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第4章 とある世界編

第115話 砂漠の町

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「さあ、ユヅキ。こいつの肉を町まで持って行くわよ。食べられるか分からないけど、何かの役に立つかもしれないわ」

 初めて見る巨大なミミズの魔物。下手をするとこちらが殺られていたかも知れないが、その命は無駄にしたくない。

「そうだな。カリンは逞しいな」
「私は力ないわよ。力仕事はあんたがやんなさい」

 輪切りにした肉と、口の周りの牙を馬に積んで次の町まで持っていこう。その町に冒険者ギルドがあるならそこで調べてもらえばいい。
 後の死骸はその場に置いて、俺達は町に向かう。

 砂漠を越えた先の町に辿り着いたのは夕方遅くだった。思ったより大きな町で城壁もしっかりしている。ここはリザードマンと少数の獣人が暮らす町。
 カリン達に宿を探してもらっている間に冒険者ギルドに行って、倒した魔物の魔石と肉を引き取ってもらおう。

「砂漠の街道に出た魔物なんだが、こいつを引き取ってくれるか」
「こりゃサンドウォームじゃないか。これが街道に出たのか!」
「ああ、ここから半日ほど行った砂漠の中だ。旅人が何人か殺られていたようだったな」

 街道に出没するサンドウォームの情報をギルドは知らなかったようだな。襲われた旅人は全滅して、報告する事もできなかったと言う事か。

「街道で狙われると防げなくて厄介な魔物なんだ。よく討伐してくれた」
「こいつの肉も持ってきたが、これは食えるのか?」
「食えないが乾燥させるといい薬になる。残りの肉を明日にでも取りに行かせよう」
「もう、他の獣に食われたかもしれん。それならもっと持ってくれば良かったな」
「いや、これだけでも充分だ。ここで買い取らせてもらうよ」

 魔石や肉の買い取りの他にも討伐報酬を上乗せして支払ってくれた。討伐依頼を受けていないので実績は付かないが、旅の途中の俺達にはこれで充分だ。
 タティナやカリン達が宿に荷物を置いて冒険者ギルドにやって来た。もう夜だし、このギルドの酒場で夕食にでもするか。

 俺達が席について食事を注文したが、どうも周りから注目されているようだ。リザードマンが多い中、俺達は種族が多彩だからな。
 それでも俺達が楽しくしゃべっていると、隣のテーブルのリザードマン達から声を掛けられた。

「あんた達かい。街道のサンドウォームを討伐したっていうのは」

 ギルドの酒場は情報交換の場でもある。珍しい事があればやはり話を聞きたくなるものだ。

「ああ、鉄みたいに硬い皮膚で苦労したよ」
「それにしても人族の冒険者とはめずらしいですね。それにそっちは海洋族の方かしら? 私初めて見ました」

 女性のリザードマンも気軽に声を掛けてくる。傭兵をしているダークエルフは見慣れているようだ。
 本当はひとり肌の色を変えたエルフ族が混じっているんだがな。隠れ里から出てこないエルフだ。白い肌を見れば大騒ぎになっていただろうな。

「人族はそれほど珍しくもないだろう。この南に人族の国があるんだから」
「でも私が護衛した人族は、魔法も剣も全然使えませんでしたから、冒険者になれる人族がいるなんて思いませんでしたわ」

 そういえば、人族は魔法が使えないと言う話は聞いたことがあるな。人族は黒髪で俺と同じような東洋風の顔立ち、噂では目が赤いと聞いたがそんな事はないだろう。
 姿形は俺と同じはずだが、やはりどこか違う人類なのか。

「砂漠から来たということは、あんたは里帰りか? するとこれから南に行くんだな」
「ああ、そのつもりだ」

 この町を越えると少数民族のいる南部地方だ。その南端の港まで行かないといけない。

「今はやめといた方がいいと思うぞ。南の端で内戦が起こっていると噂になっている」
「少し小競り合いがある程度と聞いていたが」
「どうも、南の部族全部が共闘して戦っているらしいぞ」
「共闘? そんな事できるのか」
「少数民族は各部族で独立性が高いからね。そうそう共闘なんて考えられないんだけど、今は南部地方の全域で争いが起きているそうよ」

