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第4章 アルヘナ動乱

第159話 結婚式

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 今日はアイシャとカリンとの結婚式だ。アイシャとカリンは朝から服選びなどで忙しくしている。
 俺はダイヤモンドの加工を頼んでいたのを思い出して、装飾工房に向かった。

「ダイヤの加工を頼んだ者だが、親方は居るか?」
「あなたですか。もう来ないものと思ってましたよ」

 狐獣人の女親方が奥から出て来た。

「すまない。あれから色々あって来れなかったんだ」
「あの硬い石のアクセサリーはもう完成してますよ」

 一番大きなダイヤモンドは首からかけるペンダント型のアクセサリーになっていた。ダイヤは綺麗にカットされキラキラと輝いている。指の幅2本分もあるような大粒だ、20カラット以上はありそうだな。

 2番目に大きなダイヤモンドはブレスレット型だ。細い金属の鎖に大きなダイヤが目立っている。これも15カラット以上はあるな。
 次のは指輪か。細かな装飾された金色のリングにダイヤがはめ込まれている。指輪だとダイヤも大きく見えるな。

 一番小さいのは、俺用のイヤリングだ。片方だけだが、俺の耳たぶに挟んで止めるように加工してもらっている。

「これはすごいな。どれもすごく綺麗だ。よくここまでカットできたな」
「そりゃ、苦労させられたわよ。でもその分綺麗に仕上がってるわよ。小さいのに他にはない輝きでしょ」
「ありがとう。これならアイシャ達も気に入ってくれるだろう」
「指輪は身に付ける人に合わせて、リングの大きさを調整するからまた来てくれるかしら」

 俺は料金を払ってアクセサリーの入った小さな箱を4つ受け取る。

「それとこれは、その硬い石の欠片よ。これも持って帰ってね」

 そうだった。ダイヤの欠片は研磨剤に使えるから、残しておいてくれと頼んでおいたな。
 料金は銀貨250枚程したが、普通なら1つ数百万から数十万円もする大きなダイヤのアクセサリーが、4つも手に入って得した気分だ。
 早速家に帰ってみんなにアクセサリーを見てもらおう。きっと喜んでくれる。

「アイシャにはこのペンダントを、カリンはブレスレットな。午後からの結婚式に付けて行ってくれ」
「ユヅキさん、ありがとう。キラキラしててとても綺麗ね」
「ユヅキ、ありがと。小さな石なのに腕に付けるとすごく目立つわね」
「チセには、この指輪を渡しておくよ。後でリングのサイズ調整しに行こうな」
「師匠これは、この世界で一番固いっていう石ですよね。すごいです。ありがとうございます」

 みんな気に入ってくれたようだ。
 午後からの結婚式のために教会に向かう。式場の準備などはエギル達が全てしてくれているから身一つで行けばいい。

 結婚式用のドレスというものも無い。気に入った服で花嫁は頭に白いベールをかける。このベールが女の子の憧れで、アイシャ達も付けてみたいと言っていた物だ。確かにふたりのベール姿は美しいな。
 俺は冒険者用の服しか持っていなくて、カリンのお兄さんから服を借りた。結婚式で着ていた服だそうで、これなら恥ずかしくはないな。

 俺達は教会前の広場で1段高い舞台を用意してもらって、俺の両隣には着飾った花嫁達に座ってもらう。アイシャの横に親代わりのエギルが、カリンの横にはトマスさんに座ってもらった。

 俺達の前には、結婚を祝ってくれる人達が沢山集まってくれている。急な事だったので、こんなに集まってくれるとは思っていなかった。
 会場はバイキング形式の立食パーティー風だ。集まった人達は好きなようにテーブルを囲み、式が始まるのを待つ。
 トマスさんが前に出て挨拶をする。いよいよ結婚式の始まりだ。

「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。ユヅキ君、カリン、アイシャさん。この町の者ならこの3人の事は良く知っているだろう。今日はみんなで祝ってあげてほしい」

 エギルも前に出て挨拶する。

「アイシャの嬢ちゃんは小さなころから知っている。こんなにきれいな花嫁姿を見ることができて本当に嬉しい。亡くなられた御両親もさぞ喜んでいるだろう。ユヅキ、幸せにしてやるんだぞ」

 エギルもトマスさんも目に涙を溜めている。娘を嫁に出す親とはそういうものなのだろう。
 宣誓の儀。俺の両脇にはアイシャとカリンが並んで立つ。

「今後俺は、どんなことがあってもアイシャとカリンと離れることは無い」
「それは、私もよ」
「ええ、そうね。ユヅキとは離れないわ」
「俺の人生はふたりと共にある。みんなも俺達の行く末を見守っていてくれ」

 こんな事はここに集まる皆に言うまでもなく、アイシャとカリンに言えばいいだけの事。だが皆の前で宣言する事で、その言葉は強固になっていく。このあと、俺達にどんな運命が待っていようとも、生き抜くという決意に力をくれる。

