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第4章 とある世界編

第90話 村からの旅立ち

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 馬車に荷物を積み込み、俺の我がままを許してくれたアイシャとチセに最後の別れを告げる。

「アイシャ、チセ。行ってくるよ」
「これからどんどん寒くなってくるわ。ユヅキさん、体には気をつけてね」
「師匠、早く帰って来て下さいね」
「キーエ、キーエ」

 キイエの頭を撫でて、俺は人族の国を目指して村を旅立つ。
 キイエは最後まで俺に付いてきたそうにしていたが、アイシャ達の護衛のため村に残ってもらう事にした。お互い言葉は分からないが、俺が真剣にお願いするとキイエは納得してくれたようだ。

 港町まではいつも買い出しに行っているご夫婦に、馬車で送ってもらう。

「ユヅキさん達がいなくなると、村も寂しくなるな」
「そんなに長くかからないわよ。行って帰るだけなら3ヶ月ぐらいで行けるんじゃないの」
「帝国内の道は共和国のように整備されていないから、もう少しかかるな。1ヶ月は余分に見ておいた方がいい」
「ねえ、ユヅキ。船でビューンっていけないの」
「首都レグルスまでなら行けるだろうが、その先はどうかな。タティナ、帝国にも港町はあるんだろう」
「ああ、あるがあまり大きな船を見たことがない。そのあたりは海洋族に聞けば分かるんじゃないか」

 タティナも長く旅をしてきているが、船の旅はしたことがないと言っていたな。
 翌日。港町に到着して、早速港の海洋族が詰めている小さな建物に入った。中には海洋族の職員がひとりと、冒険者風の男3人がテーブルを囲んでいた。
 ここは海洋族にとっての、冒険者ギルドか役場のような場所みたいだ。カウンターの奥で机に向かって仕事をしている男性職員に声をかける。

「すまない、人族の国まで船で行きたいのだが」
「直接、人族の国へ行く船はないな。明日レグルスへ行く船が入港予定だ。それに乗ってもらうことはできるぞ」
「このふたりも一緒に乗るが、構わないか」

 タティナに聞いていた通り、船に乗せてもらえるか尋ねてみる。

「お付きの護衛だね。すまんが、お付きの人は1人王国銀貨で30枚、帝国銀貨なら40枚必要だ。乗船時に支払ってくれるか」

 職員は引き出しから、料金表らしき書類を取り出し答えてくれた。
 それにしても1人銀貨30枚とは安いものだな、しかも俺はタダか。陸路なら10日間、1人銀貨100枚以上するだろうな。

「ここからレグルスまでは何日かかるんだ」
「天候にもよるが、2日と半日だな。レグルス港から首都レグルスまでは、馬車なら鐘1つで着けるよ」
「ありがとう、また明日来るよ」

 タティナの言っていた通り、人族なら船に乗せてもらえるようだ。今日のところは宿に泊まって、明日またここに来ればいいな。表で待つ村人に挨拶しておこう。

「ここまで送ってくれて、ありがとう。明日船に乗る事ができそうだ」
「それは良かった。俺達はここで買い出しをしてすぐに村に帰る。ユヅキさん、気をつけて行ってきてくれ。帰りを待っているよ」

 名残惜しそうに手を振る村人と別れ、いつもの宿に向かい俺達3人で街中を歩く。

「そういやタティナと、このカイトスの町に来たことなかったよな」

 村に来て1年近くになるが、タティナは必要がなければ遊びなどで町に行くことはないからな。トリマンですら用事があった時に数回行っただけだ。

「この町は初めてだな。旅していた時も小さな町には寄らなかったからな」
「それじゃあ、おいしい魚料理を食べに行きましょうよ。タティナはお魚好き?」
「好きでも嫌いでもないが、カリンが言うなら美味しいのだろう。楽しみだ」

