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第1章 共和国の旅

第4話 白いフレイムドッグ2

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 町に帰ると町長はフレイムドッグを追い払ってくれたと喜んでいたが、1匹倒しただけで群れの討伐はできていない。宿屋に戻って、俺達は反省会だ。

「今日は全然だめだったな」
「魔法が1つも当たらないのよ、なんなのあいつら」

 丸い陣形でどこからの攻撃でも、群れ全体で躱していた。

「アイシャ、群れの犬って、あんな躱し方するのか?」
「そんなの聞いたこともないわ。群れはリーダーが統率して行動するけど、あんなふうに弱点を補って防御するなんて……」

 側面や背後を仲間でカバーするなど、余程カリスマ性のあるリーダーじゃないと無理だな。それがあの白い奴という事か。

「6匹が横並びに炎を吐いた時も、あの白い奴は攻撃せず後方で指揮していたように見えたな」
「ユヅキさん。横から見てたけど、2匹ずつが順番に炎を吐いて、攻撃が途切れないようにしていたわ」

 そんな事をしていたのか。それでいつまでも炎攻撃が止まらなかったんだな。

「それも、群れのリーダーが編み出した技ということか……」

 これは普通のフレイムドッグとは全然違うぞ。知恵のあるリーダーに率いられた、軍隊のような行動をする群れという事になるか……。

「でも、1匹が殺されて私達が駆けつけたら、すぐに逃げていったわね。どうしてかしら」
「あれは戦略的撤退だな」
「センリャクテ……。また訳の分からないこと言ってるわね、ユヅキは」

 二手に分かれた俺達の内、数の少ない俺とチセに狙いを付けてきた。アイシャ達にはキイエが付いていたからな。俺達ふたりの中でも弱いチセを集中的に攻撃して、数的優位を作って倒そうとした。

 そして思いもよらないチセの反撃で仲間が殺られたのを見て撤退。
 魔弾という不確定要素と他の仲間が助けに来て、これ以上攻められないと判断したのだろう。
 こんなことは軍隊でもなかなかできる事じゃないぞ。それほどの知能の持ち主なのか、あの白いフレイムドッグは。

「アイシャ、奴らはまた来ると思うか?」
「多分、明日にでも来ると思うわ。私達は縄張りに入ってきた敵だもの。排除しにかかると思うわ」

 これは作戦を練って当たらないと、こちらが殺られてしまう。

「私の大魔法で一網打尽にするのはどう」

 カリンの強力な範囲魔法メテオラか……。だがあの牧草地帯がめちゃくちゃになってしまうな。それにばらけたフレイムドッグなら躱してしまう可能性もある。今回も高速の岩魔法を躱したと言っていたしな。
 巨大な沼を出現させても体重の軽い奴らなら、犬掻きで沼を脱出する可能性もある。

 魔獣ではなく、軍隊と戦う事を想定した作戦が必要になるか……。夜が更けるまで、俺達は作戦を考え続けた。


 翌朝、しっかりと食事を摂り、昨日フレイムドッグと戦った牧草地帯に向かう。リベンジマッチだ。そして午後になる少し前、奴らは森から姿を現した。

 今回、俺達は分散しない。前方で俺とチセが敵を食い止める。後方からアイシャとカリンで遠隔攻撃を仕掛けるオーソドックスな陣形で臨む。
 フレイムドッグの群れは円陣ではなく、横2列に並んだ陣形で走り出してきた。こちらの陣形を見て攻撃陣形を変えてくるとは、やはり優れた知能の持ち主だ。
 カリンが広域魔法で攻撃する。

「トルネイド タイフーン!」

 複数の竜巻が縦横無尽にフレイムドッグに襲い掛かる。奴らの陣形を崩す事には成功したが、竜巻を前後左右に躱しながらこちらに向かってくる。
 アイシャがばらけた個体に狙いを定め、矢を放つがこれも躱された。

「これで無傷とはね。これならどう。ウィンドカッター!」

 巨大な風のやいばが左右から時間差で群れを襲う。身を低くするもの、飛び跳ねるもの、臨機応変に躱し、なおも迫って来る。個々の能力も高いな、やはり死角からの攻撃でないと当たらないか。
 フレイムドッグ得意の炎攻撃が始まった。横並びで炎を吐いてきて、俺とチセは炎耐性の防具で耐える。

