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第二章
第25話 猫のお泊り会
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マンション裏手のコインパーキングに停めてあった佐々木の車はホンダの軽自動車。赤茶色っぽい半艶の色であまり見かけない色だな。猫用品を後ろに積み込み、後部座席にナルのキャリーバックと一緒に乗り込む。俺はあまり車に詳しくないが、軽自動車と言うのはもっと狭いものだと思っていた。
「この座席、ゆったりしてるんだな。軽とは思えんな」
「そうでしょう。最近はこういう車も多いんですよ」
佐々木専用の車じゃなくて弟さんも借りて乗るそうで、友達を乗せたいと言う弟さんの意見でこの車を選んだそうだ。
「佐々木だったらもっと派手な色を選ぶと思ったが、落ち着いた色なんだな」
「真っ赤な車と迷ったんですけどね。普段乗りするんで、このチョコレート色にしたんですよ。カワイイでしょう」
この色がカワイイかどうか俺には分からんが、余り男が選ぶような色ではない感じだな。
俺は座席の横に置いたキャリーバッグの中のナルをあやしながら聞く。
「座席は広いが、早瀬さんが乗って来るとなるとちょっと狭いか」
「早瀬さんは先に家に来てもらってるの。大人三人と猫二匹はさすがに狭いもの」
まあ、乗れん事もないだろうが、その方がいいだろうな。佐々木の家には自家用車がもう一台あるそうだが、今日は父親が使うそうで、借りられなかったと言っている。
「佐々木。今日ナルを連れて行くが、もしかすると喧嘩になるかもしれんぞ」
前に預かったシャウラとは大喧嘩をしたみたいだしな。
「ええ、結構ですよ。そういうのもマラカのいい経験になると思いますので」
まだ仔猫だし、本来なら親や兄弟の猫から教えてもらう事を経験させたいと言っている。マラカは親兄弟が周りにいない中、一匹で道を歩いているところを拾われたらしい。確かに他の猫と触れ合う事はいい事かもしれんな。
俺のマンションから佐々木の家までは、三十分も走れば着くそうだ。本線が三車線と側道が二車線の片道五車線ある府の中央を南北に走る幹線道路、ここを北に走って行く。今日は道も空いていて早く着いたその家は、住宅街に建つ三階建てのおしゃれな住居で小さな庭まである。
車をカーポートに入れて佐々木に案内されるまま家の中に入る。
「こんにちは。篠崎さんですね。娘の美香がいつもお世話になっています」
佐々木のお母さんが出迎えてくれた。佐々木とは違って小柄で落ち着いた感じの奥さんだ。物腰も柔らかく声のトーンも佐々木に比べれば低い。娘の我がままに付き合ってもらって申し訳ないと言われた。
「いえ、いえ。こちらこそ仕事でいつも助けてもらっていますから。良くできた娘さんですよ」
佐々木はキャピキャピしているが優秀な人材であることに間違いはない。いつもは口にしない佐々木の評価を聞いてか、少し照れたように俺を階段に方に案内する。
「あたしの部屋は三階なの。班長、さあ早く来てくださいよ」
案内された三階の部屋の中では、早瀬さんがクッションに座わってシャウラとマラカが遊んでいるのを見守っていた。
「こんにちは、篠崎班長。割と早く着いたんですね、佐々木先輩」
「うん、道が空いてたからね。班長、ナルちゃんを外に出してくれますか」
キャリーバッグの入口を開けると、ナルはゆっくりと警戒しながら部屋の中に歩み出る。暴れる様子はないようだな。ナルを見てシャウラが近寄って来て頬ずりする。一緒に遊んでいたマラカも近づいて来た。
生後半年の仔猫、人間だと十二、三歳だというが小さな体だな。成猫であるナルを少し警戒しているようだが、見境なく喧嘩をしてくるような猫には見えないな。マラカを見てナルが暴れたり、喧嘩しそうなら止めれるように身構えていたが大丈夫そうだ。
