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第2章 シャウラ村編
第40話 林の中の薬草採取
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「師匠。マンドレイクの栽培実験に行きましょう」
チセと村の中でマンドレイクが育たないか、試行錯誤を繰り返してきた。意外にもマンドレイクは毒の土ではなく清浄な水で育つことが分かった。
マンドレイクは元々毒を持っておらず、身を守るために毒の土地から、体内に毒を取り入れているんじゃないかと推察したのだ。そのため毒の土地を求めて移動するという仮説を立てている。
「少し上流に流れの緩やかな所がある。今日はそこに行ってみようか」
あの紫の丸い物は、マンドレイクの実だということも分かった。その実を綺麗な水に漬けておくと根や葉が伸びる。土より水耕栽培の方が成長は早く、今は川で育てられないか実験をしている最中だ。
「この辺りに植えましょうか」
「そうだな。この浅瀬ならしっかり根付くかもな」
種から育てた物と、マンドレイクの先端部分を切ったものを植え付ける。前に植えた水量の多い所と、今回の浅瀬と両方でどう育つかを観察するのだ。
「また何日かしたら、見に来ましょうね」
植物を育てる実験は日数がかかる。すぐ結果が出ないのはもどかしいが、チセは観察するのが楽しいようで、それならいいかと俺も付き合っている。
家に戻ると、研究室用に貸している建物の中でスティリアさんが、チセの育てているマンドレイクを見てウンウン唸っていた。
このガラス工房にする予定の倉庫は広いので、チセとスティリアさんが研究室として半分ずつ使っている。
「あの~、チセさん、チセさん。この窓際にある鉢植えの植物の葉っぱなんですけど、マンドレイクの葉によく似ているのですが」
「はい、それは種から育てたものですね。まだしっかりと根付いていないので、ちゃんと育つか実験中です」
外で育てている物の一部を鉢植えに植えて、チセが観察をしている最中だ。スティリアさんはマンドレイクにも詳しいから興味があるんだろう。
「ここまで育った例は聞いたことがないですよ。するとこちらもマンドレイクですか?」
「こっちは、毒抜きしたマンドレイクの根の先から育てた物です。こちらと比較しながら根が育つか観察してるんですよ」
「毒抜きした物からも育つんですか。すごいですね」
チセの実験に感心しきりのようだが、自分の研究の方は忘れていないだろうな。
「スティリアさん。午後から東の林の奥に行きたいと言っていたが、予定通りでいいんだな」
「はい、珍しい薬草の群生地があるそうなので、護衛をお願いします」
村の穀倉地の奥にある東の林は比較的安全で、今日は俺ひとりで護衛をする。
「あっ、ありました。これです、これ」
スティリアさんは目的の薬草の群生地を見つけたようだ。小走りで駆け寄り地面の草を確かめる。
「やはりこの村はすごいですね。こんな珍しい薬草がこんな近くにあるなんて」
「そうだな、人が立ち入らない場所が多いからな」
「もしかすると、幻の千年草も見つかるかもしれませんよ」
「千年草? そんなに珍しいものなのか」
「それはもう。決して枯れない草と言われている薬草で、不老長寿の薬になるそうです」
「ほほう、それはすごいな。ここで探し出せたらいいな」
「はい」とスティリアさんは、弾けるような笑顔で答えてくれた。前に村に来た時よりも、明るい表情をよく見掛ける。前の職場で人間関係があまり良くなかったようで、この村で自分の好きな研究に取り組めるのが嬉しいようだ。
家に戻ると、研究室に新しい机が運び込まれていた。スティリアさんは机に本や薬剤を作る道具を置いていく。
「こんな机まで作っていただいて、ありがたい事です」
最初持ちこんだ机が狭くて、村人に頼んで大きな机を作ってもらったそうだ。木材は豊富にあるしな。
