上 下
88 / 304
第2章 街暮らし 冒険者編

第85話 カリン覚醒

しおりを挟む
 カリンは魔力を回すのが重いと言っていた。スムーズに回せれば、継続して魔力を放出できて、魔法を安定的に発動できると思うのだが。

「カリンは魔力を回すとき、どうやってるんだ」
「教会で教えてもらった通り、胸から順番に体の表面をなぞるように回しているわ」

 これは俺も同じで、血液と同じように手足を含めた体全体に循環させているイメージだ。しかし血液に拘らなくても良くないか? 色々試してみるか。

「逆回りにできるか?」
「えぇ、逆? え~と胸から左肩、頭、え~と……」

 やってもらったが、魔法は発動しなかった。
 カリンは不器用だからな。余分なところは省いて、もっと単純にしないとダメか。

「じゃあ、胸から首、そしてお腹、また戻って胸ならどうだ」
「ヒャッ! へ、変なとこ触らないでよ。まあ、いいわ。やってみる」
「ユヅキさん。逆回転でお腹の周りだけなんて、聞いたことないわよ」
「まあ、今までとは違うことを試してみるのもいいんじゃないか」

 常識に囚われず、カリン独自の方法を見つけだせばいいさ。

「あれ、なんだかスムーズに魔力が回る感じね。あまり引っ掛かりがないわ」
「それを右手に集めるとどうだ?」
「う~ん、そうするとダメみたいね」

 魔力量が多いから普通とは違うのだろう。それならほんの一部だけを右手に流すのはどうだ。

「カリン、ちょっとこっちに来て座りな」

 俺は丸いジャガイモを輪切りにしてテーブルに持っていく。ジャガイモの中心に櫛を刺してコマのようなものを作る。

「これをカリンの魔力として、ゆっくり回す。こうやってゆっくり回すのはできるな」
「ええ、丸い形で回すというのは分かりやすいし、ゆっくり回すならできるわ」
「ジャガイモ表面にナイフを立てて回すと、皮だけ薄く切れるだろ。その皮を指先に持っていくというのはどうだ?」
「魔力を薄く切り取るのね。やってみる」

 カリンは目を閉じて椅子に座り、俺は後ろから両肩に手を置く。

「まず体を安定させて、ゆっくり呼吸して魔力を回してみろ。ゆっくりでいいぞ」
「うん」
「魔力を右肩部分で少し削って指に流せるか?」

 右肩に置いた手に少し力を入れて、カリンに意識させる。

「うん、指に流しても体の魔力はちゃんと回っているわ。魔法を使ってもいいかしら」
「ああ、やってみろ」

 カリンが中指を鳴らすと、水球が指先に現れたまま維持されている。
 指を弾くと水球が飛んでいき壁に当たって弾けた。

「カリン、できたじゃない。うまく発動できていたわよ」
「うん、うん。もう一度やってみるね」

 俺は肩から手を放して、カリンが魔法を使うのをそっと見守る。次の魔法もちゃんと発動できているようだな。

「上手いもんだ」
「うん、ありがとう。ユヅキ」
「少し説明するぞ。このジャガイモをゆっくり回しても周辺部は速いから、普通の人が魔力を回すのと同じと思えばいい。だから今のままゆっくりでいい」
「うん、無理に回さなくてもいいんだね」
「そうだ、魔力量が減れば勝手に回転は速くなるから、カリンは気にする必要はない」
「えっ、そうなの」

 コマの原理からするとそうなる。

「カリンが気にするのは、切る皮の厚さ。指に流す魔力量だ」
「うん、そうね。それで発動する魔法の大きさが決まるものね」

 分かってるじゃないか。

「左手はどうだ、お腹の下からの魔力を削る感じだが」
「左肩で削って一回転させて指先に持っていくイメージでできそうよ」
「ああ、そういえば、魔力の回転は元の左回転でも良かったんだがな」
「いいえ、このまま右回転のイメージでいくわ」