 思っていたよりも激しい戦闘が行われているようだな。ダークエルフの里にしたように村を焼くような事をしていれば、共闘し対抗するのかもしれんが。

「それで皇帝が怒って南部地方に、大勢の兵を派遣しているらしいぞ」
「だから戦闘が激しくなっているらしいわ。今は近づかない方がいいと思うわよ」

 それが本当の事なのか、それを口実に少数民族すべてを排除しようとしているのか分からんが、大きな戦闘が起こっていることは確実なようだな。

「北の国境近くで、俺が人族だからと捕まえようとした帝国兵がいたが、南の事と関係あるのか?」
「人族か……初代皇帝が人族の事を書いたと言う文書が出てきたそうだ。俺は信じちゃいないが、人族を滅亡させられなかった事を悔やんで、後世の皇帝に人族の滅亡を願ったらしいな。それに従うのが今の帝国の役目だという連中もいる」

 今の皇帝は建国した勇者の言葉で国を治めていると、スティリアのおじいさんが言っていたな。人族を国の敵として、国をまとめようとしているのか。

「そうそう、『俺達は勇者の末裔だ。人族を滅ぼせ』って言う連中よね。ごめんなさい、私達はそんな事思ってないけど過激な連中もいるのよ」

 そんな昔の事を今さら持ち出して、俺を捕まえようとしているとはな。だが昔の大戦でここにあった国は、人族に滅ばされたはずだ。その後、勇者によって帝国が建国されたと聞いたが。筋違いもいいところだな。

「帝国は今の人族と全面戦争をするつもりなのか」
「国内の少数民族とは違うし、他国との戦争までは考えてないと思うわ」
「人族との大戦の話を聞いている俺達は、あんな恐ろしい人族とまたやり合うなんて考えられんよ。おっと、昔の人族の話だ、気を悪くしないでくれよ」

 ここでも人族は恐ろしい者だという話が伝わっているようだな。この地域では実際に人族と戦っている、その記憶が受け継がれているんだろう。

「そういえば、北の端でも独立すると言っている部族がいるって聞いたわね。この帝国はどうなっちゃうんでしょうね」

 北の部族とは、ダークエルフ族の事だな。南での戦闘が続く中、北でも独立闘争が起こるとは、帝国として統制が取れていないのか。

「今の皇帝の力は弱いのか? 今までなら抑えられていたんじゃないのか」
「一部離反した貴族もいたらしいが、粛清されたと聞いたしな。それほど力が弱くなっているとは思えんな」
「そうね、何かあればすぐ兵を送り出しているしね」

 本当に強い皇帝なら、そのような事も表沙汰にならず、小さいうちに潰して情報統制もすると思うが。弱体化している可能性もあるのか。

「南の端から船が出ているはずだが、今どうなっているか知っているか?」
「南端の港は人族の物だから使えるとは思うが、そこまで行くのは難しいだろうな。特にあんたのような人族がいるとすぐ捕まっちまうんじゃないか」
「そうよね、情勢が落ち着くまで待った方がいいんじゃないかしら」
「今の皇帝の名前はなんと言うんだ」
「今は14代皇帝、グレリオス・ダウネル2世・アルゴールだ。アルゴールの名を持つが、直系でもなんでもないな」

 このアルゴール帝国は、初代皇帝の名前をそのまま使っている。帝都もアルゴールと言う名の都市だしな。

 初代皇帝が偉大だったせいか、それにあやかり一族の系統でなくともその名を冠する皇帝は多いそうだ。
 大戦で荒れ果てた土地を勇者アルゴールが引き継ぎ、徐々に広げて一代でこの帝国を建国したと言う。
 まあ、おとぎ話ではあるのだが、大戦から復興して帝国を築いたのは本当なのだろう。
 さすがこの南部地方まで来ると、いろんな話を聞くことができるな。俺達は有用な情報を手にし宿に戻る。
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