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第5章 人族編
第138話 人族の子供
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翌朝、俺はいつものように剣の鍛錬を終えて部屋に戻ろうとしたら、屋敷の裏手で小さな女の子がひとりで遊んでいた。
「やあ、おはよう。ひとりかい?」
「おじちゃん、だあれ」
「おじちゃんはね、余所の国からこの国に来たんだ」
「だから変な格好してるのね」
冒険者の服そのままで来ているからな。この国の人にすれば変な恰好だろう。
「わたし、ここでママを待ってるの」
昨日言っていた、厨房で働いているという人の子供だな。
「今、ママは働いてるのかい」
「うん、もうすぐ終わると思うの」
「そうか、じゃあここで少し遊ぼうか。この指を見ててご覧」
小指をパチンと鳴らし水球を作り、頭の上までゆっくりと飛ばす。その子は驚いたように、パッチリと開いた目で水球を追って見上げる。それを上空で破裂させて雨のように降らせる。
「うわ~! なにこれ、すごい、すごい」
今度は水球を、子供の手に飛ばしてあげる。
「うわ~! 冷たい。なんでおじちゃんの手から水が出るの」
「これは、魔法って言って誰でもできるんだよ」
「魔法って言うの? でもこんなの初めて見た。パパもママもできないよ」
そういえば人族は魔法が使えないとか言っていたな。
「そんなことないさ。練習すればできるようになるさ」
少し髪の毛が濡れたか。ドライヤー魔法で乾かしてあげよう。
「これも魔法なの。気持ちいい」
キャッキャッ言いながら喜んでいる。
「まあ、すみません。うちの子と遊んでもらって」
屋敷の裏の扉を開けて、この子の母親が迎えに来たようだ。
「ママ、このおじちゃんすごいの。水がポンッて出てきてバシャンってなったの」
「まあ、良かったわね。すみませんでした、今日のお客様ですよね。失礼しました」
「いや、いいよ。俺にも村に残してきた娘がいるんでね。懐かしくなって遊んでしまった」
親子ふたりは楽しそうに屋敷の裏口の方へと向かった。俺の娘も大きくなると、あんなかわいい子に育つんだろうか。
朝食も、市長夫妻と秘書のエリカさんと共に摂る。
「昨日ハルミナが言っていた女の子と今朝会ったよ。可愛いな」
「そうでしょ。目がクリッとしてて、黒髪を揺らしてテクテク歩いていたわ」
「村に置いてきた、アキナを思い出したよ。元気にしてるかな」
アキトとアキナもまだ小さくて、言葉もしゃべれていないだろうが早く会いたいものだ。
そんな話をしていると、俺達の隣で食事をしていた秘書のエリカさんが話しかけてきた。まだ独身のエリカさんは、国外で結婚した俺の事に興味があるようだ。
「ユヅキさんには、お子さんがおられるのですか?」
「双子の子供を村に残してきている。まだ1歳にもなっていないんだがな」
「まあ、そうなんですか。カリンさんもお子さんと離れ離れで心配でしょう」
「そうね、でも村にはアイシャがいるから安心しているわ」
「村にはもうひとり獣人の妻がいてな。その妻との子供なんですよ」
「あら、もうひとり奥さんが……そういえば大陸では重婚なさる方もおられると聞いたことがありますね」
そうだぞ、大陸で重婚は犯罪じゃないからな。人族の国でどうだかはしらんが。
「するとその子供は、獣人とのハーフになるのかな」
市長も興味深げに聞いてきた。自分達には子供がいないからか、そのような話には関心があるようだな。
「いや、オオカミ族の男の子と、人族の女の子だぞ」
「獣人との間に、純粋な人族の子供が生まれるのか?」
「あなた、大陸ではそうだったじゃないですか。王国の王様も別種族のお子さんがいたでしょう」
「ああ、そういえばそうだったな。だが人族との間でもそのようになるとはな」
市長は驚いているようだが、姿形が違う者同士の子供も、種族のパーソナルを持ったまま生まれ、目や髪の色などを両親から受け継ぐ。まったく違う種族が共に暮らしているこの世界では当たり前の事だ。
「この国では、他種族との婚姻はしていないのか」
「そうだな、そのような夫婦は聞いた事がなかったのでな。失礼をした」
