【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~

水瀬 とろん

文字の大きさ
上 下
13 / 50
第一章

第13話 耳掃除1

しおりを挟む
 ナルとも随分仲良くなってきて、一緒におもちゃで遊ぶことも増えてきた。猫じゃらしであったり、小さなボールを与えると前足で突いたりして遊んでいる。スマホの猫じゃらしアプリも使った事があったが、あれは子猫用なのか、すぐに飽きてしまったようだ。

 一通り遊んだ後は膝の上に抱えて体を撫でてやる。頭の上やシッポの根元辺りが気持ちいいようだな。お腹も触らせてくれるようになった。お腹は弱い部分だから、信頼している人にしか触らせないと聞いた。俺の事を飼い主として認めてくれているのだろう。
 耳も触らせてくれる。耳の皮膚は薄くて根元にはモフモフの毛が生えている。触るとピクンと時折動かすが、敏感な部分なのかもしれんな。

「あれ、耳から変な臭いがするぞ」

 この臭いは耳の奥からだな。猫は耳掃除もしてやらないとダメだと本に書いていたように思う。
 本を手に取り調べてみると月に1、2回は掃除してやるといいそうだ。今まで耳の掃除などした事がなかった。
 綿棒やコットンにベビーオイルを塗って優しく掃除すれば良いと書いてある。独身で子供もいない俺はベビーオイルなど買った事がない。ドラッグストアにでも行ってみるか。

 店に行ったが、どのベビーオイルも量が多くて高いな。まあ、赤ちゃんの全身に使うんだからこれぐらいの量がいるのかもしれんが、猫の耳掃除のためにこんなにも要らんのだがな。家にあるサラダ油じゃダメなのか? 仕方ない。一番小さくて安い物を買って帰るか。

 家に帰り早速ナルの耳掃除をしてみる。

「ナル。こっちにおいで」

 爪切りをした時のように俺の前にちょこんと座らせて、後ろから抱くようにして耳の中を掃除する。時折、耳を動かしているが嫌がる事もなく大人しくしてくれて助かる。

 あまり耳の奥まで綿棒を入れないが、耳のヒダを拭いていくだけで綿棒の先がすぐに真っ黒になってしまう。相当汚れているようだな。
 耳は大事な器官だ。周りの状況を知るためにナルは良く耳を動かして音を聞いている。耳の奥には三半規管もあって俊敏に動けたり、空中で1回転して床に着地できるのもそのお陰だ。
 見える所は掃除できたように思うが、まだ耳の奥から嫌な臭いがする。

「こりゃ病院に行った方がいいかもしれんな」

 土曜日でも病院は開いているようだ。今度の休みに連れて行ってみるか。前にノミ退治用の薬をもらった動物病院。ここからなら歩いて十五分ほどで行ける。

 土曜日。病院に連れて行くために、ハードキャリーバッグにナル入れないといけない。ここにナルを連れて来た時に運んだキャリーバッグを、押し入れから取り出して床に置く。

「なあ、ナルよ。この中に入ってくれんか」

 ナルはまたどこか知らない場所に連れていかれると思ったのか、なかなか中に入ってくれない。抱えて中に入れようとしても暴れてすぐに逃げてしまう。
 どうすりゃいいんだ。こんな時はインターネットに頼ってみよう。調べていくと、洗濯ネットに猫を入れてからキャリーバッグに入れればいいと書いてあった。

「ほう、そんな方法もあるのか」

 幸いナルが入れる程度の大きな洗濯ネットは我が家にある。それを使えば猫は大人しくなるらしい。
 よし、ナル捕獲作戦の開始だ。

「さあ、ナル。こっちへおいで~」

 猫なで声でナルを呼ぶ。キャリーバッグは玄関に置いたまま、ナルをフローリングの部屋へと連れてくる。
 ナルの奴、俺の作戦に気がついたのか少し警戒しているな。洗濯ネットは後ろに隠して、ナルの背中を撫でてリラックスさせる。

