上 下
178 / 304
第1章 共和国の旅

第5話 フレイムドッグの報酬

しおりを挟む
 酪農家から借りた荷車に乗せ、11匹のフレイムドッグを町に持ち帰る。それを見た門番さんが驚いた様子で町長の家へと駆けて行った。

「いやあ、わしの見込んだ通りフレイムドッグを退治してくれた。さすがだな」
「これで、安心して町の外に出られる。冒険者さん、本当にありがとう」

 町の住民達も寄ってきて感謝の言葉をくれたり、荷車に乗った大量の魔獣を物珍しそうに眺めている。

「この魔獣どもは、わしら町の者で処分するよ。君達は討伐の印として、しっぽと魔石をギルドに持って行ってくれ」

 確かにこのまま運ぶことは、できないな……。

「この白いフレイムドッグは俺達に引き取らせてくれないか。解体し皮を使いたい」
「だが犬の皮は、長持ちせず、すぐダメになるぞ」
「ああ、分かっている」
「ユヅキさん、皮の処理は私がするわ。カリン達も手伝ってくれるかしら」

 白いフレイムドッグだけを引き取って俺達の手で解体する。アイシャは町の人達から道具を借りて皮をなめしてくれる。
 こいつは俺達で供養してやろう。俺達もこいつも全力で戦って命のやり取りをした。一歩間違えば殺られていたのは俺達の方かもしれない。

 殺してしまったことを後悔している訳ではない。これが自然の摂理なのだろうがお前の命、使えるところは使ってやろう。
 なめした革はみんなで分けて、思い思いの形で身に付けるつもりだ。俺はあいつの俊敏さが身に付けばいいという思いから、すね当ての裏に使う。俺に噛みついてきた牙も何かの飾りになるだろう。


 今晩はこのカフの町に泊まり、翌朝、討伐の依頼をしたというドウーベの町へ向かう。

「これは、依頼完了書だ。報酬は既に払い込んでいるので、ドウーベの冒険者ギルドで受け取ってくれるか」
「ああ、分かった」
「ドウーベはここから半日もかからんが、道中気をつけてな」

 馬車を出し、俺達が戦った牧草地帯を通る。酪農家の主人が手を振って見送ってくれている。俺達は人のためになる事をしたんだと、気を取り直して手を振り返す。

「共和国に入っても、人の生活ってあんまり変わらないわね」
「まあな。小さな山を1つ越えただけだからな。人の暮らしも魔獣もあまり変わらんさ」
「でも貴族はいないんでしょう。もうあんな奴らに振り回されるのはごめんだわ」

 そのためにこの共和国にまで来たんだからな。ここで俺達が暮らせる場所があればいいんだが。

「でもカリン、こっちにも権力者はいるんだから。あんまり無茶しちゃダメだからね」
「チセは、相変わらず心配性ね。大丈夫よ」
「カリンだから心配なんですよ。もう!」
「どんな奴がいるのか分からんが、あまり関わりたくはないな~」
「そうね、どこかのんびり過ごせる所が見つかればいいわね、ユヅキさん」

 馬車を走らせ、昼前にはドウーベの町に到着した。アルヘナの町よりは小さな町のようだな。門番もいるが軽装備でどこか商人風だ。
 銀貨で通行料を支払ったが、王国で使っているお金はそのまま使える。国境で聞いたが、共和国独自の通貨は無く、王国と帝国と両方の通貨が使えるそうだ。

 街中の建物は、石造りの3階や4階建ての建物が多いな。ゴツゴツした岩やレンガではなくて、漆喰を塗ったようなすっきりとした外壁でガラス窓も多い。ビルディングといった感じの家が並び、アパートみたいに何人もの人が住んでいるのか。
 このような建物は、国によって違ってくるものなんだな。

「あっ、ドワーフの人だ。こっちにはリザードマンもいるわよ」
「こらカリン、あんまり人を指差すなよ」

 ここには獣人以外も多いな。俺もキョロキョロしながら馬車をゆっくりと進め、目的の冒険者ギルドに到着した。

 国は違えどギルドの作りはどこも同じようにできている。冒険者はよく移動するから困らないようになっているんだろう。
 奥の大きなカウンターに、討伐したフレイムドッグのしっぽと魔石を持ち込む。

「依頼完了書と討伐した獲物の一部だ。引き取ってくれ」
「おい、こいつはカフの町に現れたっていうフレイムドッグじゃないか。ちょっと待ってろ」

 一旦奥に引っ込んだ獣人と一緒に、中年の鹿獣人の男がカウンターにやって来た。

「このフレイムドッグを討伐したというのは、君達かね」
「俺達がたまたま立ち寄った町で、町長から直接依頼を受けた。この依頼完了書を見てもらえば分かるはずだが」
「すまない、少し話を聞きたいんだが、こちらに来てもらえるか」

 その鹿獣人の男に連れられて、2階の応接室に入った。ソファーに低いテーブル、ここも他のギルドとあまり変わらんか。

「私はここのギルドマスターをしている、フォレスという」
「俺達は王国を出て、今この町に着いたばかりだ。手短に頼む」
「カフの町のフレイムドッグには手を焼いていてな、前回手練れの白銀2名を含む6人チームを送ったが、大怪我をして帰ってきている」

 俺達の前に2組がやられたと言っていたが、そいつらの事だな。

「今回、12人を組んで討伐に向かおうと準備していたところだった。どのように討伐したか参考に聞かせてくれんか」

 今回俺達は、キイエを使って上空から攻撃している。他の冒険者パーティーでは難しいだろうな。「多分、参考にはならないだろう」と前置きして、討伐した方法を説明する。

「ドラゴンを使って真上からの攻撃か……。ありがとう、参考にさせてもらうよ。報酬はここで支払おう。少し上乗せしている」

 女性の事務員が入ってきて、革袋に入った報酬をテーブルに置いた。赤字覚悟で新しいチームを送るつもりだったらしく、増額してもお互いwin-winという事のようだな。
 実績を付ける板もテーブルの上に置いて、各自のプレートに実績を付けてもらう。

「実績は均等でよろしいでしょうか」
「ああ、それで頼む」
「君達は旅をしているようだが、どこに行くのか決まっているのか」
「はっきりとは決めていない」

 俺達はドワーフの町に行くつもりだが、どうもこいつは胡散臭い。目的地は言わん方がいいな。

「疲れているところすまなかったな。近くにフロ付きの宿がある。フロは王国貴族の間で流行っているらしいじゃないか。行ってみてはどうだ」

「なに~! 風呂だと~」
「ユヅキさん、ユヅキさん!」

 思わず立ち上がって叫ぶ俺の服の袖を、アイシャに引っ張られてしまった。俺は、何事も無かったかのようにソファーに座り直す。

「失礼した。その宿の場所を教えてくれるかね」

 キリッとした笑顔を見せて、ギルドマスターに場所を教えてもらった。もうここに用はないぞ。早速ギルドを後にして、宿屋にルンルン気分で向かう。

 ◇
 ◇

「マスター、こんなことして大丈夫ですか?」
「どこの誰とも分からん流れ者だ。個人の記録を見るのは当然だろう」
「あの人達、スタンピードの巨大魔獣を倒してますよ! こんな強い人が、なんで共和国に来たんでしょうね」
「俺のギルドの精鋭が怪我して帰って来た魔獣を、簡単に倒した奴らだ。できれば取り込みたい」
「そう、上手くいきますかね」
「お前は、奴らがこのギルドで仕事してくれるよう、仕向けてくれればいい」

 マスターの薄ら笑いを、不安の思いで見つめるしかない私であった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

処理中です...