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第3章 俺のスローライフ編
第70話 カリンの弟子2
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俺がいつものように朝の鍛錬をしていると、カリンも早起きして腹式呼吸やストレッチなどの体操をしにやって来た。
「ねえ、ユヅキ。私って最初の頃、どんな練習をしてたっけ」
「そうだな、腹式呼吸の次は、発声練習をしていたな」
「そうね。『ああ~~』ってやるやつよね」
「だがそれが魔法の練習になるかは分からんぞ」
「いいの。私がしてた事をセルンにもやってもらうわ」
こいつも、セルンのために一生懸命教えようと考えているんだな。
「あっ、そうだ。セイタイってやつもセルンにしてあげてよ」
「見る限り大丈夫なようだが……まあ、一度診てみるか」
体が歪んでいたカリンの背骨や骨盤を整体で整えてやったことがある。体の中を流れる魔力をスムーズに巡らせる事には確かに効果があった。魔術師には正しい姿勢も重要な事のようだ。
朝食後、カリンがセルンを連れて俺の部屋にやって来た。
「ユヅキはね、アイシャの大怪我を直したお医者様でもあるのよ。セルンもユヅキが光魔法で怪我を治しているのを見たことがあるでしょう」
「はい。お父さんも怪我を治してもらいました」
「今日はセルンの体を少し診てもらう事にするわ」
俺は医者と言う程の知識はないが、前の世界の一般的な知識はあるし、体術を習っていて体の動きなどについても知識はある。
セルンに体の歪みが無いか、上半身裸になってもらい背骨や骨盤の位置を見る。セルンは少し恥ずかしいのか胸を隠しているが、診るのは背中だけだから問題はない。
立った姿勢や座った姿勢などを診たが異常はなかった。
「セルンもういいよ。異常は無いが、常日頃から正しい姿勢をするように」
「はい、ありがとうございました」
「それとストレッチという体操をして体を柔らかくするといい。怪我しにくい体になるからな。体操はカリンに教えてもらってくれ」
「はい、分かりました」
午前中はカリンと腹式呼吸の練習と体操をするそうだ。午後からは魔法の講義や自分の部屋の掃除をした後は、普通に村の子供と遊んだりおしゃべりしたりする。子供の頃には友達と遊ぶ事も大事だからな。
夕食の後はお風呂に入って、今日はチセがセルンを自分の部屋に連れて行って、添い寝をしてくれるようだ。チセも可愛い妹ができたようだと喜んでいる。
まだ慣れない家だろうが魔法の修業ばかりじゃなくて、セルンにはここで楽しく暮らしてほしいものだ。
翌日は腹式呼吸の練習と発声練習をするようだな。
「あ~~」
「セルン、お腹いっぱいに息を吸って、一定の音量で声を出してみて」
「あ~~~~」
「大きな声じゃなくていいわ。長く持続できるようにもう一度」
一緒に練習を見ていたチセが話しかけてきた。
「師匠。面白い魔法の練習方法ですね」
「まあな。普通の方法で魔法が使えない、大魔力のカリン向けの方法なんだ」
「へぇ~、こんな方法もあるんですね」
夕食の後、今夜セルンはアイシャの部屋に行くようだ。セルンを見届けた後カリンとふたりで話し合う。
「カリン。魔法の教え方は、俺達がやって来たやり方でいいのか」
「今までのやり方で魔法が使えなかったんだから、それでいいんじゃない」
「今までと言うと、町の教会で教えてもらう方法だな」
町の教会では子供に魔法の使い方を教えている。これには魔術師協会も関わっていて、魔術師学園で学ぶ基礎的な事を、教会から一般の人に教えてもらい実践している。この村でもその方法が浸透しているようだ。
魔術師協会は、無料で子供の魔力量や属性を調べて、有能な子供に魔術師学園への案内状を渡して学園に入学してもらう。ゆくゆくは魔術師協会や国の機関で働いてもらおうという訳だ。
なかなか良いビジネスモデルじゃないか。
「あんな教会の方法じゃ、魔法は上手くならないわ」
カリンは俺と共に独自の方法で大魔力を制御し、大きな魔法を発動させる方法を探し出した。教会や魔術師協会の教えとは全く違うオリジナルだ。
それゆえ正しいのか、カリン以外にも通用するのかが分からない。
「私達の方法でやってみて、その上で魔術師協会の魔術を勉強したいと言うなら、それはセルンに任せるわ」
「そうだな。まずはセルンの魔法を発動させることに集中しよう」
翌日からもセルンに腹式呼吸法や発声練習をして、体の中の魔力を感じられるようになってきた頃、カリンが魔法の発動方法について教える。
「いい、セルン。今まで教えてもらっていた、魔法の発動方法は全て忘れなさい」
「えっ、全部忘れるんですか」
「そうよ。今から私が言う事をよく聞いてやってみなさい」
「はい、分かりました。お師匠様」
「ここにリンゴがあるわ。この中心に串を差してゆっくり回す。これがあなたの魔力全体と思いなさい」
「はい」
