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第二章
第31話 係長の犬2
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玄関の横、犬の居る部屋から激しく吠える声が聞こえた。
「シャーリーのお散歩の時間ね。私が行ってくるわ。あなたはお客様と飲んでいてくださいな」
係長の奥さんが犬の元へ行こうとキッチンから声を掛けてきた。
「奥さん、すぐに犬の所に行っちゃダメっすよ」
「えっ!」と立ち止まる奥さんに西岡が言う。
「そうやって犬の言う事を全て聞いていると、いつまでたっても躾けはできないっす」
さっきの犬の部屋での様子や今の吠え方を聞いていると、犬がこの家のリーダーになっていると西岡は言う。
「犬は群れで生活する動物っす。その中で力の強いものが群れを守る役目をするんすよ。それが自分だとあの犬は思ってるんす」
お~、西岡がまともな事を言っているぞ。
平日の散歩は奥さんが受け持っているそうで、朝と晩一日二回同じ時間にシャーリーが吠えるので、その時間に散歩に連れて行っていると言っている。
自分の言う事を聞いてくれる人間がいると、犬はその人間を自分の下だと思うらしい。
「この家族の中で一番上が、あの犬になっているっすね」
「いや、いや。家族の中では家長であるわしが一番だぞ。帰ってきたらシャーリーも尻尾を振って喜んでいるぞ」
「そりゃ、仲間が帰ってくれば嬉しくなると思いますよ。でもさっきみたいに他人がいると仲間を守るために吠え続けるんす」
確かに犬が吠えるのを係長は止める事ができなかった。この家には息子さんも居るようだが、息子さんや奥さんも吠えるのを止める事はできないと言う。
「じゃあ、どうすればいいんだ……」
「まず散歩は、犬の時間じゃなくて人が決めればいいっす。時間もバラバラで大丈夫っす」
別に同じ時間じゃなくて、人の都合に合わせればいいそうだ。犬種によって一日一回とか二回とかあるそうだが、回数よりも一日の運動量、散歩の距離の方が大事らしい。
シャリーに『待て』はできるかと聞いたら、『お手』はできるものの『待て』はおろか『お座り』もできないと言っている。完全に犬の方が上だとシャリーは思っていると西岡は言う。
「それなら、食事の時に待てやお座りを教えたらいいっす」
餌を持って行った時に興奮する犬がいるそうだが、シャーリーもそうらしい。興奮が収まるまで餌を見せないようにするといいと西岡は言う。落ち着いたら餌をあげる、その次はお座りができたら餌をあげるというように教えていくそうだ。
いつまでも興奮が収まらなければ、餌を与えずに部屋を出て時間を空けてもう一度すればいいらしい。
「本当にそんな事をしてもいいのか? 虐待にならないのかね」
「その代わり、言う事を聞いた時は褒めてやればいいんすよ」
仔犬の頃から甘やかして育ててきて、犬がしてほしい事を率先してやってあげたらしい。その方が犬も喜んで家族も幸せだと係長は考えていたようだな。そう勘違いしている飼い主も多いのだろうが、人と一緒に暮らす限りにおいて、躾けは大事な事だろう。
『待て』も最初はできなくても、根気強く教えてやればちゃんとできるようになるそうだ。
「でも、そんなに服従させて犬が可哀想じゃないのか? 自由に行動できなくてストレスが溜まるだろう」
「犬はリーダーに従って生きていく方が幸せなんすよ」
群れで行動する犬にとって、色んな事を決めてくれるリーダーの下にいる方がいいそうだ。縄張りの見回りや体を張って群れを守るのはリーダーに任せ、残りの犬はそれに従った方が楽できるからな。
普通は群れの中で一番賢くて強い犬がリーダーになるそうだが、一匹のペットだとその選抜が行なわれない。リーダーとしての素質が有ろうが無かろうが、飼い主がリーダーにならないなら犬がリーダーになる他ない。
シャーリーは人間だと二十歳ぐらいだそうだ。まだ若く能力も無いのにリーダーとしての役目を無理に果たそうとしているのかもしれないな。そちらの方がシャーリーにとっては不幸な事だろう。
「そういうものなのか。シャーリーには幸せでいてもらいたいんだが……」
係長はまだ納得していないようだが、努力するようにしようと言っている。その後も散歩の仕方やリードの持ち方などを西岡に教わっていた。
奥さんは散歩でシャーリーに引っ張られて困っていたと言う。西岡にどうやって散歩をするのか熱心に聞いていたな。
西岡でもちゃんと役に立つことがあるんだな。俺は少しだけ西岡を見直した。
しかし、この家族は犬を飼う前にちゃんと考えて飼う事を決めたのだろうか。安易にペットショップで可愛いからと買ったんじゃないのか? 店員もこの家族に対して飼う上で注意する事柄の説明やアフターサービスくらいはするだろうが、飼い主として適正かどうかの責任は負わない。適性が無くとも買うと言われれば、商品として売るのがペットショップというものだからな。
ペットとして動物を飼うと決めたなら、その動物のために人間がしなきゃならん事は沢山ある。それをちゃんとするのが人間の責任だろう。躾を含めそんな事もできなければ、それこそ犬以下の人間という事になる。
奥さんは西岡に教えてもらった方法で散歩してみるとシャーリーと外に出て行った。ここの犬が人間社会とうまく付き合っていけるように、飼い主には頑張ってもらいたいものだ。今の日本の現状では仕方ないのかもしれないが、この家族が犬を持て余して捨てて、最後は殺処分とならないように願うばかりだ。