スティリアさんはお金を支払おうとしたようだが、薬師様のお役に立てるだけでいいと断られたそうだ。
今日採ってきた薬草のうち半分を薬に、もう半分は研究用にするらしい。ガラスの試験管に薬草を入れて温めたり試薬を入れたりしている。本格的な研究だな。
「あの~、隣で見ていてもいいですか?」
こんな実験が物珍しいのだろう。チセはスティリアさんの横から様子を覗っている。
「ええ、結構ですよ。今、この薬品を入れて色が変わるかを見ているんです」
スティリアさんは説明しながら、実験を進めてくれている。本格的な研究風景を見れるのはチセにとっていい経験だ。スティリアさんに感謝だな。
夕食を済ませ、スティリアさんが自分の部屋に戻った後、チセと話をする。
「スティリアさんっていい人だな。普通あんな実験中は人を側に置かないぞ」
「あれは何をしていたのか、師匠は分りますか?」
「あれは酸性度……薬草の性質を調べていたんだな。無毒の水に近いか、毒に近いかを見てたんだよ」
「師匠、よく知っていますね。スティリアさんに聞いたんですか」
まあ、聞かなくてもpH試験なんて簡単で見ていれば分かる。そんな俺達の様子を見ていたアイシャが変な事を言い出す。
「ユヅキさん。スティリアさんと仲がいいんですね」
「そうね。今日も護衛はひとりで行くって言って、ふたりだけで林の中に入って行ったわよね」
カリン、妙な勘繰りはやめろ。それとその怖い顔もな。
「ユヅキさん、林の奥って他に人いましたか。あそこって安全でひとりでも薬草採取できる場所ですよね」
「えっ、何言ってんだ。お、俺はやましいことはしていないぞ」
「そういえば、師匠。帰ってからもず~っとスティリアさんと一緒でしたね」
こら、チセまで変な事言うなよ。
「へぇ~、それで夕食に来るの遅かったのね」
おかしい、俺はなにも悪いことをしていないはずなんだ……。しかし状況は不利。
確か満員電車でチカンなどに間違われた時は、しっかりと説明するか逃げるかのどちらかだったはずだ。
よし、ここは逃走を選ぼう。俺はアイシャ達の追及を逃れるために部屋に閉じこもり、戦略的撤退をしたのだった。
チセと村の中でマンドレイクが育たないか、試行錯誤を繰り返してきた。意外にもマンドレイクは毒の土ではなく清浄な水で育つことが分かった。
マンドレイクは元々毒を持っておらず、身を守るために毒の土地から、体内に毒を取り入れているんじゃないかと推察したのだ。そのため毒の土地を求めて移動するという仮説を立てている。
「少し上流に流れの緩やかな所がある。今日はそこに行ってみようか」
あの紫の丸い物は、マンドレイクの実だということも分かった。その実を綺麗な水に漬けておくと根や葉が伸びる。土より水耕栽培の方が成長は早く、今は川で育てられないか実験をしている最中だ。
「この辺りに植えましょうか」
「そうだな。この浅瀬ならしっかり根付くかもな」
種から育てた物と、マンドレイクの先端部分を切ったものを植え付ける。前に植えた水量の多い所と、今回の浅瀬と両方でどう育つかを観察するのだ。
「また何日かしたら、見に来ましょうね」
植物を育てる実験は日数がかかる。すぐ結果が出ないのはもどかしいが、チセは観察するのが楽しいようで、それならいいかと俺も付き合っている。
家に戻ると、研究室用に貸している建物の中でスティリアさんが、チセの育てているマンドレイクを見てウンウン唸っていた。
このガラス工房にする予定の倉庫は広いので、チセとスティリアさんが研究室として半分ずつ使っている。
「あの~、チセさん、チセさん。この窓際にある鉢植えの植物の葉っぱなんですけど、マンドレイクの葉によく似ているのですが」
「はい、それは種から育てたものですね。まだしっかりと根付いていないので、ちゃんと育つか実験中です」
外で育てている物の一部を鉢植えに植えて、チセが観察をしている最中だ。スティリアさんはマンドレイクにも詳しいから興味があるんだろう。
「ここまで育った例は聞いたことがないですよ。するとこちらもマンドレイクですか?」
