少し涙が出てきた。死んでしまって、もう会えないのかと思った事もあった。別の猫を飼おうと思った時もあった。こうして今、俺の傍にはナルがいる。それだけで十分だ。これからも俺と一緒にいてくれ、ナル。
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