 俺の足元で座り込んだナル。後ろに隠していた洗濯ネットを手に取ってナルの頭から被せる。おっ、上手くいったか。そう思ったがナルがまた暴れ出した。
 ネットに入れたら猫は大人しくなると書いてあったが、白い洗濯ネットから足を出してナルが暴れ回る。大人しくしてくれと覆いかぶさりネットのファスナーを急いで閉める。俺に上から抱かれるような状態でしばらくするとナルは静かになってくれた。

「すまんな、ナル。これもお前のためなんだ」

 洗濯ネットに入れたまま、ハードキャリーバッグの中にナルを入れる。中にいるナルと顔を合わせて「すまん、少しの間大人しくしてくれ」と頼む。

 病院までは歩いても行けるが、ナルを後ろに乗せて自転車で行こう。俺は車の運転免許を持っているが自家用車は持っていない。近場は徒歩か自転車で、少し遠くは125ccのスクーターがある。都会では公共交通機関も使いやすい。今まで車が欲しいと思った事はない。どうしても必要ならタクシーを呼ぶなり、レンタカーを借りればいい。

 荷台にナルを入れたキャリーバッグを括り付けて病院に行く。5分ほどで到着したが、小さな病院で駐車場は車1台しか停めるスペースがない。その横の壁際には何台もの自転車が停めてあった。その横に俺の自転車も停めて中に入る。
 ノミの薬をもらった時にナルと書かれた診察券をもらっている。それを受付に渡して事情を説明する。

「今日は、どうされました?」
「耳から嫌な臭いがしてるんだ。耳掃除をしてもらいたんだが、ここでできるかな」
「はい、大丈夫ですよ。この受付票に記入して、そこの椅子に掛けてお待ちください」

 今日もここの病院のお客さんは多いようだ。長椅子の隅っこに座って声がかかるまで待つ。ナルは諦めたのか、鳴きもせずにキャリーバッグの中で大人しくしてくれている。

 待合室には、犬や猫を入れたキャリーバッグを持った患者さんが六組いた。慣れているのかそのまま膝の上に乗せている小型犬もいるな。吠える事もなく大人しくしている。そういえば入り口の外で中型犬を連れていた人もいたな。あれも患者さんだろうか。
 だがペットを連れてきているのは女性ばかりだ。子供連れもいたが男性は俺だけだ。今日は土曜日。家族で飼っているんだから男が連れてきても不思議じゃないんだがな。

 そんな中、何十分も待ってようやく俺の順番が回ってきたようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

あやかしが家族になりました

山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ いつもありがとうございます。 当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。 ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。 母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。 一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。 ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。 そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。 真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。 しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。 家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。

下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*°☆.。.:*・°☆*:.. 楽しい旅行のあと、陰陽師を名乗る男から奇襲を受けた下宿屋 東風荘。 それぞれの社のお狐達が守ってくれる中、幼馴染航平もお狐様の養子となり、新たに新学期を迎えるが______ 雪翔に平穏な日々はいつ訪れるのか…… ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷

河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。 雨の神様がもてなす甘味処。 祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。 彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。 心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー? 神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。 アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21 ※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。 (2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)

マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年
キャラ文芸
おばあちゃんの家には【別の世界からのお客さん】がやってくる不思議な庭がある。 いつかそのおもてなしをする事を夢見ていた《加賀美イオリ》だったが その前におばあちゃんが亡くなり、家を取り壊そうと目論む叔母に狙われる羽目になってしまう。 悲しみに暮れるイオリの前に、何故か突然【お客さん】が現れたが それは、黒いマントに黒い鎧、おまけに竜のツノを生やしたとても禍々しい様子の《騎士様》で…… 穏やか少女と、苦労性黒騎士による、ほのぼの異文化交流お茶会ラブストーリー。 第4回キャラ文芸大賞にエントリー中です。面白いと感じましたら、是非応援のほどよろしくお願い致します。

神様達の転職事情~八百万ハローワーク

鏡野ゆう
キャラ文芸
とある町にある公共職業安定所、通称ハローワーク。その建物の横に隣接している古い町家。実はここもハローワークの建物でした。ただし、そこにやってくるのは「人」ではなく「神様」達なのです。 ※カクヨムでも公開中※ ※第4回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...