上 下
17 / 50
第二章

第17話 お盆休み2

しおりを挟む
 ナルが慣れてきたところで、早瀬さんの猫、シャウラと顔を合わせして猫同士の相性を見るらしい。丸六日間とはいえ、この家の中で暮らすからにはナルとも仲良くなってもらいたい。

「それじゃ、私が隣の部屋でシャウラを抱き上げますので、篠崎さんはナルちゃんを抱いたまま隣に来てくれますか」

 お互いの飼い主が猫を抱いたまま座って、顔を合わせれば喧嘩にもならないだろうと言う。
 隣の部屋でシャウラと顔を合わせしたが、どうもナルは警戒して逃げようとしているのか、もぞもぞと腕の中で動いている。
 ナルを落ち着かせようと背中を撫でてやる。

「別に怒っている訳ではないが、相当警戒しているようだな」
「シャウラの方はそれほどでも無いようですね。遊んでもらいたそうにしてますから」

 歳をとった猫ほど、他の猫が自分のテリトリー内に入るのを嫌うそうだ。仔猫同士ならすぐにでもじゃれ合うらしい。ナルとは違って、シャウラはまだ2歳ほどだから柔軟なんだろう。

「もし、ナルちゃんが嫌うようなら、シャウラをこのキャリーバッグの中に入れて飼っていただいて結構です」

 早瀬さんが持ってきたキャリーバッグはハードタイプで少し大きめだ。猫のケージとして使ってほしいと言っている。

「そうだな。喧嘩されるよりはいいだろうな」

 ご飯やトイレなどは、この机の下でしてもらって、ナルを近づける時はバッグに入ってもらえばいいだろう。俺が時々遊んでやれば寂しくも無いだろうしな。

 早瀬さんは今日の夕方、新幹線で実家に帰るそうだ。こちらに帰って来るのは来週木曜日の夜、翌日にはシャウラを引き取りに来ると言っている。

「ねえ、ねえ。あたしは今年田舎に帰んないから、またナルちゃん見に来てもいい?」
「バカ。佐々木はもう来るんじゃねーよ」
「え~、つまんない」

 まあ、早瀬さんが引き取りに来る時にまた付いて来るんだろうが、それまでは俺もゆっくりしたいんだ。佐々木の暇つぶしに付き合ってられるか。

「それじゃ、気を付けて帰るんだぞ」
「はい。シャウラの事、よろしくお願いします」

 二人が帰った後、シャウラ用の餌を器に入れて、水を置いてあげる。餌は乾燥したキャットフードで、計量スプーンで測った量を与えればいいそうだ。

 キッチンに引き籠っていたナルを抱き上げて、奥の和室に向かう。色んな人が来てナルも疲れただろう。部屋で一緒にいてやろ。
 ナルを撫でてやっていると、ふすまが開いていく。

「ウニャ~ン」
「うおっ、こいつもふすまを開けられるのか!」

 自分の力でふすまを開けてシャウラが入ってきた。ナルよりも体は小さいし、早瀬さんのワンルームマンションにはこんなふすまは無いはずだ。でも器用にふすまの端に片手を入れて横に引いて開けている。
 部屋に入ってきたシャウラを見たナルがテレビ台の裏に隠れた。この分だと直接ナルと触れ合うのはまだ早いだろうな。

「仕方ない。少し遊んでやるか」

 人懐っこいシャウラは俺が色んな所を撫でてやっても嫌がらない。毛の手入れも行き届いているのか、つやつやでモフモフだ。手の肉球も触らせてくれる。爪を出してみたがちゃんと切り揃えてあって、これなら爪で引っ掻いても家具などを傷をつける事もないだろう。
 一通り遊んでやったら真ん中の部屋に行って、キャリーバッグの中に入って眠ったようだ。

「ナル。すまなかったな」

 まだテレビ台の裏でじっとこちらを見ていたナルに声をかける。ナルはシャウラばかり構っている俺に怒っているのか、すぐには出てこなかった。

 そういえば俺も弟ができた時に、弟ばかり可愛がる親を恨めしく思ったものだ。大人になってその時の事を母親に聞いたが、兄弟に対してまったく同じように接していたと言っていた。子供心としては自分への愛情が弟に向くのがたまらなく寂しかったんだろう。

「なあ、ナル。俺はお前の事を大事に思っているんだぞ。シャウラとは一週間程の短い間だけだ。仲良くしてやってくれんか」

 俺がそう優しく語り掛けると、ナルはテレビ台の後ろから出てきたくれた。ナルを膝の上に乗せて頭を撫でてやる。
 まだお盆休みは始まったばかりだ。出かける用事もあるが、明日からは昼間もずっとナルと一緒にいられる。

「少しぐらいは甘やかしてやるか」

 その日の晩は、ナルを布団中に入れてやり一緒に寝る。また明日も一緒に遊んでやるからな。


 翌朝、ナルに頬を引っ掛かれる前に起きる。

「おっ、何だ! シャウラもここで寝てたのかよ」

 ナルが寝ていた反対側の布団の上、俺の顔の辺りにシャウラがいる。左右をメス猫に挟まれて、これも両手に花と言うんだろうか……とバカなことを考えながら、ナルと一緒にキッチンへと向かう。

 朝の六時前。シャウラはまだ起きる時間じゃないんだろう、布団の上で幸せそうに寝ている。
 ナルに餌を与えて、水を替えて、トイレの掃除をする。休みの日であってもいつもと同じ事をしていく。今日からはシャウラの分の餌も用意する。

 自分の朝食を用意して和室へと行くと、シャウラも起きてきたみたいだが、まだ眠いようだな。
 早瀬さんは俺よりも会社に近い所に住んでいるから、朝早くに起きる必要もない。シャウラもそれに合わせた生活リズムなんだろう。もそもそとキャリーバック近くに置いた自分の餌の方に歩いて行った。

 朝のテレビを見ていたが、いつもならナルがこの部屋にやってくるんだがまだ来ないな。そうか、真ん中の部屋にシャウラがいるから来れないのか。仕方ない、俺がキッチンまで行ってやろう。
 ガラス戸の向こう、戸は少し開けているがこちらに来れなくて、ウロウロしているナルを抱きかかえて和室の部屋に行く。

 ナルも嬉しいのか「ニャ~」と鳴いてじゃれてくる。
 もう少し慣れてくればナルも気兼ねなくこっちに来れるのだろうが、それまでは俺がナルの所にお迎えに行くようにしよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ハピネスカット-葵-

えんびあゆ
キャラ文芸
美容室「ハピネスカット」を舞台に、人々を幸せにするためのカットを得意とする美容師・藤井葵が、訪れるお客様の髪を切りながら心に寄り添い、悩みを解消し新しい一歩を踏み出す手助けをしていく物語。 お客様の個性を大切にしたカットは単なる外見の変化にとどまらず、心の内側にも変化をもたらします。 人生の分岐点に立つ若者、再出発を誓う大人、悩める親子...多様な人々の物語が、葵の手を通じてつながっていく群像劇。 時に笑い、たまに泣いて、稀に怒ったり。 髪を切るその瞬間に、人が持つ新しい自分への期待や勇気を紡ぐ心温まるストーリー。 ―――新しい髪型、新しい物語。葵が紡ぐ、幸せのカットはまだまだ続く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...