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第2章 街暮らし 冒険者編
第73話 灰色熊
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今日はアイシャと灰色熊の討伐に向かう。前は若手冒険者のネウス達3人とパーティーを組んで倒したが、今回はアイシャとふたりだけだ。
熊の攻撃方法も倒し方も分かっている。ふたりでも充分だろうとアイシャと話し合った。
灰色熊は追い立てると追い立てた方向に向かって来て、ある程度接近してくると立上り、両手から魔法の岩を投げてくる。
そこで今回、試してみたいことがある。
灰色熊の魔法は土属性で、手の上で魔法を発動して岩を投げてくる。その左右の手に魔道弓で攻撃をする。
俺とアイシャの魔道弓には風属性が付与されているが、風属性は土に対して相性の悪い上位属性となる。
それで魔法発動中の岩をキャンセルできないか確かめる。
今回も平地ではなく、熊の動きが鈍る森の中で戦う。森の中を探りながら歩いていると熊の足跡を見つけた。
「まだ新しいわね。このまま足跡を追いましょう」
足跡を追った先に灰色熊を発見した。ゆっくり歩いている熊の側面に回り込んで、攻撃しやすい場所で待ち構える。
「まずは私が牽制してこちらに誘導するわ。後は作戦通りに」
「分かった」
頷くとアイシャが灰色熊の鼻先の樹木に矢を打ち込む。矢が当たった甲高い音を聞いた灰色熊は、攻撃されたと思いこちらに向かってくるが、木が邪魔で全速力ではない。
魔法の射程圏内に入ると、熊は立ち上がって両手に魔法を発動させる。
その瞬間を狙い、魔道弓を左右の手に射かける。アイシャは右手に当てたが、俺の弓は左手をかすめるだけだった。
しかし、両手の魔法は見事にキャンセルされて、岩の魔法は発動されていない。
灰色熊が両手を振って岩を投げようとしたが、空振りとなりバランスを崩す。振り上げた両手を地面に突き、四つん這いになって動きが止まった。
「今よ、ユヅキさん」
灰色熊の頭を狙って魔道弓を射る。熊は声もなくそのまま倒れた。灰色熊に近づくと頭には2本の矢が深々と刺さっている。即死だな。
「ユヅキさんが言っていたように、ちゃんと魔法のキャンセルはできたようね」
「そうだな。俺の矢はかすめただけだが、魔法の発動の邪魔はできたようだ」
これは大きな事だ。俺達の魔道弓は風属性が付与されているとはいえ、小さな魔法力だ。
しかし魔法の発動中なら、それを阻止してキャンセルできる。これを応用すれば他の魔獣に対しても有効な防御手段になる。
俺達は熊の手にロープをかけて平原まで引きずっていく。
「これは重いな。木の枝に括り付けて担いで運びたいが、アイシャ持てそうか?」
「ちょっとこれは無理ね。ふたりで倒せるとは思っていたけど、運ぶ事まで考えていなかったわ」
「もう少し先の街道まで引きずって行けば、誰か馬車を貸してくれるだろう」
「そうね、そこまでなら私達でも運べるわね」
なんとか街道まで出て、道行く行商人にお金を支払って灰色熊を町まで運んでもらった。
行商人は町に入る手続きがあるので、その間にカリンの店から手押し車を借りてきてギルドまで運ぶ。
「今日は灰色熊かい。ん~? 傷が全く無いようだが……」
「頭に矢を打ち込んで仕留めている」
「たったこれだけの傷で仕留めただと! すごいものだな。だがこれならいい毛皮が取れそうだ」
俺達は受付窓口で依頼完了の書類を見せる。獲物の状態も良かったので優良の印も付いている。
「これが報酬です、お受け取りください。それとアイシャ様、おめでとうございます。実績が鉄ランクに達しましたので、ランクアップできますよ」
「えっ、本当! でもユヅキさんは?」
「ユヅキ様も、もう少しで鉄ランクですね」
アイシャひとりで依頼を受けていた事も多かったからな。
1年経たずに鉄へのランクアップは早いそうだが、地道に依頼を熟してきたから当然といえば当然だな。
「では、ランクアップに際しての説明をさせていただきますね。青銅から鉄へランクアップされても不利益はないので皆さんランクアップされますが、今後は実績が上がってもランクアップされない方もいます」
確かに自分のランクの上下1ランクしか依頼が受けれないから、ランクアップすると受けられる依頼が減る場合があるな。
「それと鉄の上の白銀ランクへ昇格の際には、簡単なテストがあります。冒険者の心得というものを面接で聞きます。まだ先ですが、黄金ランクの場合は筆記試験もありますので、黄金ランク以上を目指す場合は文字の読み書きを習得してくださいね」
なるほど黄金ランクあたりになると、貴族と同じような能力が求められるということか。確かこのギルドには黄金ランクは3人しか登録されていなかったな。
「それでは鉄ランクのプレートを作ってきますので、しばらくお待ちください」
そう言って受付嬢は事務所の奥へ歩いていく。
「アイシャ、鉄ランクだってさ」
「そうね、これからは白銀ランクの依頼も受けられるわね。依頼の幅が広がることはいいことよね」
「そうだな。でも難しい依頼もあるから、慎重にいかないとな」
「白銀の依頼は、ユヅキさんが鉄ランクに上がってから受けるようにするわ。今まで通り一緒に頑張りましょう」