「そしてここにナイフを当てて、皮を薄く切る。この薄い皮を腕を通して指先に持っていくの。そして指先から放出して魔法を発動させるのよ」
大魔力の扱い方を初めて聞いたセルンには、少し難しいようだな。カリンがセルンの背中に手を添えて魔力を回すことを教える。
「お腹を中心にあなたの魔力全体をゆっくり回しなさい」
背中に当てた手を右回りに回して、魔力の巡りを教えてゆく。
「お師匠様、今まで教えてもらったのと逆に回転させるんですか」
「そうよ、呼吸はゆっくりと。私の手に合わせてお腹を中心に魔力を回しなさい。ゆっくりでいいわ」
まあ、回転させる方向は左右どちらでもいいんだがな。カリン自身がしている方法が一番教えやすいだろう。
「どうかしら」
「はい、引っ掛かりがなくて、体の魔力がスムーズに回っている感じがします」
カリンがセルンの右肩に手を置いた。
「ここにさっき言ったナイフがあると思いなさい。ここで魔力を薄く切って右腕から手に流すの」
「はい、やってみます」
セルンが目を閉じて、体内の魔力を回す事に集中する。そして薄く切った魔力を手に流すイメージを思い描く。
「指に魔力が集まっているような感じがします」
「そのままの状態で人差し指を鳴らしてごらんなさい」
パチン――
セルンが指を鳴らすと同時に小さな炎が現れた。あわてて指を振ると炎は前に飛んで消える。
「セルン、できたじゃない」
「は、はい。指から炎が出ました。魔法がちゃんと指から出ましたよ」
初めての魔法にセルンも感動し、指先を掲げてピョンピョン飛び回る。
「良かったなセルン。お前もちゃんと魔法が使えるぞ」
「はい、はい。本当にありがとうございます。お師匠様。ユヅキおじ様」
うれし涙を流しながら俺とカリンに抱きついてくる。
初めて魔法を使えた時は、本当に嬉しいものだ。セルンは他の子が使える魔法が使えないと悩んでいたそうだからな、ひときわ嬉しいだろう。
「それじゃ、今の感覚を忘れないように、風と土の属性も練習してみましょうか」
「はい。お師匠様」
その後、中指の風と薬指の土魔法をやってみたがちゃんと発動した。念のため小指の水魔法をやってみたが、これは発動しなかった。さすが魔術師協会の魔力量測定器は正確だな。
今のところ魔法は発動したが、制御はまだまだできていない状態だ。途中で消えることもあるし、大きくなりすぎることもある。今後は発声練習のように、一定量の魔力を長く継続して出していく練習をしないといけない。
何はともあれ、セルンの初めての魔法を祝おう。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。セルンのイラストを投稿しました。
【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。
(第2部 第2章 70話以降) イメージイラスト(セルン)
小説の参考にしていただけたら幸いです。
「ねえ、ユヅキ。私って最初の頃、どんな練習をしてたっけ」
「そうだな、腹式呼吸の次は、発声練習をしていたな」
「そうね。『ああ~~』ってやるやつよね」
「だがそれが魔法の練習になるかは分からんぞ」
「いいの。私がしてた事をセルンにもやってもらうわ」
こいつも、セルンのために一生懸命教えようと考えているんだな。
「あっ、そうだ。セイタイってやつもセルンにしてあげてよ」
「見る限り大丈夫なようだが……まあ、一度診てみるか」
体が歪んでいたカリンの背骨や骨盤を整体で整えてやったことがある。体の中を流れる魔力をスムーズに巡らせる事には確かに効果があった。魔術師には正しい姿勢も重要な事のようだ。
朝食後、カリンがセルンを連れて俺の部屋にやって来た。
「ユヅキはね、アイシャの大怪我を直したお医者様でもあるのよ。セルンもユヅキが光魔法で怪我を治しているのを見たことがあるでしょう」
「はい。お父さんも怪我を治してもらいました」
「今日はセルンの体を少し診てもらう事にするわ」
俺は医者と言う程の知識はないが、前の世界の一般的な知識はあるし、体術を習っていて体の動きなどについても知識はある。
セルンに体の歪みが無いか、上半身裸になってもらい背骨や骨盤の位置を見る。セルンは少し恥ずかしいのか胸を隠しているが、診るのは背中だけだから問題はない。
立った姿勢や座った姿勢などを診たが異常はなかった。
「セルンもういいよ。異常は無いが、常日頃から正しい姿勢をするように」
「はい、ありがとうございました」
「それとストレッチという体操をして体を柔らかくするといい。怪我しにくい体になるからな。体操はカリンに教えてもらってくれ」
「はい、分かりました」
午前中はカリンと腹式呼吸の練習と体操をするそうだ。午後からは魔法の講義や自分の部屋の掃除をした後は、普通に村の子供と遊んだりおしゃべりしたりする。子供の頃には友達と遊ぶ事も大事だからな。
夕食の後はお風呂に入って、今日はチセがセルンを自分の部屋に連れて行って、添い寝をしてくれるようだ。チセも可愛い妹ができたようだと喜んでいる。
