3 / 50
第一章
第3話 猫用品
しおりを挟む
「さて、俺も朝飯にするか」
俺の朝はいつものトーストとハムエッグ、そして牛乳だ。あなたはコーヒー派、それとも紅茶派? などと聞かれる事はあるが俺は牛乳派だ。暑い時は冷たい牛乳、冬はホットミルクに限る。
でもそんな事を人には言えない。三十歳を過ぎたいい大人が、あなた子供なのとバカにされてしまうからな。だが俺はコーヒーが全く飲めない。お腹の具合が悪くなるのだ。だから人に言うときは紅茶派と言っている。
できたトーストとハムエッグを持って奥の部屋に行く。
「おっと。このガラス戸はしっかり閉めておかないとな」
朝食をナルに邪魔されたくはない。一人だと少々扉が開いていようが関係なかったが、ナルがいるからこれからはしっかりと閉める習慣をつけないとな。
食事を終えてゆっくりテレビを見ていると、キッチンの方からガラス戸を引っ掻く音がする。ガラス戸を開けると俺の足にまとわりついて来る。またこの部屋で遊びたいのかもしれんな。
あいにく猫じゃらしのような遊び道具はここに無い。雑巾にしようと思っていた古いタオルがあったな。戸棚に押し込んでいた古着の中からタオルを取り出す。
「ほれ、ナル。このタオルを捕まえてみな」
俺はナルの頭の上で、派手な色のタオルをひらひらと揺らす。ナルが掴もうと手を伸ばすが掴まれないようにもっと上へと持ち上げる。
諦めたのか、両手を床に降ろしたナル。だが次の瞬間飛び跳ね顔付近まで飛んできた。そして俺が手に持っていたタオルを両手でしっかりと捕まえる。
うわっ。こいつこんなに飛べるのか!
驚いて後ろに倒れて、仰向けになった俺のお腹の上に、タオルと一緒にナルが着地する。
「ぐぇっ!」
不意を突かれて、みぞおちに強烈な一撃を食らってしまった。クリティカルヒットだ。ナルが尚もタオルを引っ張て、キッチンの自分の領地へと持っていこうとする。
そうはいくかよ!
タオルを引っ張て持っていかれないようにナルごと引きずる。力では俺の方が上だ。引っ張られて仰向けになり、背中を床に引きずられて体が伸びたナルの手からタオルが離れる。
ガバッと起き上がったナルが、俺の手にしたタオルにまた飛びついてきた。今度は取られないように口で噛んで両手の爪を引っ掛ける。宙に持ち上げようとしたがナルの勢いがすごくて床に引っ張られる。
猫に負けてなるかと、タオルごと上に持ち上げるとナルは取られまいと足で俺の胸に蹴りを入れてくる。ナルとタオルで取っ組み合いをしていたら、タオルがボロボロになってしまった。
「はぁ~、仕方ないな。そのタオルはお前にやるよ」
戦利品を勝ち取ったナルは、悠々とタオルを咥えてキッチンへと歩いて行く。戦いに敗れて俺はトボトボと奥の部屋へと引っ込む。遊んでやるつもりが、俺が遊ばれてしまった。
さて、そろそろ店が開く時間だ。今日の休みのうちに猫用品を買い足しに行かんとな。もらった猫砂は後一袋と少し。餌は十六缶のうち二缶を使っている。後一週間ぐらいは持つだろうが次の休みまで予備品として在庫しておきたい。
近所には駅の高架下に小さなスーパーと駅の向こうに大きなスーパーがある。このマンションからは歩いてすぐの場所だ。駅まで歩いて三分。その立地条件の良さからこのマンションの一室を借りることを決めた。古くて家賃もそれなりに高いが便利な場所だ。
出かけようとキッチンに行くと、さっきまでナルが遊んでいたタオルがボロボロになって床に置いてある。遊び飽きてそのまま放置したのだろう。何とも気まぐれな猫だ。ナルの姿を探したが見当たらなかった。冷蔵庫の上にも居ない。