「よし、今ね!」

 後方のカリンが空を指差し、その腕を振り降ろす。
 それは上空で待機していた、キイエへの合図。群れの直上から急降下し、口から炎を吐いてフレイムドッグが焼かれる。
 いくらなんでも、空からの攻撃は想定外だろう。フレイムドッグの悲鳴がいくつも聞こえて、俺達への炎攻撃が止んだ。

「チセ! 前進するぞ!」
「はい!」

 俺とチセは前に向かって走り出す。既にキイエの攻撃で4、5匹が黒焦げになっている。狙うは中央にいる、あの白い奴だけだ。
 後方のアイシャとカリンも前進して、俺達を援護する。リーダーの白い奴は、そのまま真っ直ぐに後退し、前列にいたフレイムドッグが左右に分かれて走り出した。
 白い奴は自分を囮にして弱い後方を突くつもりだな。いい判断だ。左右のフレイムドッグが後ろのアイシャとカリンに向かって襲いかかっていく。

「待っていたわよ」

 カリンとアイシャに襲い掛かる寸前、土の壁がフレイムドッグの進路を阻み四方を土壁で囲む。

「アイシクルランス!」

 狭い範囲に閉じ込められたフレイムドッグに向け、放物線を描き氷の槍が上空から降り注ぐ。カリンの魔法攻撃を躱すことができず、フレイムドッグのいくつもの断末魔だけが土壁の外に聞こえてきた。

 それを聞いた白い奴は下がるのをやめ、牙を剥いて俺達に襲い掛かってきた。
 剣を水平にして奴めがけて振り抜くと、白い奴は軽く飛んで躱しながら、俺の喉元を狙い牙を剥いて飛びかかってきた。咄嗟に剣を握っていた片手を放し、腕の軽鎧に噛みつかせ防ぐ。

 その瞬間、白い奴と目が合った。仲間を殺された怒りなのか悲しみなのか、俺を睨みつけたまま目を離さない。
 腕に噛みついた白い奴を、その勢いで後ろの地面に叩きつけようとしたが、奴は俺の腕に足をかけ飛び退く。その着地の瞬間をチセが鉄拳で攻撃する。
 身軽な白い奴は空中で身をひねって躱すが、チセのパンチは地面を叩き飛び散った砂や石で少しはダメージを受けたようだ。

 俺とチセに向き直り、白い奴が攻撃をしようとした次の瞬間、奴の悲鳴が響き渡る。土の壁に隠れ、側面に移動したアイシャの矢が奴の背中に深々と突き刺さっている。
 この期を逃しはしない。超音波振動を起動させた剣を振り抜き、白いフレイムドッグの首を切り落とした。
 群れのフレイムドッグは全て倒されて、辺りは静かになる。これで決着だ。

「そんな恨めしそうな目で見るなよ。お前はよく戦ったよ」

 そっと目を閉じてやる。
 みんなが俺の周りに集まってきた。

「怪我はないか」

 俺とチセにかすり傷はあるものの、アイシャ達に怪我は無いようだ。倒したフレイムドッグを集めて町に向かおう。

「あの白い奴は強かったな」
「そうね。キイエのお陰で勝てたけど、危なかったわね」
「あれほど魔法が当たらない敵は、初めてだわ。大した奴らね」
「あたしは、一度も鉄拳を当てられませんでした」

 奴らがどんな事情で森を出たのか知らんが、ここは獣人の住む領域だ。進出できる高い能力があったから森から出てきたのかもしれんが、お前達は異物だ。だから排除された。
 あの白い奴もそのまま森の奥で暮らしていれば、倒されることもなかったろうに。なぜ奴はこんな平原に出て来てしまったんだ。

 ふと思った。俺もこの世界では異物だ。お前のように特別な能力を使い、この獣人達の世界で暮らすと俺も排除されてしまうのか。だからアルヘナで貴族に命まで狙われる事になったのか……。
 いや、違うな。俺を認めてくれた人は沢山いた。仲間だと言ってくれた人もいる。それに俺にはアイシャ達がいるじゃないか。繰り返される堂々巡りのマイナス思考を吹き払い、みんなと共に俺は町へ向かう。
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