上 下
98 / 240
第3章 ドワーフ編

第95話 ドワーフの町へ ~夜の道~

しおりを挟む
「アイシャ、前半の夜警は頼む。何かあればすぐに起こしてくれ」

 夜警をアイシャに任せて、俺は荷馬車の下で毛布に包まって眠る。
 夜半頃だろうか、アイシャに起こされた。

「ユヅキさん、近くに獣がいるの。魔獣かどうかは分からないわ」
「数は?」
「1匹よ。カリンは起こさなくても大丈夫だわ」

 俺は剣を構えて、獣のいるあたりを見つめる。
 虎か豹のように見えるが、相手もこちらを警戒しながらゆっくりと歩いている。小川の方に歩いていき、そのまま姿を消した。川に水でも飲みに来たんだろう。

「もう大丈夫そうだな。アイシャ、交代するよ。そこで寝ていてくれ」
「そうね。それじゃ後はお願いね。ちょっとでも異変があったら起こしてね」
「ああ、おやすみ」

 その後は何事もなく朝を迎えた。俺が朝食の準備をしているとカリン達が起きだしてきて手伝ってくれる。

 朝食の後、俺とアイシャは荷馬車の中で眠り、カリンに御者台で警戒してもらう。
 多分今日は盗賊の心配をしなくていいだろう。今後の事を考えて休める時に休んでおこう。
 カリンとゴーエンさんには交代で馬車を進めて、できるだけ距離を稼いでもらう。

 翌日も盗賊に襲われる事はなく、馬車を進める事ができた。

「ユヅキさんよ、明日ぐらいには盗賊が動き出すかもと言っておったな」
「そうだな。帰ってこない仲間を発見していたら、明日襲って来る可能性があるな」
「じゃから、今夜のうちにここを出発しようと思う」

 今から食事をして馬を休ませて、夜半に出発すると言う。確かに昼間だと盗賊に発見されやすいが、夜道も危険だ。

「ワシらドワーフは夜目が利く、少しの明かりがあれば夜も走れる。明日の昼には町に着けるじゃろう」

 夜、カリンに馬車を走らせることはできないから、ゴーエンさんひとりで馬車を操る事になってしまうな。

 こんな事なら俺も馬の扱いを覚えていた方が良かったな。必要に迫られてではあるが、こちらの世界に来て言葉や文字、その他多くの事を覚えてきた。
 学校で習うような勉強とは違う、俺自身が生き抜くための勉強だ。だがまだ足りないということか。

 夜半まで仮眠を取り、ゴーエンさんに荷馬車を走らせてもらう。
 御者台に2人が座り左右からランプで道を照らしながら警戒をする。その間もうひとりは荷馬車の中で休憩だ。3人で交代しながら、ゴーエンさんを補佐する。

「ゴーエンさん、明かりはこの程度で大丈夫か?」
「ああ、それでいい。この街道ならちゃんと馬を走らせられるよ」

 林の中から獣の声が時折聞こえてくるが、こちらを襲ってくる気配はない。盗賊も俺達が夜に馬車を走らせるとは思っていないだろう。

 夜が明けて朝日が昇る頃。馬を休ませて、すぐに出発する。

「ゴーエンさん。ここからは私が馬を走らせるわ」
「そうかい。すまんがカリンさんに頼むとしよう」

 一晩中走り続けたからな。ゴーエンさんも疲れただろう。カリンもこの馬車に慣れて来て、ゴーエンさん並みに馬を走らせられる。ここはカリンに任せよう。

「カリン、この先にある王都の道との合流地点が一番危険な場所だ。それまでしっかりと馬車を操作してくれ」
「ええ、私に任せなさい」

 盗賊が来るとするなら、王都への街道に現れたと言う盗賊達だろう。林の中を突き抜けてこちら側に来るか、王都への合流地点で待ち伏せてるかだな。俺とアイシャで前後を警戒しつつ馬車は走る。

「あれが王都への合流地点みたいよ」
「盗賊はまだいないようだな」

 幸い誰の姿も無い。荷台で休んでいたゴーエンさんも起きて来て、御者台から周辺を覗う。

「あの地点を越えて、坂道を登ればハダルの町だ。カリンさん、御者を代わろう」

 するとアイシャが後方の異変を知らせる。

「遠くだけど、土煙が上がっているわ。盗賊の集団のようよ」

 俺達を襲うため、林を抜けてこの街道にやって来たようだな。合流地点を越えてさらに進むと、王都への道の向こうにも土煙が見えた。二手に分かれて俺達を追ってきたようだな。
 やはり盗賊団か、人数は多そうだ。だが、俺達の方が一歩早かったようだ。坂道を上ると、ドワーフの町の城壁が見えて来た。

「ここまで来れば、もう大丈夫なようじゃな」

 坂の上から後ろを振り返ってみると、ふたつの街道の先に土煙が見えて何かの集団が移動しているのが見て取れる。
 この道に詳しいゴーエンさんがいてくれて助かった。町に入れば、もう襲ってくることはないだろう。

 ドワーフの町は城壁で囲まれていて、魔獣などから町を守っている。小さな村以外は大戦の頃に作られた城壁があり、それを補修しながら今も使っているらしい。
 ハダルは小さな町と聞いていたが城門は立派で、ドワーフ達が作ったであろう鉄と木でできた頑丈そうな城門だ。
 俺達は開いた城門の中に入っていく。

「お、お前達スハイルの町から来たのか」

 交易の途絶えたスハイルからの来訪者と知り門番が驚いているようだが、通行料を受け取ると俺達を町の中に入れてくれた。
 町中をゆっくり走り、ゴーエンさんは一軒の家の前に荷馬車を停める。

「ワシはここの親戚の家に厄介になる。しばらく滞在するが帰るまで時々連絡するようにしよう。あんた達は宿屋に泊まるのだろう」
「ああ、そのつもりだ。宿屋はどのあたりにあるんだ?」
「この道の先に食事処がある、その近くに宿屋が何軒かある。今も営業しているはずだ。宿が決まったらワシの所に来てくれ。それまで荷物は馬車に積んでおくから、必要なものだけ持っていけばいい」

 手持ちの武器以外は、馬車に残しておこう。

「ゴーエンさんは疲れているだろう、ゆっくり休んでくれ。俺達は夕方頃にまたここに来るよ」
「ああ、それじゃまたな。ありがとよ」
「こちらこそ、無理をさせてすまなかったな」

 ゴーエンさんと別れて俺達は、食事ができる場所を探す。閉まっている店が多いようだが、 ゆっくりできそうな店に入り、ホッと息をつく。
 一晩走ってきて腹も減っている。しっかりとした食事を摂ってから宿屋を探そう。

 客は少ないな。ゆっくりできていいが、俺達が珍しいのか店員もこちらをチラチラ見ている。盗賊のせいか旅人や行商人の姿はない、店員も客もドワーフの人達だけだ。
 腹も膨れて近くで宿屋を探したが1軒しかなく、しかも今は満室で夕方にならないと空きがないと言われてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し
ファンタジー
 主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。  彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。  片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。  リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。  実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。  リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。

アイテムボックスで異世界蹂躙~ただし、それ以外のチートはない~

PENGUIN
ファンタジー
 気付いたら異世界だった。そして俺はアイテムボックスが使えることに気付き、アイテムボックスが何ができて何ができないのかを研究していたら腹が減ってしまった。  何故アイテムボックスが使えるのかわからない。何故異世界に来て最初にした俺の行動がアイテムボックスの研究だったのかわからない。 第1章  『ただ、腹が減ってしまったため、食い物を探すために戦争をアイテムボックスで蹂躙する。』 え?話が飛んだって?本編を10話まで読めばわかります。 第2章  15話から開始  この章からギャグ・コメディーよりに 処女作です。よろしくね。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》  社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。  このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。

処理中です...