「ミャー」とナルが鳴き床に腰を下ろす。シャウラが寄り添い、それにつられてマラカもナルの傍に付く。ナルはそんなマラカの体を舐めて毛づくろいしてあげている。
「三匹とも仲がいいようで安心しました」
早瀬さんもどんな反応をするか心配で両膝を突いて見守っていたようだが安心して座り込む。佐々木もマラカの様子に安心したようだ。
「マラカはまだ仔猫だから、ナルちゃんを母親みたいに思ってるのよ」
ナルは子供を産んだことはないはずだが、仔猫を見慣れているのか、本能として仔猫は守るべき存在と感じているのかマラカをすぐに受け入れたようだな。
しばらくはマラカとシャウラとじゃれ合っているようだが、マラカが噛みついたのか、シャウラが声を上げて噛みつき返した。喧嘩のようになっているが、じゃれ合いの範疇だろう。ナルも座ったまま二匹を見守っている。
一頻り暴れ回ったら、二匹がナルの傍に来て体を寄せ合って毛づくろいの後、眠ってしまった。
「このままで大丈夫そうね。班長、下のリビングでお茶を用意しますね」
「そうだな。ナル、その二匹を頼むぞ」
ナルの背中を撫でると「ミャー」と鳴いて二匹を守るように丸まった。俺たちは佐々木に付いて二階に降りる。
「今日はありがとう。マラカにはいい経験になったわ」
「そうですね。シャウラにもいいお友達ができたようですし、良かったです」
「ナルも落ち着いてそうだし、明日までここに居ても大丈夫だろう」
ナルもシャウラも今晩一晩佐々木の家に泊めて、明日俺の家までナルを連れてきてくれる事になった。
「ねえ、早瀬さんは今日ここに泊まっていきなよ。帰っても一人なんでしょう。お母さんの料理すごく美味しいの、食べていってよ」
「ご迷惑じゃないですか」
「大丈夫、大丈夫」
早瀬さんもシャウラの事が気になっているようだし、俺も猫に慣れている早瀬さんに居てもらった方が安心だ。
泊まるなら着替えなど用意したいと、一緒に佐々木の車に乗って早瀬さんのマンションに寄ってから、俺を家に送ってくれた。
「篠崎班長、それじゃあまた。明日のお昼頃にはナルちゃんをお返ししますので」
そう言って佐々木は帰っていった。
今晩は俺一人か。ナルが居なくても寂しくはないぞ。寂しくなんてないんだからな。俺は涙をこらえて天井を見上げた。
「この座席、ゆったりしてるんだな。軽とは思えんな」
「そうでしょう。最近はこういう車も多いんですよ」
佐々木専用の車じゃなくて弟さんも借りて乗るそうで、友達を乗せたいと言う弟さんの意見でこの車を選んだそうだ。
「佐々木だったらもっと派手な色を選ぶと思ったが、落ち着いた色なんだな」
「真っ赤な車と迷ったんですけどね。普段乗りするんで、このチョコレート色にしたんですよ。カワイイでしょう」
この色がカワイイかどうか俺には分からんが、余り男が選ぶような色ではない感じだな。
俺は座席の横に置いたキャリーバッグの中のナルをあやしながら聞く。
「座席は広いが、早瀬さんが乗って来るとなるとちょっと狭いか」
「早瀬さんは先に家に来てもらってるの。大人三人と猫二匹はさすがに狭いもの」
まあ、乗れん事もないだろうが、その方がいいだろうな。佐々木の家には自家用車がもう一台あるそうだが、今日は父親が使うそうで、借りられなかったと言っている。
「佐々木。今日ナルを連れて行くが、もしかすると喧嘩になるかもしれんぞ」
前に預かったシャウラとは大喧嘩をしたみたいだしな。
「ええ、結構ですよ。そういうのもマラカのいい経験になると思いますので」
まだ仔猫だし、本来なら親や兄弟の猫から教えてもらう事を経験させたいと言っている。マラカは親兄弟が周りにいない中、一匹で道を歩いているところを拾われたらしい。確かに他の猫と触れ合う事はいい事かもしれんな。
俺のマンションから佐々木の家までは、三十分も走れば着くそうだ。本線が三車線と側道が二車線の片道五車線ある府の中央を南北に走る幹線道路、ここを北に走って行く。今日は道も空いていて早く着いたその家は、住宅街に建つ三階建てのおしゃれな住居で小さな庭まである。