そういえば白い部屋でメイが言っていた。千年もしない間に復活させた人々が滅亡したと。それは子供が生まれなくなるのが原因じゃないのか。
受精卵の冷凍保存に関して、遺伝についても研究段階でちゃんと検証していたと思うが、何十代も先まで分かっていたわけではないだろう。受精卵から解凍して復活させた人類はそうなってしまうのかも知れない。
「村にそんな幼い子供を残してきているのなら、ユヅキ君は早く村に帰った方がいいんじゃないか」
「そうだな、こちらでの用も済んだし、帰る事を考えておかないとな」
「情勢が厳しくなってきている。この国から離れられるように私からも政府に進言しておくよ。エリカ君、そちらの手配も頼むよ」
「はい、市長」
それは助かるな。帝国との戦争に巻き込まれる前に帰りたいものだな。
「そうは言っても、今日もここに泊まってゆっくりなさったら。また旅のお話などもお聞きしたいわ」
こちらの方が居心地いいし、慌てて帰らなくてもいいな。宿泊施設の方には昨日のうちに連絡を入れてもらっているようだし、市長夫人の言葉に甘えさせてもらおう。
ここからは鐘半分で帰れる、明日の昼過ぎにここを出ればいいな。
「じゃあ、後でこの街中を見て回りましょうよ」
市長夫人とゆっくりおしゃべりをして、その後町を観光した。この町には千人程の人が暮らしているそうだ。
「首都のガクルックスよりは小さいけど、綺麗な街並みね」
「この辺りは四角く角張った建物が多いわ。ユヅキさん、何の建物ですかね」
ビルディング風の3、4階の建物だな。オフィスビルか?
「多分、ここは仕事をする区域だな」
窓から幾人もの人が机に向かっているのが見える。仕事をしている人を横目に見ながらぶらぶらと街を見て歩くが、仕事もせずなんだか悪いような気になってきた。
昔の俺もああやって忙しく働いていたな。なぜあそこまで無理をして働いていたのか、今振り返ると分からない。もう少し自由に生きても良かったように思う。
こちらの世界のように命の危険がある訳じゃない。転職する選択肢もあったはずだ。別の生き方を選択してもいい、死ぬ気でやれば何でもできたように思える。
働きすぎて大切なことを見過ごし、変な方向に走っていたのかもしれないな。ここに来て、もう前の世界に戻る事はできないと知った。俺はこの世界で精一杯生き、あの頃夢見ていたスローライフを追いかければいいさ。
「やあ、おはよう。ひとりかい?」
「おじちゃん、だあれ」
「おじちゃんはね、余所の国からこの国に来たんだ」
「だから変な格好してるのね」
冒険者の服そのままで来ているからな。この国の人にすれば変な恰好だろう。
「わたし、ここでママを待ってるの」
昨日言っていた、厨房で働いているという人の子供だな。
「今、ママは働いてるのかい」
「うん、もうすぐ終わると思うの」
「そうか、じゃあここで少し遊ぼうか。この指を見ててご覧」
小指をパチンと鳴らし水球を作り、頭の上までゆっくりと飛ばす。その子は驚いたように、パッチリと開いた目で水球を追って見上げる。それを上空で破裂させて雨のように降らせる。
「うわ~! なにこれ、すごい、すごい」
今度は水球を、子供の手に飛ばしてあげる。
「うわ~! 冷たい。なんでおじちゃんの手から水が出るの」
「これは、魔法って言って誰でもできるんだよ」
「魔法って言うの? でもこんなの初めて見た。パパもママもできないよ」
そういえば人族は魔法が使えないとか言っていたな。
「そんなことないさ。練習すればできるようになるさ」
少し髪の毛が濡れたか。ドライヤー魔法で乾かしてあげよう。
「これも魔法なの。気持ちいい」
キャッキャッ言いながら喜んでいる。
「まあ、すみません。うちの子と遊んでもらって」
屋敷の裏の扉を開けて、この子の母親が迎えに来たようだ。
「ママ、このおじちゃんすごいの。水がポンッて出てきてバシャンってなったの」
「まあ、良かったわね。すみませんでした、今日のお客様ですよね。失礼しました」
「いや、いいよ。俺にも村に残してきた娘がいるんでね。懐かしくなって遊んでしまった」
親子ふたりは楽しそうに屋敷の裏口の方へと向かった。俺の娘も大きくなると、あんなかわいい子に育つんだろうか。
