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第二章

第21話 甘噛み

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【前書き】
話数の順序変更のため、20・21話は以前に投稿したものを再掲載しています。
一度読まれた方は申し訳ありません。明日22話から新しいものとなります。ご容赦ください。
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 休みの日など家にずっといる時は、俺の近くにナルがいることが多くなっている。甘えて寄ってくる事もあるし、俺の近くで寝ている時もある。

 俺は休日でも割と忙しくしている。一人暮らしという事もあるが、掃除や洗濯、買い物まで全て一人でやらないと駄目だからな。料理も自炊して外食などほとんど行かない。
 映画を見たり、本を読むのも好きだ。スポーツ観戦もしている。サッカーよりは野球の方が好きだが日本よりアメリカの大リーグの方が面白いな。平日に録画したものを休日に見るのが楽しみの一つだ。

 学生の頃は、スポーツもしていた。背が高くてガタイもいいからと、バスケットや柔道に誘われてやった事はあるが、まあまあの成績だったな。
 この前、ラグビーの国際大会があって地域にもフットボールクラブができて、そのイベントに参加した事もある。半日の体験教室でタックルなどを教えてもらい、でかい俺がみごとなタックルをするのを見て、クラブに入ってくれないかと言われたな。

 その他にも、本格的なプログラミングを趣味としてしている。商業系の学校だったから計算は得意だし、授業でもマクロ程度は習っている。こういう知識は会社でも活かせるから、会社で表計算のマクロを自分で組む事もある。

 最近は本格的なプログラムで作りたいものがあって、家で時間のある時はパソコンの前に座って趣味のプログラミングをしている時が多い。ナルも膝の上に乗って来てモニターに興味を示していたな。今はパソコンに向かっている俺の膝の上で丸くなって寝ている。

「こうやって大人しい時は、可愛いいもんなんだがな」

 あまり相手にしてやらないとキーボードの上に乗ったり、モニターの前に座り込んだりと邪魔されてしまう。
 ナルの気の済むまで遊んでやると、また大人しくなってキッチンやテレビの奥の方など、お気に入りの場所へと戻っていく。

 まあ、この程度の距離感がお互い一番いいのだろう。

 この間ナルの頭を撫でてやっていると、俺の指にかじりついてきた。甘噛みなので痛くはないのだが、俺が「イテテ」と声に出すと、俺を上目遣いで見て指から口を離してペロペロと噛みついていた指を舐めてくれる。
「痛かった?」とでも言っているみたいだ。

 俺が痛がっていると理解しているのだろう。しかし、その後すぐに舐めた指にまた甘噛みしてくる。俺が「イテテ」と言うと、口を離し指を舐めてからまた噛みつく。
 無限連鎖じゃないか。


 職場で早瀬さんにその事を話すと、「うわ~。カワイイ」と言われた。

「ねえ、ねえ。猫ってそんなに頭いいの。篠崎班長が痛がっているのが分かっているんだよね」

 興味津々で佐々木も話に入ってくる。いつもキャッキャッとうるさい奴だ。

「あのですね。仔猫の頃は、じゃれていても思いっきり噛みついてくるんですよ。その時に大きな声で怒って痛いと教えることで、手加減を覚えて甘噛みになっていくんです」

 ほう、そういうものなのか。俺はナルの幼い頃は知らんが、前の飼い主がちゃんと教えていたんだな。

「でも、痛いと言っただけで指を舐めてくれるなんて、ほんと頭のいい猫ちゃんなんですね。うちのシャウラにも試してみようかしら」
「犬は頭が良くて、色々な芸ができたけど、猫もそんな事ができるのね」

 俺とよく似た年齢の橋本女史だが、犬の事について詳しいようだな。

「橋本さんは、犬を飼っていた事あるのか」
「子供の頃にお友達が犬を飼っていて、よく家に遊びに行っていたのよ。お手とかお座りとか、人の言う事を良く聞いていたわね」

 俺たちが犬の事について話をしていたら、佐々木と同期の西岡も加わって来た。普段は男の俺ぐらいとしか話をしてないが、ペットの話なら女性陣とも話ができると思ったんだろう。

「俺ん家も、昔犬飼ってたんすよ。小学生の頃なんですけどね。犬は賢いですよ~。猫派か犬派かと言えば俺は断然、犬派っすね」

 西岡。自分だけ話に加われなくて寂しかったんだろうが、少しは周りの空気を読んでくれんか。猫が可愛いという話の中、俺は犬派だと主張しても争いになるだけじゃないか。

「散歩の時間になったら吠えて教えてくれるし、おやつが欲しい時は立ち上がって俺におねだりしてくるんすよ」
「それは、あんたが犬にいいように使われているだけじゃないの」

 そうだな。俺も佐々木の意見に賛成だ。
 西岡の飼っていた犬は日本産の中型犬だったようで、立ち上がると小学生の西岡と同じぐらいあったらしい。小さな西岡を自分の子分とでも思っていたんじゃないのか。

「いや、いや。ボールやフリスビーを投げると、口でキャッチして俺の所まで持ってくるんすよ。これってすごくないっすか」
「そうですね。猫はお手とかしませんし、何か芸を教えてもすぐ忘れちゃいますしね」

 単独で生活する猫。飼い主とのコミュニケーションも必要以上の事を覚えることはないのだろう。人に忠実な犬は飼い主との接点を持ちたがるのかもしれないな。まあ、おやつをくれるからやっているだけかもしれんが、餌をくれる人間は自分にとって必要なパートナーと見ているんだろう。

 お手やお座り、待てと言った行動は本来犬が生きていく上で関係のない行動だ。ペットの犬が人の社会で暮らすため、躾けとして人間が教えているだけだからな。
 猫に餌を前にして「待て」と言ったところで、「それに、なんの意味があるの?」と、そっぽを向かれるだけだろうな。

「でも甘噛みする、猫ちゃんの方が可愛いわよ」
「犬も甘噛みするっすよ。まあ、子犬の間だけっすけど……。さては佐々木は猫派だな。いつも俺に対抗してきやがって」
「なに言ってんのよ。西岡なんか眼中にないわよ」

 ほらみろ。犬派だの猫派だのと言いだすからこんな事になっちまうんだよ。

「まあ、まあ。それより西岡。お前、昼から主任の所に資料まとめて持っていかないとダメなんだろ。できてるのか?」
「そうだった! まだできてないんすっよ」

 昼休みももう終わりだ。西岡は既にパソコンに向かってキーを叩いている。他のみんなも自分の席へと向かう。まあ、職場でこんな他愛の無い話ができるのもナルのお陰か。
 ナルと暮らすようになってから、色んな事が変わり始めた。それがいい事なのか悪い事なのか分からんが、俺の生活の一部にナルがいてくれる事だけは確かだ。
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