ナル用のトイレを置いたサイドテーブルの反対側、壁の方に丸まって寝ているナルを見つけた。これなら俺がいなくても大丈夫だろう。俺は扉を開けて一階の駐輪場に行き、自転車に乗って一番近いスーパーへと向かう。
高架下のスーパー。食料品を主に売っている店だが、ペット用品や餌なども売っている。
小さなスーパーで、ペット用の棚にある用品の品数はやはり少ないな。今使っているのと同じ猫砂は置いてあったが、ナルが食べていた同じ缶詰の餌は無かった。
駅を越えて反対側の大型スーパーに行ってみる。ここは一階に食料品、二階に衣類などが売っている。三階には日用品や100円ショップもある。ショッピングモールという程大きくはないが、それなりの商品は置いてある。
ペット用品や餌などは一階の奥、別コーナーとして設置してあった。猫砂もあったし餌も同じメーカーの物が何種類か置いてある。ここなら全部揃いそうだな。
他のペット用品も見て回る。これは猫用のブラシか……だが高いな。金属製のブラシで二千円近くする。こっちは四千円だと! たかが猫のブラシでなぜそんなに高いんだ。猫じゃらしも売っていたが千円近くしているじゃないか。
「こりゃ、先に100円ショップだな」
猫砂や餌は仕方ないが、その他の物は安くても十分だろう。
テレビで芸能人が自分のペットを自慢している映像を見ることがある。広い部屋や庭で何頭ものペットが飼われていた。特別な餌を与えているとか、トリミングサロンに通っているだとかペットにいくら金をかけてんだよと思う。
金が余っているから使うのはいいが、何頭も一緒に暮らすペット自身はそれで幸せなのか? 飼い主がペットに囲まれて幸せだと思っているだけじゃないのか? 俺はああいうのはどうも好きになれない。
ナルとはこれから先ずっと一緒に暮らしていかないとならない。お互い無理のないように暮らしていきたいもんだ。
俺の朝はいつものトーストとハムエッグ、そして牛乳だ。あなたはコーヒー派、それとも紅茶派? などと聞かれる事はあるが俺は牛乳派だ。暑い時は冷たい牛乳、冬はホットミルクに限る。
でもそんな事を人には言えない。三十歳を過ぎたいい大人が、あなた子供なのとバカにされてしまうからな。だが俺はコーヒーが全く飲めない。お腹の具合が悪くなるのだ。だから人に言うときは紅茶派と言っている。
できたトーストとハムエッグを持って奥の部屋に行く。
「おっと。このガラス戸はしっかり閉めておかないとな」
朝食をナルに邪魔されたくはない。一人だと少々扉が開いていようが関係なかったが、ナルがいるからこれからはしっかりと閉める習慣をつけないとな。
食事を終えてゆっくりテレビを見ていると、キッチンの方からガラス戸を引っ掻く音がする。ガラス戸を開けると俺の足にまとわりついて来る。またこの部屋で遊びたいのかもしれんな。
あいにく猫じゃらしのような遊び道具はここに無い。雑巾にしようと思っていた古いタオルがあったな。戸棚に押し込んでいた古着の中からタオルを取り出す。
「ほれ、ナル。このタオルを捕まえてみな」
俺はナルの頭の上で、派手な色のタオルをひらひらと揺らす。ナルが掴もうと手を伸ばすが掴まれないようにもっと上へと持ち上げる。
諦めたのか、両手を床に降ろしたナル。だが次の瞬間飛び跳ね顔付近まで飛んできた。そして俺が手に持っていたタオルを両手でしっかりと捕まえる。
うわっ。こいつこんなに飛べるのか!
驚いて後ろに倒れて、仰向けになった俺のお腹の上に、タオルと一緒にナルが着地する。
「ぐぇっ!」
不意を突かれて、みぞおちに強烈な一撃を食らってしまった。クリティカルヒットだ。ナルが尚もタオルを引っ張て、キッチンの自分の領地へと持っていこうとする。
そうはいくかよ!