車をカーポートに入れて佐々木に案内されるまま家の中に入る。
「こんにちは。篠崎さんですね。娘の美香がいつもお世話になっています」
佐々木のお母さんが出迎えてくれた。佐々木とは違って小柄で落ち着いた感じの奥さんだ。物腰も柔らかく声のトーンも佐々木に比べれば低い。娘の我がままに付き合ってもらって申し訳ないと言われた。
「いえ、いえ。こちらこそ仕事でいつも助けてもらっていますから。良くできた娘さんですよ」
佐々木はキャピキャピしているが優秀な人材であることに間違いはない。いつもは口にしない佐々木の評価を聞いてか、少し照れたように俺を階段に方に案内する。
「あたしの部屋は三階なの。班長、さあ早く来てくださいよ」
案内された三階の部屋の中では、早瀬さんがクッションに座わってシャウラとマラカが遊んでいるのを見守っていた。
「こんにちは、篠崎班長。割と早く着いたんですね、佐々木先輩」
「うん、道が空いてたからね。班長、ナルちゃんを外に出してくれますか」
キャリーバッグの入口を開けると、ナルはゆっくりと警戒しながら部屋の中に歩み出る。暴れる様子はないようだな。ナルを見てシャウラが近寄って来て頬ずりする。一緒に遊んでいたマラカも近づいて来た。
生後半年の仔猫、人間だと十二、三歳だというが小さな体だな。成猫であるナルを少し警戒しているようだが、見境なく喧嘩をしてくるような猫には見えないな。マラカを見てナルが暴れたり、喧嘩しそうなら止めれるように身構えていたが大丈夫そうだ。
「ミャー」とナルが鳴き床に腰を下ろす。シャウラが寄り添い、それにつられてマラカもナルの傍に付く。ナルはそんなマラカの体を舐めて毛づくろいしてあげている。
「三匹とも仲がいいようで安心しました」
早瀬さんもどんな反応をするか心配で両膝を突いて見守っていたようだが安心して座り込む。佐々木もマラカの様子に安心したようだ。
「マラカはまだ仔猫だから、ナルちゃんを母親みたいに思ってるのよ」
ナルは子供を産んだことはないはずだが、仔猫を見慣れているのか、本能として仔猫は守るべき存在と感じているのかマラカをすぐに受け入れたようだな。
しばらくはマラカとシャウラとじゃれ合っているようだが、マラカが噛みついたのか、シャウラが声を上げて噛みつき返した。喧嘩のようになっているが、じゃれ合いの範疇だろう。ナルも座ったまま二匹を見守っている。
一頻り暴れ回ったら、二匹がナルの傍に来て体を寄せ合って毛づくろいの後、眠ってしまった。
「このままで大丈夫そうね。班長、下のリビングでお茶を用意しますね」
「そうだな。ナル、その二匹を頼むぞ」
ナルの背中を撫でると「ミャー」と鳴いて二匹を守るように丸まった。俺たちは佐々木に付いて二階に降りる。
「今日はありがとう。マラカにはいい経験になったわ」
「そうですね。シャウラにもいいお友達ができたようですし、良かったです」
「ナルも落ち着いてそうだし、明日までここに居ても大丈夫だろう」
ナルもシャウラも今晩一晩佐々木の家に泊めて、明日俺の家までナルを連れてきてくれる事になった。
「ねえ、早瀬さんは今日ここに泊まっていきなよ。帰っても一人なんでしょう。お母さんの料理すごく美味しいの、食べていってよ」
「ご迷惑じゃないですか」
「大丈夫、大丈夫」
早瀬さんもシャウラの事が気になっているようだし、俺も猫に慣れている早瀬さんに居てもらった方が安心だ。
泊まるなら着替えなど用意したいと、一緒に佐々木の車に乗って早瀬さんのマンションに寄ってから、俺を家に送ってくれた。
「篠崎班長、それじゃあまた。明日のお昼頃にはナルちゃんをお返ししますので」
そう言って佐々木は帰っていった。
今晩は俺一人か。ナルが居なくても寂しくはないぞ。寂しくなんてないんだからな。俺は涙をこらえて天井を見上げた。
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