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第2章 街暮らし 冒険者編

第65話 アルヘナの街中にて

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 このところ冒険者の仕事を立て続けにしている。先日も若手冒険者のネウスとパーティーを組んで鉄ランクの依頼を熟した。おかげでレベルも上がり青銅ランクのレベル3になっている。

 なのでアイシャとも相談して、今日と明日は休みにした。

 俺はこの前に習得したドライヤー魔法を魔道具にできないか相談をしに、シルスさんの店に行く。

「こんにちは、シルスさんいるかい」
「こんにちは、ユヅキさん。あら髪切ったのかしら、なかなか似合っていますね」
「そうかい、ありがとう。今日は魔法の事で相談があるんだが時間はあるかい」
「ええ、結構よ。ユヅキさんの頼みなら、なんだって聞いちゃいますよ」

 それにしてもシルスさん、明るくなったな。最初は引っ込み思案でオドオドした感じだったが、魔道弓の仕事で自信をつけてくれたのだろうか。

「ちょっと見てくれるか」

 右手に炎を灯して、左手で風を発動させて炎に近づけると、双方の魔法が消える。

「これは相性の悪い属性どうしが反発して消えたということか?」

 シルスさんは魔法の専門家だ。知識のすり合わせをしておいた方がいい。

「ええ、そうね。土と風とかも同じ場所で魔法は発動しないですね」
「ではこれは?」

 炎をゆっくり飛ばして、左手から風を飛ばして当てる。すると風は消え炎は小さくなった。

「炎や風が手から離れると、魔法は固定されて維持されます。固定された物同士だと、発動前と同じで両方消えるか小さくなった一方だけが残りますね」

 ここは少し認識が違うな。発動前なら魔法自体を打ち消すが、発動後は物理的な力で吹き飛ばすという認識なのだが。
 まあいい。これからが本題だ。

「シルスさん手のひらをこちらに向けてくれるか。そこに炎と風を一緒に出すぞ」

 ドライヤー魔法をシルスさんの手のひらに向けて発動する。

「炎と風はダメなんですよ……ええっ! 何これ! なんで温かい風が? ええっ!」
「少し炎を強く。次は風を強くするぞ」

 温度と風量を変化させる。まだ驚いているシルスさんに魔道具の頼みごとをする。

「これの魔道具を作ってもらいたいのだが、可能か?」
「ユ、ユヅキさん。いったいどうやっているの? 人族の技術なの?」
「落ち着いてくれ、説明するから」

 時間をずらして火と風を発動させ、同時に発動しているように見えることを説明する。

「魔法の威力は別として、人ができる魔法は魔道部品で再現できるはずですけど……。これはどうなのかしら」
「やはり難しいか」
「短時間に切り替える……でしたっけ。どうもそのあたりが理解できなくて……。いえ、少し研究させてください。ここで諦めたらダメなんですよね」
「そうだな。すまんが考えてくれるか」

 その後はシルスさんの知る魔法知識を教えてもらう。体内の魔力量をどうやって増やすかや、威力のある魔法を発動する方法などためになる事ばかりだ。
 シルスさんにお礼を言って魔道具店を出て、まだ時間もあるし街をぶらぶらする。

「こんな所まで来たんだし、武器屋にでも行ってみるか」

 最近、魔道弓が売りに出されて若い冒険者の間で流行っている。商業ギルドは若手冒険者でも手が届く価格で販売してくれて、手にする冒険者が増えているのだ。

「おや、ユヅキ様。今日はどのようなご用件でしょうか」
「店主さん。売り出された魔道弓を見たいんだが」

 ここは専門店街にある2階建ての大きな武器と防具の店。ここの店主さんは魔道弓のお披露目会にも出席してくれていた。

「この弓はよく売れていまして繁盛しております。これもユヅキ様のお陰でございます」

 魔道弓の価格は商業ギルドで統一されているから、高そうな武器を扱っているこの店にも、今まであまり来なかった若い冒険者が訪れているそうだ。

 普通の弓と同じ売り場の先頭に魔道弓が飾られていて、専用の矢と一緒に並べられている。俺達が創り上げた物がこうして武器屋に飾られているのを見ると、立派な武器として世の中に出たんだなと感慨深いものがある。

 価格は一般的な弓の2倍程の値段だが、普通の弓でも価格はピンキリだ。どこが違うのか俺には見分けがつかんが、一番安い弓の10倍の値が付いている物まである。軍用の大型弓になるとさらに倍の値段だ。

「ギルドマスターがほど良い値段を設定してくれたお陰で、売り上げは上がっております。特に専用の矢の売れ行きが好調でして」

 専用の矢は普通より短いが、同じような値段で売られている。魔道弓自体が普及したため、矢の方でも相当な利益が出ているようだな。

 店を出て家に帰ろうと街を歩いていると、中央広場で荷車を引いているカリンに出会った。

「カリン、配達か」
「げっ、なんであんたがいるのよ」

 げっ、とはなんだよ。この町に住んでるんだから、そりゃいるだろう。

「この前、髪を切ってくれたお礼に手伝ってやるよ」

 俺がカリンの代わりに荷車を引く。

「それは助かるわ。この荷物を兵舎に配達するの。こっちよ」

 門の横にある兵舎の入り口で、カリンが門番さんに伝票を見せて中に入る。
 倉庫の前に商品を降ろしていると、初めて町に来た時に俺を尋問してきた隊長さんと副官さんに出会った。

「あなたは、この前の人族ですね」

 厳つい顔の怖そうな熊獣人と虎獣人だ。なんだかこちらを睨んでいるぞ。

「トマスの店に雇われたのですか、働き口が見つかったのは良いことだ。このアルヘナの町はどうですか」
「今日は配達の手伝いをしているだけだ。この町はいいところだ。住む場所も決まっているし、しばらくは世話になるつもりだ」
「そうですか、それは良かった。この町で問題を起こさないようにしてくれれば、それでいいですよ」

 目をキラッと光らせて去って行った。怖え~、あの人怖え~わ。

 配達も終え、カリンと別れて家に帰る。煙突からは煙が出ているから、アイシャが夕食を作ってくれているのだろう。
 今日の晩ご飯は何かな。いつもの事だが、俺を待っていてくれる人の元に帰るのは暖かなものを感じる。

「ただいま。アイシャ」

 俺はアイシャの待つドアを開ける。
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