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第4章 アルヘナ動乱

第165話 アルヘナ領主の屋敷

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「お父上。結局、暗部の者は誰ひとり帰って来ませんでしたね」
「あやつらまで失敗するとは……」
「第3と第2兵団に続き暗部まで壊滅とは。お父上、どうなさるおつもりですか」

 今回の騒動を起こしたのは、お父上だ。大事な弟をふたり亡くし、町を守る兵団を2つも失っている。切り札と言っていた方法も通用しなかった。
 いずれこの責は取ってもらうが、今は事態を収拾させることが肝心であろう。しかしお父上は現状を分かっていない様子。

「第1兵団に守りを固めさせる。既に王都には暴徒鎮圧のための出兵を要請している。時間を稼げば、派遣された王都軍と挟み撃ちにできる」
「王都に! この町の恥を晒すのですか。それに王都軍が簡単に派遣されるとは思えません」
「そのあたりは、王都のエルティーヴァ卿が上手くやってくれる」
「また、エルティーヴァ卿ですか。弱みを握られ、この町の実権を握られてしまいますよ」
「何を言っている。王都とのパイプがある事の方が重要なのだぞ。なぜそれが分からん」

 やはりお父上の手法では、この町を守る事はできないようだ。上位貴族と関係を持つことは大切なのだろうが、支配され手先として利用されるだけでは、この町の領主として失格ではないのか。

「お父上、あのユヅキという男はこの町をスタンピードから守ってくれた者。お父上も黄金ランクの3人から話を聞いたでしょう。あの者達が居なければ、この町はどうなっていたか分からなかったと」

 あの者達のお陰で町は救われた。それどころか将来の産業となりえる魔弾を開発してくれている。メラク村近くに銀鉱脈も見つかり、このアルヘナは今後発展していけるというのに。

「バカ者め。あの者達は平民ではないか。このわしに立てついて騒乱を起こした者達じゃ。わしの顔に泥を塗った者を許す事などできるはずなかろうが」
「その騒乱もお父上が仕掛けたもの。この町を救ったあの者達に手を出して、恨まれるのも当然ではありませんか」

 やはりお父上の考え方は古すぎる。このままではこのアルヘナは町としての機能を失ってしまう。

「領主様、冒険者ギルドマスターのジルレシス様がおいでになっています」
「なに、ジルレシスが。何の用だ、この忙しい時に」
「今回の件で、お話ししたいことがあるそうです」
「そんなのは知らんわい! 追い返せ」
「お父上、そんなことは言わず話を聞きましょう。今はどんな情報でも欲しい時でしょう。良い、ジルレシスを連れてきなさい」

 冷静さを失っているお父上に代わり、ギルドマスターを通す許可を出す。何とか解決の糸口を見つけ出さねば。

「よう、領主様よ。元気にしてるかい」
「ジルレシス。このわしに向かってその態度は何じゃ」

 このジルレシスとは以前より面識がある。第1兵団長の弟さんで、20年ほど前にお父上の知り合いだとこの屋敷で紹介され、それ以来時々顔を合わせている。ギルドマスターを務め、この町にとっても重要な人物だ。

「なんだ、ブロックスとシルマーンじゃないか。戦場にいないと思ったらこんな所にいたのか」
「俺達は戦場に出るつもりはないさ。ここに居ろと言われたからいるだけだ」
「何を言っている。お前達はわしを守るためにここに居るのだろうが。暴徒が攻めてきたらどうするんだ」
「本当の暴徒が来たら倒してやらん事もないさ。本当の暴徒ならな」

 この町のトップ冒険者も、あの者達と戦うつもりはないようだ。こうなってしまうとお父上は孤立してしまう恐れもあるか。

「領主様よ。ユヅキに謝るつもりはないか?」
「何を謝れと言うんじゃ。奴は犯罪者だぞ」
「そう仕向けたのは、アンタだ。アンタが父上の友人だからと、俺と兄貴はこの町に来た。いい町だからと居着いちゃいるが、今回の件はアンタの方が悪いだろう」

 確かにそうなのだが、それをお父上が認めるわけがない。

「何を生意気な。貴族を捨てたお前に、何が分かるというんだ」
「そんな、独善的だと誰からも見捨てられちまうぞ。それにユヅキの力を見くびっていないか」
「フン、あんな奴。もう倒す算段もできておるわい。もうすぐ王都軍もやってくる」
「そうなのかい。じゃあ、これを見てみな」

 ジルレシスが丸めた紙を放り投げた。それを開いてみると、この町の地図のようだが……。それをお父上に見せる。

「何だこの地図は」
「それは1週間前にユヅキから預かったこの町の地図だ。印のある所が襲撃する場所だそうだ」
「何! 襲撃だと」

 1週間前と言うと、城門の外で戦いが始まる前ではないか。その地図に襲撃場所が書き込まれていると! 急ぎお父上が持つ地図を覗き込む。
 その直後、屋敷の周辺から爆発音が響く。その音と光に驚きお父上が大声を出す。

「何事だ!」
「ユヅキの襲撃が始まったようだな。先ずは近衛兵の武器庫、そして食糧倉庫か」

 ジルレシスの言葉に地図を見ると、確かにその場所に印が打たれていた。屋敷の衛兵が部屋に走り込んできて報告をする。

「領主様! 近衛兵の兵舎が攻撃を受けています!」
「何者からの攻撃だ」
「魔法攻撃でありますが周辺に人影はなく、現在捜索しております。安全な場所へお逃げください」
「おっと、動かない方がいいぜ。この屋敷は安全だ。この場所は、その地図に印が打たれていないからな」

 しばらくすると、遠くからも爆発音が聞こえてくる。

「今度は、なんだ!」
「ここからではよく見えませんが、エスブリンド男爵様の別邸が燃えているようです」

 これは城壁外にいる、あの者達の攻撃なのか。この貴族街までどれだけの距離があるというのだ。そんな事は不可能なはずだ。

「アイシャさんを監禁した、エスブリンドの奴は許してもらえなかったようだ。分かるか、アンタが喧嘩を売った相手がどれほどの男なのか。アンタの命などいつでも取れるということだ」
「近衛兵! わしの屋敷の周りを固めろ。第1兵団に城壁を死守するように伝えよ」
「城壁があるから安全などと思わんほうがいいぞ。あの人族はいつでもアンタを殺しに来ることができる」

 このジルレシスの言葉に嘘はないのだろう。今、このような攻撃ができる者に対抗する手段は我々に無い。お父上もようやく自らの失敗に気が付いたのか、真っ青な顔で黄金冒険者に助けを求める。

「ブロックス、シルマーン。わしの側を離れるな! 報酬はいくらでも出す。この屋敷でわしを守れ」
「ブロックス、お前も大変だな」
「そうでもないさ。この屋敷に印は無いのだろ」
「そうだな、その通りだ。そういやメルフィルはどうした。一緒じゃないのか」
「メルフィルはどうも、ユヅキ達に戦いを挑むようだ。やめろとは言ったんだがな」
「戦場に立っちまうと命の保証はできなくなる。ユヅキにもメルフィルにも助かってもらいたいのだがな」
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