まだ慣れない家だろうが魔法の修業ばかりじゃなくて、セルンにはここで楽しく暮らしてほしいものだ。
翌日は腹式呼吸の練習と発声練習をするようだな。
「あ~~」
「セルン、お腹いっぱいに息を吸って、一定の音量で声を出してみて」
「あ~~~~」
「大きな声じゃなくていいわ。長く持続できるようにもう一度」
一緒に練習を見ていたチセが話しかけてきた。
「師匠。面白い魔法の練習方法ですね」
「まあな。普通の方法で魔法が使えない、大魔力のカリン向けの方法なんだ」
「へぇ~、こんな方法もあるんですね」
夕食の後、今夜セルンはアイシャの部屋に行くようだ。セルンを見届けた後カリンとふたりで話し合う。
「カリン。魔法の教え方は、俺達がやって来たやり方でいいのか」
「今までのやり方で魔法が使えなかったんだから、それでいいんじゃない」
「今までと言うと、町の教会で教えてもらう方法だな」
町の教会では子供に魔法の使い方を教えている。これには魔術師協会も関わっていて、魔術師学園で学ぶ基礎的な事を、教会から一般の人に教えてもらい実践している。この村でもその方法が浸透しているようだ。
魔術師協会は、無料で子供の魔力量や属性を調べて、有能な子供に魔術師学園への案内状を渡して学園に入学してもらう。ゆくゆくは魔術師協会や国の機関で働いてもらおうという訳だ。
なかなか良いビジネスモデルじゃないか。
「あんな教会の方法じゃ、魔法は上手くならないわ」
カリンは俺と共に独自の方法で大魔力を制御し、大きな魔法を発動させる方法を探し出した。教会や魔術師協会の教えとは全く違うオリジナルだ。
それゆえ正しいのか、カリン以外にも通用するのかが分からない。
「私達の方法でやってみて、その上で魔術師協会の魔術を勉強したいと言うなら、それはセルンに任せるわ」
「そうだな。まずはセルンの魔法を発動させることに集中しよう」
翌日からもセルンに腹式呼吸法や発声練習をして、体の中の魔力を感じられるようになってきた頃、カリンが魔法の発動方法について教える。
「いい、セルン。今まで教えてもらっていた、魔法の発動方法は全て忘れなさい」
「えっ、全部忘れるんですか」
「そうよ。今から私が言う事をよく聞いてやってみなさい」
「はい、分かりました。お師匠様」
「ここにリンゴがあるわ。この中心に串を差してゆっくり回す。これがあなたの魔力全体と思いなさい」
「はい」
「そしてここにナイフを当てて、皮を薄く切る。この薄い皮を腕を通して指先に持っていくの。そして指先から放出して魔法を発動させるのよ」
大魔力の扱い方を初めて聞いたセルンには、少し難しいようだな。カリンがセルンの背中に手を添えて魔力を回すことを教える。
「お腹を中心にあなたの魔力全体をゆっくり回しなさい」
背中に当てた手を右回りに回して、魔力の巡りを教えてゆく。
「お師匠様、今まで教えてもらったのと逆に回転させるんですか」
「そうよ、呼吸はゆっくりと。私の手に合わせてお腹を中心に魔力を回しなさい。ゆっくりでいいわ」
まあ、回転させる方向は左右どちらでもいいんだがな。カリン自身がしている方法が一番教えやすいだろう。
「どうかしら」
「はい、引っ掛かりがなくて、体の魔力がスムーズに回っている感じがします」
カリンがセルンの右肩に手を置いた。
「ここにさっき言ったナイフがあると思いなさい。ここで魔力を薄く切って右腕から手に流すの」
「はい、やってみます」
セルンが目を閉じて、体内の魔力を回す事に集中する。そして薄く切った魔力を手に流すイメージを思い描く。
「指に魔力が集まっているような感じがします」
「そのままの状態で人差し指を鳴らしてごらんなさい」
パチン――
セルンが指を鳴らすと同時に小さな炎が現れた。あわてて指を振ると炎は前に飛んで消える。
「セルン、できたじゃない」
「は、はい。指から炎が出ました。魔法がちゃんと指から出ましたよ」
初めての魔法にセルンも感動し、指先を掲げてピョンピョン飛び回る。
「良かったなセルン。お前もちゃんと魔法が使えるぞ」
「はい、はい。本当にありがとうございます。お師匠様。ユヅキおじ様」
うれし涙を流しながら俺とカリンに抱きついてくる。
初めて魔法を使えた時は、本当に嬉しいものだ。セルンは他の子が使える魔法が使えないと悩んでいたそうだからな、ひときわ嬉しいだろう。
「それじゃ、今の感覚を忘れないように、風と土の属性も練習してみましょうか」
「はい。お師匠様」
その後、中指の風と薬指の土魔法をやってみたがちゃんと発動した。念のため小指の水魔法をやってみたが、これは発動しなかった。さすが魔術師協会の魔力量測定器は正確だな。
今のところ魔法は発動したが、制御はまだまだできていない状態だ。途中で消えることもあるし、大きくなりすぎることもある。今後は発声練習のように、一定量の魔力を長く継続して出していく練習をしないといけない。
何はともあれ、セルンの初めての魔法を祝おう。
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