【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

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第4章 とある世界編

第107話 ハルミナの靴1

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 しばらくして、ハルミナが銅の網と銅線を持って部屋にやって来た。早いな、この樹上にあるエルフの里には鍛冶屋でもあるのか。

「ユヅキさん、持ってきたわよ。これで作ってくれるかしら」
「靴に穴を開ける道具はあるか?」
「道具類や針とか糸も持ってきているわ」

 早く作ってもらいたいのか、色々と準備しているようだ。靴底に穴を開けて銅線を通して、靴の中敷きに取り付けた銅の網に接続する。

「問題はここだな」

 魔道部品の場合、風魔法を付与しやすいように靴底との距離や角度を、魔道具師であるシルスさんに教わって取り付けている。
 今回は銅線だけで同じ事をするのだが、どうすればいいのか分からない。まずは魔道部品と同じような角度で、銅線の先を靴底に向けて固定して実験してみよう。

「片足だけ作ってみた。これを履いて風魔法が付与できるか試してくれ」
「うん、ありがとう。やってみるね」

 ハルミナがいそいそと靴を履いて早速魔力を流し込んだ。靴底に風魔法が発動して少し浮き上がるが安定しない。浮き上がる距離も上がったり下がったりと不安定だ。

「魔法付与というのは難しいものなのか?」
「そ~ね。魔力を満遍なく広げる感じだから、その濃淡を均一にするのが難しいわね」

 エルトナ王国で開発された魔道部品は、国家で管理し機密にするほどの性能を持つ。魔力自体は小さいがどのような物にでも使え、魔道具の基本部品として使われる優れ物だ。
 どの属性でも変換してくれて、一定の魔力を出す製品だからな。人がやると難しいのかもしれんな。

「薄く広げるというなら、銅線の先端を叩いて広い銅の板のようにしてみるか」

 先端を何回か折り曲げてハンマーで叩き、広げて靴底に張り付ける。

「これで、どうだ?」
「なんだか弱くなって、かかとの部分が地面に着いちゃってるわ」

 取り付ける方向を変えたが、今度はつま先が地面についてしまう。

「逆か……今度は先端を尖らせて1点に魔力を集中させてみるか」

 折り曲げて広げた銅線を切断して、先端を削って三角錐にする。その尖らせた先端を靴底にくっつけて固定してみた。

「すごいわね、さっきと違って安定しているわ。属性付与の魔力制御はいるけど、それほど気を遣わなくても大丈夫みたい」

 シルスさんは取り付ける角度が大事だと言っていたな。角度を変えると浮き上がる高さや前後のバランスが変わる。
 流す魔力量を多くしたら高く浮き上がるわけではない。一定量さえ超えれば動作は同じになる。付与魔法というのはそのようなものらしい。

「よし、後は固定する木枠を作れば大丈夫そうだな」

 これは鍛冶師か靴職人に頼んで作ってもらった方がいいな。俺達が里をウロウロ歩き回るのは良くないそうなので、靴の図面を描いてあとはハルミナから頼んでもらおう。
 ハルミナは意気揚々と図面を持って職人の所に出かけて行った。しかしその後、半べそをかきながら裸足で帰って来たじゃないか。

「おい、どうしたんだ」
「何なのよこれ~。帰る途中で転んじゃったじゃない」

 履いていた風の靴が不意に動作して転んでしまったようだ。膝に擦り傷もある。悪い事をしてしまったな。

「すまない、すまない。スイッチの事を言うのを忘れていたよ」

 通常は魔力が流れないように、風の靴の側面に付けたスイッチを切っている。そのスイッチが入ったままだったようだ。
 膝に軟膏を塗って、靴のスイッチを切り靴を履いてもらう。

「よし、それじゃ、高速移動の練習をしてみようか」

 部屋の外の長い廊下で練習をしてもらおう。落ち着いた状態でスイッチを入れて靴に魔力を流してもらう。
 俺が手を引っ張りながら滑る感覚を覚えてもらうが、尻もちをついたり転んだりと上手く滑れない。どうもこの子は運動神経が無いようだな。

「どうだ、滑る感覚が分かってきたか?」
「ええ、な、なんとかなりそうよ」
「じゃあ次は、腰に手を当てて後ろ向きに風魔法を発動して前に進んでくれ」
「こうね。う、うわぁ~」

 勢いがつきすぎたのか、また転んでしまった。こりゃカリンよりも不器用なようだ。先は長くなりそうだな。

「はぁ~。何やってんのよ」

 その様子を見ていたカリンが廊下にやってきた。

「エルフって魔法だけは得意だと思ってたけど、大したことないわね」

 いや、魔道部品を使わずに体を浮かせて進んでいるんだから、魔法の技術としてはすごい事だぞ。

「今、練習してるんだから邪魔しないでくれるかしら」
「こんな簡単なこともできないなんて。こうやるのよ」

 カリンがスーッと滑ってみせる。お前だって最初の頃は盛大に転んでたじゃないか。

「ほら、ハルミナ。俺が支えてやるから練習しような」

 横で支えながら、俺も風の靴を起動し一緒になって滑る。

「ハンッ! お手て繋いでなんてダサいわね」
「あんた生意気ね、年下のくせに。まだ成人もしてないんじゃないの」
「私は19歳よ。とっくに成人してるわよ」
「なに言ってんのよ。19歳なら未成年じゃない」

 ここはエルフ族の里だ、成人年齢も違うようだな。

「ハルミナ。成人って何歳からだ?」
「24歳に決まってんでしょう。私は26歳よ」
「ちなみに聞くが、エルフ族の寿命って何歳だ」
「200歳ぐらいよ。それがどうしたっていうのかしら」

 やはり長寿命の種族のようだな。その分精神年齢はカリンと変わらんのじゃないか?

「エルフはどうか知らないけど、私達の成人は16歳なの。もうユヅキとも結婚してるんだから」
「ユヅキさん、この娘と結婚してるんですか! そんなの犯罪でしょう」

 うん、確かにそうだな。結婚したのは17歳の時だったし、俺の世界でもこれは犯罪だな。重婚もしてるし色々な意味でダメだろうな。
 カリンはハルミナとふたりで練習しているのが気にくわなかったんだな。やきもちを焼いてくれるのは嬉しいが、あまり突っかかるなよ。

「今日は最初だからな、これぐらい滑れれば上等だ。また明日練習しよう。カリンも教えてやれよな」

 今日は靴を作ったり、練習したりでハルミナも疲れただろう。俺もカリンやハルミナの相手をして疲れたよ。今日はここまでにしてくれ。
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