「こっちは、毒抜きしたマンドレイクの根の先から育てた物です。こちらと比較しながら根が育つか観察してるんですよ」
「毒抜きした物からも育つんですか。すごいですね」
チセの実験に感心しきりのようだが、自分の研究の方は忘れていないだろうな。
「スティリアさん。午後から東の林の奥に行きたいと言っていたが、予定通りでいいんだな」
「はい、珍しい薬草の群生地があるそうなので、護衛をお願いします」
村の穀倉地の奥にある東の林は比較的安全で、今日は俺ひとりで護衛をする。
「あっ、ありました。これです、これ」
スティリアさんは目的の薬草の群生地を見つけたようだ。小走りで駆け寄り地面の草を確かめる。
「やはりこの村はすごいですね。こんな珍しい薬草がこんな近くにあるなんて」
「そうだな、人が立ち入らない場所が多いからな」
「もしかすると、幻の千年草も見つかるかもしれませんよ」
「千年草? そんなに珍しいものなのか」
「それはもう。決して枯れない草と言われている薬草で、不老長寿の薬になるそうです」
「ほほう、それはすごいな。ここで探し出せたらいいな」
「はい」とスティリアさんは、弾けるような笑顔で答えてくれた。前に村に来た時よりも、明るい表情をよく見掛ける。前の職場で人間関係があまり良くなかったようで、この村で自分の好きな研究に取り組めるのが嬉しいようだ。
家に戻ると、研究室に新しい机が運び込まれていた。スティリアさんは机に本や薬剤を作る道具を置いていく。
「こんな机まで作っていただいて、ありがたい事です」
最初持ちこんだ机が狭くて、村人に頼んで大きな机を作ってもらったそうだ。木材は豊富にあるしな。
スティリアさんはお金を支払おうとしたようだが、薬師様のお役に立てるだけでいいと断られたそうだ。
今日採ってきた薬草のうち半分を薬に、もう半分は研究用にするらしい。ガラスの試験管に薬草を入れて温めたり試薬を入れたりしている。本格的な研究だな。
「あの~、隣で見ていてもいいですか?」
こんな実験が物珍しいのだろう。チセはスティリアさんの横から様子を覗っている。
「ええ、結構ですよ。今、この薬品を入れて色が変わるかを見ているんです」
スティリアさんは説明しながら、実験を進めてくれている。本格的な研究風景を見れるのはチセにとっていい経験だ。スティリアさんに感謝だな。
夕食を済ませ、スティリアさんが自分の部屋に戻った後、チセと話をする。
「スティリアさんっていい人だな。普通あんな実験中は人を側に置かないぞ」
「あれは何をしていたのか、師匠は分りますか?」
「あれは酸性度……薬草の性質を調べていたんだな。無毒の水に近いか、毒に近いかを見てたんだよ」
「師匠、よく知っていますね。スティリアさんに聞いたんですか」
まあ、聞かなくてもpH試験なんて簡単で見ていれば分かる。そんな俺達の様子を見ていたアイシャが変な事を言い出す。
「ユヅキさん。スティリアさんと仲がいいんですね」
「そうね。今日も護衛はひとりで行くって言って、ふたりだけで林の中に入って行ったわよね」
カリン、妙な勘繰りはやめろ。それとその怖い顔もな。
「ユヅキさん、林の奥って他に人いましたか。あそこって安全でひとりでも薬草採取できる場所ですよね」
「えっ、何言ってんだ。お、俺はやましいことはしていないぞ」
「そういえば、師匠。帰ってからもず~っとスティリアさんと一緒でしたね」
こら、チセまで変な事言うなよ。
「へぇ~、それで夕食に来るの遅かったのね」
おかしい、俺はなにも悪いことをしていないはずなんだ……。しかし状況は不利。
確か満員電車でチカンなどに間違われた時は、しっかりと説明するか逃げるかのどちらかだったはずだ。
よし、ここは逃走を選ぼう。俺はアイシャ達の追及を逃れるために部屋に閉じこもり、戦略的撤退をしたのだった。
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