無理して白銀ランクの依頼を受ける必要もないか。アイシャは、受付嬢から真新しい鉄ランクのプレートをもらって、頭の上に掲げて喜んでいる。よし、俺も頑張って鉄ランクのプレートを手に入れんとな。
熊の攻撃方法も倒し方も分かっている。ふたりでも充分だろうとアイシャと話し合った。
灰色熊は追い立てると追い立てた方向に向かって来て、ある程度接近してくると立上り、両手から魔法の岩を投げてくる。
そこで今回、試してみたいことがある。
灰色熊の魔法は土属性で、手の上で魔法を発動して岩を投げてくる。その左右の手に魔道弓で攻撃をする。
俺とアイシャの魔道弓には風属性が付与されているが、風属性は土に対して相性の悪い上位属性となる。
それで魔法発動中の岩をキャンセルできないか確かめる。
今回も平地ではなく、熊の動きが鈍る森の中で戦う。森の中を探りながら歩いていると熊の足跡を見つけた。
「まだ新しいわね。このまま足跡を追いましょう」
足跡を追った先に灰色熊を発見した。ゆっくり歩いている熊の側面に回り込んで、攻撃しやすい場所で待ち構える。
「まずは私が牽制してこちらに誘導するわ。後は作戦通りに」
「分かった」
頷くとアイシャが灰色熊の鼻先の樹木に矢を打ち込む。矢が当たった甲高い音を聞いた灰色熊は、攻撃されたと思いこちらに向かってくるが、木が邪魔で全速力ではない。
魔法の射程圏内に入ると、熊は立ち上がって両手に魔法を発動させる。
その瞬間を狙い、魔道弓を左右の手に射かける。アイシャは右手に当てたが、俺の弓は左手をかすめるだけだった。
しかし、両手の魔法は見事にキャンセルされて、岩の魔法は発動されていない。
灰色熊が両手を振って岩を投げようとしたが、空振りとなりバランスを崩す。振り上げた両手を地面に突き、四つん這いになって動きが止まった。
「今よ、ユヅキさん」
灰色熊の頭を狙って魔道弓を射る。熊は声もなくそのまま倒れた。灰色熊に近づくと頭には2本の矢が深々と刺さっている。即死だな。
「ユヅキさんが言っていたように、ちゃんと魔法のキャンセルはできたようね」
「そうだな。俺の矢はかすめただけだが、魔法の発動の邪魔はできたようだ」
これは大きな事だ。俺達の魔道弓は風属性が付与されているとはいえ、小さな魔法力だ。
しかし魔法の発動中なら、それを阻止してキャンセルできる。これを応用すれば他の魔獣に対しても有効な防御手段になる。
俺達は熊の手にロープをかけて平原まで引きずっていく。
「これは重いな。木の枝に括り付けて担いで運びたいが、アイシャ持てそうか?」
「ちょっとこれは無理ね。ふたりで倒せるとは思っていたけど、運ぶ事まで考えていなかったわ」
「もう少し先の街道まで引きずって行けば、誰か馬車を貸してくれるだろう」
「そうね、そこまでなら私達でも運べるわね」
なんとか街道まで出て、道行く行商人にお金を支払って灰色熊を町まで運んでもらった。
行商人は町に入る手続きがあるので、その間にカリンの店から手押し車を借りてきてギルドまで運ぶ。
「今日は灰色熊かい。ん~? 傷が全く無いようだが……」
「頭に矢を打ち込んで仕留めている」
「たったこれだけの傷で仕留めただと! すごいものだな。だがこれならいい毛皮が取れそうだ」
俺達は受付窓口で依頼完了の書類を見せる。獲物の状態も良かったので優良の印も付いている。
「これが報酬です、お受け取りください。それとアイシャ様、おめでとうございます。実績が鉄ランクに達しましたので、ランクアップできますよ」
「えっ、本当! でもユヅキさんは?」
「ユヅキ様も、もう少しで鉄ランクですね」
アイシャひとりで依頼を受けていた事も多かったからな。
1年経たずに鉄へのランクアップは早いそうだが、地道に依頼を熟してきたから当然といえば当然だな。
「では、ランクアップに際しての説明をさせていただきますね。青銅から鉄へランクアップされても不利益はないので皆さんランクアップされますが、今後は実績が上がってもランクアップされない方もいます」
確かに自分のランクの上下1ランクしか依頼が受けれないから、ランクアップすると受けられる依頼が減る場合があるな。
「それと鉄の上の白銀ランクへ昇格の際には、簡単なテストがあります。冒険者の心得というものを面接で聞きます。まだ先ですが、黄金ランクの場合は筆記試験もありますので、黄金ランク以上を目指す場合は文字の読み書きを習得してくださいね」
なるほど黄金ランクあたりになると、貴族と同じような能力が求められるということか。確かこのギルドには黄金ランクは3人しか登録されていなかったな。
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そう言って受付嬢は事務所の奥へ歩いていく。
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「そうね、これからは白銀ランクの依頼も受けられるわね。依頼の幅が広がることはいいことよね」
「そうだな。でも難しい依頼もあるから、慎重にいかないとな」
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