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第2章 街暮らし 冒険者編
第82話 カリン、ウェイトレスをしてみる
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今夜は、冒険者ギルドに併設されている酒場で食事をしようと入っていくと、カリンがウェイトレスをしていた。
「カリンちゃん、こっちでモエモエキュンやってくれ~」
「なに訳分かんないこと言ってんのよ。注文しないなら帰んなさい」
「カリンちゃん、この卵料理にトマトソースかけてくれよ」
「そんなの自分でやんなさいよ。子供なの?」
「ん~、それいい~。もう一回言ってくれ」
「あんた、バカなの!」
なかなかの人気じゃねーか。
「カリン。ここで働いてるの」
「あら、いらっしゃい。最近ここで雇われてね、忙しい時間だけでいいから働いてくれって言われてるの」
「こんな夜の時間に働いて、親は反対してねえのか」
「この前も自分で稼げとか言ってたから、反対なんてしてないわよ。ここ以外の仕事もしてるのよ」
なるほど。いろんな事をやってみて、自分に合う仕事を探してる最中か。
「それじゃ今度、私達の仕事も手伝ってくれないかしら?」
「えっ、私冒険者じゃないから手伝えないわよ」
「大丈夫よ、狩った獲物の解体やら運搬を手伝うだけだから」
そうなのだ、最近冒険者の仕事にも慣れてきて、大きな魔獣なども倒せるようになってきた。だがアイシャとふたりだけで、町までの運搬など色々と困っていることがある。
「いいわよ。いつでも言ってきてよ」
◇
◇
「ユヅキさん、ここがエアウルフの巣穴で間違いなさそうね」
「ああ、複数の足跡があの洞穴に続いているな」
「今日は時間もないし、一旦帰りましょう」
もうすぐ夕暮れ、この魔の森を暗い中歩くのは危険だ。巣穴にいるのは4匹ほどの小さな群れだ。俺達に気づいて逃げだすことも無いだろう。
「明日狩るなら、カリンに運搬を手伝ってもらったほうがいいわね」
「そうだな。荷車があれば助かるな」
家に帰る前にカリンの店に行くと、中から何やら言い争っている声が聞こえてきた。
「父さんの言ってることなんて分かんないわよ!」
物音がして、店の奥からカリンが飛び出してきた。
「どうしたの! カリン」
「ちょうど良かったわ。今日アイシャの所に泊めて。もうこんな家出て行ってやるんだから」
「おいおい、急にどうしたんだ」
「あんたには関係ないでしょ。行こう、アイシャ」
アイシャとふたりで家の方へと足早に歩いて行き、それを追うようにトマスさんがおろおろしながら店から出てくる。カリンのやつ親子喧嘩かよ、仕方ねえな。
「トマスさん。しばらく落ち着くまでカリンは俺の家で預かるが、いいか?」
「ああ、すまないな。あいつは怒りだすと手が付けられんからな。ユヅキ君の所なら安心だ。しばらく頼むよ」
自分の娘がどこに行ったか分からないより、ましだろう。
「ねえ聞いてよ、アイシャ。父さんたら酷いのよ、私がちゃんと働いてるのにあれはダメとかこれはダメとか」
「トマスおじさんも、カリンの事を心配してるのよ」
「それにね、もうすぐ兄さんが結婚するから、私が外で暮らすって言ったらね、まだ早い! お前はここに居ろとか、訳分かんない事ばかり言うの」
「まあ! お兄さんが結婚するの」
「でね、そのお嫁さんが綺麗でね……」
カリンは取り留めのない、よく分からん話をしている。親子喧嘩して頭に血が昇って、何も考えずここに来ただけだろう。
「カリンよう。しばらくはここに居てもいいけど、家族とはちゃんと仲直りするんだぞ」
「うるさいわね。私はアイシャとここに居るの! あんたはどこかに行ってなさいよ」
いや、ここは俺とアイシャで借りてる家なんだがな。
「カリンは明日どうするの? 私達は魔獣の討伐に行かないとダメなんだけど」
「それじゃ私も行く。夕方には冒険者ギルドでお仕事があるから、それまでになるけど」
翌朝、俺達はエアウルフの討伐に向かう。カリンには昼頃に荷車を用意して、西門を出た川の橋まで来るように言ってある。
昨日見つけた巣穴に、俺が犬笛を付けた矢を撃ちこんで誘い出して倒す予定だ。
「アイシャ、準備はいいか」
「ええ、ここからなら狙えるわ」
少し離れた位置から、犬笛付きの矢を放つ。