 最初のイメージが大事だからな。逆のままでいいか。

「左右同時に魔法を使ってみるわね」

 指を鳴らすと、左右の指先から水球が飛んでいった。

「カリン、すごい、すごい。ふたつの魔法が使えているわ」
「うん。ありがとう、ありがとう」

 カリンは涙を零しながらアイシャに抱きついている。そうだよな、俺も魔法が使えた時は嬉しかったものな。
 カリンはそれから数日間、朝は俺と体操や腹式呼吸の練習をして、半日は薬草採取、半日は魔法の自主練習をしてもらう。


 そして俺達が休みの日、東門を出た所の岩場にやって来た。前にシルスさんが火魔法をぶっ放していた場所だ。

「カリン、ここなら思いっきり魔法を使えるぞ」
「そうね、じゃあ火魔法から試してみるわ」

 カリンが人差し指を弾くと、ファイヤーボール程度の火の玉が崖に飛んで行った。

「カリン、それが全力か?」
「えっ? いやいや、まだまだよ。私の実力を見てなさいよ」

 勢いよくカリンが人差し指を弾く。火の玉が崖に飛んで行ったが、同じじゃね~か。前にパーティーを組んだ若手冒険者の魔術師と同じ程度の火魔法だ。
 カリンの魔法力は桁外れに大きいというから、全力がこの程度のはずはない。

 俺もシルスさんに魔法を教えてもらったときに言われたが、魔法を長い間使っていないと、魔力が放出される指先の出口が塞がった状態になるそうだ。
 俺はこの世界に来るまで、魔法など使ってないからそうなっていたのだろう。

「おい、カリン。前にシルスさんから教えてもらった方法を試すからこっちに来い」
「何よ、変なことしないでよ」
「簡単なことだ。右手を広げてみろ。そうだ。それに俺の手を合わせる」
「キャッ。何すんのよ、変態」

 変態はないだろう。

「それなら、アイシャにやってもらうわよ」
「アイシャは2種類の属性しか使えんからダメだ。だから俺がお前に合わせてやってるんじゃないか。ほれ文句言わず手を貸せ」

 カリンは顔を赤らめながらも手を広げた。それに俺の手を合わせて少しだけ魔力を放出する。

「痛、なに! 今、バッチンっていった!」
「次は左手だ」
「ユヅキ、ほんとに大丈夫なんでしょうね」

 広げた左手に俺の手を合わせて魔力を放出する。

「痛! またバッチンっていった!」

 まずは、これで大丈夫なはずだ。

「今度は自分の手を合わせて、右から左、左から右へ魔力を通すようにしてみろ」
「こうかしら」
「そうだ。今やっている練習方法を毎日3回程度、1週間続ければいい。じゃあ、ちょっと試してみるか。さっきの火魔法を崖に飛ばしてみろ」
「うん、やってみる」

 カリンが指を鳴らすと、直径3mを超えるような火の玉が現れる。

「キャー、なにこれ~」

 指を振ると、巨大な火の玉が崖に向かって飛んでいく。どでかい爆発音がして、ガラガラと崖の一部が崩れた。
 なんだよ今の! 半端ねぇ~な。

「カリン、もうちょっと抑えろよ」
「分かったわよ、もっと薄く切ればいいんでしょう」

 今度は1mぐらいの火の球が現れた。

「もうちょっと小さくならんか」

 すると火の玉は小さくなり消えてしまった。

「これ以上は無理ね」

 ほんと、不器用な子だね。
 アイシャにも助言してもらい、何とか半分ぐらいの大きさまでできたがこれが限界か。

「でも大体分かってきたわ。他の指でもやってみるわね」

 同じように練習して、時々全力で魔法を飛ばす。巨大な岩や火球と共に轟音が何度も響き渡る。

「こら! お前ら何してやがるんだ~」

 門番さんがこっちに走ってきて怒られてしまった。

「ごめんなさ~い」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、王太子は彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるリクを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化した王太子がついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フレアと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

処理中です...