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第3章 俺のスローライフ編

第57話 ガラス工房1

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 ある日、チセが俺の部屋に来た。何やら相談事があるようだな。

「師匠。そろそろガラス工房の炉を造ろうと思っているんです。手伝ってくれませんか?」
「おお、ガラス用の炉か。前から欲しいと言っていたものな」
「はい、アイシャのお腹が大きくなる前の方がいいと思いまして」
「そうだな。子供が生まれる時はチセの世話にならんといかんし、その前に造っておくか」

 チセはアイシャのお産に備えて、村長の奥さんの手伝いをしている。この前ホテックさんとこの赤ちゃんをチセの手で取り上げたそうだ。赤ちゃんも奥さんも元気でホテックさんがすごく感謝していた。
 タティナから習った体術の練習も続けて忙しくしているようだが、まだ今の内なら炉を造る時間があると言っている。

 村にレトゥナさんの鍛冶工房ができて、本格的に木炭を作る炭焼き小屋もできた。燃料も十分だ、そろそろチセのガラスの炉を造ってもいい頃だな。

「チセ。炉を造るとなると何が必要になってくる?」

 チセはガラス炉の構造は分かっているが、実際に造ったことはない。町へ買出しに行くたびに職人さんから聞いて、造り方を教わったそうだ。

「大量の耐火レンガが必要ですが、この村で作れますかね」
「土を焼いた普通のレンガや焼き物はできるようだが、かまどのレンガ程度じゃダメなんだろ」
「そうですね。もっと高い温度に耐えられる物が必要ですね」

 茶碗などを作っている窯は岩と土で作られていた。あれでは高温に耐える焼き物は作れんだろうな。

「村で作れない耐火レンガと、それ用の耐火セメントは町で買おう。荷馬車2台で行けば持って帰れるだろう」
「それじゃ、ルツボも作れないでしょうね」
「ルツボ?」
「炉の中でガラスを溶かす容器なんですが、使い捨てになっちゃうんで村で作りたかったんですよ」

 ルツボは、小学校だか中学校の科学の実験で使ったことがあるぞ。

「あの白いツルッとした焼き物の事か」
「師匠、よく知ってますね」

 聞くと俺の知っているお皿のようなルツボじゃなく、バケツのような大きな物らしい。専門的な事は分からんが、なぜルツボを村でつくる必要があるんだ? 町でも売っていると思うのだが。

「あたしの場合、何週間も続けてガラスを作らないから炉を頻繁に止めるんですけど、ルツボが冷えると寿命が短くなってすぐ交換しないとダメなんですよ」

 なるほどな。村のガラス工房とは言え、一年中ガラスを作る訳じゃないからな。
 チセは町で売っている物を見たそうだが、高価でいくつも買うことができないと言う。確かに日用品とは違って職人だけが使う物だし、特殊な物だから高そうだな。

「ルツボの材料がどんな物なのか分かるか?」
「はい、原料をもらった物が少しあります」

 炉を作るにあたり分からない事も多少あるが、まずは造る炉の大きさなどを決める事から始めよう。
 ガラス工房予定の建物は、今は倉庫兼エアバイクのガレージになっている。アイシャとカリンに来てもらい、荷物整理しようと倉庫へ行ってみる。

「割と荷物が多いな」
「そうね。全部を家の中に入れるのは無理かも知れないわね」

 地下室にでも運ぼうと思っていたが、量が多い。それにエアバイクは置く場所が無いな。

「バイクを雨ざらしなんて嫌よ」

 今の倉庫では入り口が狭く、バイクの出し入れに困っているとも言っていたな。この工房の横にガレージ兼倉庫を建てようか。まだ土地は余っているし、倉庫程度ならすぐ建てられるな。

「それじゃあ、倉庫は新たに建てるとして、チセはここに造る新しい炉がどんな物なのか教えてくれるか」

 ガラスのための炉は2種類。ガラスを溶かす炉と、できたガラスをゆっくり冷やすための炉がいるそうだ。
 前にボルガトルさんのガラス工房に行った時、形の違う炉が2つあったのを思い出した。

「じゃあ、チセ。明日からは炉の細かな設計をしていこう」
「はい、なんだか楽しみですね」

 チセもウキウキと嬉しそうだ。念願の自分のガラス工房が持てるんだものな、そりゃ嬉しいよな。俺もワクワクしてきたぞ。


 さて、今日からはチセの考えたガラス炉を図面にしていこう。部屋にチセを呼んで具体的な構造を聞いていく。

「ここは3段にするんだな」
「はい、ここで炭を燃やして横から風を送ります」

 ガラスを溶かす炉は高温を維持するための色々な工夫がされている。それを聞き、どれくらいの耐火レンガが必要かを見積もっていく。

「こちらの炉は、取り出し口が3ヵ所必要です」
「こっちの低温用の炉は上下2段で、大きな扉を付ければいいんだな」

 ガラスを溶かす炉は上半分が大きなドーム型で蓋が3ヵ所。冷却用は小さな冷蔵庫のような形で、前面の四角い扉が開くようになっている。
 形や構造は分かった。どのくらいのレンガが必要かは計算できそうだな。

「この蓋の鉄枠や開閉用の蝶番ちょうつがいはどうする」
「できたら、レトゥナさんの所で作ってもらいたいです。修理が必要な時、村で作れた方がいいので」

 鍛冶師のレトゥナさんの所に行って相談すると、大きな部品になるが作る事はできるそうだ。あとはルツボが村で作れるかどうかだな。村で焼き物を作っているコーゲイさんに相談してみるか。 

「やあ、ユヅキさんじゃないか。何か用かい」
「実は、新しい焼き物を作りたくて相談に来たんだ」
「新しい焼き物?」

 俺はガラス工房の炉を造る事を話して、ガラスを溶かす容器のルツボが作れないか尋ねた。

「オレが使っている窯では、ルツボと言う焼き物は作れないな。俺の師匠であるおやじに聞いてくるよ。少し待っていてくれ」

 どうも父親は寝たきりらしく起きて来れないようだ。しばらくして戻って来てルツボの事を話てくれた。

「おやじは昔、町で修業したことがある。その時に高温で焼く白い焼き物を見たことがあるそうだ。それがルツボだろうと言っている」
「じゃあ、この村で作れると言うことか」
「まず、材料の土がどこにあるか分からん。焼き方も大体の方法しか知らんようだ……できるかどうか分からんな」
「材料はこの粉なんだが、コーゲイさんはどこにあるか知らんか」
「これはきめ細かい白い土のようだな。オレは見たことがないが、村長に聞けば分かるかもしれん」

 今焼いている土も、村に伝わる伝承によって見つけた土だそうだ。村長なら知っているかと、家を訪ねることにした。

「村長、焼き物の土についての伝承が聞きたい」
「コーゲイか。焼き物の土については、赤、黒、茶、白の伝承がある」
「その白い土がどこにあるか分かるか」
「伝承によると、川と山に挟まれた曲がった場所にあると聞いておる。しかしその土何人なんぴとも焼く事をえずとある」
「誰も焼き固められなかったという事か……。村長ありがとう。一度俺が挑戦してみるよ」
「そうか、コーゲイならできるやもしれんて。やってみるといい」
「ユヅキさん、この件に関してはオレに任せてくれるか。ガラスの炉を使って焼いてみたい」
「ああ、頼むよ。村で作れるなら、それが一番だ。俺達も手伝うから頑張ってくれ」

 最悪ルツボが作れない場合は、町で買うことになるがそれは仕方がない。コーゲイさんには挑戦してもらおう。
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