 さあ、ここからは堅苦しいのも、湿っぽいのも無しだ。俺もそう言うのは苦手だからな。これからは冒険者風の祝宴といこう。

「酒も料理も充分に用意している。さあ、みんな。タダ酒を飲んで大いに盛り上がってくれ」

 拍手と歓声の中、俺達も台を降りて広場のみんなの中に溶け込む。
 忙しい中、ギルドマスター達も来てくれたようだ。世話になったジルとボアンの元へと挨拶に行く。

「ユヅキ、いっぱしの格好してるじゃないか。見違えたぞ」
「ユヅキ君、ちゃんとおふたりを幸せにしてあげるのですよ」
「ユヅキ~、私の事捨てるの~」

 ミアン! なんてこと言うんだ。泣きそうな目で近づいてくるミアンを他のギルド職員に預け、こちらに近寄らせないようにしておこう。
 おっとシェリルさんも来てくれているな。俺が近づこうとすると、カリンが腕を引っ張る。

「ちょっとユヅキ。あのキレイな人、知り合い? 誰なのよ」
「チセも世話になっている商業ギルドのマスターだよ。カリンもシャンと背筋伸ばして歩けばカッコイイんだから、ヤキモチ焼かずに一緒に挨拶に行くぞ」

 カリンの腕を取り、アイシャも俺の横に並んでもらい手を組む。

「おふたりともお綺麗ね。あら、胸のペンダントとそのブレスレット、綺麗な石ですね。何と言う宝石かしら、キラキラしていてよくお似合いですよ」

 ほら見ろ、ふたりとも綺麗だと褒めてくれたじゃないか。アイシャもカリンも女優のようなシェリルさんからの言葉で、すっかり自信がついたようだな。

「ところでユヅキさん。あの宝石、後で名前と仕入れ先を教えなさいよ」

 小さな声で俺に囁くシェリルさんも相変わらずだな。
 冒険者仲間も大勢来てくれている。ニックもいるな。

「ユヅキ、こんな可愛い花嫁さんがふたりとは、まさに両手に花だな。お前達がまだ初心者だった頃が懐かしいよ」
「ほんとね。3人とも幸せになりなさいね」
「僕もこんなきれいなお嫁さん欲しいな。ユヅキさん、どうやって見つけたの」
「またネトは人の事ばかり。すまんなユヅキ。だが俺もそれは聞きたいぞ」

 こっちはスタンピードの時に一緒に戦った弓使いと魔術師の子達だな。俺達を慕って来てくれたようだ。健気な子達だ。

「私達アイシャさんの事、先生と思って頑張りますね。お幸せになってください」
「私達もカリンさんみたいな魔法使えるように頑張ります。旦那さんを大切にね」

 こんな大勢の人達に祝福されて俺達は本当に幸せ者だ。みんなと楽しく過ごし、陽が落ちていった。


 披露宴も終わり、俺達は家に帰りのんびりくつろぐ。チセが風呂を沸かしてくれたようだ。一番風呂に入らせてもらい、俺は部屋に戻った。
 扉をノックする音がする。扉の前には薄着の寝間着姿のアイシャが立っていた。部屋に招き入れて、しっとりした黒髪を撫でて口づけを交わす。

「俺は、式で誓った通りいつまでもアイシャのかたわらにいよう。これから先、どんなことがあってもだ」
「ええ、私達はいつまでも一緒よ、ユヅキさん」

 もう一度口づけを交わしてベッドに誘う。肩ひもを外し露わになった胸は片手で収まらず、手をやると甘い吐息を漏らす。
 ベッドの中でアイシャは俺の名前を何度も呼び、俺の想いに従順に答えてくれる。俺とアイシャの初めての夜はゆっくりと更けていった。
 朝、目を覚ますと隣には、笑顔のアイシャが俺を見つめている。これが幸福というものか。


「ねえ、ねえ、アイシャ。どうだった? 痛くなかった」
「ええ、それ程でもなかったわよ。ユヅキさんがすごく優しくてね、ふわふわになってね、なんかすごかった」
「へぇ~、そうなんですね。ふわふわで、すごかったと……」

 朝、チセが何やらアイシャに尋ねてデンデン貝に記録しているようだが、何を話しているのかよく分からんな。
 そんな俺達も領主との対決のために準備で、朝から冒険者ギルドに行って、馬車や武器などの手配をして忙しい一日を終える。

 その夜。俺の部屋にノックの音がして、扉の前にはモジモジとしたカリンがいた。
 少し硬くなっていたカリンを優しく抱きしめ口づけを交わすと、力が抜けたようだな。
 お姫様ダッコで、ベッドに入る。

「カリンは可愛いな」
「そ、そんなこと言ってないで、優しくしなさいよね」

 相変わらずのツンデレさんだ。寝間着のボタンを上から外し、手のひらに収まる胸に唇を這わせていくと、押し殺したような吐息を漏らす。
 ベッドの中ではフュヅキ、フュヅキと舌足らずに甘えてくる。そんなカリンとの初めての夜はゆっくりと更けていった。
 朝、横にいるカリンに口づけすると、幸せそうに笑っていた。この笑顔を俺はこれからも守らんとな。


「ねえ、ねえ、カリンどうだった?」
「うん、最初は少し痛かったけど、後はフニャフニャになって、溶けちゃいそうだった」
「へぇ~。フニャフニャで、溶けちゃいそうと……」

 何かおしゃべりしているチセ達を残して、俺は、武器屋に向かった。戦いに向け準備しないといけないが、アイシャやカリン、チセには幸せな日々が続いてくれと祈るばかりだ。
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