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第3章 ドワーフ編
第115話 グラフ作り
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夕食後は、チセと一緒に記録したガラス球のデータを検討する。チセの部屋に行き記録データを見たが、ガラス球の大きさと発動している時間が、きっちりと書き込まれているじゃないか。
納得いかない箇所は2回測定するなど、考えながら実験している様子がうかがえる。
今までチセを見てきたが、この子は論理的な思考ができる子だ。その点、カリンとは正反対だな。
カリンは感覚的に物事を捉える。それはそれですごい事で、彼女独自の魔術を2本のタクト型の杖で操っている。今ではタクトの魔術師とかコンダクターという通り名までついている。
カリンは魔術師学園へも通わず、独自に自分の感性で魔術を生み出す、俗に言う天才タイプだ。
一方、チセは教えたものを吸収して、自分で考え発展させていける秀才タイプだな。この世界では珍しい論理的な才能の持ち主だ。
「チセ。昨日と今日書いた記録から、グラフを作ってみよう」
「グラフ?」
「ここに横と縦に線を引いてごらん」
チセは言われた通り、真っ直ぐ直交する2本の線を書く。
「一番小さいガラス球の番号を下のここに書いて、その時間の長さ分を縦に印をつける。一番大きな物はこの端に、中間の大きさを真ん中にして印を打っていこう」
「こうですか?」
俺に尋ねながらも、全部のガラス球の数値をグラフに描き表していく。
「この印を結んでいくと、こんな曲線が描ける」
明らかに2つのピークを持つ曲線が現れた。
「でも、この曲線と印の位置が違いますよ」
「そうだね。これは誤差を考えて描いた数字の傾向を表す線なんだ」
数学的な知識は無くとも、俺の説明を聞いて自ら考え理解しようとする。
「それじゃ、この曲線をこっちの小さな球の方に伸ばすとどうなると思う?」
「小さい方にも同じような山が……もっと小さなガラス球でも同じ事が起こるということですか」
今のデータから予測される結果を導き出す。その先にはランプと同じガラス球があるはずだと、チセもそれに気付いたようだな。
多分このグラフの曲線は共振現象だ。整数倍でピークが来る。すると魔力というのは波なのか?
調べないと分からない事は沢山あるが、チセには一応これで納得してもらおう。
「グラフで予想される、この位置にある小さなガラス球を作ったら、今日よりもいい結果のガラス球ができるかもしれないぞ。それとも大きな方を作ってみるか」
「この小さいガラスか、もう1段小さい物を作りたいです。あのランプのガラス球に近づきたいんです」
あまり小さくなると誤差も大きくなって定量的に測れなくなるが、まあいいだろう。
「じゃあ、次は2段小さいガラス球を作ってみよう。でもこんな小さい物を上手く作れるのか?」
「はい、型に入れて作れば大丈夫だと思います」
今は手のひらサイズだが、ビー玉サイズのガラス球になりそうだな。色んな作り方があるんだろうが、それは専門家であるチセに任せよう。明日も工房に出向いてガラス作りをするそうだ。
その日以降もチセは、ガラス球作りを続けていく。ガラス工房に何度も通っているのでボルガトルさんから、炉を貸すお金は要らないから少し仕事を手伝えと言われたそうだ。
アルバイトをしている気分で、チセも楽しくガラス工房に通っている。職人としての技術も身に付き一石二鳥じゃないか。
ある日、チセが作ったガラス球を持って俺の部屋に来た。
「師匠、これどう思います?」
チセに見せてもらったガラス球は、2cm程の球体の上半分が四角く歪な形をしている。
「失敗して形は変なんですけど、数値的にはいいんですよ」
俺は火の魔法を入れてしばらく見たが、なかなか炎は消えずガラス球の中でずっと揺らめいている。チセが疑問に思うのも当然だな。
「なるほどな。外形でなく中の大きさが重要ということか」
「あたしも外の大きさで、順番に時間を測っているんですけど、細かなところで数値がバラバラで困っていたんです」
ガラス球が小さくなると、微妙な厚みの違いが誤差として大きくなってしまう。重要なのが内径の大きさとなると、ガラス球の作り方が変わってくる。
今は溶けたガラスを息で膨らませて、外側を円形の型に押し付けて作っているそうだ。内径が重要となると、逆に丸い型の周りをガラスで固めないといけなくなる。
「粘土で真ん丸の型を作って、その表面を溶けたガラスで覆う作り方になりますね」
「チセ、その型を鉄で作っても大丈夫か?」
「鉄なら溶けないと思いますが……」
正確な型を作るなら鉄を加工した方がいいはずだ。前の世界でも金型は鋼でできていた。パチンコ玉のような物を作って、それを型にすればいいように思うのだが。
「鉄だと高くつきますし、取り出し方法が難しいですね」
粘土だとガラスが固まった後で、中の型を崩して小さな穴から取り出すつもりらしい。だがそれだと1回ごとに新しい型が必要だし精度も悪くなる。
鉄を使うとどういう製法になるかチセも考えてくれる。
「四角い型枠の中に鉄球を入れて溶けたガラスを流し込んだ後、ガラスを半分に割って鉄球を取り出す方法になりますかね」
または最初から半球の形で作って、2つのガラスを貼り合わせる方法でガラス球はできると言っている。
