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第4章 アルヘナ動乱

第139話 魔の森の調査団

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 ある日、冒険者ギルドのマスターに俺とチセが呼ばれた。

「チセ、何だろうな」
「師匠だけなら分かりますが、あたしも一緒だなんて」

 俺達は3階の応接室に通されて、そこにはジルと一緒に黄金ランク冒険者の3人が座っていた。

「ユヅキ。昨日地滑りがあった魔の森の調査が終了して、調査団が帰って来た。参加していた、この3人も帰って来たんだが、地図の事でお礼がしたいそうだ。追加の報酬ももらっている」

 3人の中ではリーダー格である槍使いのブロックスが話し出す。

「君達が作ってくれた、地図のおかげで今回の調査が短期間で済んだ。感謝する」

 剣士のシルマーンも隣に居るが、この人は大怪我をしてたんじゃなかったか。その割にはしっかりとした声で話をする。

「オレ達が行く前に、こんな地図が出来上がっているのを見て驚いていたが、チセさんが物見やぐらから調査したと聞いて納得した。スタンピードの時もよく働いてくれたからな。直接礼を言おうと来たんだ」
「そんな、あたしは師匠に言われてできることをしたまでですから」
「それよりシルマール、あんた体の怪我はもういいのか?」
「骨が何箇所か折れていたが、治療してもらって動けるようになったよ」

 普通は無理だろうが、さすが黄金ランクだな。
 魔術師のメルフィルさんが、興味深そうに俺達に聞いてくる。

「地図を作った時に使ったという、遠見の魔道具に私は興味があるの。できたら見せてほしいんだけど」
「師匠、いいですか?」
「ああ、いいだろう。貸してあげなさい」

 チセがいつも持っている鞄から単眼鏡を取り出して、メルフィルさんに渡す。手に取り重さを確かめたり、窓の外の景色を眺めたりしている。

「ありがとう。でもここじゃ遠くが見えないわね。城壁の上に行きましょうか」

 それなら、三脚もいるだろう。俺は急ぎ家から三脚を持って西の城門に向かった。
 3人は城門の下で待っていてくれて、一般人は入れない扉から階段を登り城壁の上に出る。
 メルフィルさんは早速単眼鏡で辺りを見回している。

「これすごいわね。本当に遠くの物が近くに見えるわよ。シルマーンも見てみなさいよ」
「おー、ほんとだな。あの湖の端まで綺麗に見えているじゃないか」
「ところで、ユヅキ君。これでどうやって地図を作ったか説明してくれんか」

 ブロックスが聞いてきたので、単眼鏡を三脚に固定して覗いてもらう。

「中に縦と横に線が見えると思うが、横の目盛りで水平の距離を、縦で奥行きの距離を測る」
「ほほう、確かに細い線が見えているな」
「その視界の図を描いて距離の目盛りを書き込む。次に水平に動かして隣の視界の図を描く。これの繰り返しだ」
「そんな細かいことを続けるのか。道理で正確なわけだ」
「ブロックス、私にもう一度見せてよ。ふーん、こうするのか」

 ふむふむとメルフィルさんは三脚を操作して、いろんな場所を見ていく。

「それでできたのが、あの扇形の調査地図だ。上部の細い部分を四角く拡大して平面上にすれば、あの完成した地図になる」
「この遠見の魔道具を、もう1つ作れないかしら? 私欲しいんだけど」
「中の部品は15年ほど前に作られた物で、それしか無い。まだ材料や作り方など分からん事が多くてな」
「それは残念ね。できたら私に知らせてね。お金は用意しておくから」

 俺も作ってはみたいんだが、チセが町に来てから、魔弾やらスタンピードやら色々と忙しくて、そちらに手が回らないんだよな。

「今回、オレ達は魔の森の奥地まで調査して、色々な物を持ち帰ってきた。そこでだ、君達にその中から好きな物を選んでもらい報奨品として渡そうと思っている。一緒に来てくれないか」

 森の奥地の品か! 追加報酬とは別に、そんな貴重な物をくれるとは太っ腹だな。
 珍しい物があるのかな、ワクワクしながら兵舎の奥の広場に連れて行ってもらった。そこでは森の調査で運び込んだ、数多くの品々を兵士達が分類整理していた。

「高価な物は領主様に持っていくので渡せないが、それ以外なら持って帰ってくれて結構だ」
「地図作りの際、俺達の他にふたりが護衛をしてくれている。その分ももらっていいか?」
「ああ、そうだったな。君達は4人パーティーだったな。結構だ」

 カリン用に新しい杖を作ってやるつもりだった。この中からいい材料はないかと尋ねたら、メルフィルさんが教えてくれた。

「それなら、この木を使いなさい。カリンって言ったっけ、あの子杖もなしで戦っていたわね。これでいい杖を作ってあげればいいわ」

 そう言って黒っぽい木の枝を4本もらった。何でも森の奥地で取れる最高級品だそうで、確かに他の木材と違ってすごく重い木だな。
 ここにはシルマーンひとりが残り、作業の監督をするそうだ。持ち帰る物が決まったら、確認するので持ってきてほしいと言われた。 
 広場一杯に広がる品々をチセと一緒に見ていく。

「師匠、なんか大きな魔獣の頭がありますね。こっちは黒く光った石ですかね。珍しい物がいっぱいですよ」
「その黒いのは、燃える石で石炭という物だな。俺も知らない物が多くて、目移りするな」

 俺は水晶の柱が置いてある場所を見つけて近寄ってよく見る。これはレンズの材料になるんじゃないか?
 白く濁っている物もあるが、透明で透き通っているのはレンズとして使えるはずだ。

「おっ、これはフローライトか!」

 レンズとしては色収差が少なく、高級なレンズ素材だ。しかも大きい。

「よし、俺はこれにしよう」
「師匠、これは何ですかね? ガラスにしては少し変です」

 チセがガラスの小石のようなものを見つけた。透明な物や少し色が付いた物がいくつもある。近くにいた兵士に聞いてみた。

「このガラスの小石はどうするんだ」
「地滑りの岩の中から出て来たガラスだが、価値は無いそうだ。欲しいならあるだけ持って行きな」

 おいおい。これはダイヤモンドじゃないのか。こちらの世界では価値が無いのか、それとも知られていないだけか?

「チセ、もらっていいそうだ。全部袋に詰めよう」

 アイシャ達のいい土産になるぞ。ホクホクしながら袋に詰めていく。
 俺はフローライトを含む水晶の柱数本と、チセは数種類の綺麗な鉱石を選んだ。アイシャ用には珍しい魔獣の毛皮を持って帰ろう。
 ここを出る時は、シルマーンの許可がいる。持って帰ってもいいか尋ねてみる。

「何だ、そんな物だけでいいのか。チセさん、これはどうだ。宝石の原石のようだが、これも持っていくか」
「いいんですか! ありがとうございます」

 シルマーンはチセを気にかけてくれているのか、追加の鉱石をいくつか渡してくれた。お礼を言って、借りた荷車に品物を積み込む。

「お前達には、また何かあれば頼みに行くかもしれん。そん時はよろしくな」

 黄金冒険者にそんな事を言われるのは、くすぐったい気もするが、俺にできることなら手伝うと応え兵舎を後にした。
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