聞き慣れない音を聞き、驚いて出て来たエアウルフをアイシャが確実に仕留めていく。取りこぼしたエアウルフは俺が仕留め殲滅を目指す。
残りは1匹か。後を追うとこちらに向き直り風の魔法を口から吐いてきた。
火のキャンセラー魔法を放ったが効かなかったようだ。俺は木の陰に隠れて魔法をよけながら魔道弓に矢をセットしておく。
風が止んだ直後、木の陰から飛び出し矢を放って倒す。
これで全部だな。アイシャが倒したエアウルフを引きずりながらこちらに近づいてきた。仕留めた獲物を全て草原に運び出して、やっと一息つく。
「全部で5匹。上々ね」
「ああ、そうだな。カリンを呼んできてくれないか。ふたりで川まで運ぶのは大変だ」
「ええ、ちょっと待っててね」
魔獣の下処理をし終わった頃に、カリンとアイシャが荷車を引いて戻ってきた。
「あんた達すごいわね。こんな大きな魔獣を5匹も倒しちゃうなんて」
「ふたりじゃ運べないからな。カリン頼むぞ」
「そのために来たんだもの。この荷車に乗せましょう」
カリンの持ってきた小さな荷車に、獲物を重ねて乗せる。川まで運び沈めて、血抜きが終わるまで河原で休憩だ。
「いつもこんな魔獣を倒しているの」
「いつもじゃないけど、まあ多いわね。後は薬草を採ったり、この前は馬車の護衛もやったのよ」
「へぇ~、なんか冒険者の仕事も面白そうね」
「面白いからと言って、簡単にできる仕事じゃないぞ。だがこうやって手伝ってもらうのは助かる。さて、そろそろ町まで運ぼうか」
獲物を荷車に乗せてギルドまで運んでいくが、カリンも後ろから押してくれて楽だったな。
「今日もお疲れさまでした、ユヅキ様。エアウルフ5匹討伐の報酬です。お受け取りください」
「え~、何それ! そんなにもらえるの」
隣にいたカリンが大きな声を上げた。恥ずかしい奴だな。俺はカリンを引っ張って後ろのテーブルに連れていく。
「だってさ、銀貨で150枚以上もらってたじゃん。びっくりだよ」
「全部で銀貨175枚だ。で、今日のカリンの報酬が銀貨15枚だ」
「冒険者ってすごいのね」
「ユヅキさんとふたりだからこんなに倒すことができるのよ。それに今日まで3日もかかってやっと討伐できているの」
「討伐のたびに、矢の補充や防具の修理代もかかる。その経費も含んだ報酬額なんだぞ。ほれ、カリンもそろそろ酒場で仕事だろ」
「分かってるわよ。それじゃアイシャ、また後でね」
カリンは元気に酒場に消えていった。
「カリンちゃん、こっちでモエモエキュンやってくれ~」
「なに訳分かんないこと言ってんのよ。注文しないなら帰んなさい」
「カリンちゃん、この卵料理にトマトソースかけてくれよ」
「そんなの自分でやんなさいよ。子供なの?」
「ん~、それいい~。もう一回言ってくれ」
「あんた、バカなの!」
なかなかの人気じゃねーか。
「カリン。ここで働いてるの」
「あら、いらっしゃい。最近ここで雇われてね、忙しい時間だけでいいから働いてくれって言われてるの」
「こんな夜の時間に働いて、親は反対してねえのか」
「この前も自分で稼げとか言ってたから、反対なんてしてないわよ。ここ以外の仕事もしてるのよ」
なるほど。いろんな事をやってみて、自分に合う仕事を探してる最中か。
「それじゃ今度、私達の仕事も手伝ってくれないかしら?」
「えっ、私冒険者じゃないから手伝えないわよ」
「大丈夫よ、狩った獲物の解体やら運搬を手伝うだけだから」
そうなのだ、最近冒険者の仕事にも慣れてきて、大きな魔獣なども倒せるようになってきた。だがアイシャとふたりだけで、町までの運搬など色々と困っていることがある。
「いいわよ。いつでも言ってきてよ」
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「ユヅキさん、ここがエアウルフの巣穴で間違いなさそうね」
「ああ、複数の足跡があの洞穴に続いているな」
「今日は時間もないし、一旦帰りましょう」
もうすぐ夕暮れ、この魔の森を暗い中歩くのは危険だ。巣穴にいるのは4匹ほどの小さな群れだ。俺達に気づいて逃げだすことも無いだろう。
「明日狩るなら、カリンに運搬を手伝ってもらったほうがいいわね」
「そうだな。荷車があれば助かるな」
家に帰る前にカリンの店に行くと、中から何やら言い争っている声が聞こえてきた。
「父さんの言ってることなんて分かんないわよ!」
物音がして、店の奥からカリンが飛び出してきた。
「どうしたの! カリン」
