【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

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第4章 とある世界編

第88話 ~とある世界~ この世界

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「……キさん、ユヅキさん。もう朝ですよ」

 アイシャの声で起きた時、辺りは明るくなっていた。ここはどこだ? 俺の家か……なんだか、懐かしい夢を見ていたような気がする。

「まあ、ユヅキさんどうしたの、涙なんか流して」

 俺は泣いていたのか?

「ユヅキさん。今日の朝食は食べられそうですか?」
「心配かけたようだな。だがもう少し独りにしてくれないか」

 食事だけを受け取り、部屋に籠る。
 今朝、俺に声を掛けてくれたアイシャは、紛れもなくこの現実世界にいる。
 そして昨日の夜も俺はISSを見た。あれは人工衛星の軌道だ。もっと夜空を眺めていれば別の人工衛星も見つけられるだろう。この惑星のすぐ近くを回っている人工天体。やはりここは地球なのか。

「いったい何年経っているんだ」

 すると俺の家族はとっくに死んでいるのか、父さんや、母さん、陽香里や美宇も。なぜだか急に家族の事が鮮明に思い出される。
 俺ひとりだけがこの世界に来たのか。もう、帰れないのか……。また涙が零れた。



 夜、俺は夜空を眺める。この世界の月は無くなっている。木星も土星もない。内惑星の金星はあるようで、朝には明けの明星として光輝いている。ここは地球……。
 夜空の天の川を見ると十字に交わる形になっている。天の川とは俺達の太陽系が属している銀河を横から眺めたものだ。すると交差している銀河はアンドロメダ大星雲か? 俺達の銀河系の隣にある、同じ規模の渦巻状の銀河系。

 俺の時代、アンドロメダ大星雲が銀河系に近づいて来ていることは分かっていた。確か40億年後にぶつかると試算されていたな。40億年後なら、残り50億年の寿命を持つ太陽が末期になり巨大化しているはずだ。今の太陽を見る限り燃料の水素はまだ充分にあり、健全な状態に見える。
 今の1年は360日だ。時間が経ち自転が遅くなったんだろう。数憶年規模の時間が経過しているのは間違いない。

 するとアンドロメダが近づくのが早かったのか。宇宙の距離や近づく速さなど正確には分からない。半分ぐらいの20億年でぶつかっていても不思議じゃない。
 試算などちょっとした誤差や見落としでコロリと変わるものだ。宇宙自体の年齢も250億年だとか130億年だとかどんどん変わっていたものな。

 アンドロメダ大星雲と銀河系がぶつかったとしても、潰れたり爆発する訳じゃない。お互いに属している星や太陽系が間を通り抜けるだけだ。
 星と星との間はスカスカで真空の空間が広がっている。ここから一番近い星でも4光年以上も先だ。
 別の銀河の星が来て密度が2倍になっても、星同士がぶつかったりはしない。いずれはアンドロメダと俺達の銀河は一つの銀河系になるのだろう。

 だがそれは平均の話だ。月が無くなり、土星や木星が無くなった事を考えると、俺達の太陽系に接近したアンドロメダの太陽系があったということか。
 そんなニアミスが起これば、重力が乱れ惑星の動きに大きな影響を与える。その影響は太陽から遠い外惑星ほど大きくなる。

 もしかしたら木星なども外側のガス雲だけが吹き飛ばされ、芯の固体の惑星は残っているのかも知れない。地球のすぐ外を回る火星も影響を受け軌道が変わったのか、あの赤い星を夜空で見つけられない。

 火星は太陽系の外にはじき出されたか、逆に太陽方向に落ち込む可能性もある。もし火星が地球軌道に侵入すれば、お互いの引力で衝突する可能性は高い。衝突すれば、地球と火星の双方が破壊されるはずだ。

 だが地球には月がある。地球のような惑星には不釣り合いな巨大な質量を持つ月。火星、あるいは巨大な小惑星が接近しても、盾として地球を守る事もできただろう。
 月は地球の身代わりになって破壊されたのかもしれないな。その名残があのリングか……。


 だが分からない事が1つある。この世界には魔法があるじゃないか。地球にそんなものは無かったぞ。
 だが状況からすると、この世界は未来の地球でちゃんと存在している現実世界だ。前の地球になかった魔法がなぜここに存在している?

「ダークマターか……」

 ダークマター、暗黒物質と呼ばれる目に見えない物質がこの宇宙には大量に存在することは既に知られている。俺達の目に見えている物質以上の量がこの宇宙空間に存在するという。
 だがダークマターも偏在している。物質と同じように宇宙に一様に存在するわけじゃない。

 俺の時代の太陽系にはダークマターは希薄で、アンドロメダがぶつかってきたこの時代にはダークマターが充満していると考えることはできないだろうか。その暗黒物質が魔素なら……。

 俺の体内には魔力がある。それは元々あったもので、俺が特別ではなく人類誰もが持っているはずだ。ただそれに反応する魔素がなかった。その魔素がダークマターというなら、今の俺に魔法が使えても不思議じゃない。

 別の銀河系がぶつかって来たなら、重力的には嵐が来たようなものだ。その中、大量のダークマターが太陽系に運ばれてきたという仮定は、あながち外れていないように思う。
 俺の時代、魔法が使えなかった人類は科学を発展させた。もし魔素があり魔法が使えていたなら、別の文明が築かれていたのだろう。


 朝になった。一晩考えたが分からない事だらけだ、これを解決できるのは……。

「人族の国か……」

 俺と同じ人々が住むと言う国。そこに行けば俺やこの地球の事が分かるんじゃないか? だがこの大陸の南の端、その海の向こうに人族の国はあると言う。
 アイシャやカリン、それに生まれたばかりの子供達を残して、そんな彼方の地へと行くのか?
 この村には俺が愛する人がいて、望んでいたスローライフを送れる場所があるじゃないか。この世界に来て、やっと手に入れた貴重な場所だ。

 別にここが遥か未来の地球であろうが関係ない。今までと同じようにここでみんなと楽しく暮らせればそれでいい。
 それに人族の国に行ったからといって、全ての事が分かるとは限らない。そこには多くの人族が住んでいると言うが、その人達全員が俺と同じようにこの世界に飛ばされて来たとは思えない。

 そうだ何も考えず、この村でアイシャ達と楽しく、手に入れたスローライフを送ればいいじゃないか。

「本当に、それでいいのか……」

 ベッドに座り、静かに天井を見つめ自分に問いかける。自分自身の事も分からず、なぜこんな世界に来たのかも分からず、不安を抱えたままここで暮らすのか?

 俺は決断してアイシャの元に行く。
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