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第2章 シャウラ村編

第41話 公衆浴場完成

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 村の中央付近の空き地に作っていた公衆浴場が完成した。
 俺の家には風呂がある。最初から風呂を作るための場所を考えて家を建てたが、村の各家に風呂を造るのは場所的に無理がある。
 そこで村人全員が使える公衆浴場を建設したのだ。今日は完成したお祝いに式典を開く。

「みんなの協力もあって、ここにやっと公衆浴場が完成した」

 木の箱を置き、1段高い場所からみんなの前で挨拶する。公衆浴場を建てようと言ったのは俺だが、村民の協力なしでは完成できなかった。
 公衆浴場自体を建設するのは、さほど問題はない。大きめの家を建て、中に石を積んでタイルを貼った浴槽を作る。こんな石組みの工事に関して村人は慣れたものだ。
 あとはトリマンの鍛冶屋で作った大型のタンクを浴槽に取り付け風呂釜を作ればいい。

 問題なのは浴槽に持ってくる大量の水と、それを温めるエネルギーなのだ。
 近くに川はあるが、川から水瓶で水を汲んで浴槽に運ぶには相当な労力が必要だ。そんな事を毎回人の手で行うには無理がある。癒しの湯のはずが、重労働をしては意味がない。

 そこで川の上流から、水圧のかかった水道を作る事にした。
 実験で俺の家に水道を引いたが、密閉された配水管に水漏れも無く、ちゃんと蛇口から勢いよく水が出る。これなら公衆浴場の浴槽に水を張る事も簡単だ。

「今回の立役者であるネクス君に挨拶してもらおう」
「オレはユヅキさんに言われて配水管を作っただけです。オレはこれしかできませんが、村のみんなの役に立って良かったです」
「おかげで村の家々にも水道ができた。ネクス君のお陰だ、ありがとう」

 集まった村人も感謝の言葉と拍手を送ってくれる。最初水道を見た村人は全員が驚き、ネクスの技術に感心していた。蛇口はお姉さんのレトゥナさんに作ってもらったし、このふたりがいなければもっと苦労していただろう。

 水道のお陰で、大量の水を浴槽に溜める事ができる。後はその大量の水を温めるエネルギーだ。
 水は温まりにくい。サウナのように空気を温める方が簡単なのだが、やはり湯船に浸かる風呂にしたかった。

 風呂釜に薪をくべて燃やし、浴槽の水をガンガン温めるしかない。その風呂釜も大型の物を2つ用意した。燃料は村の周りにある樹木だが、乾燥した木がいる。

 今ある薪の在庫や林で拾い集めるだけでは足りなくて、定期的に木を伐り倒して乾燥させる。そのための木こりの人材も確保した。
 環境破壊、温暖化、CO2、何それ。ボク、異世界人だから分かんない。
 大量の水と大量のエネルギーを使う風呂と言うのは、元来贅沢なものなのだ。

「今日からは鐘5つから鐘6つ半の間に湯を沸かす。みんなも入りに来てくれ」

 昼が過ぎて仕事が終わった頃から、日没後まだ明るい間公衆浴場を開くことにする。魔獣は少なくなったとはいえ外が暗くなると危なくなるので、それまでの間に入ってもらう事にしている。もちろん入浴料は無料だ。村人みんなが使う公共施設となる。
 今日は昼から湯を沸かして、村人と共に入り初めだ。

「村長、どうだ風呂は」
「そうじゃの、体がポカポカして気持ちいいの」
「この石鹸で体を洗うと綺麗になるぞ」

 石鹸をつけたタオルで村長の背中を流す。
 石鹸も村で作れるようになった。植物の花や実から採った油と灰、それに薬師のスティリアさんに配合してもらった薬品で作っている。
 今日は仕事もそこそこに、村人が代わるがわる風呂に入りに来る。

「畑仕事、お疲れさん。疲れたろう、ゆっくり風呂に入ってくれ」
「最近は村の周りに作ってくれた壁のお陰で、魔獣が寄り付かなくなって楽させてもらっているよ」
「そういや、明日から収穫するんだってな」
「ああ、土が良くて作物の育ちが早いんだ。あんないい土地を作ってくれて、ありがとうよ」

 風呂上がり、俺は家への帰り道の途中、石の橋の工事現場が見える土手に腰を下ろす。川向こうの畑と村をつなぐ大きな橋を建設中だ。
 これができれば馬車の通行も楽になる。畑の収穫物の運搬も効率よくできるな。

「やあ、ユヅキさん」
「ホテックさんじゃないか。もう風呂は入ったか」
「ああ、入らせてもらったよ。あんた方が村に来てくれてから、村がどんどん良くなっている。感謝しているよ」

 そう言うホテックさんと、街道で出会ったのがきっかけだったな。お陰で俺達が暮らしていける場所が見つかった。こちらこそ感謝している。

「前は魔獣に怯えながらの生活だった。今は俺達の自警団だけで魔獣を狩る事もできるようになった。村人も生き生きと生活できている」
「そういや奥さんは元気にしているか。もうすぐ子供が生まれるんだろう」
「ああ、新しい家族が増える。そいつらのためにも俺が村を守っていかんとな」
「そうだな。俺も家族のためこの村を守ろう」

 ホテックさんと別れて土手を歩いていると向こうから、レトゥナさんが歩いてきた。

「こんにちは、ユヅキさん」
「今からお風呂かい。式典には参加していなかったが、弟のネクス君、しっかり挨拶していたぞ」
「そうですか。鍛冶の仕事が忙しくて見れませんでしたが、お役に立てたのならそれでいいです」
「やっぱり鍛冶仕事は忙しいか。この村でひとりだけだものな」

 レトゥナさんは鍛冶工房で、日用品を作ったり修理をしている。材料となる鋼鉄や青銅の板金は町で買ってきているが、村で鉄製品が作れるようになり、扉や家具など新しい木工製品もできるようになってきた。
 ネクス君が作る配水管のための道具もレトゥナさんが作った。ふたりがいなかったら公衆浴場はこれほど早くできていなかったな。

「私達家族を救ってくれた村の人のためなら、これくらいどうと言うことはありません」
「その後、お母さんは元気にしているか」
「お陰さまで、すっかり元気になって、今では畑仕事もさせてもらっています」
「それは良かった。あまり無理せず頑張ってくれな。風呂で疲れを癒すといいよ」
「はい、ありがとうございます」

 この村での生活も便利になってきた。
 水道や下水管の整備、洗剤などの製品開発や鉄製の農機具などの修理、薬までも村でできるようになっている。
 これも村のみんなが協力してくれるお陰だな。

 まだまだやる事は多いが、アイシャ達が安心して暮らしていける日々を作る事が俺の仕事だ。明日も頑張らないとな。なぜか明日からの仕事が楽しみになってきたぞ。
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