だがどちらの方法でも完全な半球にならないと、貼り合わせた後に精度のいい球体にはならないのが問題だと言う。チセもやってみないと分からないそうだが、今はその方法が一番いいように思う。
「まずは鉄の型ができるかどうか、エギルに相談してみるよ」
納得いかない箇所は2回測定するなど、考えながら実験している様子がうかがえる。
今までチセを見てきたが、この子は論理的な思考ができる子だ。その点、カリンとは正反対だな。
カリンは感覚的に物事を捉える。それはそれですごい事で、彼女独自の魔術を2本のタクト型の杖で操っている。今ではタクトの魔術師とかコンダクターという通り名までついている。
カリンは魔術師学園へも通わず、独自に自分の感性で魔術を生み出す、俗に言う天才タイプだ。
一方、チセは教えたものを吸収して、自分で考え発展させていける秀才タイプだな。この世界では珍しい論理的な才能の持ち主だ。
「チセ。昨日と今日書いた記録から、グラフを作ってみよう」
「グラフ?」
「ここに横と縦に線を引いてごらん」
チセは言われた通り、真っ直ぐ直交する2本の線を書く。
「一番小さいガラス球の番号を下のここに書いて、その時間の長さ分を縦に印をつける。一番大きな物はこの端に、中間の大きさを真ん中にして印を打っていこう」
「こうですか?」
俺に尋ねながらも、全部のガラス球の数値をグラフに描き表していく。
「この印を結んでいくと、こんな曲線が描ける」
明らかに2つのピークを持つ曲線が現れた。
「でも、この曲線と印の位置が違いますよ」
「そうだね。これは誤差を考えて描いた数字の傾向を表す線なんだ」
数学的な知識は無くとも、俺の説明を聞いて自ら考え理解しようとする。
「それじゃ、この曲線をこっちの小さな球の方に伸ばすとどうなると思う?」
「小さい方にも同じような山が……もっと小さなガラス球でも同じ事が起こるということですか」
今のデータから予測される結果を導き出す。その先にはランプと同じガラス球があるはずだと、チセもそれに気付いたようだな。
多分このグラフの曲線は共振現象だ。整数倍でピークが来る。すると魔力というのは波なのか?
調べないと分からない事は沢山あるが、チセには一応これで納得してもらおう。
「グラフで予想される、この位置にある小さなガラス球を作ったら、今日よりもいい結果のガラス球ができるかもしれないぞ。それとも大きな方を作ってみるか」
「この小さいガラスか、もう1段小さい物を作りたいです。あのランプのガラス球に近づきたいんです」
あまり小さくなると誤差も大きくなって定量的に測れなくなるが、まあいいだろう。
「じゃあ、次は2段小さいガラス球を作ってみよう。でもこんな小さい物を上手く作れるのか?」
「はい、型に入れて作れば大丈夫だと思います」
今は手のひらサイズだが、ビー玉サイズのガラス球になりそうだな。色んな作り方があるんだろうが、それは専門家であるチセに任せよう。明日も工房に出向いてガラス作りをするそうだ。
その日以降もチセは、ガラス球作りを続けていく。ガラス工房に何度も通っているのでボルガトルさんから、炉を貸すお金は要らないから少し仕事を手伝えと言われたそうだ。
アルバイトをしている気分で、チセも楽しくガラス工房に通っている。職人としての技術も身に付き一石二鳥じゃないか。
ある日、チセが作ったガラス球を持って俺の部屋に来た。
「師匠、これどう思います?」
チセに見せてもらったガラス球は、2cm程の球体の上半分が四角く歪な形をしている。
「失敗して形は変なんですけど、数値的にはいいんですよ」
俺は火の魔法を入れてしばらく見たが、なかなか炎は消えずガラス球の中でずっと揺らめいている。チセが疑問に思うのも当然だな。
「なるほどな。外形でなく中の大きさが重要ということか」
「あたしも外の大きさで、順番に時間を測っているんですけど、細かなところで数値がバラバラで困っていたんです」
ガラス球が小さくなると、微妙な厚みの違いが誤差として大きくなってしまう。重要なのが内径の大きさとなると、ガラス球の作り方が変わってくる。
今は溶けたガラスを息で膨らませて、外側を円形の型に押し付けて作っているそうだ。内径が重要となると、逆に丸い型の周りをガラスで固めないといけなくなる。
「粘土で真ん丸の型を作って、その表面を溶けたガラスで覆う作り方になりますね」
「チセ、その型を鉄で作っても大丈夫か?」
「鉄なら溶けないと思いますが……」
正確な型を作るなら鉄を加工した方がいいはずだ。前の世界でも金型は鋼でできていた。パチンコ玉のような物を作って、それを型にすればいいように思うのだが。
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粘土だとガラスが固まった後で、中の型を崩して小さな穴から取り出すつもりらしい。だがそれだと1回ごとに新しい型が必要だし精度も悪くなる。
鉄を使うとどういう製法になるかチセも考えてくれる。
「四角い型枠の中に鉄球を入れて溶けたガラスを流し込んだ後、ガラスを半分に割って鉄球を取り出す方法になりますかね」
または最初から半球の形で作って、2つのガラスを貼り合わせる方法でガラス球はできると言っている。
だがどちらの方法でも完全な半球にならないと、貼り合わせた後に精度のいい球体にはならないのが問題だと言う。チセもやってみないと分からないそうだが、今はその方法が一番いいように思う。
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