朝食も、市長夫妻と秘書のエリカさんと共に摂る。
「昨日ハルミナが言っていた女の子と今朝会ったよ。可愛いな」
「そうでしょ。目がクリッとしてて、黒髪を揺らしてテクテク歩いていたわ」
「村に置いてきた、アキナを思い出したよ。元気にしてるかな」
アキトとアキナもまだ小さくて、言葉もしゃべれていないだろうが早く会いたいものだ。
そんな話をしていると、俺達の隣で食事をしていた秘書のエリカさんが話しかけてきた。まだ独身のエリカさんは、国外で結婚した俺の事に興味があるようだ。
「ユヅキさんには、お子さんがおられるのですか?」
「双子の子供を村に残してきている。まだ1歳にもなっていないんだがな」
「まあ、そうなんですか。カリンさんもお子さんと離れ離れで心配でしょう」
「そうね、でも村にはアイシャがいるから安心しているわ」
「村にはもうひとり獣人の妻がいてな。その妻との子供なんですよ」
「あら、もうひとり奥さんが……そういえば大陸では重婚なさる方もおられると聞いたことがありますね」
そうだぞ、大陸で重婚は犯罪じゃないからな。人族の国でどうだかはしらんが。
「するとその子供は、獣人とのハーフになるのかな」
市長も興味深げに聞いてきた。自分達には子供がいないからか、そのような話には関心があるようだな。
「いや、オオカミ族の男の子と、人族の女の子だぞ」
「獣人との間に、純粋な人族の子供が生まれるのか?」
「あなた、大陸ではそうだったじゃないですか。王国の王様も別種族のお子さんがいたでしょう」
「ああ、そういえばそうだったな。だが人族との間でもそのようになるとはな」
市長は驚いているようだが、姿形が違う者同士の子供も、種族のパーソナルを持ったまま生まれ、目や髪の色などを両親から受け継ぐ。まったく違う種族が共に暮らしているこの世界では当たり前の事だ。
「この国では、他種族との婚姻はしていないのか」
「そうだな、そのような夫婦は聞いた事がなかったのでな。失礼をした」
そういえば白い部屋でメイが言っていた。千年もしない間に復活させた人々が滅亡したと。それは子供が生まれなくなるのが原因じゃないのか。
受精卵の冷凍保存に関して、遺伝についても研究段階でちゃんと検証していたと思うが、何十代も先まで分かっていたわけではないだろう。受精卵から解凍して復活させた人類はそうなってしまうのかも知れない。
「村にそんな幼い子供を残してきているのなら、ユヅキ君は早く村に帰った方がいいんじゃないか」
「そうだな、こちらでの用も済んだし、帰る事を考えておかないとな」
「情勢が厳しくなってきている。この国から離れられるように私からも政府に進言しておくよ。エリカ君、そちらの手配も頼むよ」
「はい、市長」
それは助かるな。帝国との戦争に巻き込まれる前に帰りたいものだな。
「そうは言っても、今日もここに泊まってゆっくりなさったら。また旅のお話などもお聞きしたいわ」
こちらの方が居心地いいし、慌てて帰らなくてもいいな。宿泊施設の方には昨日のうちに連絡を入れてもらっているようだし、市長夫人の言葉に甘えさせてもらおう。
ここからは鐘半分で帰れる、明日の昼過ぎにここを出ればいいな。
「じゃあ、後でこの街中を見て回りましょうよ」
市長夫人とゆっくりおしゃべりをして、その後町を観光した。この町には千人程の人が暮らしているそうだ。
「首都のガクルックスよりは小さいけど、綺麗な街並みね」
「この辺りは四角く角張った建物が多いわ。ユヅキさん、何の建物ですかね」
ビルディング風の3、4階の建物だな。オフィスビルか?
「多分、ここは仕事をする区域だな」
窓から幾人もの人が机に向かっているのが見える。仕事をしている人を横目に見ながらぶらぶらと街を見て歩くが、仕事もせずなんだか悪いような気になってきた。
昔の俺もああやって忙しく働いていたな。なぜあそこまで無理をして働いていたのか、今振り返ると分からない。もう少し自由に生きても良かったように思う。
こちらの世界のように命の危険がある訳じゃない。転職する選択肢もあったはずだ。別の生き方を選択してもいい、死ぬ気でやれば何でもできたように思える。
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