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第4章 アルヘナ動乱

第161話 戦闘準備2

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「エギル。頼んでた物、できたか?」
「おう、できてるぜ。しかしこの笛、全く音がしないんだが本当にこれでいいのか?」
「それでいいんだよ」

 エギルには犬笛を大量に作ってもらった。音は鳴っているが人に聞こえないだけだ。

「それと、鉄の盾が4組だな。こんな重いと持ち歩けないぞ」
「ああ、それもそのままでいいよ」

 人の背丈まである少し湾曲させた分厚い鉄板3枚を、横に並べて組んでもらっている。これは弓を撃つ場所に埋め込んでアイシャを守るものだ。移動させず砲台として機能させる。
 4ヶ所にこの盾を設置し、その間は塹壕を掘って移動できるようにする。既に塹壕はカリンの土魔法で掘って完成している。魔法って便利だな。人の手だと、こんな短期間にできなかったぞ。

「この盾は冒険者ギルドに送っておく。笛はどうする」
「それは俺が持っていくよ」

 笛が入った箱を持って、弓職人のルフトの工房へ行く。

「ルフト、笛ができたぞ」
「ユヅキか。言っていた笛だな、見せてくれるか」
「ああ、これだ。これを矢じりの代わりに矢に付けてくれ」
「大型弓用と魔道弓用の2種類を作ればいいんだな」
「できるだけ精度よく作ってほしい」
「分かっている。回転の速い魔道弓でも軸がぶれない、まっすぐな矢を作ってやるよ」
「ああ、頼むよ」

 ルフトに任せておけば、最高級の矢を作ってくれる。他にも普通の矢じりの矢を大量に注文しているが、決戦の日までに充分間に合うと言ってくれた。

 家ではチセが俺の帰りを待っていたようだ。

「師匠。職人ギルドのマスターが、あたしと師匠に用事があるそうです」
「チセと俺が? 何だろうな」

 まだ陽も高いし、今から職人ギルドに行ってみるか。

「ボアンさん、用事は何だい」
「ユヅキ君、忙しいところすまんな。応接室に来てくれるか」

 部屋に入り、俺達はボアンと向き合ってソファーに座る。

「早速用件に入るが、君達が持っている権利を全て職人ギルドに譲ってはくれないだろうか」
「俺達のというと、魔道弓や魔弾銃の事か」
「その他、ユヅキ君の排水口やフロ釜、チセさんの魔弾製造技術、魔力注入器、それら全てだ」
「どういうことだ」

 前に領主が権利を全て売れと言ってきた時は、それに反対し売らないと判断したはずだが。

「君達はこれから、領主と戦うと聞いている。勝ったとしても町を出ると……。この先君達が王国を出た場合、売り上げの一部を君達に支給することができなくなる。その前に権利を売ってほしいのだ」

 そうだな、この国に留まれない可能性のほうが高い。その前に権利を売って一時金を手に入れろと言うことか。

「権利金は既に用意している。譲り受けた権利は職人ギルドが管理し、もし前のように貴族が欲しいと言ってきても売り渡すことはない。それを明記した書面も用意している」

 いつも会計をしていたテトリアさんが部屋に入ってきて、お金の入った袋を俺とチセの前に1つずつ置いた。

「権利金です。お確かめください」

 袋の中を見ると、今まで見たこともない沢山の金貨が詰まっていた。

「こんな大金をどうして」

 テトリアさんが説明してくれる。

「通常、権利金は1年から2年の売り上げに応じた額を計算して支払います。ユヅキさんとチセさんの権利は今後も使われるでしょうから、現在の5年分と増加分を含めた売り上げを計算してお支払いします」

 ボアンがすまなそうに話し出す。

「ユヅキ君、チセさん。今回我々職人ギルドは君達に何もしてやれない。今回の裁判に不服があっても何も言えないのがこの国のルールだ。せめて君達にこのお金を渡すことが、私にできる精一杯なんだ。すまない」

 ボアンは俺達の事を思って、このようにしてくれたんだな。申し出を快く受け、俺とチセは書類にサインし拇印を押した。

「ボアンさん、俺達を職人ギルドのメンバーから外してくれ。メンバーの中に犯罪者がいては困るだろう」
「分かった、そうしよう……」

 ボアンは一言だけ言って、後は言葉を詰まらせて何も言えなくなっている。もうこの先、俺達と会う事はできないだろうからな。
 部屋を出ると事務所では職員のみんなが、俺達を出迎えてくれていた。

「ユヅキさん、領主に勝ってくれよな」
「チセちゃんがいなくなると、寂しくなっちゃうわね。元気でね」
「奥さんとも、末永く幸せに……。死なないでくださいね」
「ユヅキ、お別れしたくないの~」

 ミアンや他の職員も泣いている人がいる。

「大丈夫だ。俺達は巨大魔獣も倒したんだ。領主などには負けないさ。今まで世話になった。ありがとう」

 俺達は職員に見送られてギルドを後にする。

「師匠。帰りにボルガトルさんの工房に寄ってもいいですか」
「それなら、俺も一緒に行こう」

 この町ではチセが世話になったからな。故郷を離れたチセが寂しい思いをしなくて済んだのも、ボルガトルさんのお陰だ。

「ボルガトルさん、いらっしゃいますか」
「チセか、また炉を使いたいのか」
「いえ、今日はお別れの挨拶に来ました。あたしもうすぐ町を出ます」

 その決意の言葉に、偏屈で頑固なおやじは言葉を失いチセを見つめる。その重い口から言葉を紡ぎ出した。

「お前は弟子でもなんでもねえ。出て行くなら勝手に出て行けばいい……。いや、お前だけでも残って……。何でもねえ。さっさと行きな」
「色々お世話になりました。今までありがとうございました」
「チセが世話になった。ありがとう」

 俺もチセと一緒にお礼を言う。

「お前がいたから、こんなことになっちまったんだ。ちゃんと最後まで責任は取れ。死なすんじゃねえぞ」

 怒ったように向けてくる言葉に、俺は何も言う事ができなかった。
 分かっているさ。チセは最後まで俺が守るよ。ボルガトルさんの目にはチセを手放す悲しみが溢れていた。
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