【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~

水瀬 とろん

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第二章

第20話 猫草

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【前書き】
話数の順序変更のため、20・21話は以前に投稿したものを再掲載しています。
一度読まれた方は申し訳ありません。明日22話から新しい話となります。ご容赦ください。
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 ある日、餌が欲しい訳でもないのに、ナルが俺の足元で「ミャー、ミャー」としつこく鳴いている。休日の夜など餌の時間を忘れて遅れると、こんな風にまとわりついて来て餌をせがんだりすることはあるが、今はお昼になったばかりだ。

「どうしたんだ。そっちに何かあるのか?」

 どうも、キッチンの方に俺を連れて行きたいらしい。
 一緒にキッチンに行くと床にナルがゲロを吐いたようだな。胃液と内容物が床に広がっている。
 病気かとも思ったが、今のナルの様子を見るといたって元気だ。床を綺麗に掃除してから『猫の飼い方』の本を開く。

 猫は病気で嘔吐する場合もあるが、飲み込んだ毛玉を吐き出すために嘔吐すると書いてある。病気なら病院に連れて行かないと駄目だが、ナルをキャリーバックに入れるのはひと苦労だ。
 今は元気だし、俺を呼んで嘔吐した場所まで連れて行った事を考えると、いつもの事なのかもしれんな。

 ナルはよく躾けられている。小さな仔猫の頃から育てていたはずで人には慣れている。でも知らない人は警戒する。宅配の人が来た時は隅っこの暗い所に隠れて俺たちを観察していた。
 人に飼われて共に暮らす人懐っこさと、野生の警戒心が同居している。自分に異変があれば飼い主に知らせるような事もするのだろう。

「ちょっと調べてみるか」

 パソコンの電源を入れて、猫が嘔吐する原因を色々と調べてみる。やはり病気か毛玉を吐き出すのが大きな原因らしい。食べている餌が悪い場合もあるらしいが、同じ餌をここ数ヶ月与えて今まで異常は無いから餌ではないだろう。

「この餌に替えると毛玉を吐かなくなったと言うのは、只の宣伝だな」

 ネット上では虚偽の情報や金儲けのための宣伝が蔓延はびこっているからな。何でもかんでも信用するわけにはいかない。

「猫草? なんだ、これは」

 肉食動物の猫に草を与えて健康な体にする? 「本当かよ」と思って他のサイトも見てみたが、どうも草を食べさせて毛づくろいで胃に入った毛玉を便に排出したり、嘔吐する手助けをするようだな。

 ちゃんと猫草としてホームセンターでも販売しているようだ。別に無理に食べさせる必要もないようだが、毛玉を吐き出させる効果はあるみたいだな。
 確かにブラッシングしていると、ブラシに抜け毛が良く絡まりついている。猫の舌はざらざらしていて、毛づくろいをすれば抜け毛が胃の中に入るのは頷けるな。それが胃に溜れば苦しくなるのだろう。
 ちと、出かけて猫草を見に行ってみるか。

 自転車に乗り、近くのホームセンターに行ってみると確かに猫草と称して草が売っている。
 小さな鉢植え型や、種だけの物と各種並べられていた。タッパのようなプラスチックの入れ物に水を注ぐだけで草が生えてくるというのもあるな。

「まあ、安いし、これで一度試してみるか」

 家に買って帰り、早速中身を開けてみる。容器にはフカフカしたスポンジのような土がビニールに包まれている。これを容器に入れてそこに種をばらまくようだ。その上から水を説明書きに書かれた量を入れて、日の当たる屋内に置くらしい。
 日の当たる場所と言ってもな~。両側をマンションに挟まれたこの部屋では直接日が当たる場所はない。東の駐車場に面したキッチン横の小さな窓なら少しは明るいか。窓枠も広いしこの容器を置くことができそうだ。

 キッチン台のガスコンロ付近は火を扱う危ない場所だとナルは認識していて、この近くには寄ってこないし、イタズラもしてこんだろう。
 念のためキッチンからは見えないようにカーテンで隠しておこう。

 窓際に猫草のキットを置いて三日で芽が出てきた。時々水をやって十日もすると青々とした草に成長した。プラスチック容器いっぱいに長さ十センチ程の草が生えそろっている。

「ナル。これ食ってみるか?」

 床に猫草を置いたとたん、ナルが草を食べ始めた。

「ほんとに猫が、草を食べるんだな」

 そんなに欲しかったのかと思うくらい、一生懸命食べている。頻繁に与えなくてもいいらしいが、この分だともう一つ買っておかんとダメだな。
 前の飼い主は猫草をちゃんと与えていたのかもしれないな。すまんな、ナル。俺が未熟な飼い主で。草を食べると嘔吐の回数が増えると書いてあったが、苦しけりゃ吐いてくれていい。それくらいなら俺が掃除してやるよ。

 その後、ナルの健康状態は良好だ。一ヵ月に一度くらいは毛玉を吐き出しているようだが、キッチンかフローリングの部屋で吐いて、そして俺に知らせてくれる。
 キッチンは防水型のクッション床材になっているから、掃除もしやすい。それが分かっている訳ではないのだろうが、和室に俺と一緒にいる時もわざわざキッチンまで歩いて行って、毛玉を吐き戻していた。

「ナルはお利口さんだな」

 俺のテリトリーである和室を汚さないようにしてくれているのかも知れんな。
 猫の生態など俺が知らんことは沢山ある。お前も俺のことで知らない部分もあるだろう。徐々にでもお互い分かり合って暮らしていこうや。
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