「ちょうど良かったわ。今日アイシャの所に泊めて。もうこんな家出て行ってやるんだから」
「おいおい、急にどうしたんだ」
「あんたには関係ないでしょ。行こう、アイシャ」
アイシャとふたりで家の方へと足早に歩いて行き、それを追うようにトマスさんがおろおろしながら店から出てくる。カリンのやつ親子喧嘩かよ、仕方ねえな。
「トマスさん。しばらく落ち着くまでカリンは俺の家で預かるが、いいか?」
「ああ、すまないな。あいつは怒りだすと手が付けられんからな。ユヅキ君の所なら安心だ。しばらく頼むよ」
自分の娘がどこに行ったか分からないより、ましだろう。
「ねえ聞いてよ、アイシャ。父さんたら酷いのよ、私がちゃんと働いてるのにあれはダメとかこれはダメとか」
「トマスおじさんも、カリンの事を心配してるのよ」
「それにね、もうすぐ兄さんが結婚するから、私が外で暮らすって言ったらね、まだ早い! お前はここに居ろとか、訳分かんない事ばかり言うの」
「まあ! お兄さんが結婚するの」
「でね、そのお嫁さんが綺麗でね……」
カリンは取り留めのない、よく分からん話をしている。親子喧嘩して頭に血が昇って、何も考えずここに来ただけだろう。
「カリンよう。しばらくはここに居てもいいけど、家族とはちゃんと仲直りするんだぞ」
「うるさいわね。私はアイシャとここに居るの! あんたはどこかに行ってなさいよ」
いや、ここは俺とアイシャで借りてる家なんだがな。
「カリンは明日どうするの? 私達は魔獣の討伐に行かないとダメなんだけど」
「それじゃ私も行く。夕方には冒険者ギルドでお仕事があるから、それまでになるけど」
翌朝、俺達はエアウルフの討伐に向かう。カリンには昼頃に荷車を用意して、西門を出た川の橋まで来るように言ってある。
昨日見つけた巣穴に、俺が犬笛を付けた矢を撃ちこんで誘い出して倒す予定だ。
「アイシャ、準備はいいか」
「ええ、ここからなら狙えるわ」
少し離れた位置から、犬笛付きの矢を放つ。
聞き慣れない音を聞き、驚いて出て来たエアウルフをアイシャが確実に仕留めていく。取りこぼしたエアウルフは俺が仕留め殲滅を目指す。
残りは1匹か。後を追うとこちらに向き直り風の魔法を口から吐いてきた。
火のキャンセラー魔法を放ったが効かなかったようだ。俺は木の陰に隠れて魔法をよけながら魔道弓に矢をセットしておく。
風が止んだ直後、木の陰から飛び出し矢を放って倒す。
これで全部だな。アイシャが倒したエアウルフを引きずりながらこちらに近づいてきた。仕留めた獲物を全て草原に運び出して、やっと一息つく。
「全部で5匹。上々ね」
「ああ、そうだな。カリンを呼んできてくれないか。ふたりで川まで運ぶのは大変だ」
「ええ、ちょっと待っててね」
魔獣の下処理をし終わった頃に、カリンとアイシャが荷車を引いて戻ってきた。
「あんた達すごいわね。こんな大きな魔獣を5匹も倒しちゃうなんて」
「ふたりじゃ運べないからな。カリン頼むぞ」
「そのために来たんだもの。この荷車に乗せましょう」
カリンの持ってきた小さな荷車に、獲物を重ねて乗せる。川まで運び沈めて、血抜きが終わるまで河原で休憩だ。
「いつもこんな魔獣を倒しているの」
「いつもじゃないけど、まあ多いわね。後は薬草を採ったり、この前は馬車の護衛もやったのよ」
「へぇ~、なんか冒険者の仕事も面白そうね」
「面白いからと言って、簡単にできる仕事じゃないぞ。だがこうやって手伝ってもらうのは助かる。さて、そろそろ町まで運ぼうか」
獲物を荷車に乗せてギルドまで運んでいくが、カリンも後ろから押してくれて楽だったな。
「今日もお疲れさまでした、ユヅキ様。エアウルフ5匹討伐の報酬です。お受け取りください」
「え~、何それ! そんなにもらえるの」
隣にいたカリンが大きな声を上げた。恥ずかしい奴だな。俺はカリンを引っ張って後ろのテーブルに連れていく。
「だってさ、銀貨で150枚以上もらってたじゃん。びっくりだよ」
「全部で銀貨175枚だ。で、今日のカリンの報酬が銀貨15枚だ」
「冒険者ってすごいのね」
「ユヅキさんとふたりだからこんなに倒すことができるのよ。それに今日まで3日もかかってやっと討伐できているの」
「討伐のたびに、矢の補充や防具の修理代もかかる。その経費も含んだ報酬額なんだぞ。ほれ、カリンもそろそろ酒場で仕事だろ」
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