上 下
128 / 304
第4章 アルヘナ動乱

第125話 黄金ランク冒険者 シルマーン

しおりを挟む
 オレはシルマーン。黄金ランクの冒険者だ。
 若い頃、英雄に憧れ冒険者になって20年が過ぎた。

 色々な町を渡り歩き、その土地で数々の冒険をしてきた。妻や子供のためにと、この町で腰を落ち着け過ごしてきたが、功績が認められ黄金ランクへのランクアップが打診された。

 黄金ランクの冒険者は貴族と同格に扱われる。貴族街に住むことができ、給金もギルド、領主、王国から出て贅沢な暮らしをしなければ充分食っていける。
 貴族への憧れもあり、家族の安定を望んだオレは、黄金ランクへの昇格を二つ返事で決めた。
 その後は、領主の護衛任務や未開拓地域の調査など、領主からの直接の依頼をこなす日々だ。

 貴族と同格とはいえ、一代限りの下級貴族だ。ミスリルやアダマンタイトのランクになると王都で暮らし王族の依頼などをこなすのだろうが、結局貴族達の下働きになるのが関の山じゃないのか。
 最近そのような思いが強くなり、気力もなくなってきた。白銀ランク時代の方が自由でやりがいがあった気がする。

 そんな折、この町の近くでスタンピードが起こったと報告を受けた。

「おい、ブロックス。スタンピードが起こっているというのは本当か?」

 オレの少し先輩のライオン族の男に確認に行く。

「ギルドの報告によると、どうやらそうらしいな。少し忙しくなりそうだ」

 ブロックスとは、白銀時代に何度か組んで仕事をしたことがあるが、先に黄金ランクへと昇格していった。
 元貴族の四男で、騎士を経て自由を求めて冒険者になり、黄金ランクへ登り詰めた槍の名手だ。
 黄金ランクに上がる時に、「やれやれ、また貴族暮らしになってしまった」とぼやいていたな。

「シルマーン、領主と打ち合わせをする。ついて来てくれ」

 スタンピードの対応は最優先事項となる。オレ達は領主や兵団長と会い、今後の方針を決めていく。
 この町にいる3人の兵団長とオレ達は同格だが、魔獣相手ということで、兵団長や兵士がオレ達の指揮下に入る事となった。
 これが人相手の戦争なら、オレ達が兵団長の指揮下に入る事になっていただろう。

「オレ達は冒険者ギルドに行って、具体的な作戦会議をしてくる。幸い今回は時間がある。兵士達の準備は任せた」
「ああ、こちらは任せろ。後で詰めの打ち合わせをしよう」

 3人の兵団長達と分かれて冒険者ギルドに向かう。
 オレは16年前のスタンピードにも鉄ランクとして参加しているし、4年前、隣町のスハイルで起こったスタンピードにも志願して参加した。
 通常他の町への応援は出さないものだが、護衛任務ばかりの日常に飽きていたオレにはちょうど良かった。

「ブロックス、ここの冒険者の数は分かるか?」
「確か白銀が25、鉄が85くらいだったはずだ」
「オレを最前線で戦わせてくれんか」
「戦うのではなく指揮を執るんだぞ」
「分かっているさ」

 黄金ランクになって変わったのは、戦術を学び戦略を立てて戦うことだ。人との戦争のためのすべだが、魔獣相手でも使える。少ない数を補って魔獣に打ち勝つ手段をオレ達は知っている。
 白銀時代は魔獣の弱点を突き、効率よく倒す技を磨いてきたが、それだけでは押し寄せて来る魔獣の群れを倒すことはできない。

「だが、最後尾の巨大魔獣とは戦ってもいいんだろう」
「それはそうだろう。白銀でまともに戦える奴はそうそういないしな。メルフィルが間に合えば共に、俺達3人が主力で戦うことになる」

 久しぶりに巨大魔獣との戦闘だが、オレの腕はまだ鈍ってはいない。充分に戦うことができる。

「それとギルドからの提案で、最前線と第2防衛線に物見やぐらを建設して、魔獣の監視を行うことになった」

 ほほう。誰の提案か知らんが、情報の大切さを知っている者がいるようだな。

「おい、レドナ。冒険者ギルドへ行って、白銀連中の情報を集めておけ、編成の参考にする」

 オレは側近のひとりに、冒険者達の情報を集めるように指示する。


 冒険者ギルドでの作戦会議を終えて、一旦家に戻る。

「あなた、魔獣が押し寄せてきているんですって」
「ああ。だがオレが出るんだ、心配することはない」
「父上、僕も役に立てる事はありませんか」

 息子はまだ10歳だ。直接戦うことはできない。

「お前は母上を守るのが仕事だ。この家にいて、しっかりと守ってくれ」
「はい、父上」

 可愛い息子や妻と共に遅い夕食をとり、少し眠ることにする。

「鐘1つに起こしてくれ。急用があれば遠慮せずに起こせ」
「はい、旦那様」

 準備は、できている。
 いよいよ明日、魔獣との死闘が始まる。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...