「シャーリーのお散歩の時間ね。私が行ってくるわ。あなたはお客様と飲んでいてくださいな」
係長の奥さんが犬の元へ行こうとキッチンから声を掛けてきた。
「奥さん、すぐに犬の所に行っちゃダメっすよ」
「えっ!」と立ち止まる奥さんに西岡が言う。
「そうやって犬の言う事を全て聞いていると、いつまでたっても躾けはできないっす」
さっきの犬の部屋での様子や今の吠え方を聞いていると、犬がこの家のリーダーになっていると西岡は言う。
「犬は群れで生活する動物っす。その中で力の強いものが群れを守る役目をするんすよ。それが自分だとあの犬は思ってるんす」
お~、西岡がまともな事を言っているぞ。
平日の散歩は奥さんが受け持っているそうで、朝と晩一日二回同じ時間にシャーリーが吠えるので、その時間に散歩に連れて行っていると言っている。
自分の言う事を聞いてくれる人間がいると、犬はその人間を自分の下だと思うらしい。
「この家族の中で一番上が、あの犬になっているっすね」
「いや、いや。家族の中では家長であるわしが一番だぞ。帰ってきたらシャーリーも尻尾を振って喜んでいるぞ」
「そりゃ、仲間が帰ってくれば嬉しくなると思いますよ。でもさっきみたいに他人がいると仲間を守るために吠え続けるんす」
確かに犬が吠えるのを係長は止める事ができなかった。この家には息子さんも居るようだが、息子さんや奥さんも吠えるのを止める事はできないと言う。
「じゃあ、どうすればいいんだ……」
「まず散歩は、犬の時間じゃなくて人が決めればいいっす。時間もバラバラで大丈夫っす」
別に同じ時間じゃなくて、人の都合に合わせればいいそうだ。犬種によって一日一回とか二回とかあるそうだが、回数よりも一日の運動量、散歩の距離の方が大事らしい。
シャリーに『待て』はできるかと聞いたら、『お手』はできるものの『待て』はおろか『お座り』もできないと言っている。完全に犬の方が上だとシャリーは思っていると西岡は言う。
「それなら、食事の時に待てやお座りを教えたらいいっす」
餌を持って行った時に興奮する犬がいるそうだが、シャーリーもそうらしい。興奮が収まるまで餌を見せないようにするといいと西岡は言う。落ち着いたら餌をあげる、その次はお座りができたら餌をあげるというように教えていくそうだ。
いつまでも興奮が収まらなければ、餌を与えずに部屋を出て時間を空けてもう一度すればいいらしい。
「本当にそんな事をしてもいいのか? 虐待にならないのかね」
「その代わり、言う事を聞いた時は褒めてやればいいんすよ」
仔犬の頃から甘やかして育ててきて、犬がしてほしい事を率先してやってあげたらしい。その方が犬も喜んで家族も幸せだと係長は考えていたようだな。そう勘違いしている飼い主も多いのだろうが、人と一緒に暮らす限りにおいて、躾けは大事な事だろう。
『待て』も最初はできなくても、根気強く教えてやればちゃんとできるようになるそうだ。
「でも、そんなに服従させて犬が可哀想じゃないのか? 自由に行動できなくてストレスが溜まるだろう」
「犬はリーダーに従って生きていく方が幸せなんすよ」
群れで行動する犬にとって、色んな事を決めてくれるリーダーの下にいる方がいいそうだ。縄張りの見回りや体を張って群れを守るのはリーダーに任せ、残りの犬はそれに従った方が楽できるからな。
普通は群れの中で一番賢くて強い犬がリーダーになるそうだが、一匹のペットだとその選抜が行なわれない。リーダーとしての素質が有ろうが無かろうが、飼い主がリーダーにならないなら犬がリーダーになる他ない。
シャーリーは人間だと二十歳ぐらいだそうだ。まだ若く能力も無いのにリーダーとしての役目を無理に果たそうとしているのかもしれないな。そちらの方がシャーリーにとっては不幸な事だろう。
「そういうものなのか。シャーリーには幸せでいてもらいたいんだが……」
係長はまだ納得していないようだが、努力するようにしようと言っている。その後も散歩の仕方やリードの持ち方などを西岡に教わっていた。
奥さんは散歩でシャーリーに引っ張られて困っていたと言う。西岡にどうやって散歩をするのか熱心に聞いていたな。
西岡でもちゃんと役に立つことがあるんだな。俺は少しだけ西岡を見直した。
しかし、この家族は犬を飼う前にちゃんと考えて飼う事を決めたのだろうか。安易にペットショップで可愛いからと買ったんじゃないのか? 店員もこの家族に対して飼う上で注意する事柄の説明やアフターサービスくらいはするだろうが、飼い主として適正かどうかの責任は負わない。適性が無くとも買うと言われれば、商品として売るのがペットショップというものだからな。
ペットとして動物を飼うと決めたなら、その動物のために人間がしなきゃならん事は沢山ある。それをちゃんとするのが人間の責任だろう。躾を含めそんな事もできなければ、それこそ犬以下の人間という事になる。
奥さんは西岡に教えてもらった方法で散歩してみるとシャーリーと外に出て行った。ここの犬が人間社会とうまく付き合っていけるように、飼い主には頑張ってもらいたいものだ。今の日本の現状では仕方ないのかもしれないが、この家族が犬を持て余して捨てて、最後は殺処分とならないように願うばかりだ。
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