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第4章 とある世界編
第86話 ~とある世界~
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「アイ・エス・エスだと!!」
ISS、国際宇宙ステーション。俺がいた頃には既に現役を退き、記念碑として地球の周りを回っていた。各モジュールにその国の国旗を取り付け、地上から見えるようにして宇宙空間を飛んでいたはずだ。
「あれはアメリカの星条旗と日本の日の丸だった……」
その国旗を取り付けたモジュールが望遠鏡で見えたのだ。大半のモジュールや太陽光パネルは壊れていたが、ゆっくり自転しながら地上400km上空の軌道を周回している。
「なぜISSがこの世界にある……」
いや違う! ここが地球なのか!
一体どういうことだ! この世界は獣人やその他の種族達が暮らす、ファンタジーな世界じゃないのか。
第一自転が逆じゃないか、太陽は西から登り東へ……。
いや、ここは南半球か……。北と思っていたのは本当は南か? だが北極星があったじゃないか。本当に南だとすると南極星になるが、そんなものは存在しないはずだ。
そうか、あのISSの壊れ具合を見ても俺が生きていた時代とは違う。相当な年月が経過しているかもしれない。
地軸のコマ運動で何万年か周期で北極星は移動する。南極も同じだ。俺の時代に南極星は無かったが、時が巡れば南極の地軸の先に明るい星が来ることもある。
だが本当に地球なのか? どれだけ時間がたっているんだ。俺はなぜ生きている?
いろんな思いが頭の中を駆け巡り混乱してきた。いつの間にか俺は自分の部屋でベッドに座り頭を抱えていた。
窓も開けず暗い部屋でうずくまっているとアイシャが入ってきた。
「どうしたの、ユヅキさん。もう朝よ。朝食の準備ができたわ」
いつの間に朝になっていた? アイシャの声が遠くに聞こえる。
「さっきから呼んでいるのに、いったいどうしたの? 体の具合でも悪いの?」
「アイシャ、アイシャ、アイシャ……」
俺はアイシャに両手で抱きついた。ここにいるのはアイシャだ。まぎれもなく俺が愛したアイシャだ!
ここが地球!? そんなバカな事があるものか。
俺の様子を見て心配したのか、アイシャが部屋まで食事を持ってきて一緒に食べてくれた。何を話したかも覚えていない。何か独り言を言っていたように思う。
その後、俺は独りベッドで横になる。
「師匠。家の外にあった大きな遠見の魔道具は、倉庫にしまっておきましたよ」
「ユヅキ、今日の討伐は私がやっておくわ。あんたはそこで休んでいなさい」
チセやカリンが俺に声をかけてくれている。俺はベッドで頭から布団を被り起き上がる事ができない。
「どっちが現実なんだ」
アイシャもカリンもチセもいる。だがその声は遠くに聞こえ現実感がない。それとも俺が見た国際宇宙ステーションが夢だったのか。いや、俺ははっきりと見た。映像で何度も見たISSが壊れながらもこの星を回っていた。
タイムスリップ? 俺だけが?
何がきっかけでこの未来へ飛ばされたんだ? そう言えば、ここに来る前に大地震があった記憶がある。それが原因か……。
ならば元の時間に戻る事も……いや時の流れは一方通行だ。そんな都合よくタイムスリップが起き、過去に戻ることなど不可能だ。やはりここが現実の世界だと受け入れる他ないのか……。
考えれば考えるほど、分からない事だらけだ。では俺をこの世界に連れてきた、あの白い部屋の女神様はいったい誰だ? 俺を生まれ直して、人類を救えと言ってなかったか?
「ユヅキさん、食事は食べられる?」
アイシャが部屋に食事を運んできた。もう夕食か。
俺の顔色は相当悪いようだ、心配そうにアイシャが顔を覗き込む。落ち込んだ時や夜眠れない時に効くという、良い香りのする薬草の塗り薬も持ってきてくれた。
「体の具合が悪くても、食事は摂った方がいいわ」
「すまない、あまり食べたくないんだ」
食事が喉を通らない。水とスープを2口ほど口に入れたが、味はほとんどしなかった。温かい物が胃に落ちたが、それすらも気持ち悪く感じてしまう。
横でベッドに座るアイシャは、俺に寄り添い優しく声をかけ励ましてくれる。
「アイシャは、アイシャだよな」
「そうよ、ユヅキさん。私はいつもあなたの傍にいるわ」
やはりこれは現実だ。手に取ったアイシャの両手は暖かい。俺を気遣い、いつもの透き通った綺麗な声で話をしているのは、まぎれもない狼族のアイシャだ。ゲームのキャラクターや夢の中の人物では決してない。
陽が沈み、俺は家の外に出てみた。外はすっかり暗くなっていて辺りは静かだ。
昨日と同じくらいの時間だろうか、東の地平線から小さな星がゆっくりと夜空を移動する。昨日より光が弱く、意識しないと見逃してしまいそうだが、あれは人工衛星の軌道だ。昨日見た宇宙ステーション、今は自転してあまり光らない部分をこちらに向けているのだろう。
「お前はどうしてこんなところを回っているんだ」
俺の問いに誰も答えない。小さな光は昨日と同じような軌道を通り、俺の頭上を通り過ぎて行った。
部屋に戻りベッドに入ると、急に眠気が襲ってきた。そういえば一昨日から一睡もしていない。
いやこれは違う……俺が女神様の白い部屋から落ちて行った時と同じ感覚だ! 暗い中、星のような光が飛び去って行く。俺はどこに向かっているんだ。
ISS、国際宇宙ステーション。俺がいた頃には既に現役を退き、記念碑として地球の周りを回っていた。各モジュールにその国の国旗を取り付け、地上から見えるようにして宇宙空間を飛んでいたはずだ。
「あれはアメリカの星条旗と日本の日の丸だった……」
その国旗を取り付けたモジュールが望遠鏡で見えたのだ。大半のモジュールや太陽光パネルは壊れていたが、ゆっくり自転しながら地上400km上空の軌道を周回している。
「なぜISSがこの世界にある……」
いや違う! ここが地球なのか!
一体どういうことだ! この世界は獣人やその他の種族達が暮らす、ファンタジーな世界じゃないのか。
第一自転が逆じゃないか、太陽は西から登り東へ……。
いや、ここは南半球か……。北と思っていたのは本当は南か? だが北極星があったじゃないか。本当に南だとすると南極星になるが、そんなものは存在しないはずだ。
そうか、あのISSの壊れ具合を見ても俺が生きていた時代とは違う。相当な年月が経過しているかもしれない。
地軸のコマ運動で何万年か周期で北極星は移動する。南極も同じだ。俺の時代に南極星は無かったが、時が巡れば南極の地軸の先に明るい星が来ることもある。
だが本当に地球なのか? どれだけ時間がたっているんだ。俺はなぜ生きている?
いろんな思いが頭の中を駆け巡り混乱してきた。いつの間にか俺は自分の部屋でベッドに座り頭を抱えていた。
窓も開けず暗い部屋でうずくまっているとアイシャが入ってきた。
「どうしたの、ユヅキさん。もう朝よ。朝食の準備ができたわ」
いつの間に朝になっていた? アイシャの声が遠くに聞こえる。
「さっきから呼んでいるのに、いったいどうしたの? 体の具合でも悪いの?」
「アイシャ、アイシャ、アイシャ……」
俺はアイシャに両手で抱きついた。ここにいるのはアイシャだ。まぎれもなく俺が愛したアイシャだ!
ここが地球!? そんなバカな事があるものか。
俺の様子を見て心配したのか、アイシャが部屋まで食事を持ってきて一緒に食べてくれた。何を話したかも覚えていない。何か独り言を言っていたように思う。
その後、俺は独りベッドで横になる。
「師匠。家の外にあった大きな遠見の魔道具は、倉庫にしまっておきましたよ」
「ユヅキ、今日の討伐は私がやっておくわ。あんたはそこで休んでいなさい」
チセやカリンが俺に声をかけてくれている。俺はベッドで頭から布団を被り起き上がる事ができない。
「どっちが現実なんだ」
アイシャもカリンもチセもいる。だがその声は遠くに聞こえ現実感がない。それとも俺が見た国際宇宙ステーションが夢だったのか。いや、俺ははっきりと見た。映像で何度も見たISSが壊れながらもこの星を回っていた。
タイムスリップ? 俺だけが?
何がきっかけでこの未来へ飛ばされたんだ? そう言えば、ここに来る前に大地震があった記憶がある。それが原因か……。
ならば元の時間に戻る事も……いや時の流れは一方通行だ。そんな都合よくタイムスリップが起き、過去に戻ることなど不可能だ。やはりここが現実の世界だと受け入れる他ないのか……。
考えれば考えるほど、分からない事だらけだ。では俺をこの世界に連れてきた、あの白い部屋の女神様はいったい誰だ? 俺を生まれ直して、人類を救えと言ってなかったか?
「ユヅキさん、食事は食べられる?」
アイシャが部屋に食事を運んできた。もう夕食か。
俺の顔色は相当悪いようだ、心配そうにアイシャが顔を覗き込む。落ち込んだ時や夜眠れない時に効くという、良い香りのする薬草の塗り薬も持ってきてくれた。
「体の具合が悪くても、食事は摂った方がいいわ」
「すまない、あまり食べたくないんだ」
食事が喉を通らない。水とスープを2口ほど口に入れたが、味はほとんどしなかった。温かい物が胃に落ちたが、それすらも気持ち悪く感じてしまう。
横でベッドに座るアイシャは、俺に寄り添い優しく声をかけ励ましてくれる。
「アイシャは、アイシャだよな」
「そうよ、ユヅキさん。私はいつもあなたの傍にいるわ」
やはりこれは現実だ。手に取ったアイシャの両手は暖かい。俺を気遣い、いつもの透き通った綺麗な声で話をしているのは、まぎれもない狼族のアイシャだ。ゲームのキャラクターや夢の中の人物では決してない。
陽が沈み、俺は家の外に出てみた。外はすっかり暗くなっていて辺りは静かだ。
昨日と同じくらいの時間だろうか、東の地平線から小さな星がゆっくりと夜空を移動する。昨日より光が弱く、意識しないと見逃してしまいそうだが、あれは人工衛星の軌道だ。昨日見た宇宙ステーション、今は自転してあまり光らない部分をこちらに向けているのだろう。
「お前はどうしてこんなところを回っているんだ」
俺の問いに誰も答えない。小さな光は昨日と同じような軌道を通り、俺の頭上を通り過ぎて行った。
部屋に戻りベッドに入ると、急に眠気が襲ってきた。そういえば一昨日から一睡もしていない。
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