上 下
250 / 270
第3章 俺のスローライフ編

第77話 ふたりの赤ちゃん

しおりを挟む
 アイシャの出産の後、しばらくは幸せな気分に浸っていたが、現実はそれほど甘いものではなかった。
 赤ちゃんのオシメを取り替えたり体を洗ったり、泣き出すたびにアイシャがお乳をあげるなど大変である。

 頻繁に授乳もしないといけないので、ゆっくり寝ることもできないアイシャは疲れ気味だ。ふたりいるから幸せも2倍だが、その分苦労も2倍だ。
 アイシャも俺もバタバタしながら赤ちゃんの世話をする。

「ユヅキさんの子供が生まれたんですって」

 薬師のスティリアさんが訪ねに来てくれた。

「アキトとアキナだ。アキトがお兄ちゃんで、アキナが妹なんだ」
「まあ、可愛い赤ちゃんね。アイシャさん似かしら」

 俺よりも、凛々しいアイシャに似て育ってくれたほうがいいな。髪の毛というか細い産毛なのだが、ふたりとも黒髪だ。俺の髪よりアイシャの艶やかな髪の毛になってくれた方がいい。

「スティリアさん。赤ちゃんを抱いてみるか?」
「え~、でもなんだか恐いですね。自分が抱いても大丈夫でしょうか」

 俺もそうだったが、こんな小さな赤ん坊を抱くのは戸惑う。村長の奥さんに抱き方を教えてもらって、やっと抱くことができたものな。

「うわ~、フニャフニャで柔らかいですね~。カワイイ」

 スティリアさんは恐々ながらも、赤ん坊を抱いて笑顔になる。
 抱いている赤ちゃんを横から見ていたカリンが俺に尋ねてくる。

「でもアキナの口元はユヅキに似てて、双子なのにそっくりじゃないのね」
「そりゃ、二卵性なんだから当たり前だろう」

 男の子と女の子だしオオカミ族と人族、完全に二卵性の双子だ。歳の違う兄妹が一緒に生まれてきたのと同じだからな。

「ニランセイ? またユヅキは分からない事言っているわね。まあ、ふたりとも可愛いからいいんだけど」

 我が家で初めての子供だし、カリンもチセもよく赤ん坊の世話をして可愛がってくれている。

「自分もこんな赤ちゃんが欲しくなってきました」
「あんたはその前に、旦那さんを見つけないとダメでしょう」
「そうですよね~。誰かいい人いませんかね~」



 いつも食事を食べに来ているタティナが、今朝は赤ちゃんのいる部屋にやって来た。

「これがアイシャの赤ちゃんか。このふたりがアイシャのお腹に入っていたとは、すごいものだな」

 まあ、今は生まれたばかりよりも大きくなったが、確かに赤ちゃんがお腹の中にいるというのは女体の神秘だ。それが2人となれば尚更だ。どうりであんなにお腹が大きかったわけだ。

「タティナ、抱いてみるか?」
「いや、あたいはいい。落としてしまいそうで怖いよ」

 ベットに寝ている赤ん坊に触っているだけで満足なんだろう。

「うおっ、指を掴んできたぞ」

 赤ちゃんの手に指を近づけると、無意識だろうがギュッと握ってくる。

「ユ、ユヅキ。ど、どうしたらいいんだ」

 指を握って離さない赤ん坊に困っているタティナは、凄腕の魔法剣士とは思えないぐらいオタオタしている。
 それでも赤ちゃんを見て微笑む表情は、女性ならではの美しさだ。こんなタティナは見たことがないな。

「アイシャはまだ無理だが、魔獣が村に来たら俺も出る。その時は遠慮なく呼んでくれ」
「自警団もいるし、大概の事はあたい達で充分だが、何かあればユヅキにも頑張ってもらう。ユヅキも子供を守らないといけないのだろう」
「ああ、そうだ。俺の大事な家族だからな」

 この村は魔の森に囲まれている。減ったとはいえどんな魔獣が村を襲うか分からない。
 居場所は自ら守る。それは村でも町でも同じだ。城壁があってもスタンピードが起これば壊滅してしまう。この世界は常に魔獣の驚異にさらされている。戦える者が命を懸けて戦う。当たり前のことだ。


 赤ん坊はアイシャの母乳で育てている。しかしいつもお乳を与え続けるのもアイシャが疲れる。なにせ昼夜関係なく与えないといけないからな。

「師匠、これが新しい哺乳瓶です」

 この世界で哺乳瓶といえば、素焼きの陶器だった。お乳を入れる口が大きく開いていて、お茶を淹れる急須のような形だ。内面もざらざらしていて不衛生なように見えた。
 そこでチセとコーゲイさんに相談して、新しい哺乳瓶を作ってもらった。

 お乳を入れる容器はチセにガラスで作ってもらい、哺乳瓶の上部はコーゲイさんに焼き物で作ってもらう。不衛生にならないように、ルツボと同じ白いツルツルした磁器で作ってもらった。

「師匠の言っていたように、ガラス容器と上の焼き物には突起物を作って、回して取り付けるようになっています」

 ガラスと磁器のつなぎ目はネジのような構造で、回すと密着するように作ってもらっている。

「この部分には苦労させられたが、上手くできたよ。完全ではないが中のお乳が漏れることはないぞ」

 哺乳瓶の乳首部分は、シリコンゴムなどがないこの世界では焼き物になるのだが、ちゃんとしたノウハウはあるようだ。

「この吸い口部分は大きさを変えてある。赤ん坊に合うものを使ってくれるか」

 赤ん坊の好みや成長によって大きさを変えるようだ。

「ありがとう、これで楽にお乳をあげることができるよ。中身も良く見えるし、ありがとうな、チセ」
「えへへ、お役に立てて良かったです」

 これなら綺麗に洗って清潔に何度でも使える。
 沢山作ってもらい村の他の赤ちゃんにも使ってもらう。哺乳瓶を斜めにしても零れないと好評だ。
 村のみんなにも協力してもらい、家族全員で俺達の子供を育てていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

処理中です...