 俺達は宿を探し、荷物を置いてから夕暮れのレストランに向かう。

「船で2日半、首都レグルスまで約3日とはな。船だと早いのだな」
「船なら1日中、海上を走っていられるからな。それに陸より海の方が距離が短い分早く着くんだろう」
「そのまま、人族の国まで行けたら、2週間くらいで行けるんじゃないの」
「港の船を乗り継いで行ければ、それぐらいで行けるかもしれんな」

 それなら楽に旅できるんだが。まずは次のレグルス港だな。

 翌朝。船が港に入港した頃、宿を出て港に向かう。
 既に停泊している船は、荷降ろしや商人への受け渡しなどのため、忙しく人や物が行き交っていた。

 ここもそうだが、多くの人達が今の地球に生きている……人類ではない人達。人類が居なくても、この惑星はこんなに賑やかで生き生きしているじゃないか。いつもの港町の風景だが、ここが地球だと考えると不思議な感覚におちいってしまう。

「君は昨日来た人族だな。今、管理官は忙しいので先に書類にサインしてくれるか」

 港の詰め所には昨日と違う海洋族の職員がいたが、話は聞いているようだ。言われるまま、差し出された書類にサインし料金を支払う。
 しばらくすると管理官らしき海洋族の男が、この建物に入ってきた。俺より少し年上だが働き盛りといった貫禄のある人だ。

「君達かな、船に乗りたいというのは」

 書類を片手に話し掛けてくる。

「ユヅキ・ミカセ殿と後2人だな。私は一等管理官のボノバという。一緒に来てくれるか、船室に案内しよう」

 自分達の荷物を背に担ぎ、ボノバの後について船に乗り込む。船は小型フェリーぐらいの大きさの帆船で、甲板には多くの荷物がロープで縛られて積み込まれている。
 船の階段を降りて案内されたのは、2段ベッドが2つある小さな船室だった。

「私はまだ仕事があるので、これで失礼する。船の中は自由にしてもらって結構だ。昼過ぎには出港予定となっている」

 俺達に必要事項だけを伝えて、ボノバという管理官は階段を上っていった。

「ねえ、ユヅキ。まだ時間はあるし、船の中を見て回りましょうよ」
「船員の邪魔にならんようにしろよ」
「分かってるわよ」

 タティナも船は珍しいのか、一緒に付いて回る。
 俺達の部屋の隣りにも、客室なのか倉庫なのか分からないが同じような部屋が並んでいる。船の大きさからすると、この区画は前半分といったところか。

「そこの階段を降りてみよう」

 俺達の1階下が船底だろうな。降りると広い部屋が1つあって、壁際に船員の荷物と枕がずらりと置かれていた。多分ここは船員が寝泊まりする部屋だな、ベッドは無く雑魚寝で寝られるようになっている。
 帆船には2本のマストがあった。その木の柱が天井を突き抜け、部屋の中央にある。近くで見ると、かなりでかいな。
 隣りの部屋は食堂と厨房のようだが、そこにも木の柱がドンとそそり立っている。

「今度はこっちの階段から上に登ってみましょうよ」

 そこは俺達の船室と同じ階だが船の後方だな。区画が別れていて直接俺達の部屋にはいけない構造になっている。ここの部屋は広いようで、扉も豪勢だ。

「この部屋何かしら。あれ、鍵がかかってるわね」

 カリンが鍵のかかった部屋ノブをガチャガチャと回す。

「うわっ、やめろよ!」

 多分ここは船長室か何かだ、お偉いさんに怒られるぞ。カリンを連れて慌てて階段を登った。
 上は甲板で、荷物の積み込みも終わっていて、船員もまばらだ。ドラの音が響き渡り、いよいよ出港のようだな。
 係留してあった綱を外して帆を張り、風を受ける。積み荷を乗せた帆船は静かに港を離れていった。


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【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。
 
【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。
 共和国~帝国~人族の国付近の地図

 小説の参考にしていただけたら幸いです。
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