タオルを引っ張て持っていかれないようにナルごと引きずる。力では俺の方が上だ。引っ張られて仰向けになり、背中を床に引きずられて体が伸びたナルの手からタオルが離れる。
ガバッと起き上がったナルが、俺の手にしたタオルにまた飛びついてきた。今度は取られないように口で噛んで両手の爪を引っ掛ける。宙に持ち上げようとしたがナルの勢いがすごくて床に引っ張られる。
猫に負けてなるかと、タオルごと上に持ち上げるとナルは取られまいと足で俺の胸に蹴りを入れてくる。ナルとタオルで取っ組み合いをしていたら、タオルがボロボロになってしまった。
「はぁ~、仕方ないな。そのタオルはお前にやるよ」
戦利品を勝ち取ったナルは、悠々とタオルを咥えてキッチンへと歩いて行く。戦いに敗れて俺はトボトボと奥の部屋へと引っ込む。遊んでやるつもりが、俺が遊ばれてしまった。
さて、そろそろ店が開く時間だ。今日の休みのうちに猫用品を買い足しに行かんとな。もらった猫砂は後一袋と少し。餌は十六缶のうち二缶を使っている。後一週間ぐらいは持つだろうが次の休みまで予備品として在庫しておきたい。
近所には駅の高架下に小さなスーパーと駅の向こうに大きなスーパーがある。このマンションからは歩いてすぐの場所だ。駅まで歩いて三分。その立地条件の良さからこのマンションの一室を借りることを決めた。古くて家賃もそれなりに高いが便利な場所だ。
出かけようとキッチンに行くと、さっきまでナルが遊んでいたタオルがボロボロになって床に置いてある。遊び飽きてそのまま放置したのだろう。何とも気まぐれな猫だ。ナルの姿を探したが見当たらなかった。冷蔵庫の上にも居ない。
ナル用のトイレを置いたサイドテーブルの反対側、壁の方に丸まって寝ているナルを見つけた。これなら俺がいなくても大丈夫だろう。俺は扉を開けて一階の駐輪場に行き、自転車に乗って一番近いスーパーへと向かう。
高架下のスーパー。食料品を主に売っている店だが、ペット用品や餌なども売っている。
小さなスーパーで、ペット用の棚にある用品の品数はやはり少ないな。今使っているのと同じ猫砂は置いてあったが、ナルが食べていた同じ缶詰の餌は無かった。
駅を越えて反対側の大型スーパーに行ってみる。ここは一階に食料品、二階に衣類などが売っている。三階には日用品や100円ショップもある。ショッピングモールという程大きくはないが、それなりの商品は置いてある。
ペット用品や餌などは一階の奥、別コーナーとして設置してあった。猫砂もあったし餌も同じメーカーの物が何種類か置いてある。ここなら全部揃いそうだな。
他のペット用品も見て回る。これは猫用のブラシか……だが高いな。金属製のブラシで二千円近くする。こっちは四千円だと! たかが猫のブラシでなぜそんなに高いんだ。猫じゃらしも売っていたが千円近くしているじゃないか。
「こりゃ、先に100円ショップだな」
猫砂や餌は仕方ないが、その他の物は安くても十分だろう。
テレビで芸能人が自分のペットを自慢している映像を見ることがある。広い部屋や庭で何頭ものペットが飼われていた。特別な餌を与えているとか、トリミングサロンに通っているだとかペットにいくら金をかけてんだよと思う。
金が余っているから使うのはいいが、何頭も一緒に暮らすペット自身はそれで幸せなのか? 飼い主がペットに囲まれて幸せだと思っているだけじゃないのか? 俺はああいうのはどうも好きになれない。
ナルとはこれから先ずっと一緒に暮らしていかないとならない。お互い無理のないように暮らしていきたいもんだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ハピネスカット-葵-
えんびあゆ
キャラ文芸
美容室「ハピネスカット」を舞台に、人々を幸せにするためのカットを得意とする美容師・藤井葵が、訪れるお客様の髪を切りながら心に寄り添い、悩みを解消し新しい一歩を踏み出す手助けをしていく物語。
お客様の個性を大切にしたカットは単なる外見の変化にとどまらず、心の内側にも変化をもたらします。
人生の分岐点に立つ若者、再出発を誓う大人、悩める親子...多様な人々の物語が、葵の手を通じてつながっていく群像劇。
時に笑い、たまに泣いて、稀に怒ったり。
髪を切るその瞬間に、人が持つ新しい自分への期待や勇気を紡ぐ心温まるストーリー。
―――新しい髪型、新しい物語。葵が紡ぐ、幸せのカットはまだまだ続く。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる