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第3章 ドワーフ編

第88話 お兄さんの結婚式

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「よう、ユヅキ。フロに入りに来たぞ」
「こんばんは、親方」
「おう嬢ちゃん、ちょっと邪魔するぜ。ユヅキ、俺の作ったフロガマの部品はどこにあるんだ?」
「裏庭だ、こっちに来てくれ」

 やはり自分の作った新しい物は気になるからな。裏庭に案内して風呂釜を見てもらった。その後、俺とエギルが一緒に風呂に入るが、「お前も一緒に入るのか」と驚いていたな。これが裸の付き合いと言うやつだ。

「いや~、これは気持ちがいいな」
「そうだろ、水浴びとは全然違うだろ」

 風呂上がり、アイシャが冷えたワインとおつまみを食卓に用意してくれる。ドライヤーで髪を乾かしつつ、酒を酌み交わす。

「湯に入ると聞いてどんなものかと思っていたが、こんなのが家にあるとは贅沢だな」
「まあ毎日とはいかんが、好きな時に入れるからな。うちのカリンも最初嫌がってたが、今度いつ沸かすんだとうるさくてな」
「なっ、ユヅキ! そんな事、話さなくてもいいでしょ」

 食事を終え横でアイシャとおしゃべりしていたカリンが。赤い顔で怒りだす。
 すまんな、お客さんのいる前じゃ風呂に入る事もできんしな。また今度、沸かしてやるからな。

「俺の家でも、フロ考えてみるか。あのフロ釜の構造考えたのはユヅキだろ。登録せんのか」
「いや、登録する程の物じゃないだろ」
「でもそうしてもらわんと、俺達が勝手に作る訳にもいかんのだがな」
「いいよ、いいよ。エギルが自分で作ればいいじゃないか。あのタンクの部品はエギルが作ってくれたんだし」

 などと言いつつ、酒を飲みながら夜が更けていく。


「ユヅキよ、フロに入らせてくれるんだって」
「おお、ゲレル。工事の時は世話になったな」
「ゲレルさん、かまど直してもらってありがとうございます。使いやすくなって助かってます」
「気に入ってもらえて良かったよ。今日はすまんな、ちょっと邪魔するよ」

 そう言いつつ洗い場に入り、ふたり湯に浸かる。

「いやー、こりゃいいもんだな」
「そうだろ、そうだろ」
「そういや、ユヅキよ、なんで配水管の穴は縦に開けるんだ、横じゃダメなのか?」
「それはだな……」

 その日も酒を飲みながら夜が更けていった。


「ユヅキ君、おフロというものに入らせてくれるそうだね」
「はい、どうぞボアンさん、こちらです」
「ユヅキさん、今日もなの!」
「仕方ないだろ、あの人は俺の上司なんだから」
「ユヅキ、私はまだ2回しか入ってないんだからね」

 すまんな、カリン。近いうちに風呂を沸かすようにするからよ。
 翌日、冒険者ギルドに行くと、マスターのジルに呼ばれた。

「ユヅキの家に、フロとかいうものがあるそうだな」

 お前もかよ!
 俺はその日のうちに風呂釜や浴槽などの図面を作って、職人ギルドに登録した。後はこれを見て勝手に作ってくれ。




 今日はカリンのお兄さんの結婚式だ。俺とアイシャはカリンに呼ばれて、教会での結婚式に出席する。

 日頃来ない教会だが、白い壁で三角屋根の教会堂が門から一番奥にそびえ立つ。その横にはいつも鐘を鳴らしている塔があり、託児所などの建物が併設されている広い場所だ。教会手前の芝生の広場は、前に成人式をしていたな。
 宗教の廃れたこの世界だが、冠婚葬祭や様々な催し物はここを利用するようだ。皆が集まる集会場のような場所になっている。

 教会内の広間は、3階の吹き抜けで高い窓から陽の光が差し込む。中央の通路を大きく空けて左右に並べられた長椅子には、すでに親戚やら知人やらで多くの人達が席に着いていた。
 
 カリンのお兄さんとそのお嫁さんは、家族達と一緒に一番前に座って雑談をしている。お嫁さんはお兄さんと同じ虎族の獣人でなかなかに綺麗な人だ。若くてかわいい、いかにも新妻といった感じの人だな。

「皆さん、本日はお集りいただきありがとうございます」

 カリンの父親のトマスさんが、親族を代表して最初に挨拶するようだ。

「息子のケルミは隣町スハイルのケレイヤさんとご縁があり、この度、結婚する事となりました。ケルミには私の店をいずれ継いでもらおうと思っておりましたが、ケレイヤさんのような立派なお嬢さんを迎えることができて、私もほっとしております」

 その後も、トマスさんの挨拶が続き、新婦さん方の親族の挨拶があってから、結婚するふたりが皆の前に立って宣誓の儀を行う。

「私達、ケルミとケレイヤはお互いを慈しみ、助け合って、幸せになることを誓います」

 牧師は居ないが、みんなの前で宣誓する事で結婚を認めてもらったと言う事のようだな。拍手の中、ふたりは中央の通路を歩き後ろの扉に立つ。

「本日は、ささやかながら祝宴の場を設けております。皆さんどうぞこちらへお越しください」

 式が終わって、披露宴がこれから始まる。ホストとなってパーティーに招待客を招く、これがふたりによる初仕事と言うことになるわけだな。

 扉を出た隣の会場には、白いテーブルクロスが掛けられた長いテーブルが2列に並べられていて、その両側に椅子が置いてある。席が決まっているわけではなく、親族など入って行った順に奥から座っていくようだ。
 全員が着席したところで、トマスさんの乾杯の音頭で皆が木のジョッキを掲げ宴が始まる。

「お嫁さん、すごっく綺麗ね。憧れちゃうわ」

 アイシャも年頃の女の子だしな、ドレス姿の新婦さんに見入っている。
 新婦さんはウエディングドレスのような派手なものではないが、簡易なドレス姿で頭にティアラと後ろ髪は白いベールで飾られている。
 耳にはおそろいのイヤリングを1つずつ付けているが、あれは結婚指輪の代わりか?

 乾杯して少し食事した後は立食パーティーの形式で、各々新郎新婦に挨拶に行ったり知人同士で話したりしている。
 お酒はワインの樽が用意されていて、各自で好きなだけ飲んでもいいそうだ。
 俺達も新郎新婦に挨拶に行く。

「ケルミさん、ケレイヤさん、ご結婚おめでとう」
「ありがとうユヅキさん。ケレイヤ、この人達はユヅキさんとアイシャさんだ。色々とお世話になっていて、妹のカリンもおふたりの家に下宿させてもらっているんだ」
「まあ、そうなんですか。私この町は初めてで慣れないこともあるので、色々教えてくださいね」

 数日前にこのアルヘナに引っ越して来たばかりで、お店の2階の部屋を新しくして住むようだな。

「ケレイヤさん、ご結婚おめでとうございます。ほんとお綺麗でうっとりしちゃいました」
「俺達からはお祝いとして、ドライヤーの魔道具を贈らせてもらった。使ってほしい」

 王都のシルスさんが完成したドライヤーを考案者への贈呈品として、いくつも送ってきている。ドライヤーに関わった職人達にも渡したが、アイシャと相談して今回の贈り物にしようと決めた。

「まあ、魔道具を? そんな高価な物を、よろしかったんですか」
「ドライヤーの魔道具は、ものすっごく良い道具なんですよ。温風が出てきてすごいんです」

 相変わらずアイシャのドライヤー愛は健在だな。

「それはありがとう、大事にするわね」
「おふたり共、末永くお幸せに」


 俺達がテーブルの席に着いたところに、カリンがやって来た。

「カリン、お嫁さん素敵ね」
「ほんとだわ、兄さんにはもったいないぐらいね」
「隣町の人なんだって、良く知り合いになれたな。お見合いか?」
「隣町に仕入れに行ってるときに知り合ったんですって。前は私も仕入れの手伝いしてたんだけど、最近仕入れは兄さんがいつも行っていて、その度に向こうで会っていたそうよ」

 なるほど、遠距離恋愛か。
 隣町までは馬車で半日、泊りがけになる事も多いから、そうそう行き来はできん。仕事の合間に彼女に会いに行くとは、まめな事だ。

「なあ、カリン。ふたりが耳にしているイヤリングは結婚指輪のようなものか?」
「そうかもしれないわね。兄さんが2つ贈ってケレイヤさんが、1つずつ付けましょうって言ったらしいわ。お熱いことよね」
「素敵じゃない、キラキラして綺麗だし、お似合いだわ。どこで買ったのかしら」
「この町じゃないわよ。隣町でドワーフ族から仕入れたガラス細工らしいわ」

 なに、ドワーフだと!
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